表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/32

第四話

 この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。


 追記5月25日 誤字訂正、改訂

 「……っ!!!」


 穏やかな目覚め、とは完全に対極に位置する朝だった。

 いや俺だって一応一通り有名どころのゲームはやってるわけで、折角異世界なんだから爽やかなBGMと共に、とまでは言わずとも、ゆっくりとのびが出来るくらいの目覚めは用意してほしい…とほのかな願いがあったのかも知れない。


 だが、願いってのはえてして儚いモンだ。


 目覚まし替わりだったのは、爆音。

 大きな音、という意味では無い。文字通り、「爆発音」だ。規模的には…といってもどのくらいの音が大きいのかは分からないが、洒落や冗談で済むものではない、という事だけははっきり分かるくらいの音。


 「何だってんだよ…ったく!」


 まだ燻っていた焚き火を乱暴に踏み消して (別に火事を心配したわけではない。単なる腹いせだ)、そのまま太陽を見上げる。

 時間的には、まだ昼前、元の世界なら店が開き始めるくらいか。折角だからもう少し体を休めときたかったが、仕方ない。


 「≪面倒事から逃げ出すな≫ってのが、アイツの洗脳方針だしな…。」


 その指導の通り、サイは面倒事を起こすのが得意なだけでなく、面倒事に首を突っ込むのも大好きだ。そこには当然、俺も引き摺って行かれる。


 逆に言えば。


 面倒事があるところに行けば、サイに会える可能性は高い。

 ならば、行かねばならない。


 ああ、そういや、


 「≪困ってる人は助けろ≫でもあったか……。」


 呟きながら、周囲を見回す。

 周囲に人影はない。

 というか、ゼツとか言ったあいつはもう、先に行っちまったのか。一言くらい書置きやら声かけやらするのが礼儀だと思うが、あんな奴に礼儀の心得があるとも思えないので諦める。


 気を取り直して、音がした方を向く。小高い丘があって、その向こうまでは見えないが、俺のこの『見えすぎる眼』は (忌々しい事に)空中に残った細い煙を捕えていた。


 ―――遠くは、無い。


 そう判断を下し、俺は一気に走りだした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 今にも雨が降り出しそうな、否、既に細かい雨粒が落ちてるような曇天。その中に、鋭い破裂音と、悲鳴が響き渡る。


 「う、うわああああ!!!」


 また一人、悲鳴を上げる。無理も無い。

 人間が最も恐れるものの一つに、「得体の知れないもの」が挙げられるだろう。この状況は、まさにそれだった。


 「ど、どこから、何が!!!ぐああッ!!!」


 パシュンッ。


 軽い、小さな音が響き、呼応するようにパニックに陥っていた男が倒れた。あっという間に血が溢れ出し、血だまりができあがる。


 それに慌てて駆け寄るのは、一人の少女。

 鮮やかな薄桃色の髪の毛と、抜けるように白い肌。ややあどけなさの残る顔の輪郭に、目尻が若干垂れ下がっているのが可愛らしいが、今はその目にうっすらと涙が浮かんでしまっている。

 右手に持つ頭部に宝玉のついた杖も、左手の簡素な手袋も、髪の色によく合う色のローブも、赤黒い血でまみれてしまっている。


 痛い、痛いと呻く男に駆け寄って、ローブが更に血だらけになるのにも構わずに横に座り込んで、手を握ってやる。


 「大丈夫です、大丈夫です、私がついてます、いますから……っ!」

 「う、うう…だ、駄目だ、にげ、逃げろ……」


 必死に少女が呼びかけるが、その声は聞いていてかわいそうなほど震えてしまっている。

 少女の役割は、衛生兵。特に少女の持つ『異能』は、国で一人しかいない、失ってはならないものだ。それを分かっていてか、それとも純粋に少女の身を案じてか、男は必死にその場を離れるように喘ぎながら呼びかける。


