第八話
この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。
「……どうしてこうなった。」
「あ、お口に合いませんでした?」
呟く俺に、困ったように応えるエスナ。
…。
いや、そういう問題じゃない。
今現在、俺がいるのは、エスナ嬢の家。というか、でかい。そして、人が多い。いや、ガキばっかりだが。ガキ嫌いの俺にしてはあまり居心地のいい場所では無い。だって、さっきの会話だって、横で「あーっ、僕のお肉とったーっ」とか「好き嫌いはダメ―っ」とかのお祭り騒ぎの中だからね。よくエスナの声聞きとれたもんだよ、マジで。
「いや、これは?というか、ここは?」
「ココですか?私の家です。正確には、バリアイーストの孤児院ですね。」
「……。孤児院って儲かんの?」
だってさ、目の前。高級品、とまでは言わないが、なかなか、いやすごくおいしい料理が、優に20人 (だいたい大小合わせてガキがこれくらいいる)分並んでる。孤児院、っつったらもっと質素なもんだと思ってたぞ。
「いや、料理うまいし、豪華だし、そうなのかなーと。」
「ああ、違いますよ!これは、ここの孤児院の卒業生の皆さんが良く差し入れをしてくださるんです!この料理は、外での狩人や農家の方々が分けてくださったものですし、子供たちの服とかもお裾分けですし、家具も交易商人をやっている方にお願いして……」
すげーな、人のつながり。
今時…というか、俺らの世界ではあんまり見なくなったよな、そういうの。まあ、なんかちょっとうらやましい、っていうか、いいよな。古き良き時代、って感じでさ。
「お金が必要な折には、国が出してくれることもあるんですよ~。一応学舎の真似事もしてまして、私が座学を、エンラさんが時間があられるときは武芸の手ほどきをしてくださっているんです!」
なるほどね。エンラってのは誰かは知らんが、そうやっていい感じで人材育成を兼ねるなら、国だっていくらか金出すわけだ。
「なるほど。じゃあs」
「エスナー!余が遊びに来たぞよ!」
だれだ、人が喋ってるってのに…と思って入口の方見たら、いたのは狼少女、もとい狼と少女だった。うん。御免ね。流石に乙○主とタメを張る様な狼を連れた少女相手に喧嘩売る気はないよ。いや、元々俺は人に喧嘩売ったりはしないけどね。平和主義者だし。
「グリンさん、いらっしゃいませ。ご飯今よそいますから少し待っていてくださいね。グレンも、いらっしゃい。」
いやいやいやいや普通に笑顔でお迎えしていいんですかエスナさん。狼の首筋撫でてますけど多分ソイツ肉食ですよ、そこらのガキどもくらいペロリですよこれ。
「うぬ?なんじゃ、グレンが心配なのか?余のパートナーじゃぞ、仲間の家で暴れるような無礼者ではないわ!」
「いやロリータ全開のお前に言われても説得力無い。というか、お前が今ほおばっているのは俺の飯だろうが!エスナが来るまでぐらい待て!!!」
「なっ、言うに事欠いてロリじゃと!?これでももう酒が嗜める年なのじゃぞ!」
嘘つけ!八重歯剥きだしたって欠片も迫力ねーくせに!
そして人の飯を勝手に食うお前のような輩を無礼者と言うんだ!
というか、ガキども!俺らの横で何やってんだ!「狼のおねーちゃんだー!」「撫でさせて、撫でさせてー!」じゃねえ!少しは危機感を持て!
「はいはい、みんなー、グレンもご飯食べるんだから、自分の席に戻りなさーい。グリンさん、熱いですからお気をつけてくださいね。」
まるで戦場 (俺vsロリガキ、狼vsガキども)の様子の食堂に、器と皿を両手で器用にもつエスナ。まるで小学校の先生のようにガキどもを席へとつかせるその様は堂に入っているというか何というか。あ、俺は違うよ?ガキやそこのロリ狼少女とは違うんだ。
「すみませんね、いつも騒がしくって。」
「いえいえ、元気でいいじゃん。子供が騒がしいのは当然ですよ。」
「……そこで何で余を指差すのじゃ。」
言わずとも分かれ。まあ日本の国民性、以心伝心が異国どころか異世界でも通じるのかは疑問だがな。
「グリンさん、今日はどうされたんですか?明日は何かあるんでしょうか?」
「いや、そうではない。そこの無礼者の今後の仕事の斡旋とかいろいろに、隊長が余を使わしたのだ。まあ、恐らく臨時に特殊小隊に所属する事になろうがな。」
「……は?」
……は?
