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第四話

 この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。

 結論から言って、まあ見たところで上手く説明できるもんじゃあない事が判明しただけだった。無念極まりないというか、文字通り「骨折」り損なんだが。まあ口に出してもう一本骨を折るほど俺もバカではない。


 「で、俺は……。」

 「薄い光が傷口を取り巻いて…その光は術者の中心から……光の強さ…歪み……」

 「……おーい。」


 またどこか遠い世界に言ってしまったようだ。

 三連ボクロはまあ悪いヤツではなさそうだが、何分これじゃあ会話が出来ん。かといって、他の面子はと言えば、無表情極まりないガキ、サッチに、俺に言葉にして言いたくない感じの仕打ちをした白虎柄バンダナ男…名前は確か、コウ、とか言うらしい。


 「やっぱりこの中では一番マシか……。」

 「おいコラあんさん、なに人の顔見て深ーい溜息ついとんねん。ワイだって話くらいできるんやで?」

 「腕へし折った相手に相談事する気にゃならねーんだよ、ふつーの人間は。」

 「なんやつれないのう。ま、ワイは普通の人間やないからその心はようわからへんが。」


 そういって、ニヤリと笑う。食えない男だ。


 「で、俺の眼の仕事はもう終わったんだろ?そろそろ、」

 「マナコさんっ!!!」


 俺の「さっさと帰らせろ」発言を、勢いよく開いた扉と響いた声が掻き消した。

 うん、もうちょっと帰れんらしい。


 「何だったんですかっ、さっき凄い音と悲鳴がっ、」

 「あーあー、なんでもあらへん。ちょっと実験しとっただけや。ホレ、怪我もあらへんやろ?」


 嘘をつけ。嘘をつけ。テメー俺に何をしたか忘れたとは言わせんぞ。

 とはいっても、一応命の恩人だ、そこまで恩知らずな態度をとるわけにもいかない。

 喉まで出かかった真実の訴えを、そう言い聞かせて飲み込む。まあ、睨みつけるぐらいはしていたかもしれんが。


 「そうそうアナタ、エスナさんっていったっけ!?アナタも『治癒』の『異能』持ってるんでしょ!?」

 「えっ、ちょっ、あのっ、」

 「アナタ達の知識としては、『治癒』…ううん、『魂』ってどんなものなの?そこがカギだと私は思うの。それが「白い光」に通じるとしたら…」

 「ちょっ、あの、私、ってマナコさんっ!?何自分だけ帰ろうとしてるんですかっ!?」

 「……いや、もう俺の用事は終わったっぽいし。んじゃ、頑張ってなー。」

 「えっ、ええぇぇっ!!?」


 突如自分の世界から帰還した三連ボクロが、轟音 (何の音だったかは話したくない)に慌てて入ってきたエスナに物凄い勢いで詰め寄る。元々慌てていたエスナだ、マシンガントークにかわいそうなぐらいうろたえて俺に助けを求めてくるが、ここに残ってたらどうなるか分かったもんじゃない。

 いや、エスナの助けを求める視線に罪悪感を感じなくはないが、なんとか振り切る。なんか目が合った時、エスナの顔に理解の表情が浮かんだから、きっと何かを悟ってくれたんだろう。すまん。


 「……済んだか。」

 「よおエンラ。いたなら入ってりゃいいんだよ。……返せ。」


 ドアを開けた時、すぐ横で壁にもたれるように立っていたエンラに手を差し出す。持っている俺の「眼帯」を返してもらうためだ。正直、ここまで開きっぱなしの『左眼』が、どくどくと拍動するのを感じて、かなり気分が悪い。

 通じたのかどうかはわからないが、エンラは黙ったままそれを渡してくれた。俺も無言で受け取り、『左眼』を塞ぐ。感じていた、眼鏡の度が強すぎる眩暈のような錯覚が収まる。


 「じゃあ、な。」

 「……ここを出て真っ直ぐ左にいった、突き当たりの左。」


 そのまま立ち去ろうとした俺に、引き留めるように声をかける。


 「が、どうしたよ。」

 「……グリンとグレンがいる。」

 「…そうかよ。」


 言いたいだけ言って、もう話は終わりだ、とばかりに目を瞑る。どうやらコイツはここに残るらしい。エスナのことが心配なんだろうな、とぼんやり考えながら、そのまま立ち去る。扉の向こうではなんか盛んに意見を交わす声が聞こえるが、危ない事にはなっていないようだが、いるのは『殺人鬼』が三人だ。心配に越したことはあるまい。


