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第十二話

 この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。あと、今回は少しグロいかもです。読む際はお気をつけください。

 轟音に巻き込まれた兵士の一人は、何が起こったのか理解する暇も無く絶命した。

 革製の鎧など…いや、例え魔鉱で作られていた屈強な鎧を纏っていたとしても、その一撃を耐えることなど出来はしなかっただろう。


 『姓無』の戦闘部隊の一人、ジュウ。

 その司る『異能』は、『超重』。重量を変化し、ある時は軽く跳ね、ある時は重く押しつぶす。純粋な戦闘向きの異能の持ち主。


 当然、その動きも異能者のそれだけあって、単なる兵士とは一線を画する。


 そして何より。


 「はははっはっはっはっははっはっはっはは!!!死ね、死ねええぇっ!!!俺が、俺が、全部殺す!!!殺して、殺して、は、ははっははっは!!!!!!」


 抑えに抑えた『殺人衝動』の爆発。

 その剥き出しの殺意は、戦場で日常的にそれをぶつけられる兵士たちとて、耐えられる限界を大きく超えていた。周囲の兵士が、まるで金縛りにでもあったようにその身を強張らせる。


 「は、ははぁ…、殺す…これだぁ……この感触、久しぶりだァ…!」


 クレーターの様に抉れたその中心が、徐々に土煙が晴れて明らかになっていく。そこに居るのは、一人の殺人鬼と、一体の人間だったモノ。首から上を踏みつけられたそれは、『超重』と相まって頭を切り取った人形のようだった。


 「…もっとぉ、もっとだあ……っ。」


 それを、無造作に殺人鬼は引っ掴む。どくどくと噴き出す血を、既に散らばった脳漿をまるで意に介さずに首根っこを片手で持ち上げる。ぶらりと揺れるその手足には興味を示さず、その胴体を、左腕で突き刺す。


 溢れ出す鮮血。毀れ落ちる内臓。砕ける骨。


 「イイ…ぅすげぇ……。」


 狂気の振舞い。

 そのまま、何度も何度も人形を甚振る。そのたびに、快感にうち震えるように痙攣する殺人鬼。異常で、異様で、異形な振舞い。


 ひとしきりの遊び・・の後、殺人鬼はもう原型を留めないその人形に飽きて放り出した。そして、周囲を這いずる獲物達を、じっくりと舐めるように見つめる。


 新たな遊び道具を探して。


 動き出した殺人鬼に、兵士達が悲鳴を上げ。

 戦場は、地獄と化した。





 「……オオオっ!!!」


 殺人鬼の暴走を食い止めたのは、エンラだった。ギリギリで「押しつぶされた空間」から跳び退ることができた彼が、連続して放った『熱線系』と『雷撃系』が現れた影を捕えた。

 手応えは、あった。幾分かのダメージは与えたようだが、その素早い回避は先の巨人の様に簡単にはいかないことを物語っていた。


 エンラは、この段階で既に相手の異能をある程度見抜いていた。


 大きく抉れた地面。

 簡単に砕けた人間の頭。


 恐らくは、自分の重量を変化させ、それを武器として用いる異能。ならば相手は接近戦のエキスパート。近づけず、なるべく遠距離攻撃で戦えば、自分に勝機はある。いや、ここでは自分にしか勝機はないだろう。魔道兵団はかなり動揺しているし、前線は完全に混乱しきっている。なにより、彼らに異能者相手に距離を取り続ける体力が有るとは思えない。


 「……くっ。」


 直ぐに此方に突っ込んでくるかと思ったが、相手は攻撃を仕掛ける自分よりも周囲に倒れ伏す者達を狙うことにした様だった。快楽犯の思考、というよりも、快楽犯を超えた、とち狂った人間の思考だ。


 「……こっちだ化物っ!」


 しきりに射撃を連発するものの、もう見切られてしまったのか、この距離では当てることが出来ない。動けない者を嬲り殺しながら、完全な見切りで此方の攻撃を避け続ける。このままでは陽動の役目を果たせない。


 (……かといって、あの中・・・に入るのも…。)


 だが近づけば、重さの操作だけでは分からない、得体の知れない、周囲の者達が動けなくなった空間へと突入する事になる。今、自分が突入しても良いのか。いやしかし、このままでは空間内での倒れている仲間は全員が死ぬだろう。快楽殺人者が、むざむざ獲物を見逃すとは思えない。


 「迷っておっても仕方ないじゃろうっ!余がいくぞよ!」

 「……っ!」


 そんなエンラの葛藤を打ち破ったのは、背後から駆抜ける大型獣の足音と飛来する弓矢、そして力強い言葉。異変を察知して全力で駆け抜けてきたグリンとグレンが、そのまま迷うことなく殺人鬼へと突進する。


