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第十四話

 この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。

 降り注ぐ雨は勢いを増し、バタバタと地面を叩く。

 その雨の量に負けないくらいに激しく降り注ぐ氷柱が、戦場に悲鳴を響かせた。


 雨音を引き裂く悲鳴が、遠く離れた場所に立つその少女にも届いた。


 「うふふ、えへへ、ふふっ、ははっ、ははははっ!」


 少女が、嗤う。

 堪え切れない愉悦と、快楽に、嗤い続ける。


 「聞かせてん…もっとぉ…もっとぉ…。悲鳴をん、断末魔をん、死の音をん、わたしに聞かせてん…!ふふっ、ははははっはははは!」


 少女の目が、妖しく輝く。

 領域魔法に匹敵しかねない膨大な魔力を消費する魔法を、しかも青と緑の二色の魔法を交互に使いながらも、その顔に疲れは見えない。


 体術、知識では他の三人の将軍に劣るものの、魔法の規模・精密さ・魔力容量では『先祖転換バックバッカー』であるダイヤにさえ引けを取らない、天性の魔法戦のエキスパート。それがこの少女が幼くして白銀の国の将軍となれた理由だ。


 雨と氷柱の中、数人が此方に向けて走ってくる。

 恐らく自分が動いたことを知って、接近戦を挑もうというのだろうが、甘い。彼女がその手を……緑の光を纏った手を一振りする。風の魔法がその力の向きを変え、それだけで無秩序に降り注いでいた氷柱が意思を得た様にその軌道を変える。


 「うわあああああああああっ!!!」

 「く、くそおおおおおおおっ!!!」

 「ぎ、ぎゃあああああああっ!!!」


 駆け寄ってくる、兵士たちの方へと。

 50人近くいた一団は、その氷柱の第一波だけで半数以上が地面に倒れ伏した。


 そして更に降り続く第二波、第三波が、動けない兵士たちの命を刈り取り、必死に走る兵士をまた地面へと縫いつけていく。無力な虫を針で地面に刺すように。


 決死の覚悟で此方へと突進してくる兵士は、誰ひとりとして彼女の立つ氷柱まで辿りつけはしない。それどころか、その距離の半分すら詰めることが出来ない。飛来する弓矢さえ、途中で壁の様に降り続ける氷柱のカーテンに阻まれてしまう。


 強力な氷矢は、射程も長い。怪我人達の処理をしていた即席の屋根付きの救護所も、十分にその射程圏内だ。隙のない、それでいて凶悪な殺傷力を持った『血風童女』の魔法に、傷ついた兵士たちは為すすべなく蹂躙されていった。





 本棚の砕ける凄まじい音が、図書館中に響き渡った。

 だが、そんな音は俺の耳には届いても、頭までは届くことは無かった。恐らく、目の前で戦いを繰り広げるサイも同じだっただろう。


 頭まで届くのは、お互いの言葉だけ。


 「ふふっ、ははっ!すごいすごい!ナコ、本当に強いんだね!」

 「お前が…、お前を、助けるって、約束、したからなあああっ!!!」


 『左眼』が捉える本棚の継ぎ目を、とうとう抜き出したナイフで両断する。どこぞの漫画よろしくきれいに切り裂かれた木枠や本が飛び散る中でも、俺のこの『左眼』は決して狙った相手を見失いはしない。


 さすがに天才とはいえ、散乱する本の中での戦闘は容易ではない。俺の振るうナイフを完全には回避しきれずに、肩や腕に幾筋もの傷が走り、鮮血が滴る。



 戦いは、俺が押していた。


 『異能』者レベルの身体能力を手に入れたとはいえ、慣れていないのだろう、サイの動きはまだどこかぎこちない。それに対して俺はこの世界に来てから格段に腕をあげているし、何よりも『左眼』の力がますます強まっているのか、サイの動きが良く見える。


 良く、見える。

 そう、見えすぎるくらいに。


 狂ったように嗤うその笑顔の下に隠れた、苦悶と、狂乱と、恐怖。そして、同じような顔をしながらナイフを振るう俺に対して、縋りつくような泣き顔まで。


 「オオオオォッッ!!!」


 そこまで分かっているのに、俺の体は止まらない。

 まるで機械にでもなってしまったかのように俺の意思に関わらずに動き、目の前で踊るように舞う少女を解体しようとナイフを振り続ける。


 「はは、はははっ、やあっ!!!」


 強烈な回し蹴りが俺の横腹を貫く。嫌な感覚……肋骨が圧し折れて肺が悲鳴を上げるような感覚が体を駆抜けるが、それもやはり俺の頭の中まではやってこない。痛覚では無い、「骨が折れ、内臓を痛めた」という分かるだけだ。