 こっちはコイツに任せて大丈夫だろう。コイツも、そう言いたいんだろう。

 つまりは。


 俺は、俺のするべき事をしろ、ってことだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「おお、マナか。待っておったぞ。エスナとエンラは、一緒ではなかったのかえ?」

 「…おう。あっちがエスナに話があるらしくて、俺だけ抜けてきた。」

 「そうか。……座ったらどうじゃ。立ち話もなんじゃろう?」


 そういって、グリンがニヤリと八重歯を覗かせる。その顔には、強がりや虚勢は見えない。いつもの、童顔ながら芯の強さを感じさせる笑い。

 だが、そこに無理がないはずがない。それに気付かないほど、マナコは鈍くは無い。


 「…あの、」

 「座ったらどうじゃ、と余は言ったのじゃ。許されたのだから、座るがよい。話はそれからじゃ。」

 「…すまん。」


 指差された寝具に、ゆっくりと腰を下ろす。対するグリンは、随分と丈の低い椅子に座り…横で丸くなるグレンの背をなでていた。そのグレンは、といえば、一瞬だけこちらを睨んでグルルと唸った後、興味を失って目を閉じた。自分がこの手で殺そうとした狼の一睨みに、心が震えあがる。

 その迷いが現れたのか、歪んだ顔を見てグリンが笑う。


 「ふふん、心配無いぞよ。余の相棒じゃぞ、敵意の無い相手に、余の命令も無く襲いかかったりはせぬよ。この前の事も、納得してくれておる。」

 「…スマン。」

 「まあ、エスナの繰り返しになるがの。抱えておった苦しみを話さなかったのはお主の罪じゃ。存分にあやまるがよい。」

 「………スマン。」

 「なんじゃ言い返して来んのか。つまらんのう。」


 いつまでも自然体に振舞うグリンだが、マナコにはそれに対するほどの余裕はない。どう誤魔化したって言い訳したって、自分がグレンを殺そうとし、あそこで助けが来ていなければグリンさえも殺していたかもしれないのは、自明なのだ。結果殺していない、誰も傷ついていないからと言って許されるモノでは無い。


 「良かろう。まあ、余の油断と、我らの力不足もあるわけじゃ。お主一人が暴れた程度で、我らは抑えられんというわけじゃ。まだまだ修行が足りぬ、というわけじゃ。」


 そういってどこが自嘲気味に笑うグリン。


 その笑顔が、一瞬だけ陰る。

 そして、唐突にその笑顔を引っ込めて、マナコへと正対し、


 「すまなかった。」


 深々と頭を下げた。

 なにが起こったのか訳が分からず、マナコがあわてて言葉にならない声を上げたが、グリンは顔を上げようとしない。そのグリンを、下からグレンが見上げているのに、マナコは気付かなかった。


 「グレンがお主に襲いかかったのは、余が抑えられなかったからじゃ。グレンが、余が仲間だと思っている人間に、疑問を抱いた…襲いかかってしまうほどに。」

 「いや、あれは、俺がおかしくなって、」

 「もしおかしくなっていなかったらどうなっておったかや?」


 マナコが、ぐっと言葉に詰まる。おかしくなっていなかったら。考えるまでも無い。死んでいた。野生の獣やら、低級な魔法を操る魔獣の群れさえも一匹で圧倒するグレン。あの勢いで襲いかかられれば、まず命は無い。


 「そういうことじゃ。余は、仲間の命を危険にさらした。そしてもう一つ、お主のお陰で誰も死なずに済んだ。礼を言う。ありがとう。」

 「やめてくれっ!!!」


 再び頭を下げようとするグリンに、マナコが怒鳴るように制する。自分のせいなのだ。まるで自分は何も悪くないかのような、ともすればそれを褒めるかのような言動に、ひび割れるような頭痛が走る。これならば、口汚く罵ってもらった方が百倍ましだとマナコが頭を抱える。

