始まり
「今週の1位は・・・なんと!先週に引き続きDIVAのアルバムが堂々のトップです!
これで5週連続1位獲得となりました。DIVAという名にふさわしく、誰も彼女を・・」
・・・もぞもぞ・・・
「うーん、うっせー」
翔はテレビから流れてくるアナウンサーの声で目覚めた。
「あー。消さないで寝ちまったのか。
・・・別にいいや、カネ払うの俺じゃねーし」
少し寝癖がついた髪をボリボリと掻きながらダルそうに呟く。
翔が住んでる所は成龍高校生徒専用の寮で、
水道代、電気代、食事代、すべて高校が支払っている。
(DIVAか・・・。顔も分からない奴のCDなんか、なんで皆買うんだよ)
呆れながらそう思ったが、茶色い机に無造作に置かれている音楽プレイヤーを見て、
人のことは言えないなと微笑した。
クラスメイトほど熱狂的ではないが、この音楽プレイヤーにもDIVAの曲は入っていて、
翔も結構頻繁に聞いている。
ロックもバラードもポップスも自由自在に歌いこなす彼女は、
最近デビューしたにも関わらず、今や世界のトップスターだ。
しかし、テレビにはでない、CDジャケットも本人の写真ではないので、
彼女の顔は誰も知らない。
突然思い出したように翔がぼそっと言った。
「学校行かねーと。・・・どうせ遅刻だけど」
急ぐ様子もなく洗面台へ行くと、いつものように顔を洗い、
いつものように歯を磨き、いつものように銀色の髪をセットして学校へと向かう。
季節は夏
寮から学校まで近いとはいえ、この暑さでは少し歩いただけでも
汗が噴き出してくる。
いっそ帰ってやろうかと思いながら歩いていると
いつのまにか翔は教室のドアの前に立っていた。
はぁぁ~。
大きくため息をついてから勢いよく灰色のドアを開けると、
黒板には巨大な三角形と、その下に「エジプト文明」と書いてある。
教室に入り、クラスメイトと教師の冷たい視線を感じながら乱暴に席に座った。
「今日も遅かったね。もう昼前だよ。僕、翔の部屋まで朝起こしに行ったんだよ?」
後ろの席の勇がコソコソ話しかけてきた。
斉藤勇は翔の数少ない友達で、親友でもある。
運動しかできない翔に対して、勇は運動能力も頭も学校一良かった。
一言で表せば「優等生」だ。
この学校から神に選ばれる者がいるなら、勇である。
と信じ、誰も疑わなかった。
「すまん。気付かなかった」
軽く謝った後、黒板に目を移した。
「また歴史の授業かよ。何回同じことやるんだっつーの」
少々怒り気味に翔が言った。
「しょうがないよ。僕達がこの学校にいるのは、歴史史上最大の文明が予言した
襲撃してくる悪神と闘うためだから。正しい歴史の知識を叩き込んでおかないと、
奴らが来た時にたちうちできないよ」
勇の口調は、拗ねる子供をなだめるようだった。
「分かってるって。でも、本当に悪神なんているのかよ。
神様なんだろ、一応。神様って人を救うんじゃねーのか?」
「僕だって本当にいるかは知らないよ。それよりこの髪、どうにかならないの?」
翔の髪をいじりながら勇が楽しそうに笑っている。
「なんねーよ。銀髪は俺のトレードマックだ!」
「はいはい、トレードマーク、ね」
当たり前のように間違えた翔の言葉を、勇は丁寧に訂正してあげた。
チャイムが鳴り、教師が淡々と喋っていた歴史の授業が終わると、
隣の教室から女の子が入ってきた。
「午前の授業終わりー♪ 翔、勇、学食行こう!」
翔達に声をかけてきたのは、佐野くるみ(さのくるみ)。
仲良くなったのは高校2年の頃、翔と席が隣になったのがきっかけだ。
他の女子は不良のような見た目の翔を怖がるのに、くるみだけは怖がらずに接してきた。
もちろん、翔の友達の中で女子はくるみだけである。
まぁ、男子の友達も勇以外はいないのだが・・・
3人で学食に行くのは日課になっていた。
ピンポンパンポーン
「日向翔君、日向翔君、校長室までお越し下さい」
あと少しで学食というところで翔は校内放送で呼び出された。
「また何か問題起こしたの?しかも校長室に呼び出しって・・・」
くるみは深刻そうな顔をしている。
心配しているのだろう。
「うーん、思い当たる事が多すぎてどれか分かんねー」
翔は苦笑いしながら校長室への道を踏み出した。
頑張れという勇の後ろからの声援に短く手を挙げ答えながら、
遅刻以外で呼び出される理由を考えていた。
何も思いつかないまま、校長室の前まで来てしまった。
腹をくくり頭を掻きながら目の前にある古い木の扉を開ける。
真ん中の紫色の大きい椅子に偉そうな人が座っている。
その人が呼び出しをした成龍高校校長本人である。
「日向翔君ですね。問題児の。」
髪を染めていて遅刻が多いだけで問題児呼ばわりされたくないと思いながらも、
はい、と答えた。
すると、校長は思いもよらない言葉を翔に投げつけた。
「エジプト国王からの伝言だ。君の力を人類を守る為に貸してほしい、と」
「は?」
翔は、校長が何を言っているのか、しばらく理解できなかった。