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相川さん!誤解です!

作者: saki

リハビリに書きました。

 身長188cm、体重97kg、体脂肪率18%。ガチムチ体型。切れ上がった細い目は、物凄く良く言えば涼しげな切れ長の目。逆に正直に言ってしまえば抜き身のナイフのような三白眼。


 義務教育中に、無実無根の件で補導されかけたこと、7回。


 コンビニでバイト中に、客に強盗犯と間違われて通報されかけたこと、3回。


 社会人となった現在。指名手配班と勘違いされて通報された(・・・・・)こと、1回。


 これは全て、俺の、友倉昭夫28歳独身の風貌が原因である。

 


***

 

 祖父の影響で、俺は機械をいじくるのが好きだった。

 小さな頃から同世代の男子よりもガタイが良く、顔もその頃から恐ろしかった俺は周りから浮いていた。ここで、リーダーシップを発揮なんかしたりしてガキ大将になったり頼れる兄貴分になっていれば周りとも関係を気づけていたのかも知れないが、俺にはジャイアンのようなカリスマ性はなく、そして戦国武将のような野心も無かった。

 ぎこちない同世代と一緒にボールを追いかけるのよりも、俺は無口な祖父と一緒に肩を並べてハンダゴテを握っている方が数倍も楽しかったのだ。

 そして、そのまま近所の私立男子高に上がりエスカレーターで付属大学の理工学部に進学した。

 

 見事なまでに、灰色の学生生活だった。


 女の子に興味が無かったのかと問われれば、物凄くありました。と、正直に言う。現実では、こんな馬鹿正直には答えないが。

 右を見ても、左を見ても、ムサい男しか居ない環境の中で女子との青い春というものを謳歌してみたいという願望もあったといえばあったのだが、進学先を考えるたびに、女子の怯えた目を思い出して俺はまだ比較的気楽な関係を築くことのできる同性だらけの環境を選択して来た。


 そうして、多感な思春期であり貴重な異性への耐性や対応を身につけるべき期間をぬくぬくと試練をサボることの出来る場所で過ごした俺は社会人四年目にして、その今まで怠惰に過ごしてきたツケを支払っていた。


 自分と彼女しかいないオフィス。

 昼間は電話機やコピー機の機械音、同僚達の声で満たされている空間。そこにキーボードをタイピングする音と壁に備え付けられた時計の音がカチコチと響く。いつもは周りの音に飲み込まれてしまうおとが二人だけの広いオフィスだと大きく聴こえた。


 隣り合ったデスクの彼女を横目で、そっと覗き見れば真剣な顔で液晶画面を見つめていた。

 当たり前だ、彼女は始業時間直前に課長に頼まれた書類を片付けている最中なのだから。自分のようにただ残業を装って彼女の仕事が終わるのを待っている自分とは訳が違うのだから。隣から聴こえるタイプの音が途切れるのをまだかまだかと悶々としながら待っている。


 「・・・よし。」

 「終わったんですか。相川サン」

 「あ、はい。友倉さんも今日は終わりですか?」

 「えぇ、もう遅いですし。」

 「ねー。課長のせいでこんな時間まで残業しちゃいました。」


 笑いながら言う相川さんと他愛もない会話を続けながら、心の中では激しい罪悪感に襲われた。相川さんが今日、わざわざ残業をするはめになったのは実は自分のせいだったりする。

 かれこれ3年ほど彼女に片思いしている自分の気持ちは、とっくの昔に課長やその他の社員に見抜かれており、「友倉。お前、いい加減にここでガツンと男をみせろっ!」と発破を掛けられ、上司の権限を乱用して今日のこの場はセッティングされたのだ。我ながら、情けなくもあり、申し訳なくもある。もちろん、申し訳ないと思っているのは相川さんに対してであり課長他、多数の同僚に対しての気持ちではない。


 「いやー、急ぎでも何でもないのに『相川くん、これ明日の朝までにね』って課長も鬼ですよぉ」

 「・・・すみません」

 「はい・・・?」

 「いえ、」


 多分、課長達は会社から徒歩五分の居酒屋で結果待ちでもしているだろう。酒の肴に、自分の初恋の行く末を賭けられていると思うと気分が落ち込んできた。

 が、落ち込んでばかりもいられない。さりげなく隣を見れば、『帰りますよ〜』とフンフン自作の即興鼻歌を歌いながら身支度する相川さん。かわいい。


 大学院を卒業してから入社して、俺の指導者となったのが高卒で社員をしていた相川さんだった。ただでさえ、四歳も年上で扱い辛かっただろう俺にも泣かず嫌がらずに接してくれた年下の先輩だ。ちなみに、相川さんの前の指導者の男性は俺の顔を見た瞬間にすみませんと言ってきた。ヤクザか何かの出入りだと思ったらしい。非道い、あんまりだ。

 初めて、普通に接してくれた若い、それも年下の可愛い女の子に俺は一瞬で浮かれた。が、相川さんは小動物系の見た目に反してバリバリのスパルタで容赦ない扱きにその時は淡い憧れなど一瞬で霧散した。怒濤の毎日の中で俺の中の相川さんはあっという間に、可愛らしい女の子から頼れる先輩であり認められたい存在に上書きされた。

 彼女と仕事をこなしていけば、最初は腫れ物のように俺を扱っていた人たちも徐々に「あ、なんだこいつ。中身はそんなたいしたことないや」と認識を改めてくれ、今では居心地の良い職場となった。それも、彼女が他の同僚に俺のことを「良い奴だ」と言う意味の言葉を言ってくれていたお陰なのも知っている。

 仕事に慣れ始めて、周りが見えるようになると彼女がどれだけ俺のことを大切な後輩として守っていてくれたことが分かった。それと同時に、相川さんの見た目や仕事に対しての姿勢だけではなく、時折見え隠れする相川さんの素の部分も見え隠れした。


