第九話
この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。
「…はあ。」
とりあえず溜息をつく。そして、
「……はぁ~。」
…やっぱり、溜息しかつけなかった。
足は動いている。頭は若干機能停止しているが、それでも足が動いていることに、我ながら感心する。今から死ぬかも、いや死ぬだろう、いいや死決定の場所に向かってる事を考えれば、まあ分かって頂けるだろう。
機能停止した脳裏によぎるのは、昨日の夜。グルグルと取り留めのないそれが、俺の足を動かしているのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんだよこの紙…」
「うっ…うっ…」
なんかよく分からんがシリアスになってるロリガキを放っといて、とりあえず貰った紙に目を通す。幸い俺にも読める言葉で書かれていて、長ったらしいので某掲示板風に三行でいけば、
『操心女帝』から脅迫状がきた
相手のお目当ては俺の『左眼』、連れてこい
さもなければ『死神』でニュータイドランドの二の舞だ
…。うん、三行でまとまったね。
でもまあ、俺の気持ちは欠片もまとまらないけどね。
「なんだこりゃ…誰がこんなアホな…」
聞くまでも無かった。紙の署名にしっかりと、『ブルーブラック・ピラーアートナー』と書かれていた。あのスタイリッシュ魚人か。
「余は、二度と、うっ、…もう、うっ…」
なんかもう泣きそう通り越してしゃくりあげ始めたロリガキ。空気呼んだ大狼が、それに寄り添って、気づかうように頬を舐める。が、事情を知らない俺にはなんで泣いてんのかすら分からない。
一応俺、今日知り合ったばっかの他人なんだが。
「で、とりあえずクロック平原ってトコに連れて来い、と。そこは…おおクソ、しっかりと地図までついてんじゃねーか。一人で行って来いってこったな。」
この場合は、ガチで「逝ってこい」だな。
「余は、っ、送っていく、行って、ま、守ると、言ったのじゃ!でも、…っ、でも、隊長殿は…、っ、わた、私を、危険にさらすわけには、うっ、いかない、と!」
「あー俺だってこんなロリに守られるほど落ちぶれちゃいねーわ。」
とりあえず突き離しておく。一応、事実は事実だ。この眼の力を限界まで使えば、とりあえず逃げ切れるくらいは逃げ切れるだろう。
決して、冷たく突き放して、離れて貰おうと思ったりなんかしたわけではない。横の狼も全力でスルーだ。見てない。戦力だなんて思って無いよー俺。
まあ、一通りの効果はあったようで、一瞬顔を歪めるロリガキ。それでも言いかけた「でも」を遮って続ける。一応口喧嘩に関しても天才であった幼馴染の標的だった俺だ。口八丁手八丁にもそこそこの自信がある。
「この眼があれば、なんだってできるし。ま、死にたくねーし?」
「ならっ!」
「足手まといはいらない訳よ。わかりる?」
今度こそ、ハッキリと嫌悪感を露わにする。そう、その表情。こんな人間のために泣いてやる必要はない、その感情。それでそのまま引き下がってくれりゃーそれでいい。
もう遥か遠い昔のように感じる、幼馴染との会話を思い出す。
―――――
―――アタシ達さ、色々やったね。幽霊捕まえたり、変な組織と戦ったり。
そうだな。
―――もう、戻れないね。
…そうだな。ごめんな。
―――ううん。アタシがやったんじゃん。なんでナコが謝んのよ。
…もう、戻れない。
―――いいの。決めたから。でも、そうだね。じゃあ、新しいルールね。
なんだよ?
―――『戻れる人を、巻き込まない』。いい?
