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第七話

 この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。


 頭が爆発しそう。


 席について一時間。すでにエスナの頭からは煙が上がりそうな勢いだった。目線だけで周囲を見回すと、既に思考がパンクして手が止まっている者や、突っ伏してしまっている者ばかりだ。教壇に立つチユの話を100%理解している者は、一人として見られない。


 (無理も、無いわよね……。)


 ここ……聖都学院は、一般的な学問を教えるのに加えて『治癒』の異能を中心に指導する神学校である。その分魔法学や実戦等は少ないが、この世界では最高レベルの人体関係知識を有する人材が育つ。

 だが、それは所詮「この世界」でだ。

 チユの側からすれば、ちょっと気の利いた中学生程度の生物知識しかないこの世界の医者や衛生兵達の方がよっぽどあり得ないのだが、事実この世界の衛生兵はそういったものなのだ。まだまだ所謂「神が人間を造った」の概念が主流の時代なのだ。体の内部構造や再生機構の知識が浅いのも無理も無い。


 だが、これを知らないではどうにもならない。

 あまり自分がこの世界に長々と留まれるとは思っていないチユは、元の世界の医学生でも悲鳴を上げるようなハイペースでの授業を展開していた。


 結果。


 誰も授業についてこれず、バイトの板書速記の少年が、意味も分からずに描かれる文字の羅列を映し続けているだけ、という惨状が展開される。まあ元来教育などとは無縁なチユも、それを特に意識する事が無かったのも原因と言えば原因だろう。


 そんな中。


 分からないのを必死に考えながら、エスナは食い入るように前を見つめ続けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ああ、なるほどちくしょー。


 「なんだよ。」

 「いやあ、すごい言い草だね。」

 「別に来たくてきたわけじゃない。」


 なんか良く分からんセレモニー(なんか賞金もらうにはでにゃならんかった)があった後、騎士団の勧誘やら流派の質問やら傭兵団の紹介やらで疲れ果て、それでも日が暮れたころに宿舎に帰った俺らを迎えたのは、昼間にあったばかりの顔×2だった。


 「なら来んなよ!」

 「いやあ、容赦のないツッコミ。やっぱりこういうキャラだったんですね。」

 「マナよ、お客人の前で見苦しいぞよ。此方のお二人は、余らの借り受けておる宿舎の本来の持ち主、真っ先にこちらから会いに行くのが礼儀である所をわざわざ出向いてくださっておるのじゃ。失礼はいかん。」


 見た目小学生のロリガキの注意。

 いや、なんだその上から目線。なんでお前の方が俺よりはるかに偉そうなんだよ。いや年齢差とか認めんよその外見で。そしてなんで殺人鬼共交えて優雅にお茶してんだよ。


 って、なんだって?持ち主…


 「ってええぇっ!!?」

 「ん?あんさん知らんかったんか?この二人は、ここの都の騎士団の隊長さん方なんやで。ここの宿舎は傭兵や独り者の騎士達が主につかっとる。そんでもって、ワイは傭兵として雇ってもらう代わりに、この部屋を貸してもらっとるんや。んで、その借りている部屋をあんさんらに又貸ししとるっちゅーわけや。まあ、二人の強さは実際戦ったんならいうまでもないやろ?文句なし一流やでぇ!」

 「お世辞は結構だ。前々回のコロシアム、貴公に私は傷一つ付けられなかった。」


 飄々として説明したいのか馬鹿にしたいのか分からんコウの口調に苦い声で返事を返すのは、コロシアム決勝で戦った弓女。聞けばコウの出場した前々回コロシアムのソロ戦闘、文字通り「圧勝」だったそうだ。傭兵なんてしてるのは、その腕を買われて、らしい。


 この弓女が、隊長、ねえ。

 戦闘中にはフードで顔は分からなかったが、隊長と言うには若いんではないだろうか。おそらくいって30代。多分20代後半って感じの雰囲気だが、つりあがったキツイ目つきには年相応の落ち着きはなさそうだ。この年代の女性に言ってはならない禁断のあのワードは、言うべきでは無いな。


 そういえば、あの時はフードで顔を隠していたのは、そういう事情ね…と納得する。まあ、要するに汚い話だが、賞金とかが出過ぎ・・・ないように、こういう奴を出場させて内輪で処理してるって事だろう。


 ってことは。


 「悪かったな。そっちの事情も知らずに、勝っちまって。」

 「っ…貴公らはどうも我々をよっぽど怒らせたいようだな。」

 「いやあ、負けたことは我々の責任ですから。そちらさんに悪いことなんて何にも無いですよ。まあ、しばらく彼女の部下たちが八当りの特訓で呻いていましたが。」

 「っ、う、うるさいっ!」


 弓女が、顔を真っ赤にして薙刀男の首を絞める。いい年こいたオバ…失礼、お姉さんにしては感情豊かというか何と言うか。予想通りに落ち着きは無い。


 対して、首を絞められている男の方は、流石の余裕があった。

 戦っている時は30前かと思っていたが、こうして見るもう40代に近いだろう。その細身の体は衰えを感じさせないが、何処となく威厳のある様に見える顔は、まさに隊長、って感じだ。剃り残しなのか狙ってなのか分からない無精髭が顎を飾るが、それが似合って見えるくらいにはナイスミドルだ。