 「っ!ここっ!」


 おもむろに少女が男の腹部 ―― 血の噴き出す部分 ―― に左手を添える。


 ―――と。


 ―――少女の手が、発光した。


 美しい、真っ白な光は少しだけ周囲にその光を撒き散らした後、術者が力を込めるのに呼応するように不意に収束し、出血部を抑える。

 それに合わせて出血量がみるみる減っていき、男の表情がゆっくりと緩んでいく。


 ほんの数十秒ほどで噴水のような血は止まり、それどころか傷自体がかさぶたで覆われてしまった。それすらも今にも剥がれてしまいそうだ。男の表情から痛みが抜ける。が、直後、その表情が苦々しく歪む。


 男の傷が塞がるのに同期するように、少女の額に汗が浮かび、血の気が引いて行くのを見たからだ。


 「おいっ!やめろっ!」

 「大丈夫です。これが、私の仕事ですから。さあ、ゆっくり岩陰に…」

 「もう何人『治癒』で治してると思ってるんだ!はやくっ、」

 「さあ。ここは危険です。あの岩陰なら大丈夫ですから。」


 詰め寄りかけた男を弱弱しい笑顔で制して、肩を支えながら、別の岩陰へと移動する。


 ―――この岩陰も、駄目だ。次は、どこに行けば…。


 軽い立ち眩みに似た症状を感じながら、少女は必死に考える。この見えない攻撃を相手に、どうやって皆を守ればよいかを。自分の力も、いつまで持つか分からない。これ以上の犠牲は、防がなければ。


 ―――犠牲。


 「っ…。」


 少女が唇をかみしめる。もう既に、この最前線からは離れた場所でも三桁近い人が傷を負っている。当然、応急処置が上手くいかなかった者も。


 「エスナっ!いるかっ!?」

 「エンラさん!?無事ですか!?」


 運んでいた男を横たえた直後に聞こえた、突然の野太い呼び声に、少女 ―― エスナも大声で叫び返す。

 声の主は、走ってきたのだろう、息を切らして岩陰に顔を出す。


 「……無事だが、無事じゃない。エスナ、まだ何人か治せるか?」

 「ハイ、行けます!前線ですか!?」


 とっくに限界を超えているにも関わらず、エスナはハッキリと頷く。


 「……ああ。今、隊長が『領域魔法』で単身敵の攻撃を防いでる。まさに恵みの雨、だ。衛生兵と、グリンは負傷者を運び始めてるが、動かせないほどの奴の応急処置を頼みたい。」

 「ハイッ、すぐ行きます!あ、エンラさん、その腕……」


 エンラと呼ばれた、がっちりした青年の腕には、正体不明の傷痕が複数も残されている。恐らくあの攻撃を受けたのだろう。慌てて『治療』を施そうとするエスナを慌ててエンラが抑える。


 「……こんなの掠り傷だ。お前の力を使う必要はない。」

 「でも、それ、」

 「……エスナのほうが、よほど真っ青だ。さあ、すぐ前線に、」



 急いで準備をする二人の上から、



 「伏せろっ!!!!!!」


 突然に大声が響いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「伏せろっ!!!!!!」


 一人の男を殴り飛ばしながら、反射的に俺は叫んでいた。俺のいる若干高い丘からは、こいつとは別の男が、下にいる数人を狙っているのが見えたからだ。

 まあ人間、誰かが拳銃向けられてんのを見たらこう叫ぶだろ?いや、そんな経験している人が一般化出来るほどいるのかは知らんが。


 「あぁー、うぅー……。」


 気持ち悪い呻き声をあげて、殴った男が倒れる。焦点の合わない瞳に、口角泡の零れた口。

 そして何より、俺のこの『左眼』に映る、光の大蛇。

 あの城で見たのと同じか、いや、若干色が薄くて、小さいか。それでもソイツはしっかりとその男に巻きついており、自由を奪っている。


 ―――俺には、分かる。

 ―――このヘビは、身体じゃなく、精神を絞め殺しているんだ。


 うん。自分で言ってみて若干引くね、どこの中二病設定だよ。だが、そうだと分かってしまうもんだから、仕方ない。悔しいが俺の『左眼』が教えるそれが外れることは、めったにない。