―――――
『戻れる人を、巻き込まない』ねえ。ホントにあいつは天才だわ。こんな、俺達の世界からはかけ離れたところに来てなお役立つことをいいやがる。宇宙の真理とかそんなもんまで分かってんじゃないか。
「だから、よ。」
俺は続ける。
「のんびり帰って寝てろよ。俺はアイツ助けるまでは死にたくねーし、死ぬつもりもねーし。だから死なねーよ。」
三段論法でもなんでもない、荒唐無稽も甚だしい暴論。というか、論にすらなっていない。だがまあ、口喧嘩なんてそんなもんだ。相手の言葉を、詰まらせれば勝ち、なんていう、アホな喧嘩なんだから。
「んじゃ、ここまででいいよな?俺はなんか宿借りれるらしいし、帰るわ。」
そう言って背を向け、そのまま歩き出す。
反論の余地をロリガキが見つけ出す前に視界から消えうせるべく、ちょっと早足にしておく。ニゲテナイ、ニゲテナイデスヨー?
「お主は、お主は―――」
なんか言ってたのは、無理矢理耳を塞いだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ…」
以上回想を終えて、また溜息をつく。
俺完全に中二病患者じゃんハズいなおい。どんだけ痛くてカッコつけた馬鹿なんだよおい。回想するとひどさ倍増、思わず腰の刃物を抜いて切腹したくなる。介錯は誰に頼むか…。
「腰の刃物、ねえ…。」
ふと左手を腰にやる。利き手で無いのは、聞き手は頭を抱えるのに忙しいからだ。そこにあるのは、魅惑 (笑)の中二病アイテムだ。
腰のベルト……ああ、更に残念なことに俺は現在異世界スタイル、ファンタジーもびっくりのコスプレスタイルだ。一応元の世界のにちょっとは近いものを選んでくれたらしく動きづらさは無いが、それは俺の頭痛を和らげてはくれない。
その異世界感バリバリの服の腰ベルトにあるアイテム―――ナイフを外す。
鉄……ああ、この世界では『魔鉱』っていわれて貴重品なんだってな?その魔鉱で作られているらしい刃を、頑丈そうな宝石やら木、布で納めてある。らしい、とつくのは、俺がこの刃を一度も抜いていないからだ。
だってこれ。
「どう見たって…『憑いてる』よなぁ……。」
泣きそうな、いや、事実ちょっと泣いてたかもしれん、声を上げる。
俺の『左眼』が、『手土産』と称してもらったそれから見るのは、抜きもせずとも分かる、薄気味悪い白い光の渦。
かつて俺がサイと一緒に追いかけ回したアレと、同じ気配。
所謂、『幽霊』ってやつと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
またまた回想だ。まあ、そんな事やって無いと、俺の心が持たん訳だし、仕方ない。
「おかえりなさい。マナコさん。」
「お、ああ、た、ただいま。」
ロリガキとのバトルを終えて孤児院まで戻ってきた俺を迎えたのは、後片付け中のエスナだった。エプロンで手をぬぐいながら、花が開いたような可愛らしい笑顔を向ける。
だが、そんなのは、些細なことだった。
もっと重要だったのは、その一言。
―――おかえりなさい。
本当にそのセリフを聞いたのは久しぶりだった。思わずどもってしまうほどに。最期に聞いたのは、いつだったか。傷心旅行から帰って、サイからさんざん殴りつけられた後に、ぽつりと言われて以来か。
俺を待っている人がいること。
その事が与えてくれる安心感っての、こんなにすごかったのか。
「ちゃんと送っていかれましたか?」
「ん。ああ。……ガキどもは?」
「もう寝ましたよ。朝は早いですし。マナコさんは、どうされます?」
「……もう少し起きとくわ。」
今にして思えば、ここはさっさと寝とくべきだった。「ただいま」の動揺を引き摺っていたのか…。明日は朝一、つまりはエスナが起きてくる前にココを発つつもりだったのだから。