 軋みながら血を噴き出す体を無視し、手にしたナイフを煌めかせる。

 自分の体なんてどうでもいい。

 ただただ、目の前の、この少女を。長年思い続けたこの幼馴染を。


 殺す。


 「おおおおっ!!!」


 分かっていた。

 なぜサイの表情を見ても、俺の体が止まらないのか。

 なぜ体を砕くほどの衝撃を受けても、ナイフを振り続けるのか。

 そもそも、なぜ俺は彼女にためらいなく死の刃を向けられるのか。


 分かっていた。


 「死ねええええええええっ!!!」


 俺の体が、サイを殺す事を求めているから。

 『姓無』と名乗った、あいつらと…そして、サイと同じだ。


 殺したくて、殺したくて、殺したくて。

 目の前の人を見るだけで、その体にナイフを突き入れたくてしょうがない。


 殺人衝動。

 俺の体を蝕んでいたであろうその衝動が、とうとう暴れ出した。


 「死ねっ、死ねっ、死ねっ!!!」


 ナイフを振るう。

 目の前のサイを殺す、それだけを求めて。


 そんな俺の顔に、何を見たのか。

 サイの顔が、歪む。さっきまで、楽しそうに、笑っていたのに。


 「ナコっ…ナコっ…ナコぉ…っ!!!」


 ナイフの切っ先をすれすれでかわしたサイが、呻くように歯を食いしばる。

 出来すぎた俺の『左眼』が見たのは、懐かしい、この世界に来る前の幼馴染の顔。


 俺を、心の底から心配する表情。

 自分が俺を苦しめている事を、悔やむ表情。


 ズキン。


 「うっ、うわああああああっ!!!」


 左眼に、そして頭に走る激痛。身体ではない、精神に走る雷。

 右手が、握りしめていたナイフを離して頭を引き裂かんばかりに掻き毟る。


 「ナコッ!!?」


 激痛で霞む『左眼』が最後に捉えたのは、ナコの顔。

 もう最後にいつ見たか思い出せない、涙が光る瞳が、悲しみに歪む顔。


 ナコは俺の体が止まった隙を逃さずに…逃げ出した。

 窓枠を一気に飛び越え、此方を振り返ること無く走り去る。痛みに崩れ落ちる俺を置いて。


 「う、うわあああああっ!!!」

 「マナコさんっ!」


 おさまらない頭痛のなかに届いた、誰かの声。


 誰か。誰か。誰か、人間。

 人間。人間。人間、獲物。



 ―――獲物ナラバ、殺セ…。


 轟いた衝動が、声の方向へと致死の貫手を放たせた。





 「おおおおっ!!!」


 氷矢の降り注ぐ戦場で、一人の男が咆哮をあげた。


 「まだまだっ!負けへんでぇ!!!」


 駆けつけたコウは、たった一人で殺戮の嵐へと突進を繰り返してた。彼の持つ『異能』は、『硬化』。例えどれほどの勢いの矢であろうと、彼の強固な体を貫くことは出来ない。


 しかし。


 「くっ、おおおおっ!!?」


 相手は、白銀の国で四人しかいない『将軍』の一人だ。『硬化』一つでその魔法を破れるほど、甘くは無い。一瞬だけ、氷矢の連撃がやむ。それは、手数重視の矢の雨では無い、威力重視の砲弾変えるため。


 無数の氷矢を生みだしていたのと同量の魔力が集まり、ただ一撃の巨大な氷柱を拵える。

 同時に、風がその後ろに収束し、矢と全く同じ速度でその氷塊を打ち出す。


 「おおおっ!!!」


 コウの身体能力を以てしても到底かわせない攻撃。両手を眼前で交差して防御するが、その圧倒的な質量によって大きく後ろへと弾き飛ばされて転がる。決死の覚悟で詰めた距離が、たったの一撃で振り出しに戻される。


 だが。


 「どうしたぁっ!?そんでしまいなんかっ!?まだまだワイはぴんぴんしとるでっ!!!」


 転がりながらすぐさま体勢を整え、挑発を飛ばしながら再び突進する。服はボロボロに破れ、汗と雨でその体には泥が張り付いているが、その眼はまだ爛々と輝いている。


 (まだ、勝ち目はある。)


 コウは、勝利を諦めていない。ジュウを片付け・・・、この戦場に来た際にコウが任せられたのは敵の攻撃の射程範囲外まで後退するための時間稼ぎ。『血風童女』この攻防一体の攻撃の欠点は、降り注ぐ矢によって術者自身の移動も制限されること。一端下がって距離を取ることで、仕切り直し…あわよくば氷の源となる雨が止むのを待つことができる。


 だが。


 (せやけど、それじゃ間に合わへん。)


 それでは到底間に合わないだろう。激しさを増す雨のせいで地面はぬかるんでいてとてもまともに兵を運用できそうには思えないし、傷病兵たちの体力もどんどん奪われているだろう。第一、この敵が何の手も打たず「一端距離を取る」ことを許すとは思えなかった。


 ならば。


 コウが持ち込んだのは、持久戦。自分の、魂を消費しての『異能』が途切れるのが先か、相手の『魔力』の途切れるのが先か。この世界での『魔力』は、当然有限だ。それにこれほどの規模の魔法を連続使用し続けているのであれば、その消耗も速いはず。


 自分が勝ると、信じることはできる。


 確かに分の悪い賭けだろう。自分はこの戦場まで、『異能』者の身体能力を使って走ってきたし、先程ジュウとの死闘を終えたばかりだ。いかに『姓無』で最強の強靭な心身を持つコウとはいえ、魂の消費だけでなく、精神的な疲労も体を蝕みつつある。それに対して、相手はこの攻撃を放つまでゆっくりと力を蓄えていたのだ。


 形勢は、悪い。


 だが。


 (可能性は、ゼロやないんや。)


 コウは、そのゼロでは無い可能性を信じ、無謀な突進を繰り返した。


 はい、やっぱり一話では終わりませんでしたので、後一話で。あとはもう最後の大トリを待っていたあの方々が見せ場を作って終わりなので、然程時間もかけずに書きあがるかなあ、と思っています(あれ?これってフラグ?)。

 思えばもうすぐ一周年ですね。自分のような適当人間が、一年間もこの作品を書き続けることができるのも、一重に読者の皆さんのおかげですね。これからもよろしくお願いします。


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