 「ああ、自己紹介がまだでしたね。自分の名はガラルド。この聖都の騎士団のうち、重装騎兵部隊の総隊長を務めるものです。今回は、コウ殿の時と同様に、あなた方の実力を見込んでしばらく傭兵団に加わっていただきたくお願いに参った次第です。そして…」

 「自己紹介くらい自分で出来る。私はアーロ。弓兵部隊の総隊長だ。」


 弓女…アーロを振りほどいて威厳を持ち直した薙刀男…ガラルドの誘い。


 まあ、正直、受けてもいい。仕事があるならそれに越したことは無い。

 だが、俺の中の直感……例の幼馴染のせいで異常に鋭くなった、ヤバイことセンサーが如実に反応する点が、一つだけある。


 それだけは、確認しておきたい。


 「…なんでそんなに傭兵を集めてんだ?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「……流石、勘が鋭いですね。」


 ガラルドが呟く。


 傭兵の給料というのは、世間一般…少なくともこの世界では、決して高給ではない。家族 (いれば、の話だが)が食っていくには問題ないくらいには儲かるが、十分に贅沢が出来るほどではない。


 一般では。


 この聖都は、常備騎士団という形で戦力を有しているが、その数はさして多いわけではない。他の国々での自主的な自警団とは違って給金を払っている為、膨大な人数を維持する事ができないのだ。その為、有事の際の戦力を補うための傭兵団には、他の国と比べてかなり割高な金額を払っている。もっと言えば、コロシアム自体が流れ者の傭兵団を街に留めるための役割を担うために存在する。


 たいていの者はその事実を知っているため、この街で傭兵となることには、ベテランでも…いや、安い給金になれたベテランほど、一も二も無く頷く。


 ……それが「有事」である、という事を、対して意識もせずに。


 「……いやあ、仰るとおりです。今現在、我が聖都は少々緊迫した状態でして。この国の国王にして、『医療部隊』の長、マリア聖下はこの国を離れていますが、これが好都合と言える状況なのです。」

 「国王不在が、有事に、好都合、ねえ。なんだよそれもう夜逃げの段階じゃねーか。」

 「……状況を、詳しく。」


 早合点して投げ遣りなマナコとは対照的に話に割り込んできたのは、鍛えられた大柄な体をした青年…エンラ。コロシアム戦での射抜くような鋭い視線のままに、ガラルドとアーロを見やる。


 エンラはマナコとはこの世界に関する知識量が違う。特に彼はこの世界では最高峰の教育機関である「学舎」の出身だ。彼自身は戦闘中心の教育を受けるクラスに属しているものの、それでもかなりの状況が分かっている。


 「いやあ、最近はスパイや斥候が多いのですよ。耐寒装備の整い具合として、恐らくは…」

 「……『白銀の国』、か…。」

 「ええ。もし攻めてくるつもりとしたら、聖都の騎士団だけでは到底及びません。かなりの数、そして質の傭兵を雇う必要があるのですよ。」


 白銀の国。


 マナコとエンラの目が、厳しくなる。当然と言えば当然だ。数百の軍勢、そして『灼熱地獄』との死闘は、まだまだ記憶に新しい。マナコの左眼…眼帯に隠れた目が、疼くような痛みを放つ。


 「んで、そいつがなんで国王の不在のメリットになるんだ?一応『治癒』の異能者なんだろ?俺はエスナしかしらねーが、アイツみたいな力の持ち主がいるなら、多いに越したことはないんじゃねーか。」


 マナコのもっともな指摘に、ガラルドが頷く。確かに『治癒』の異能者一人いれば、一人の戦士が即座に何度も回復、戦線復帰出来るのだ。事実、聖都の『治療部隊』の参加した討伐隊の戦力は、元の兵数の4~5倍に相当するとの評価すら受けているのだ。


 だが、


 「問題は『白銀の国』の目的です。この国は取り立てて有名な産業を持たぬ国ですから、敵の狙いは恐らく人的資源…即ち『医療部隊』そのものと考えられます。つまり敵の戦法としては、我が国の騎士団に壊滅的な打撃を与えた後に国王と交渉、『医療部隊』や国を支配下に置く…という線と考えられるのですよ。」

 「責任者たる国王がいなけりゃ交渉の仕様がない。攻め込むタイミングとしては向いていない、という訳じゃな。」

 「ええ。国王の帰還は一月ほど先になる予定です。それまでには迎撃態勢は整うでしょう。その際に皆さんに協力していただきたい、というわけですよ。他にこの国には特殊な『異能』持ちもいませんし、攻めてくるのはまだまだ先でしょう。」


 ガラルドは柔和な笑みを浮かべて皆を見やる…が、マナコ達の顔は、酷く強張っていた。


 「ど、どうしたのだ…?な、何か、気になることでも…?」


 3人の凍りつき様に、ただならぬ気配を感じたアーロが、恐る恐る、口を開く。

 応えたのは、グリン。


 「余は…、いや、余らは、その…、侵攻される理由に。心当たりがある。やも、しれん。」


 とぎれとぎれの、要領を得ない説明。

 聖都の隊長二人が、きょとんとした表情を作る中。


 気まずさと居心地の悪さを足して更に倍にしたような表情で、マナコがその手を上げた。



 意表をついての昼間更新。休日やっほう。


 やはり、日常会話に難有りですね。もっともっと経験を積まなければ。といっても自己体験ではなく本やマンガから得るのが主ですが。今回は、説明的なパートになり、次回は決戦前夜的な乗りかと。


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