表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒いうつつ  作者: 凪久
2/7

第二夜

 

 視界の隅で黒い影が動く。先生が黒板を消していた。

 黒いセーターをはおっているせいか、袖から覗く骨ばった手が白く際立つ。


「先生、訊いてもいいですか?」


 すでに自習に移っていたわたしは、彼に話しかけた。


「何かな」

「この前訪ねてきた人、先生のご友人ですか?」


 彼はわたしに向き直ると、苦笑する。


「まさか。あんな強面の人、僕の友人にはいないよ」


 どうやらあまりいい関係とはいえないようだ。険悪な雰囲気を肌で感じた。

 

 わたしは口を結び、自習していた日本史に目を落とす。

 急に沈黙が落ちた教室は、さきほどまでの賑やかさが残っていて物足りなかった。カリカリと動かす鉛筆の音だけが、わたしの耳に響いた。


 だがふいに、その静寂を破ってピアノの旋律が流れてくる。


 顔を上げ、首を巡らしてその音源を探してしまう。わたしも先生も携帯を持っていないので、その着信音というわけではないようだ。

 

 間違いなくこの建物の中のようだが、この階ではないようだった。

 どうやら先生が住居としている一階から誰かがピアノを弾いている。


「あいつ………」


 先生が呟く。額に手を当て、苦笑を浮かべた。


 あいつ、とは誰のことだろうか。確か配偶者はおらず、家族とは離れて暮らしていると聞いていた。

 まさか―――恋人? 同棲しているのだろうか?

 先生の年齢なら十分考えられる。


「うるさいだろう。自習の邪魔にならないかい?」

「いいえ。―――でも、誰が弾いてるんですか?」

 

 わたしは首を振り、そして尋ねた。興味が沸いたのだ。

 先生は少し困った顔で顎に手を当てる。何か思案していようだった。


 やはり、わたしの予感が的中したのか。


「まあ……いいか。君なら口も固いだろうし」


 独り言のように呟き、


「自習はもういい?」

「ええ、飽きてきたところです」


 そう言うと、先生はおかしそうに笑った。そして悪戯する前の子どものような顔でウインクをして、


「それなら、少し付き合ってくもらおうかな」

 

 


お気に入り登録、レビュー、ありがとうございます!


11月9日、書き直しました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