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とある小さな寂れた町の、小さなお花屋さんの恋物語

作者: 舞如
掲載日:2013/01/07


 とある寂れた小さな町に、小さなお花屋さんがありました。

 町で唯一のお花屋さんで、みんなからとても慕われていました。

 私の自慢のお店です。




 ある日。

 そのお花屋さんに、ひとりの小さな男の子が来ました。

 見たところ、私と同い年ぐらいです。

 その子自身の話によると、いつも贔屓にしてくれている奥さんの息子なのだそうです。


「あらまあ、ゆーくんだったのね。どうしたの?」

 母はその子に尋ねます。

「あのね、『ははのひ』にカーネーションで花束を贈りたいの」

 男の子――ゆーくんは、ありったけのお小遣いを母に渡します。


 でもね、私は知ってるの。

 ゆーくん、それくらいじゃカーネーションの花束は買えないわ。


「あらあら、困ったわねえ」

 母は考えます。

 ちなみに母は、考えごとをするとき、癖で店内をぐるぐる回ります。

「……あら?」

 何か発見したようです。

「あきちゃん、隠れてないでこっち来たら?」


 ……見つかっちゃった。

 私は扉の影から店内に入りました。ゆーくんがじっと見つめてきて、何となく気まずいです。


「そうねえ。」

 母は小さく呟くと、私を見て、手をぽんっと叩きました。


「あきちゃん、カーネーションのブーケを見繕ってくれないかしら?」

「……えっ?」

「……えっ?」


 私とゆーくんが同時に驚きました。なんとなく「シンパシー」を感じます。

 けど、なぜ私なのでしょう。

 母に訊くと、答えは簡単でした。

「人件費が浮くからよ」

 ……なんとまあちゃっかりした母でしょう。

 しかし、いい練習にはなるかもしれません。



 私は頑張ってカーネーション中心の花束を作ります。

 スズランと一緒なら可愛いかな、と思いながら、所々に交えます。

 まあ、スズランはほとんどのお花と相性が良いので使いやすいというのもありましたが、そこはゆーくんには秘密です。


 しばらくして、完成しました。

 切った茎の処理はまだ早いと母に押し切られ、できませんでしたが。

 でも、うまくできて良かったです。


「はいっ」

 私はゆーくんに花束を渡します。


「……きれい、ありがと」


「えへへ、どーいたしまして!」

 きれい、なんて言ってもらえました。お世辞でも嬉しいとは、きっとこのことです。顔が勝手ににやけます。


 次の日、ゆーくんはまたお店に来てくれました。

 サプライズは上手くいき、お母さんが泣いてた、と嬉しそうに話してくれました。

 成功して喜んでいるゆーくんを見ていると、なんだか私まで幸せになりました。

 そしてこのとき私は、将来はみんなを幸せにするお花屋さんになる、と心に決めたのです。




 それから、毎年。

 ゆーくんは母の日に必ず、うちの店に来ました。

 そして私は必ず、ゆーくんのために花束を作りました。

 ゆーくんのお小遣いが上がるたび、私の腕が上がるたび、花束は少しずつ豪華に、綺麗になっていきました。


 たくさんお話もしました。

 そのときに、ゆーくんと私が同い年であること、隣の小学校で、中学校は同じになること、高校は近いところにすること、将来はどこの会社で何をしたい、なんてことを聞きました。

 好きな食べ物のことや、部活のこと、最近友達にからかわれたことなども、話のネタになりました。


 やがて私は毎年、母の日にちょっとだけ、おめかしをするようになりました。




 そして、ある年。

 その日は母の日ではありませんでした。

 その代わり、ちょっと賑やかに発展した町には、甘い香りとオシャレをした可愛い女の子があふれていました。

 そうです、バレンタインデーです。

 そんな特別な日に、ゆーくんは来店したのです。


 何のおめかしもしていなかった私は、Tシャツにフリースにジーパン、そして上にエプロンだけという格好を恨みました。

 でも仕方がありません、今はこれでお客様の相手をしなければ。


「今日はどうしたの、ゆーくん。

 母の日じゃないのに来るって、なんだか珍しいね」

「うん。

 ……あのね、あきちゃん。」

「なあに、改まって。」


 いつもより若干そわそわしているゆーくんの様子と今日の日付に、そのとき気づくべきでした。


「真っ赤なバラのブーケ、あきちゃんに作ってほしいんだ。」

「まっかな、バラ……」


 そう言ったゆーくんの頬は、バラにも負けないくらい真っ赤でした。


「うん、わかった。ちょっと待っててね」


 私は急いで店の奥に入りました。


 そして扉をしめて、ふう、とため息をつきます。



 ……まだ心臓がばくばくしています。


 正式にお店を継いでまだ数年しか経っていない私ですが、そんな新人でも、赤いバラの花言葉ぐらいは知っています。というより、女の子なら知っていて当然でしょうか。

 ――I love you.

 それが、赤いバラの花言葉です。



 あんなゆーくんは初めて見ました。「なんだか」ではなく、「かなり」ショックです。

 そりゃそうですよね、長年の想いが砕かれてしまったのですから。


 でも、直接頼まれてしまった以上断れません。気を取り直して、とびっきりの花束をこしらえましょう。


 ゆーくんが好きそうな花束がいいかな、それとも女の子なら誰でも憧れそうな?

