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第三話

 この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。


 追記5月25日 誤字修正、改訂


 まあ、立ち上がったところですることなんてこんなもんだがな。


 「はあー。」


 溜息をつく俺の前には、焚き火。

 時期的に (まあ、この世界に季節があるなら、だが、)秋から冬の間くらいなのだろう、夜の闇が深まるにつれてかなり寒気がしたので急ごしらえで作ったのだ。

 辺りから枯れ枝や枯れ草 (幸いそこそこの背丈の草が無い訳では無かった)を集めて、一際太めの石棒 (何かの武器かな?)を使って火種を起こして作ったのだ。そこはサバイバル経験者だし、ポケットの残り滓が着火に使いやすいとか無駄知識もあるので、久しぶりとはいえ手慣れた時間で火を起こせたように思う。


 「はあー。」


 体を縮こまらせて、手の平を擦り合わせる。

 一晩くらいは持つ量の枯れ草を集めたつもりだが、もしかしたらもっと火の勢いを強める必要が生じるかもしれない。そうなったら再び極寒の中の採集作業だ。火がある分トーチにすれば探しやすくはなるだろうが、体を休めることは出来なくなる。


 最も。


 「流石に…堪えるなあ………。」


 薪代わりの枯れ枝を火に焼べながら、独り言 (にしては大きいと俺も自覚している台詞)を呟く。


 ここで火を起こした理由は三つ。


 一つは当然、暖を取るため。気がついた時はもう夜だったのだが、気温の低さから直感的に所謂「寝たら死ぬ」感を感じた為、急ぎ準備をしたのだ。

 二つ目は、この世界の植生を見るため。 ―― 要するに、この世界が、俺の元々いた世界とどれだけ違うのかを判断したかったのだ。ああ、ちなみに自分で言ってて悲しくなるが、俺はどうやらこの世界を異世界だともうナチュラルに受け入れちゃったらしい。うん、自分でも驚きの適応力だな。特に嬉しくも無いが。


 この二つは、まあ上手くいったと言っていいだろう。死なない程度に暖は取れているし、植生もなんとなく把握できた。いくらか見た事の無い植物はあったものの、元の世界と同様の植物も多数、というかほとんどが見た事あるものだった。

 ……ついでに言えば保険としていくつか食える野草も確認しといた。まあ二、三日は大丈夫だが、飢餓の危機になれば食うのに吝かでは無い。


 そして、三つ目。


 誰か、人が来ないかと。


 もしかしたら、サイが脱出して来るんじゃないか無いかと、ほんの少しの期待をしたのだ。いや、自分でも分かっているが、結構期待してた。あの超人幼馴染なら、あの状況でも一人で脱出できたんじゃないかと。

 もしそうなら、俺を探しているはず…と考えるのもなんか自意識過剰で嫌なのだが、その時に自分の居場所を知らせるように、と思っての焚き火の煙を上げたのだ。


 …結果。


 「誰も来ねえよな……。」


 今度もやや大きめの独り言を呟く。

 サイが、来ない。

 それはつまり、何か、『在り得ないモノ』があったという事に他ならない。何か、元の世界では存在しないモノや力が無ければ、あのサイが逃げ切れないはずがないのだから。


 「どうすっかな……。」


 今度は若干弱めに呟く。


 ああ…。


 まじで、異世界かよ……。


 そんなのは、夢や本の中だけだと思っていた。

 それが、今は現実。いやまあ、長い夢だという可能性も無きにしも非ずだ。


 だがまあ。


 「≪常に最悪を考えて行動しろ≫。だったな…。」


 ―――そうすればサイアクの場合でも対処出来るでしょ。サイアクじゃなきゃあ笑い飛ばせばいいのよ。


 サイの声が頭の中に響く。


 うん、心の底から俺は洗脳されちまっているらしいな。


 「やったろうじゃねえかよ……。」


 燈赤色に輝く炎に向かい、強く頷く。心なしかコイツも頷いたような揺れ方しやがった。


 まずは。


 ―――もっと情報を得て、態勢を立て直すべきなの。



 ジャリッ。


 瞬間、後ろからの足音が響いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 闇の中に、真紅の輝き。

 唐突にその闇が、炎の灯に切り払われる。

 何の前触れも無く灯った四本の柱の灯の中、玉座の横に・・佇む、黒い魔女。

 真紅の輝き ―― 人型のそれがその前に跪く。


 「残留者の洗脳、滞り無く完了致しました。」


 真紅 ―― 真紅の鎧を纏った男が、平伏したまま告げる。


 「そう。…何人くらい、役立ちそう・・・・・?」


 魔女が、玉座の背を撫でながら無表情に問いかける。その顔には、サイやマナコの前に立ち塞がった時の微笑は影さえ見られない。強いて言えば、哀切。無表情の下に隠れた、抑えられない物悲しさ。