それを聞いたエスナは、パン、と両手を打ち合わせ(いや、錬金術じゃないよ)、嬉しそうに言う。
「それでしたら、いいものがありますよ!」
そう残してまた台所に引っ込む。ああ、ココが最期のチャンスだったな。
「はい!これ、どうぞ!」
直ぐに戻ってきたエスナの手にあるのは、ワイングラス。もう片方は、立派な瓶。見紛うこと無い、酒である。ハッキリ言って、酒には嫌な思い出しかない。その理由は、俺が飲む場の九割は、あの幼馴染が同席しているせいだ。あの酒乱女がひとたび暴れ出せば、惨劇は避けられない…まあ被害にあうのは俺一人だが。
「あ、ああ。ありがとう。」
とはいえ、俺自体は酒は嫌いでは無い。合法的に酒が楽しめる年齢にも達しているし、経験も……まあ、あまり大きな声では言えないが、普通の真面目な人よりは豊富だろう。
受け取って、まずはグラスを蝋燭の火にかざし、次いで香りを楽しむ…といっても、素人に何が分かるわけでもない。そのまま一口含み、たっぷり味わって喉を潤す。うまい。
エスナは、テーブルの向かいに座ったまま、なんだかニコニコしていた。何故かは本人にしか分かるまいが、聞くのもはばかられた。とりあえず分かったのは、この子が未成年禁酒をきちんと守る真面目な子だということくらいだ。
「…どうですか?」
「うまい。いいのか?こんないい酒をもらって。」
「構いませんよ。……もう、飲む人がいませんから。」
そういって、再び微笑む。ただし、今度は少し、影のある微笑みで。
眼を伏せて、ぽつり、ぽつりと語る。
「……もともと、兄が好きだったんです。ココの孤児院の基礎を作った人なんですよ?」
「…兄…。」
「…といっても、血の繋がりはありません。ココは、孤児院ですから。兄さんがこの建物…今よりはずっと小さかったそうですが…それを買って、孤児たちを集めて、ココを作ったんです。」
「そっか。それを、継いでんだ?」
「今は、もうココを出て働かれている方々が援助してくれていますから、…それと多分、兄さんは、分かっていたんでしょうね。」
そう言って、少しだけ、言葉を区切る。言うべきか、言わないべきか、迷う仕草。急かしはしない。短い付き合いだが、この少女が、そのくらいは正しく自分で判断できるだろうことは、もう十分に分かっていた。
俺が待っているのが伝わったのか、それとも意思が決まったのか、エスナが口を開く。
「兄は、自衛団の団長でもありましたから。いつか…遠くない未来、自分が命を落とすだろうことを。その為に、私は色々と教えられていたんでしょう。自衛団は近隣の小国での魔物、人災の被害者たちを数多く助け、多くの子供がこの孤児院に入りました。」
「……すごい、兄貴だったんだな。」
「ええ。自慢の兄です。」
そういって、誇らしげに微笑む。うん、俺が兄貴だったらこんなこと言われたらそれだけで人生満足だね。まあ、こんな兄貴だったらここまで慕われねーだろうが。
「兄が戦死したのは、三年前です。一人でも多くの人間を救い出し、退路を守りぬいた、立派な最期だったそうです。遺言…その後の事が細かく記された紙をご友人に渡されたそうで、それに基づいて私がココを経営してるんですよ?」
「…信頼、されてんだな。」
「……だと、いいんですが。」
そう言ってはにかむ少女。と、ふと思い出したように立ち上がる。
「そうだ!折角だし…」
そう言ってパタパタと階段を駆け上がる。その瞬間、ピリ、とした感覚が左眼に走る。当時の俺、そこで気付く。あ、なんかヤバイと。かといって当然逃げるわけにもいかない。俺に出来たのは、エスナの足音を、判決を待つ囚人のような覚悟で待つだけだった。
「はい!これ、兄の使っていた小刀です!マナコさんに、差し上げますよ!」
「え、いや、その、」
「マナコさんなら、うまく使ってくれるような気が…、いえ、きっと使ってくれます!」
