第六話
この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。
コロシアム、決勝戦。
「うおっ!!?」
前衛の大薙刀使いと切り結びながら、ほんの一瞬の間隙に襲いかかってきた矢を、間一髪で弾き飛ばす。死角の無い『左眼』が無ければまず回避不可能な、見事な連携。
順調に勝ち進んだエンラ・マナコの二人だが、そこは列島に名を馳せる『コロシアム』。賞金が出せるほどのスポンサーの多いこの大会は、初参加の若造二人が主戦力を温存して勝てるほど、甘くは無い。
決勝の相手の二人は、目深にかぶった兜のせいで顔は見えないが、まだ三十前だろうという若さの男女。そのうちの一人、男の方が猛然とマナコとエンラに斬りかかる。薙刀という、ナイフや剣よりも間合いの広く距離のとりづらい、何よりも剣や槍に比べて使い手の少ないために対策の分からない武器を自在に操り、二人の動きを制限する。
広い間合いは懐に隙が生じやすい。長い柄のため、ナイフや拳打の距離ような接近戦では、反応が遅れざるを得ない。
それが分かっているため、マナコもエンラも一気に距離を詰めるべく二人がかりで即席とは言えなかなかのコンビネーションで飛び掛かる。
だが、あと一歩、という位置で、
「……くっ!」「うおっ!」
再び襲いかかった数本の矢に、急減速を余儀なくされる。
薙刀使いに隠れるように死角から攻撃を仕掛ける、相手の弓使い。流行りなのか趣味なのか、こっちも顔を隠す目深な帽子。携えた弓からの絶妙のタイミングでの連射、同時射撃を交えてその「あと一歩」を踏み出させない。
「おいエンラっ、やっぱあの弓女を先にやっちまえよっ!」
「……無理だっ、コイツが、」
怒鳴るマナコの声にこたえようとしたエンラに、薙刀の一撃が襲いかかる。両手に宿した氷の盾でギリギリ防ぐが、この晴天の湿度ではそこまでの強度は作れず、一撃で砕かれてしまう。
薙刀の男を狙えば、視界の外からの弓矢の一撃がそれを阻む。
弓の女を狙えば、一瞬目を話したところを逃さずに薙刀が襲いかかる。
二人がそれぞれの武器の弱点を補い合う完成された連携に、徐々に二人が追い詰められていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「グリンさんは行かないんですね、コロシアム。」
「そういうエスナこそ、行かんのかのう?真っ先に走って行って、声を枯らして応援しそうな印象がそなたにはあるぞよ?」
グリンのからかいに、エスナの白い頬にほんのり朱がさす。確かに本当は今すぐにも走っていきたい。あの二人は頼りになるけど、どうにも無茶をしすぎるきらいがあるように、エスナは思う。そんな二人がいざ怪我をしたときにそれを治すのは自分の役割だし、もしその場に居なかったら、という恐怖が無いわけではない。
だが。
「この子の怪我、もう少しきちんと見ておきたかったんです。あのあと倒れたマナコさんに気を取られてしまって、ゼツさんが出て行かれるその時までこの子の治療は中途半端でしたから…。」
そういって、エスナが目の前の椅子に座る少女の髪を優しくなでる。
その顔は相変わらず無表情だが、サッチ本人は最大限の笑顔のつもりだ。ちゃんとそれは(完璧に、とまではいかないが)椅子の後ろのエスナにも伝わっているようだ。
荒縄で縛られた時の両手首の擦傷、戦闘での火傷や凍傷、囚人生活での衰弱もほとんどがきれいに治っている。初めての出会いはボロボロの状態だったし、状況が状況だったため何も感じなかったが、こうしてみるとその無表情の中に神秘的な美しさのある少女だ。
(それにしても……。)
エスナはその少女の様子に、舌を巻く思いだった。
治療が、完璧過ぎるのだ。
この世界の治療は、『治癒』の異能を除けばまだまだ前時代(こちらの世界からすれば、だが)的なものだ。傷の縫合すらやったことの無いエスナにとって、大型機械無しなら世界でも最高峰の先端医療の知識に、『治癒』の異能を組み合わせたチユの施した治療はまるで神の技の様に映ったろう。
(この短期間で。すごいんだな、「医学」って。)
そう言えば、とさっきまでのチユとの会話を思い出す。
彼女は、『治癒』の異能……自分の『魂』を触媒に、相手の体内の『魂』を活性化させて傷の治療を促す、というその仕組みを、ひたすらに聞いてきた。この世界の出身者であるエスナにとっては当たり前のように学んできた知識だったが、異世界ではそうではないらしい。この「医学」というのは、そんな『異能』が無くても人の傷を数日から数週間、骨折などさえも数カ月で治してしまうらしい。
(それ、いいなっ。)
自分の『魂』は、貧弱だ。
エスナは、それを自覚している。文献ではその強大な『魂』の出力で、数千の傷病兵をたった一人で治療したというような豪の『異能』者もいるのだ。エスナのそれは、百人も治療すればもう疲労で動けなくなってしまう。
だからこそ。
『魂』の強弱に関わらない、自分の心の強さで出来る治療が、知りたい。
聞いていた時から密かに考えていたこと。顔に出ていたからだろうか、チユそれをくみ取って貰って、にっこりと笑って行ってもらった言葉。
―――ここの「治療院」で「医学」を教えてるから、興味があったらいらっしゃいな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヤバイ。
次々と繰り出される斬撃と射撃。
てゆーかこいつらだけレベル違いすぎだろオイ!?