 「……むうっ!?」

 「…グルルっ!」


 その空間に入った瞬間に、違和感に表情が歪む。そして、飛来していた弓矢が殺人鬼に刺さらず・・・・、地面へと吸い寄せられるように突き刺さる。グリンが、まるで見えない手に抑えつけらるかのようにグレンの上に伏せる。


 そして。


 「っ、はは、はははははっははっははあはっははっ!!!」

 「グルルアッ!?」


 グレンの突進が、受け止められた。片手で、その牛ほどもあろうかという巨体が大きく仰け反る。あの棍棒を操っていた大男さえ多少は押していたのに、この殺人鬼はまるで地面に根でも張ったかのように、微塵も動かない。


 「ひ、ひひっひ、ひひひ、はははっ!死ねっ!」

 「っ、グレン!」


 振りかぶった殺人鬼の拳に、その殺気に、グリンが叫び。

 それに反応してグレンが跳び退る。


 が、その距離が、いつもより短い。


 打ち下ろしで弾けた地面が強かにその体を打ち据え、グリンの体にいくつもの痣を作る。

 グレンは先の突進を受け止められたのがだいぶ堪えたようで、しきりに頭を振って意識をはっきりさせようとしているようだ。その額の毛には、血が滲んでいる。


 そのまま更に跳び退って、相手の空間から退避する。


 「っ、くぅ…、エンラ、アレは何じゃ。近づいた瞬間、急に体が重く、息が苦しくなりおった。グレンの突進、まるで動かぬ壁にでもぶつかったかの様じゃったぞ。」

 「……恐らく、重さを操る『異能』。自分自身の重量を操作して移動時は軽く、攻撃・防御時は重くしている。」

 「周りの空間は?」

 「……推測だが、周囲の空気を重くしているのだろう。鍛えていない者は、立ってすらいられず、弓などはその重さで地面へと落ちてしまう。」

 「対策は?」

 「……くっ。」


 エンラが唇を噛む。それだけで、グリンは全てを察した。若者が悩む姿は、普段なら笑って見守ってやるところだが、この時ばかりはそうは言っていられない。


 「考えい!余が時間を稼ぐ!」

 「……っ、どうやって、」

 「グリン!」


 気合の一声で、グリンが再びその「重い空間」に飛び込んでいく。だがそれは、敵に向かってはいない。重さに倒れ伏す仲間の体を咥えて、空間の外へと放り出す。その間、グリンは必死に矢を引き絞り、威嚇しようと敵に射かける。


 「今度は、余の命をお主に預けるぞえ!」


 勝ち目のないと知りつつ、緑の影が必死に殺人鬼の周りを駆けぬけた。


 空は、徐々に、徐々に重さと暗さを増してきていた。





 『左眼』が、ドクリと脈打った。

 エスナの手伝いで使い続けたせいかと思った。いや、思いたかった。でも、俺は知っている。この感覚がそんな生易しいものでは無いことを。


 「…エスナ。」

 「へっ?な、なんです?マナコさん。」

 「ちょっと。」


 思っていた以上にドスの効いた声が出てしまって、エスナの顔が一気に緊張する。ちょっとかわいそうになったが、この予感を…悪い予感を考えれば、集中してもらうことは、悪くはないだろう。


 手つきで注意を促して、ゆっくりと顔を扉へと向ける。


 ゆっくりと、その『左眼』の眼帯を外す。俺の出来すぎたその『異能』が、扉を簡単に透視してその先を見つめる。そこに見える、三人の影。駆け足のその動きは、彼女らが相当に焦っている事を教えてくれる。


 俺がそれ以上の情報を得る前に、観音開きの木扉が開け放たれ。


 「マナコさんっ!アーロさんが、至急お話しがって、」

 「コウ、もう、戦場に向かった。」


 影の二つ…無表情の中にほんの少しの焦りを宿したサッチと、急ぎを示しつつも落ち着きを保っているチユの、二人の『姓無』が、やや慌てた口調でまくし立て。


 「っ、離れろ二人ともっ!!!」


 俺の絶叫が響いて。

 二人に挟まれた女の、帽子の下に隠れた目と、形のいい口がほんの少しだけ笑って。

 『姓無』二人が、ポカンと口を開け。


 「やめろサイ・・っ!!!」


 無造作に突き出された貫手が、二人の腹部を貫いた。


 「え…?」

 「あ……」


 貫かれた二人が、茫然とその腕を見つめる。ズルリ、と腕が抜き出され、空いた穴から血が噴き出した。サッチが、腕に縋る様に倒れ。チユが、力無く横倒れに崩れ落ちる。


 「きっ、きゃああああああああああああああああああっ!!!」


 そこでようやく、エスナの悲鳴が聞こえた。だが、俺はもうそんなもん聞いちゃいなかった。その時には既にエスナを片手で横抱きに抱えて駆け出し、女の…久しぶりに会う幼馴染の横、斜め下へと一呼吸で滑りこんだ。