「いや、その、遺品だし…」
「いいんです。この子も、きっと正しく使ってほしいと思っていると思います…。」
最初に差し出した時の、満面の笑み。次のお世辞の時の、熱っぽい瞳。最期の、ふっと唇に浮かぶ寂寞。うん、今思い出しても三連コンボだね。全弾クリーンヒット、オーバーキルだね。飲んでいたせいで、脳内映像の解像度が低いのが心残りだ。
そうやって、俺はこの所謂「いわくつき物品」を譲り受けることになった。なってしまったのだ。言っちゃ悪いが、甚だ迷惑だよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、長かった回想も、もう終わりだ。そして、俺の現実逃避の時間も、もう終わりだ。いくら俺でも、現実逃避のまま死ぬつもりはない。
が。
どうやら世界は俺が思ってるよりも、狭いものらしい。
「……うわちゃー…。」
「…。」
約束の場所。遮蔽物の何もない、膝より上の高さの石すらない草原。
そこに、男は立っていた。
黒のロングコートに、シンプルな黒の上下。上のセーターの様な服は襟が高く、ニット帽と相まって殆ど顔が見えない。極めつけには黒革の手袋までしているせいで、素肌の露出が異常なほど少ない。
そこそこの風の中、不自然なほど微動だにしない立ち姿で、その男は佇んでいた。
「ゼツ…。」
「……。」
声の届くギリギリの距離まで近づいて話しかけるが、何の反応も示さない。いや、違うか。寧ろこの男は、最初から示し続けていたのだ。敵意、という反応を。
「お前…かぁ…。」
呟く。正直、絶望。勝てるわけがない。逃げることさえ不可能だ。こいつの速さ、強さ、そして何より冷酷さ。もう何日も経っているはずなのに、氷柱と雨の荒地の景色がフラッシュバックする。
無理だろこれ。
そんな俺の心を知ってか知らずか、黒尽くめの男が、呟くように言う。
「その眼帯を、外してみろ。奴らの求める、『左眼』か。」
必要最小限の言葉。言われるままに眼帯を外す。人前で眼帯を外すのは確かに嫌いだが、逆らって命を危機に晒すほど馬鹿では無い。率直に言えば、死にたくねーし。
左眼が、開く。
ゆっくりと開いたその眼には、普通の目で見る景色は見えない。
その代わりに、色が反転したモノ、サーモグラフィーのようなモノ、境全てが水のような透明感をもつモノ、果てはよく分からんモノまで見える。
その遥かに優れた視覚…いや、もはや感覚か…が、離れた場所に、人の気配を視る。
―――…一、二、三、四…、全部で四人、一人は磔、か…。
人質か何かは知らない。が、まあ、大方そんなところだろう。
「これ、か…。」
呟いた黒尽くめが、俺の左目を、続いてゆっくりと後ろを―――四人がいる、普通は視認すら難しい距離があるが―――振り返る。やけに緩慢な動作だが、有無を言わさぬ迫力が備わっている。
常人よりはるかに優れた眼を持つ、俺には見える。
そのうち一人が、僅かに頷いたのを。
それが見えたのか、はたまた別の何かか。黒尽くめの男は振り返り。俺に告げる。
「では、行くぞ。…お前を、殺せ、との、契約だ。その眼を、消せと。」
誰の目にも明らかな、戦闘開始の合図だった。
どうも、お待たせしました。本当に…毎度毎度、お待たせしています…。ヘタレのときは三日に一回更新とか普通にしてたのに…。まあ、こっちはそろそろ第一部佳境なので、あとはキャラクターたちが勝手に動いていくかと…。
あと、少しご質問ですが、調子に乗ってキャラを出しすぎましたので、多分第二部に全員連れていくことはないかな~と思っています。ので、もし「このキャラは一緒にいてほしい!」とかありましたら是非感想にでも書きこんでください。貧弱な作者のストーリー作成力を助けると思って…。
では、今週中くらいには一部は終わるかな?待ってくれてる方が愛想を尽かさないように、頑張りますね!