準決勝までは『左眼』使わなくってもわりと戦えるくらいだったじゃねえか!?こいつらになった途端に『左眼』と互角かそれ以上だぞ!
「うおっと!」
飛んできた矢を、ナイフ…殺傷性の無い様に、細い荒縄でグルグル巻きだが…で弾き飛ばす。向こうも矢じりが潰してあるため、あたっても命には関わらない。周囲に待機する医療班 (たぶんエスナと同じ『異能』の持ち主たちだろう)の存在といい、十分に安全に配慮した試合ではあるのだが、だからといってそのお世話になりたいとは思わん。
「おおうっ!!!」
間髪いれない薙刀の斬撃をしっかりと『左眼』で補足して、咄嗟に体をひねって躱す。すれすれを通る木製の刀が、耳元で嫌な風音をたてる。いくら見えると言っても、体が付いてこなければ意味は無い。
(こりゃあ、回避に専念した方がいいかっ?)
どうやら敵さんは先に俺を片付ける方針に決定したらしい。エンラには最小限の牽制だけを行い、攻撃を俺に集中させてくる。何でおれだよオイ、と思わなくも無いが、今はそんな事を言っているほどの余裕はない。
なぜなら、魔法や異能を使わないこの二人の戦闘スタイルとの相性が最悪だ。
俺のこの世界での戦闘経験は、エンラとの模擬戦がほとんどを占めている。すなわち、魔鉱のナイフで魔法を掻き消して隙を作る。他にも相手が『異能』使いなら、その徴候を『左眼』で読み取って、対処する。
こいつらの様に純粋な体術とコンビネーションで攻めてくる相手は、ハッキリ言って苦手だ。体術でまるで敵わない相手との戦いにはまあ、某幼馴染で経験があるが、コンビネーションなんて街のチンピラレベルくらいしかやったことがない。
「……!」
「くお、っ…!」
無言の気合のこもった一撃をナイフで防ぐ。刃の背に左手を添えての防御だが、遠心力のこもった重い一撃に、足が止められる。
だが、まだまだっ!
「はあぁっ!!!」
俺の隙を逃さずに殺到した矢を、突然出現した炎の壁が飲み込み、炭化させる。炎はそのまま弓使いを一気に包み、その視界を奪って援護を止める。大技を使うだけの時間を与えられたエンラが、俺と薙刀男、エンラと弓女を完全に分断する。
(俺を狙ったのは間違いだったなっ)
こころの中でほくそ笑む。いや、口には出さないよ、怖いし。まあ『異能』使いを先に片付けたいという気持ちは分からなくはないが、俺達…いわゆる「こっちの世界」での常識では、魔法使いから倒すのがセオリーだぜ。
炎の向こうにエンラが消える直前に、此方へと向けた視線が交錯する。
(わかってるよ。)
コクリと一つ頷くと、向こうも無言で首肯する。大丈夫だぜ、狙いはわかってる。
相手が弓使い、その上こっちには炎使いのエンラ。
コンビネーションを得意とする相手に、それを完全に分断する巨大な炎の壁。
(さあ、反撃開始だぜ。)
久しぶりに感じる「戦いの楽しさ」に、俺は知らずに頬がつりあがるのを感じていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「く……降参だ。」
組み伏せた女の声に、エンラがやっと炎の壁を解除し、押さえつける腕を放して彼女を開放する。普通の魔法使いが操るモノとしては最大級の魔法を使い続けた代償か、立ち上がった瞬間に軽いめまいがエンラを襲うが、かろうじて堪える。
―――結末は、あっけなかった。
必死に繰り出す矢をエンラが片端から焼き続けたのだ。
無尽蔵にも思えるほどの矢を放ってこれていたのは、弾いたり外れたりした矢を、彼女が動き回って回収していたからだったのだ。戦場の様に踏み砕かれたり、突き刺さったりしないために出来る技だが、気付かれなければ実は有効な矢の補充手段だ。