 意識が飛ぶくらいの力で殴ったつもりだが、男はなおも体を動かし、その手の銃で俺を狙おうとする。


 「ったく、いい加減にッ!」


 その照準が合う前に回し蹴りでそれを吹き飛ばし、


 「倒れろよッ!」


 前蹴りを顔面に叩き込む。そのまま拳銃に飛びつき、それを彼方へと放り投げる。

 今度こそ昏倒するだろうと思っていたが、やはり男はのっそりと起き上がる。勘弁してくれよおい、これ以上どうしろってんだ。


 と、男は何を思ったのか、自分の手をしばらく見つめた後、そのまま虚ろな目つきで周囲を見回しだした。


 ……。


 「…なんか分からんが、まあよかろう。っと!!!」


 のんびりしている暇はない。さっき一応声をかけた崖下に慌てて目を向けると、まだ崖の下の大岩の影に10人程が蹲っているのが見える。


 「っ、バカかあいつらは!!!」


 相手はこの窪地を、周囲の高めの丘から狙い打っているのだ。影となる岩が多いとは言え、わざわざ狙いやすい下方に陣取るのは得策ではない。

 ……というか、銃持つ相手より低い位置で固まってどうすんだ、下策以外の何物でも無いんじゃないか。いや軍事マニアでは無いから詳しくは分からんが。


 「おいっ!右からもう一発!伏せろ!!!」


 まだ立っていた4、5人が慌てて屈みこむ。そのうち一人は隣のちっさい女の子を庇うようにする。が、オイ、弾はそっちだ!

 この『左眼』、一旦銃口を見てしまうと、なんとなく銃弾の軌道まで見えてしまうのだ。戦場ではこの上なく役立つだろうが、普通に生きていくのには一切必要ない力だ。正直俺としては後者を望んでいるんだがな。


 「ぐっ!!!」


 パンッ、という嫌な音が響き、男が撃たれたのが見える。とりあえずここは助けるべきだろうと考えて、丘を滑り降りながら男たちのもとに駆け寄る。無論、狙撃した男を油断なく睨みつけながら、だ。


 それにしてもおかしな集団だ。狙撃の腕は確かだが、身を隠そうという気配が欠片も無い。さっきの男といい、拳銃とは思えない (というか、本当に拳銃だったのか?)長距離射撃能力にしては、防御があまりにお粗末だ。

 しかも、構えたまま撃ってこない。なんなんだいったい。こいつらもバカなのか?弾切れ?ますますバカだ。


 まあ、この際撃ってこないなら好都合だ。そのまま岩陰に飛び込み、ズボンから大き目のハンカチを取りだす。サイとのあれこれのせいで、傷の手当てはお手の物だ。最も、銃創というはじめての傷にどのくらい通用するかは知らんが。


 「ぐ、ぐううっ…!」

 「エンラさん!今、今治しますからっ!」


 飛び込んできた俺には目もくれず、少女がそう言って男の傷口に手をかざし…って、


 「待て待て待て!弾、貫通してねえぞ!弾丸抜きとれよ!」


 そのまま傷口を抑えて止血しようとしたのだろうと考え、慌てて止める。弾丸が留まることで怖いのは鉛中毒、だったような気がする。

 少女はビクッ!と震えて固まってしまう。がまあ、そんなことを気にする余裕はない。


 「おいっ、誰かピンセットとか、細いもん持ってないか!?弾取り出すから!」

 「は、はいっ!こ、これ!」


 木製の、先の尖がった箸みたいなものを少女が手渡す。


 ……。


 あ、俺が固まってどうすんだ。気を取り直してそれで傷口を探る。男がウグッ、という声を上げたが、黙殺する。男だろ、堪えろ。俺はサイからそう育てられた。


 「うし、取れた!後は止血をs」

 「あ、わ、私がやります!」


 少女が威勢よく声を上げ、そのまま男の傷口に手をかざす。


 ―――てオイ。


 少女の手が、輝いた。いや、ドッキリとかネイルアートとかブレス系○術とかそういうもんじゃない。本当に、輝いた。そのまま傷口をぐっとおさえると、そこも同時に輝く。で、みるみる傷が塞がって、かさぶたが出来上がる。