 例えば、気が抜けている時なんかに即興で自作の鼻歌をうたってたり。動物が好きで、よく会社裏に住み着いてる猫に餌やってたり。ご飯を食べる時には必ず手を合わせて「いただきます」と言ってたり。スポーツ観戦が好きでお昼休みにTVの前でおもわず小さく歓声を上げてたり。


 人によっては変な癖かも知れないし、当たり前のことかもしれない。けど、俺は相川さんのそんな何気ない所を目にするたびにじんわりじんわり、好きになって。終いには、昔の淡い憧れなんか目じゃないくらいに惚れ込んでいたのだ。それはもう、簡単に消えないくらい。


 今の俺の中の相川さんカテゴリには認められたい存在とプライベイトでも一緒に居たい存在という項目が欲張りに同席している状態なのだ。そんでもって、下の名前も読んでみたい訳なのだ。逆に自分の下の名前なんかも読んでもらってみたい訳なのだ。そんでもって、そんな中学生日記のような欲求だけでなく哀しきオスの(さが)の欲求もムラムラモンモン抱いちゃってるのだ。

 正直、思春期の少年達よりもこじらせていると思う。次長にまで「友倉くんは今、大人の青春をしているんですね」と言われ、その日の夜はベットの上で「ぬんぉおおおおっ」と悶えた。


 そんな、わけでじれじれもだもだと片思いし続けて早3年。

 「さっさと玉砕してこい!うっとおしい」と尻を蹴られて、告白の場までお膳立てされて、大の大人が何とも情けない現状だ。しかし、正直な話がこの機会を逃したら俺は一生この気持ちを相川さんに伝えられずに墓場まで持っていってしまう気がしてならないのだ。ちなみに、魔法使いで、だ。

 そんなのは嫌だ。せめて、自分の気持ちを伝えたい。せめて、あなたが好きな男がここに居るんですと主張したい。


 「・・・友倉さん。」

 「はい!?」


 悶々と葛藤していたから、突然の呼びかけに返事が裏声になってしまった。あぁ、情けない。恥ずかしい。


 「・・・どうしたんですか、さっきから?上の空でぼぉっとしてると思ったら、眉間に皺よせて唸ったり。ただでさえ、怖いのに、もっと怖い顔になってますよ。また、通報されちゃいますよ。」 

 「いえ、通報のことは言わんでください。」


 ・・・この顔にピンと来られて通報された思い出は、俺の中のトラウマメモリーの中にしっかりと刻まれているのだ。できれば、そのことは思い出させないで欲しい。つか、さりげなく顔が怖いと言われた気がする。こんな、見た目に反した毒舌にもドキドキしてしまう俺はMなのだろうか?いやいや、もしかしたら、部長が誇らしげに教えてくれた流行の『ギャップ萌え』と言う奴かも知れない。そうだ、そうに決まってる。


 とういうか、それよりも、それよりも、だ!


 「・・・相川さんっ!」

 「はい?」

 「あ、相川さん」

 「はいはい」

 「相川、さん」

 「はーい」


 戯れ合い、だと思われているのだろう。なんというか、カバンに荷物を詰めながらおざなりに返事されてる。だ、駄目だ。駄目だ。こんな歯牙にもかけられてない感じゃ、駄目なんだ。

 

 「あの、ですね」

 「お金なら貸しませんよー」

 「違いますっ!もっと、別の!もっと、大事なことというか、」

 

 「じゃぁ、」


 唐突にこちらを向いた瞬間に、彼女はふんわり笑った。


 「恋について、ですか?」


 こりゃ、やられたと思った。なにがやられたんど尋ねられたら、色々と答えよう。


 ガッと相川さんの細っこい肩を掴んで俺は叫んだ。


 「相川弓枝さん!好きです!好きなんです!」


 なんだろう。この一昔前の学生ドラマのような告白は。今時、小学生だってもっと考えた告白してるだろうに。とっくの昔に成人した男なら、もっとなんかスマートな言い方ってもんがあるだろ。年上の余裕的なものを見せたり。食事に誘ってから言ってみたり。もっとなんかさぁ、あったどろうに。

 

 自分の抑えのきかなさと、発想の乏しさに頭を抱えてしまいたい気分になる。相川さんの方を窺えば、どうしたことかうつむいて小さく震えている。


 ヤバい。どうしよう。やっぱり、相川さんにも『同僚だったら許容できるけどこんな893顔の男とは付き合いたくないし、今まで私のことそんな目で見ていたの!?恐っ!』とか言われてしまうのだろうか。幼き頃の苦い初恋の思い出が蘇って俺の心により一層に重くのし掛って来る。


 けれども、そんな失恋の苦い予感など相川さんの次の言葉で一気にぶっ飛んだ。


 「友倉さん、」

 「・・・はい」



 「課長が好きじゃなかったんですかっ!?」



 「・・・え?」

 「え?」

 「「えぇぇぇえええええっ!?」」



 落ち着いてから話を聞いてみれば、相川さんは俺に対してこう思っていたらしい。

 女性とあまり話できないのは女性に興味が無いから。

 男子校エスカレーター出身なのは、そこで熱い青春を送っていたから。

 ガタイのいい身体や毛深い体質も、ホモ要素に一役買っていたらしい。


 つまり、相川さんは俺がホモだと思っていたらしい。

 そしてなんでか、同じガチムチ体型の課長が好きだと思っていたらしい。


 相川さん、誤解です!


***


 28歳独身、友倉昭夫。3年間片思いだった人に思い切って告白しました。

 非道い誤解をされていました。

 でも、諦めません。


 

もしかしたら、続きを書くかもです。

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