 ゆーくんが好きになっちゃうくらい良い人なんだから、きっとゆーくんを幸せにしてくれるよね。

 ゆーくんが幸せになれるなら、きっと私が身を引く甲斐もあるわ。


 と、ゆーくんのことばかりを考えながら、せっせと真紅のバラを束ねます。

 しかし、ぼーっとしていたのが悪かったのでしょう。


「――痛っ」

 バラのトゲで、人差し指の腹を切ってしまいました。

 よくよく見ると、想像以上にぐっさり刺さったらしく、血がなかなか止まってくれません。

 救急箱はどこだっけ、と考えている間にもどんどん流れていきます。


「痛いなあ……」


 指も、心も。

 なぁんて。詩的に飾っている暇は無いんでしたね。

 痛みは引かないけれど、絆創膏をペタッと貼り付けて、作業再開です。


 初めてのときはさせてくれなかった切り口の処理も、今となってはおてのもの。

ラッピングだって、ちゃんと色の組み合わせを考えて、女の子がときめくピンクとオレンジでふんわりと。

 バラだけでは味気ないから、ちょっとしたアクセントにスズランも入れて。



「できた、っと。」

 女の子なら一発でオチるロマンティック花束、完成。


 寒い中待っているはずですから、早くゆーくんの元に届けてしまいましょう。


「ゆーくん、こんな感じでいいかな?」

 変に思われないよう、無理やり笑顔を貼り付けて花束を渡します。

「あ……うん。

 女の子なら喜ぶかな?」

「もちろん、一発でオチちゃうわよ?」

 努めて明るく言います。

 もちろん自分の想いは閉じ込めつつ。

 だって、ゆーくんを困らせちゃうもの。


「それ、特別な子にあげるんでしょ。」

「……うん。

 何年も片思いしてる、凄く特別な子」

 わあ、愛されてるなあ。

 言葉の節々や細かな表情から感じるお相手さんへの想いに、ちょっとだけジェラシーです。


「早く行っておいで、お相手さんが待ちくたびれちゃう前に。」

 そして、私がワガママ言っちゃう前に。

 と、心の中で付け足したりして。

 早く行ってほしいのに、どこにも行ってほしくないなんて、いつからこんなに天の邪鬼になったんだろう、私。


 ところが、ゆーくんは店から出る素振りは見せません。どうしたのでしょう。


「うん。

 ……じゃあ、そうしようかな」


 その代わりにゆーくんは、私の目の前でひざまづきます。

 そして、先ほど私が作った花束を、私に向かって差し出しました。


「う……

 ウィルユーマリーミー?」


 そう、私に。


 ――なんということでしょう、予想外でした。頭が真っ白とは、きっとこのことですね。言葉が出てきてくれません。

 それはカタコトだったけれど、理解するには十分な発音で。


 嬉しすぎて。

 泣きそうで。

 ようやく絞り出せた言葉は。


「ゆーくん、それじゃ結婚だよ」


「えっ、そ、そうなの?」

「前提のお付き合いじゃなくて、いきなり本番だよ、ゆーくん……っ」

「あっ、あー……飛びすぎたっ。

 で、でも、ゆくゆくは!」

 その勢い良い言葉に、こらえていた涙がついに零れてしまいます。

「ぅえっ……ゆーくん……っ」

「なっ、え、ごめっ、でも絶対幸せにするから!」

「嬉しいよ……っ」

「だから……え?」

 どうやらゆーくんも緊張していたようです。

 それならば分かるまで、何度だって言いましょう。

 ゆーくんにひた隠しにしてた分、何年分だって、繰り返し。

「好き」

 の一言を。





 とある寂れた小さな町に、小さなお花屋さんがありました。

 ある日、ひとりの母思いの男の子が来店し、店長の娘である女の子と出会います。

 二人は毎年会っていくうちに、しだいに惹かれ合っていきました。

 そしてある年、男の子は告白することを決意します。


"Will you marry me?"


 もはやそれはプロポーズでしたが、女の子は喜んでそれを受けました。


 それから数年後。

 ちょっと賑やかに発展した町には、小さなお花屋さんを経営するお母さんと、それを支える優しいお父さんがいました。


 二人は子供が独り立ちした後も、共白髪になっても、ずっと末永く幸せに暮らしました。


 そして人生の終着点にたどり着こうという今このとき、私は思うのです。


 私たちには結局、バラなんて似合わなかった。

 あえて言うなれば、きっと――


 "スズラン"だったかな、と。





 


今回は、初めて地が丁寧語です。自分でもこんなの書くのか、とびっくりです。

もともと話し方が男っぽいと言われる私ですが、意外とこんなのもかくのよー、と言ってみたり。


純愛目指してみましたが、……どうなんでしょう、これ。

ほぼ突発的に書いたんですよ。実は。

携帯使って電車内で往復で一時間。その時間で書き上げちゃいました(微調整はPCですが)。



ちなみに。


スズランの花言葉

幸福 純潔 純愛 清らかな愛 繊細


ほんとはこんなお話書きたかったんです。。。

ちょっとでも雰囲気だけでも伝わっていればいいな、なんて。




それでは、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


舞如

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