いや、何度も言うよ、はぁ?なんで俺が特殊小隊なんてス○ークみたいなことせにゃならんのだ。これでも普通の大学生なんだよ。眼帯だけ見て歴戦の勇士みたいに勘違いすんじゃねえよ。
「……なんで俺が。」
「なんじゃ、お主、どこまでも無礼者よのう。働かざる者食うべからず、という格言を知らんのか?」
なんでお前が日本の格言を知ってるんだ。ここは日本じゃねーんだろーが。
「なんで一般人に過ぎない俺が。」
「戦力評価的なものは隊長に言うんじゃな。余だってお主のような無礼者となんざ気が進まんわ。」
「ま、まぁまぁ!二人とも喧嘩なさらず!私は嬉しいですよ?マナコさんと一緒にいられるなんて!」
犬歯剥き出しのロリガキと俺の間に入り、大げさに喜びをアピールするエスナ。ああ、可愛らしい。お世辞と分かっていても頬が緩むね。
「……だらしない顔をするでない。気色悪い。」
だまれロリガキ。この魅力が分からないうちはてめーはロリガキだ。
「まあまあ!マナコさんも、特殊小隊なんて大層な名前の部隊ですけど普段は周辺哨戒くらいですし!そんなに危険も無いですよ!それに、」
そこでいったん区切り、お世辞全開の慌てた顔から、すうっと真剣な顔になる。目線の先は、俺の左目の眼帯。眼帯越しでも見られて気持ちのいいものじゃないが。
「マナコさんの、その眼のおかげで、私達は生きているんですから。マナコさんなら大丈夫ですよ。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そう、余が今日きた目的の一つはそれじゃ。」
エスナの話に、興味深げに口を挟むのは、グリン。
「お主のその『左目』の力。聞けばエスナだけでなく、エンラも隊長も知っておるそうではないか。同じ部隊で戦う以上、仲間の特性は知っておきたいのじゃ。」
口調は真面目だが、その眼には堪え切れない好奇心。「『異能』見てみたい!」と顔に書いてある。
心ある人ならば皆その期待に答えたくなるような視線だが、あいにくとマナコは『異能』を極端に嫌う。見せろ、と言われて見せてやるなど以ての外だ。
「やだよ何で。」
「……お主は人の話を聞かんのじゃな。仲間の力は知っておきたい、と言っておるじゃろう。」
「俺はお前らの事は一切知らんのだが。」
「なんじゃ、知りたいのか?見て分からんなら身を持って教えてやらんでも無いぞよ?」
そう言って横を指差すグリン。その先にあるのは ―― 濃緑色の毛並みの大狼。説明の必要も無い、強大な戦力。
「エスナやエンラの坊主、隊長殿のはもう見たのじゃろう?ホレ、お主は皆の事を十分知っておるでは無いか。」
「………。」
「ぬう。仕方ない。グレン、ちょっとこやつを一齧r」
「慎んでご披露させていただきます。」
大狼の恐怖にあっさりと屈したマナコが、しぶしぶと左目の眼帯を外そうとして、
「あ、やべ…。ちょっと、場所移してもいいか…?」
「何じゃ、この期に及んで出し惜しみとは。よかろう、エスナ、空き部屋に案内してたもれ。」
「ええ、構いませんけど…。大丈夫ですか?何か、顔色が…」
「ああ、それはいいや。出来る限りガキには見せたくないしな。」
ちなみに、その時ちらりとグレンの方に一瞥をくれていたのは、マナコ本人しか知らない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
別の部屋に移動した二人と一匹の前で、マナコが盛大に溜息をつく。
「なんじゃ、まだ何k」
「あーうるせー。外す。外しゃーいいんだろうが!」
半ばやけになりながら、マナコが乱暴な手つきで眼帯を外す。多少触れた程度ではこの眼がどうにもならないことは彼にとっては先刻承知だ。
―――その下からのぞく、異常な眼光。
闇より黒い、漆黒に染まった白目。その中にあっても凄絶な輝きを放つ、異常な色の虹彩。危険に見開かれた瞳孔。その眼が眼帯の封印を逃れて、まるで歓喜するかのように不気味に蠢く。
「っ…。」
「ああっ…。」
二人の少女が、声をつまらせ。
「!……グルル…!」
狼が野生の勘で威嚇態勢に入る。
蠢く眼がエスナを見、グリンを見、グレンを見。
興味を失ったかのようにグルグルと空間を見つめる。
異様としか思えないその光景。いや、たとえその眼が見えていなかったとしても、彼の放つ威圧感が、誰もを怯ませていただろう。
そして。
その反応は、マナコを傷付ける。例え何百、何千回繰り返されようと、決して慣れることのない痛み。ありのままの、自分の傷を見せれば、それだけで相手を怯えさせてしまう、自分の宿命。
「…、ふぅむ…、隊長と同格か、それ以上の迫力を感じるのう。」
「ええ。」
「いや、悠長に構えてねーでそこの狼止めてくれ。飛び掛かってきそうで怖えーよ。」
「何じゃ、中身は変わらんのう。して、その眼には何が見えるのじゃ?」
一瞬の間の後、落ち着いたのか、真っ先に興味を示したグリンの質問に、マナコが後頭部を掻く。
「いや、よくわかんねー。」
「は?」
「え?」
茫然となる少女二人を前に、マナコが続ける。
