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黒いうつつ  作者: 凪久
6/7

第六夜

「仲……良いですよね」


 わたしは鉛筆を持つ手で頬杖をつき、先生の背中に声をかけた。とはいってもただの独り言……のはずだった。

 彼は、えっ? と虚を突かれた表情で振り返った。


「それは、嫌で面倒をみている訳じゃないからね」

「そうですか……」


 わたしは長い髪を黒いシュシュで束ねた後、そろばんをはじこうと指を伸ばした。

 だが問題用紙の上に影が落ちた。

 

 視線を上げると先生がにこやかな顔で「ああそうか」

 何が? と首を傾げる前に彼の手が伸びてきて、わたしの頭を撫でた。


「頭を撫でて欲しかったんだね」

「ち、違いますっ!」


 全力で否定し、ぶんぶんと首を横に振る。

 羞恥で頭から湯気が出そうだ。


「あれ、違ったかい?」

 

 今度は先生が首を傾げた。




 翌日の夜。

 塾に向かう道程で、不可思議な物を見付けた。

 ぐにゃりっと頭の高さに曲がった規制標識だ。ちょうどロシア字のГに似ていた。



 塾の軋む階段を上がると、硝子張りの引き戸がある。玄関先からは、室内の様子がよく見えた。

 

 そこには珍しく険しい顔をした先生が前方の定位置に座り、それに肩を落とした生島くんの後ろ姿があった。

 何か言い合いをしているようだった。


 わたしがガララッ―――と引き戸を開けると、ハッとしたように二人が口をつぐんだ。

 生島くんは「邪魔になりますね。戻ります」と言って、そそくさとわたしの脇を通り過ぎて階下に降りて行った。


「あっ……」


 先生が物言いたげに腕を伸ばしたが、空を切る。

 わたしは素知らぬ顔でいつもの席に腰を下ろした。そろばんと筆記用具、文鎮を鞄から取り出し机の上に並べる。


「先生」


 わたしは顔を伏せている彼に、そっと声をかけた。

 

「……いや、すまない。いつものように問題集を解いてくれ」


 無理に口角だけ上げた笑みで、先生はばつの悪さを滲ませわたしに告げた。

 頷いて、静寂の空間にそろばんを弾く音が響く。


 と―――ガララッと乱暴に引き戸が開いた。


「おーい、先生。すまねえが」


 全然すまなそうにしない黒いコート姿の闖入者ちんにゅうしゃ

 わたしは先生を一瞥した。


 先生は続けるように手で促し、コート姿の中年男性に大仰な溜息を吐いてみせた。




次から更新、遅くなります。


1月14日に書き直しました。

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