 …。

 ……。


 オーケイ、ここは異世界だ。柔軟にいこう。これは所謂『魔法』だな。白魔法だな。オーケイオーケイ、そんなこともあろう。


 「こ、これで、大丈夫、です……。」

 「……す、すまない…。」


 二人が会話を交わす。少女の方が若干顔色が悪くなったように見えるが、男の方は問題なさそうだ。

 …大丈夫、なんだな。オーケイ。


 「でオイ、ここは不味い。今は弾切れかなにかで撃ってこないが、銃相手に低地に陣取るのは不味い。もう少し離れて、相手がよく見える場所にいくべきだ。」

 「……」

 「あ…」

 「あの……」


 …あれ?何この空気?


 少し考えて、思い至った。


 ああ、あれだ。俺、今眼帯つけてねえや。そのせいか。俺の『左眼』の、異常な眼光と強烈な色彩。そして、得体の知れない威圧感。

 これ見て俺に近づかなくなった友達、何人いたかな。ああ、もう覚えてもいないな。いや、思い出したくないのか。


 …俺はどうも「魔法の異世界」ってやつで浮かれてたのか。


 急に現実に引き戻された気がした。そのままこの世界が、ガラスのように砕けて夢から覚める……そんな気さえした。


 ああ、何をしているんだ、俺は。


 ―――怖がられるのは、畏れられるのは、嫌いか?


 当たり前だ。俺はただ、普通に生きていられればいいんだ。


 ―――ならば、出来ることがあるだロ?コイツラヲ


 違う。


 ―――チガワナイダロ?チガワナイ、チガワナイチガワナイ


 違う。違うちがうチガウ



 「分かりました。この方の言うとおり、皆さん、辛いでしょうが、移動しましょう!」


 …。

 ……え?


 グラグラと揺れた俺の思考が、耳に優しい、それでいて凛と響く声が繋ぎ止めた。まるでレンズの焦点が合わさるように、ズレた心が消えていく。


 「わ、わかった!」「まかせて、エスナちゃん!」「おい、俺は肩貸せるぞ!」「た、頼む!」


 その声に、一瞬静まり返った男たちが、次々と声を上げ、意気を鼓舞する。

 その様子を、その場の空気を変えた少女――エスナを、俺はただ呆然と眺め、


 「……貴様。あの攻撃が何か、知っているのか?」


 さっき撃たれていた男に唐突に肩を掴まれる。放心状態のまま無言で頷くと、


 「……だったら、共に来い。俺とエスナは今から前線に行く。ここの連中は自分で移動できるし、グリンの奴なら匂いで拠点まで負傷者を運べる。見たところ応急処置も出来そうだ。いいな。」


 ……突然、命令。なんやねん、とツッコみたい気分をすんでのところで抑える。怪我人がいるなら、助けるべきだ。異論はない。前線、っつーのがちょっと気になるが。


 とか考えてるうちに (まだ俺は返事をしていないのだが)、男は少女のところへ行き、何かを話していた。

 どうせ今から行くぞー、だろう。そして、少女が頷くのがみえた。うん、行くんだね。


 そして、二人同時にこちらを見る。


 ああ、俺も行くの?


 前線、という不吉な響きの場に、俺は引きずり出されるらしい。

 頭の中で、どうしててこうなった、と問いかけてみるが、当然答えは出ない。



 ちなみに。

 なんであの少女が俺の言う事を聞いた、悪く言えば真に受けたのかも考えてみたが、やはり答えは出なかった。


 どうも、更新が激烈に遅くなって、もしかしたら、万が一いるかもしれない、待っていた方、申し訳ありません。今回は、人が多すぎて煩雑かな~、と思いつつの更新。まあ、土日にはしっかり更新して帳尻を合わせるかな~(爆)

 しかし、こうしてみると、意外と主人公最強系のような……。ただ『見える』ってだけではちょっと設定甘かったかな…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