 まるで子供のように蹲ったマナコを、困ったように見つめて、グリンがゆっくりと再び口を開く。


 「抱えておった苦しみを話さなかった…。余も、お主に、話しておくべきかものう…。」


 カタカタと、子供のように震えるマナコに、そっと近づき、その背を撫でる。


 まるで、子をあやす母の様に。

 同じ道をかつて歩んだ、人生の先輩のように。


 横に座ったグリンが、ぽつり、ぽつりと話しだす。


 それは、遠い、この『四色』では、お伽の世界の……グリンの故郷の話。


 世界のこと。

 時に厳しく、時に優しい大自然に覆われた世界、『リーファ』。


 集落のこと。

 狩猟と採集で暮らす、遷ろう民と、共に戦う仲間。


 グリンのこと。

 神童と謳われたことを、誇らしげに、楽しげに、ほんの少しだけ、さびしげに。

 まるで、本当に、作り話の中のお転婆姫のように飛び回る少女。


 そして、グレンのこと。

 守り神と……神と称された、その緑の大狼を。

 まだ、自分一人のモノでは無かった、その雄々しい姿を。



 ―――あなただけじゃない。


 グリンの昔話の合間に、心の中に声が響く。


 ―――苦しいのは、あなただけじゃない。


 それは、グリンの声では無い声か、心から自分を案じてくれたエスナの声か。


 ―――みんなが、みんなに支えられてる。人は、そうして生きていける。


 それとも。


 ―――だからあなたも、支えてあげてね。皆を。もちろん、アタシもだよ。


 懐かしい幼馴染のものか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 話しおわった沈黙の中、泣きつかれたマナコが、眠っていた。

 俯いた姿勢のまま、崩れるように眠る彼を、グリンがそっと、寝具に横たえる。


 (今日は、このまま寝かせておいてやるかの。)


 その涙で濡れた顔を、そっと布で拭ってやる。同時に、何時から起きていたのか近寄ってきたグレンがマナコの体に毛布をかけてやる。グレンも、何かを感じているのだろう。

 この人間の男が、彼の主人であり、愛すべき子でもある彼女の苦しみを、少しでも救ってくれたことをだろうか。それとも、これから彼女を支えてくれる一人となってくれたことをだろうか。


 (話を聞いてくれた貸しは、それで帳消しとしてもらうぞよ?マナよ。)


 ふっと微笑み、彼女はマナコの額を撫でる。随分話し込んだのか、もう外は暗くなりつつある。少し空いた小腹を満たすため、街に出ようか、と一歩踏み出したところで、部屋に控えめなノックが聞こえた。


 マナコを起こさない様に、声はかけずにグレンに合図する。頷いたグレンが、ドアを器用に開ける。見かけの大きさ、豪快さとは裏腹に、彼は器用な動作も案外得意だ。


 「グリンさん、そろそろ夕飯が…って、えっ!!!」

 「しぃー。」


 訪問者は、エスナだった。中の様子を見て、悲鳴を上げようとしたところをグリンのジェスチャーでなんとか踏みとどまる。ベットに眠っているマナコ。その脇で同じくベットに腰掛けて、何やら随分親しげに額をなでているグリン。


 状況を見て、慌ててドアを閉めようとしたエスナだったが、素早く動いたグリンの手がドアの縁をつかみ、それを阻止する。


 (ぐ、グリンさんっ、おじゃ、おじゃまだったらっ、)

 (いや、丁度小腹がすいておったぞよ。共にゆこうではないか。)

 (そ、そのっ、ま、マナっ、)

 (マナは疲れて眠っておる故、放っておいて良かろう。グレンも付いておる。)


 疲れて、という言葉に、真っ赤に慌てていたエスナが少しだけ落ち着きを取り戻し、マナコの様子を確認しようと一歩踏み出す。が、それもグリンの手によって止められてしまう。振り返ったエスナに、そっと耳打ち。


 (男はのう、好意のあるおなごに泣き顔など見られたくないそうだぞよ?)


 エスナが、ガチリと固まる。

 そのまま食事へと彼女を引き摺って行きながら。


 (これで貸し一つ。随分懐かしい台詞を言ったものよ。)


 クスリとグリンが八重歯を覗かせた。


 おまたせしました、第四話です。待ってくださっている方がいれば、ですが。


 さて、グリンの過去話、正直長くなりそうだったんでバッサリカットで。もし需要があれば第二章と第三章の間の番外編にでも…。正直『リーファ』と『獣技』の説明ばっかで、まあ、「ヲタが考える異世界その二」といった感じで、さして面白くないかと。


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