 「恐らく、50人ほどかと。」

 「…そう。大体10分の1ね。『開いた』者を厳選して召喚したのに、上手くいかないものね…。」


 無表情が、少しだけ残念そうな顔になる。ただ、それさえも仮面。

 真紅の男は、あえてそれを見ないようにするかのように顔を下に向け続ける。


 「……脱出者は、10人には満たないかと。ただ、恐らく全員が『開いた』者です。」

 「…そう。なるべく早めに、捕まえて頂戴ね。」


 真紅の男は、無言で頭を下げる。


 「…後の残りは、如何致しましょう?」

 「適当に外の国達に向けて攻めさせて頂戴。打撃さえ与えられればいいから、指揮官もいらないわ。」

 「御意。」


 やはり、真紅の男は、頭を上げようとはしない。魔女の悲しげな顔を見ることを拒むように。


 それをしばらく無言で見つめた後。

 魔女は、本題を切り出した。


 「あの女の子は、どう?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「……。」

 「……。」


 沈黙。

 おい、なんか喋れよ。それとも、俺?俺から話しかける感じ?無理無理無理。だってさ。


 全身黒一色だよこいつ。文字通り黒尽くめの男だよ。


 「……。」

 「……。」


 季節に合わせた黒のロングコートの下は、シンプルな黒の上下。上のセーターの様な服は襟が高く、ニット帽と相まって殆ど顔が見えない。極めつけには黒革の手袋までしているせいで、素肌の露出が異常なほど少ない。


 結論。


 どう考えても危険人物だろこいつ。


 ただ。


 「貴様の、その服装。飛ばされた・・・・・者か?」


 丁度その時、こいつも、この不審者100%ファッションの長身の男は、俺と同じ結論に達したらしい。そう、おかしな、とはいえ、なじみのある服装。


 こいつは、俺と同じ、元の世界から飛ばされて来た者だ、ということだ。


 「……。」

 「……。」

 「……とりあえず座れよ。」

 「……いや、構わん。」


 座ったまま声をかけたが、良かったんだろうか。相手が立ったままだから、と自分が立ち上がる事は無い。何でそこまでしなきゃならんのだ、的な。

 ああ、あとタメ口でいいんかな、と一瞬迷ったが、相手も然程気にした様では無かったからいいんだろう。いや、人間付き合いの基本ですからね、敬語。


 「……情報を、交換し合おう。」

 「そりゃまあ願ったりだが……大したことは知らないぞ?まだココに来て一日も経ってないのに。」

 「……それは、こちらもだ。」


 ぶっきらぼうではあるが、なかなか分かりやすい性格だ。実利的、合理的。まあ、俺は嫌いではないタイプだ。なぜならまあ、自分もそういう面がかなり強いからだろう。ちなみに付け加えれば、サイにとっては大っ嫌いなタイプだ。何度それで殴られたことか。


 「その前に。貴様は、『姓無』を知っているか?」

 「…いきなり「貴様」かよ。まぁいいが…セイナシ?知らんよ。」

 「そうか。ならばいい。」


 そう言って、僅かに頷いた、様に見えた。目元も口元も見えないので、ハッキリ言って推測するしかないのだが。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 二人は、焚き火の赤い光を挟んで座っていた。

 しばらくは立ち続けていた、黒尽くめの男も、話が想像以上に長引いたのか、少しした後に一言断ってゆっくりと腰を下ろした。


 ちなみにその時の動きがやや不自然であった事、そして立ったまま話を聞いていた時、彼が動かなかった、文字通り微動だにしなかった事に気付けるほど、マナコは洞察力に優れてはいなかったのだが。


 「ふむ…。ここは、異世界。赤い男と、黒い魔女。」


 マナコが話したのは、星空、植生からこの世界が異世界と思われる事。周囲の人間の発狂、そして脱出時に遭遇した二人の事。

 自分の『左眼』の事や、サイの事は、省いた。若干の恥ずかしさもあったし、気味悪いだろうと思ったからだったが、『左眼』剥き出しの今の状態でその配慮にどれだけの意味があったのかは分からないが。


 そう、彼の『左眼』は今、剥き出しになっている。走って逃げた後、ふと気が付いたらポケットに入れておいた眼帯が無かったのだ。予備の眼帯を持ち歩くほど用意周到ではないマナコは、現在その異形の眼を炎の灯に晒している。


 「…では、次は私の考察だ。私が推測できるのは、この世界に召喚された理由。これを話すに当たり、神映司、君に確認しておこう。君は、何か、人には無い特別な力を持っているのではないか?」


 ピク、とマナコの肩が震える。人間、自分の秘密を唐突に言い当てられた時にそうそう平静を保つことは出来ないものだ。その反応だけで納得した男は、話を続ける。


 「やはり、そうか。いや、その内容までは聞かん。自分の戦闘手段を不用意に話すのは嫌だろうからな。恐らくこの世界に呼ばれたのは、そういった特殊な力、異形の才能、人外の異能を持つ者たちだ。ただ、全員ではない。恐らく全体の一割強と言ったところだろう。」