 「おおおっ!!!」


 放つのは、首を狙った回し蹴り。しかし、完全に読まれた。当然だ。相手の視界の外ギリギリに入り込んでの意識を刈り取る一撃。俺の得意技。そして、幼馴染との特訓の日々で培った技。


 だが、何もこの一撃で勝負が付くなどとは、俺も思っていない。

 サイは、俺と…正確には、この『左眼』を使った俺と手合わせするのは、初めてだ。


 だから、俺の攻撃の威力を甘く見るはず。


 「おおっ!?」


 予想通り、完全なガードの上からだったにも関わらず俺の一撃はサイを大きく吹き飛ばした。だけどおいおい、軽く五メートルは跳んだのに、体勢を崩さずに着地しやがった。連撃を入れる隙は無い。


 (あの、思った以上の吹っ飛び。くそっ、自分から跳んで逃げたか?)


 この一撃で、何のダメージも無いのは、正直痛い。

 甘く見てくれるのは、恐らく最初の一撃だけだろうに、それを無駄にしちまった。


 「ま、マナコさん、あ、ああ、ああっ、あ、」

 「落ち着けエスナ。『左眼』で見たが、二人とも急所は外れてる。ちゃんと治療すれば、大丈夫だ。ここは俺が抑えるから、『治癒』に専念してくれ。」

 「あ、あ、っ。は、はいっ!」


 真っ青になって唇を戦慄かせたエスナを無理矢理に説得する。正直、こっちに気を配る余裕はまず無い。そしてもっと言うなら、こっちに気を配る必要はない。


 コイツ、わざと急所外しやがった。


 ゆっくりと立ち上がって、向かい合う。

 その目線の先で、サイが目元を隠していた帽子を投げ捨てた。


 「すごいすごい!目元は隠したし、声もきちんと真似たのにっ!この鎧とか派手だし、絶対ばれないと思ったよ!」

 「……バーカ。俺が、サイのこと、見間違える訳ないだろ。」

 「あはっ!照れるね、そんなこと言われると。」

 「……どういうつもりだよ。」


 その笑顔も、俺を小馬鹿にする口調も、俺の記憶のまま。


 「ふふっ。ここに来た理由?アタシがナコに会いたかったから。あの子らを傷付けた理由?ナコと二人になりたかったから。それとも、アタシがわざと・・・急所を外した理由?」


 その記憶のままで、歪な声が響く。


 「初めての相手は、ナコが良かったから。初めて殺すのは、ナコにしたかったから。」


 こみ上げる吐き気に、湧き上がる怒りに、俺の視界が歪んだ。





 (遅かったんやな…。)


 辿りついた戦場で、コウは肩を落とした。街から戦場へ一直線に駆け抜けて来て後方の治療部隊のもとに合流したとき、コウは否応なくそれを実感した。無数の負傷兵。苦しげに呻く彼らの、特殊な傷。


 潰れている・・・・・のだ。


 手が、足が、まるで象にでも踏まれた様に、プレスマシンに圧縮された様に、潰されている。あれではもう、例え『治癒』の異能でも元通りの再生は不可能だろう。命は助かったとしても、潰れた手足をまた生やすことは、出来ない。


 (それに。生きとるモンがこれだけおるっちゅうことは…。)


 死者は、この倍を遥かに超えるだろう。

 『姓無』で最も強い殺人衝動を抱える男、ジュウ。あの男が、獲物をみすみす逃すはずがない。一度狙った者、動けなくなった者は、間違いなく殺そうとするはず。


 (……っ。間に合え、間に合ってくれよ…。)


 コウが、前線へと駆けていく。

 『姓無』の、ポイントオブノーリターン。それは、自らの『殺人衝動』が、もう一瞬も抑えることが出来なくなる時。そうなった『姓無』は、仲間も、家族すらも忘れて、全てを殺しに走る。そうなったら、もう生かしてはおけない。もし、そこまで。『姓無の終末』まで、ジュウがいってしまったのだとしたら。


 (ワイが、やらなアカンのや。)



 一気に場面が進んだ第十二話です。サイは、もっと登場を待たせてもよかったのですが、場面転換の都合上このへんでの登場に。あと数話で第二章終わるんで、「もっとこう~」とか、あればぜひ教えてください。

 他にもご評価、ご感想、ご意見等お待ちしています。


 さて、ヘタレストではやりました、キャラ考察をば。

◆大男と、狙撃手

 名前も無いこの二人ですが、いろいろ役割を持っています。エンラとグリンをうまい具合に引き立たせるための役割は勿論ですが、サイとジュウの二人の登場において、「ここで!?」という驚きを与える、というのが最も重要でした。やっぱり登場は驚かせるの大事ですね。アーロ、ガラルドの二人も、これが最初にあっての登場だったりします。

 イメージ上のモチーフは、大男の方は忍○戒のうずむしくん。狙撃手は、○魂の亀ですかね。大男、身長ってどれくらいだといいのかな。

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