「いやだってさ、色々見えるんだが、それが何なのか分かるものもありゃー分かんねーもんもある。一番分かりやすいのは幽霊かな。他には、なんかヤバイ雰囲気の人間とか、武器の隠し場所とか…、ああ、逃げるときには脆い壁の場所とかか。」
「漠然としとるのう。幽霊なんぞホントにおるのか?」
「いや、見えるんだもん。見たくもないが。」
「で、でも、なんか、人と違う世界が見えるって、私はいいと思いますよ?ロマンがありますよ!」
的外れのフォローを横に、マナコが続ける。
「んーと、後はアレか、あの光るヘビ。あの黒髪の…『操心女帝』っつったか?アイツからウネウネと光るヘビが伸びてんのか。元々俺がいた世界にはなかったから、魔法ってヤツか?なんか、あのジーサンが白魔法とか言ってたな…っておい、なにアホヅラしてんだロリガキ。」
「い、いや…、お主、見えるのか?白魔法の、ほんの微弱な魔力の流れを!?」
「しかもウネウネ、って、揺らぎまで正確にですか!?」
「あ?なんか魔力は目に見えるみたいにあのジーサン言ってたぞ!?」
「それは強力な黒魔法の…いや、いいわ。お主に言ってもどーもなるまい。でまあ、それがお主の道士としての能力、と。」
半ば以上投げやりに応えるグリン(ちなみにグレンは危険なしと判断したのか、既に伏せの態勢になっていた)だが、それとは対照的な反応を示したのはエスナだった。
両手を打ち鳴らし、嬉しそうに目を輝かせる。
「マナコさん、やっぱり道士さんだったんですね!私も、私の『治癒』も道士の力の一つなんですよ!お揃いですね!」
それくらいでお揃いと言うのか、とマナコは訝るが、この場合は仕方ないと言えるだろう。道士は絶対数が少ない。ニュータイドランドでもない限り、国じゅう探しても片手の指ほどなのだ。
そして何より。
道士になるための条件が、特殊だからだ。
道士――異能とは、有体に言ってしまえば、欠陥芸術品とでも呼ぶべき存在なのだ。本来は世界に規定された方向、たとえばこの『四色』では魔法としてしか解放できない『エナジア』が、魂に生じたひび割れによって本来ありえない方向に流れだすことによって生じる能力。
そしてそのヒビは、魂を揺さぶることによってのみ生じる。心を、身体を、思いを砕く程の激しい経験だけが、魂を傷付けることができるのだ。
その事を知っている彼らの絆は、強い。
深さは違えど、同じ傷を抱える仲間として。
「ま、そうでもあるが…。」
「そうですよ!これからはお揃いで、仲間です!」
嬉しそうなエスナ。それを若干引き気味に眺めるマナコ。
そして…何処か苦い表情をした、グリン。
「ふむ。わかったぞよ。さて、マナコ。」
「なんだロリガキ。」
「もう夜も遅い。余を送らせてやろう。ついて来い。」
「……寝言は寝て言え。」
「これから洗い物やら子供の寝かし付けのあるエスナを気遣っていっておるのじゃ。黙って従え。」
「……一応考えてんだな。」
「分かればよいのじゃ。敬ってへつらえ。」
「……一言多いがな。」
そう言って、立ち上がる二人。エスナは「べ、別に迷惑とかないですよ!?ぜ、ぜんぜん居てくれて、寧ろ居て、いえあの!」などと口走っていたのを「んじゃ」と切り捨てて歩き去る二人。
「あ、あうう…。」
一人残されたエスナは、顔を真っ赤にして俯き。
自分の顔が真っ赤になっていることに気付き、更に赤面していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
歩いていた。
狼と少女と、二人と一緒に。
既に眼帯はつけているものの、コイツのせいで作られた重たーい空気は消えてくれない。いい迷惑だ。
まあ。
使えると言えば、使えるんだが。
「……これも、その眼の力かえ?」
「…ああ。なんか、考えてるな、っつーのはな。目とかの挙動不審から見てんのかなー。」
「ふむ。まあ…、興味深い。だが。」
「なんだよハッキリ言えよ。」
ロリガキが拗ねてると、なんか小学生虐めてるみてーで気分悪りーな。
「…。……ん。」
顔を下に向けたまま、差し出すのは、一枚の紙…じゃねえ。
何だこれ。ああ、あれか?ファンタジーお決まり、羊皮紙ってやつか?いや、羊がこの世界に居るのかも疑問だが、なんか皮っぽい。この世界って紙も無いのか。大変だな。
と、受け取りながらしみじみしたのを勘違いしたのか、なんか気まずそうに、ロリガキが言う。
「すまぬ……。余は、余は…!」
「なんだっつーんだよ。」
「お主を、助けてやれぬ……っ!」
その声と共に見た、羊皮紙は。
結論から言えば。
俺に、「死んでこい」って言ってやがった。
大幅にお待たせして(待っている方がいらっしゃれば、ですが(泣))申し訳ありません…。
いえ、言い訳はしません。ここでは。日記にします(爆)
ホントは十話一区切りでいこうと思っていたのですが、もう少しかかるかもなあ、と考えつつ…。ただ、これからは以前くらいのペースで上げられるかな?と思いながら、頑張っています!
やっぱり書きたいことを書くのは、楽しいですね!この楽しさを忘れずに頑張っていきたいです。
皆さんのご意見やご感想、いつでもお待ちしています!