 「特殊な力、と、異形の才能…。」


 自分と、幼馴染のことを思い浮かべ、顔を顰める。平和と安寧を望む非戦闘民族の彼としては、はた迷惑もいいところだろう。


 「それらを選んで召喚している。ここから考えられるのは、我々を召喚したものは、我々に何かをさせよう、あるいは我々を使って何かをしようとしている、ということだ。加えて、君の話から推測するに、頭を下げてお願い、という訳ではあるまい。恐らく催眠、あるいはそれに近い何かで強制支配だろう。」


 催眠、強制支配、という言葉が、マナコの心に突き刺さる。狂い、叫んだ男の顔が思い浮かび、それがサイの顔と重なった瞬間、知らずに強く頭を振っていた。


 「ふむ。私が持っている情報は、このくらいだな。」

 「……あんた、これから、どうするんだ?」

 「……ふむ。直ぐにあの城に戻る。」

 「……何故?」

 「理由は、二つ。一つは、俺の仮説が正しければ、あそこに俺の…家族・・が、囚われている。コウやシンならば抜け出しているかもしれないが…。サッチやチユは捕まっている可能性が高い。家族が囚われている以上、全力で助け出す。それが『姓無』の、唯一の約束だ。」

 「……セイナシ、ってのは、あんたの名字なのか?」

 「……ああ。そうだ。そうなんだ。『姓無』は、家族になった者たちの集団だ。」

 「……そうか。≪約束は守る≫べきだしな…。」

 「……。そして二つ目。私は、ここに来る以前の元の世界で、ある組織と戦闘状態だった。相手はかなりの体術の使い手だったし、銃器の扱いにも長けていた。異能者がいたなら、恐らくここにも来ているだろう。そいつらを、全員殺す。」

 「!!!」


 マナコが驚いたのは、殺す、という言葉だから、ではない。


 そう言ったこの男の顔に、何の表情の変化も見当たらなかったからだ。

 憎悪も、悲哀も、殺意さえも。


 あったのは、決意。

 一つ目、家族を助けるといった時と全く同じ、強い意志だけ。


 「…ああ。君は、『姓無』を知らない、表の世界の人間だったのだな。私は、『姓無』の、長男にあたる。まあ、自称だがな。私の役目は、『姓無』を脅かす者を、塵も残さず殲滅する事。襲い来る者たちを恐れさせ、刃向かう心を圧し折る。それが『姓無の剣』たる、私 ―― ゼツの役目だから。」

 「……。」


 マナコは、何も言えなかった。

 その男 ―― ゼツの表情が、本物だったから。彼がそのようにして生きてきた事、そのようにしてしか生きられない事が、分かってしまったから。

 そうやってしか生きていけない人に、「それは悪い事です、やめましょう」と言えるだろうか?


 ―――本当は、言うべきなんだろうな。

 ―――どんな理由があれ、人殺しなどは悪だと。


 でも、言えなかった。

 ゼツの迫力に押されたからか、他の何かの所為かは、マナコ自信にも分からなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「あの女は、現在治療中です。火傷が酷いですが、数週間で完治だそうです。」

 「ああ、『ドクター・エメル』にはもう連絡してあるのね。なら、助かるわ、ダイヤ。」


 ダイヤ、と呼ばれた真紅の男が、無言での礼をする。

 それを満足げに見つめ、黒衣の魔女が、うっとりと呟く。


 「ああ…、あの身体能力、あの知恵、あの勇気……。本当に、『あの方』に、あの方の魂に、そっくりね…。ああ、早く、あの女の子を、見てみたい……。」


 陶酔状態のまま遠くを見つめる魔女。

 それを、見るのも畏れ多いとばかりに、あるいは見たくないとでも言うように顔を伏せるダイヤ。


 「……不必要者達は、召喚した部屋別に大隊に分けて、搬出口に待機させます。その後、お手数ですが女皇の御力で、奴等に指示を。」

 「ええ。分かったわ。指示は簡単。『敵を滅せよ』。あとは、私は『研究』に戻るから。捕まえた『開いた者』を連れて来るよう、サファに伝えておいて。」


 言うべき事は全て言いきった、というように、ダイヤに背を向ける。

 ダイヤはそこで初めて一瞬だけ顔を上げ、再び恭しく礼をする。


 最後の一言と共に。


 「承知いたしました。『操心女皇』。」



 さて、第三話です。いつになったら熱い展開になるんでしょうね。ハッキリ言ってもチョイ先になる予定です (泣)

 連載小説の基本として、一話に一か所は盛り上がりどころを入れる、というのがあると思うのですが、それが出来てる偉大なる先人の皆様にはただただ感服するばかりです。ああ、私にもその才能が欲しい (笑)

 次もまあ、早めにうpを……。

 もしこんな駄作を見てくださっている方がいらっしゃるなら、ご意見、ご感想、ご指摘をお願いします!あ、SF考証はもう少し待ってくださいね。

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