炎の魔法でそれを妨害されてしまうと、どうしても矢の残量を気にせざるをえなくなる。だが、新しい矢を拾おうにもその隙を作るための相方が動けないのだ。結果、分断されてから殆ど間を置かずに勝負は決した。
(…俺の魔力は…高まっているのか……。)
エンラは、以前の自分の操れた魔法の限界を思う。学舎にいた頃では、『領域魔法』に近づくような巨大な魔法であれば、数秒と持たなかっただろう。今では僅かな時間とは言えそれを維持し、同時にほかの魔法を行使するに至った。
(…俺は、強くなっているのか…。)
いや、と自分の中でそれを打ち消す。あのシルバなら、この程度のことは鼻歌交じりにやる。黄の魔法を得意とする『雷光小町』でも、これくらいはできるだろう。なにより、実戦で使っていた『灼熱地獄』の魔法とは、威力も速さも比べるのがおこがましいほどに劣っている。
自分は、まだまだ強くならなくてはならない。
一つ自分の中で納得し、もうひとつの戦場だった場所…炎の向こう側を見る。
マナコは肩で息を切らしてふらふらと揺れてはいるが、まだ立ってナイフを握っている所を見るに、ギリギリで間に合ったのだろう。
この作戦は、相手の接近戦担当を相方が一定時間でも抑えていられる事が最低条件となる。こちらが弓女を倒す前に、薙刀男にマナコが倒されてしまえば負けだからだ。その意味では一種の賭けだったが、マナコがその役目を果たすことを、エンラは疑ってはいなかった。
(……あいつなら、やるだろう。)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(とか、おもってんだろうなぁ…。)
エンラの予想に反して、マナコは完全に満身創痍だった。
だが、それはエンラの落ち度というよりも、相手の薙刀男がそれ以上だった、というところだろう。分断されたと分かるや否や、今までの動きとは一線を画する速度で猛然とマナコへと襲いかかったのだ。
「ったく、今まで手ぇ抜いてたのかよ……。」
「いやあ、そういうわけじゃあねえんだけどね。」
試合の終了を悟ったのだろう、薙刀男が耳聡く反応してきたことにマナコが顔をしかめる。さっきまで自分を叩き潰さんばかりに猛攻を加えた相手に突如友好的になられても困るし、何よりその変わり身の速さは「彼女」そっくりだ。
「いやあ、それにしても君は躱すのが本当にうまいんだね?それが『異能』かい?」
「んあぁ、まあ、そんなところだ。」
お互いに顔を合わせないままの会話。
マナコに関しては単に顔を合わせたくないだけだったが。
ちなみに、マナコが回避のみの専念した場合、そのポテンシャルは相当に高い。すべてを見通す『左眼』と、『異能』者特有の身体能力。「『左眼』使えば多分マシンガンもよけられるよねっ!」とは、某幼馴染の言だ。
「ああ、名乗るのが遅れたね。僕の名は…、と。ここじゃまずいか。この後、暇かい?良ければゆっくり君と、彼の事を聞きたいね。」
「いや、俺は流れもんだし。今回はちょっと金を稼ぎたくてね。」
「ああ、そういえば初めて見る顔だしねえ。どこに泊ってるのかい?」
条件反射で答えたマナコに、薙刀男が一瞬驚いた顔を浮かべ…ニヤリとわらう。
え、俺なんかまずいこといったか、と訝るマナコに、とどめの一言。
「ああ、成程。合点が行きました。では、またあとで。」
大変長らくお待たせしました。
やっとやることが一段落しまして、キーボードをたたくくらいの時間が取れるようになりました、KTです。もうひとつの書いているほうにはとうとう一ヶ月更新されていませんがついてしまいましたが、こちらはぎりぎりセーフ。かな。
一ヶ月間見ていなかった間にも、PVやプレビューはずっと伸びていたようですね。待っていてくださった方、本当にありがとうございます。
更新と同時進行で前の文章の誤字脱字を修正していく予定です。ご意見、ご指摘、ご感想いつでもお願いします!