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第十二話

 この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。


 「あ、ああ、うう、ああ、が、」

 「落ち着けサッチ。もう大丈夫だ。」

 「お、おい、あ、アレなんだ、無理ゲーだろこれ!」

 「……君もか。君は落ち着いてくれていると思っていた。」


 いや。

 これは落ち着いていられねーよ。普通。いや、俺も大概の異常は経験してきてるし、中二病的に言えば半分くらいは人間やめてるけど、これはない。寧ろお前がなんでそんなに冷静なんだ。


 「アレ何人だよ…。しかもアレって、完全に『軍隊』じゃねーか!」

 「? それがどうしたのだ?」


 いやいや。

 軍隊なんて今時ふつうの大学生やってて見る機会なんてねーよ。何度でも言おう、ねーよ。文字通りの、一糸乱れぬ、大行進。前衛らしい数十人は横一列に並び、身長超えそうな大槍を携えてやがる。

 街のチンピラに絡まれる事はあっても、敵軍に単身突入、なんて今時ス○ークくらいしかやって無いんじゃないか?


 「とりあえず君は私と一緒に突撃、敵の一部を蹴散らしつつ牽制。サッチが逃げるだけの時間を稼ぐ。異存はないな?」

 「おいこら黒男。なに言ってんだ出来るわけねーだろ。」

 「……そうか。っ。」


 と気合なのか舌打ちなのか分からん医と呼吸と共に、ゼツの姿が霞んで消える。

 …会話の途中で唐突に消滅しやがった。


 と同時に。


 …ノレエェェ……


 断末魔の悲鳴と共に陣内に逃げようとした敵司令官が叩きつぶされた。


 …。


 オイオイオイ。


 「うう、うおえぅっ!!!」


 !こっちは何だ!?その効果音、まさか!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 (どうしたというのだッ…!)


 焦燥するのは、一人のローブ姿の男。

 慌てて陣内へと逃げ帰るその顔には、抑えようのない怒りと恐怖が浮かんでいる。


 (なぜあの化け物が、人間一人殺せないのだッ…!いや、あまつさえこちらに向けて弾き飛ばし、人質を助け出すなどッ!そんな、そんなバカなことがあるかッ!!!)


 側近二人を瞬く間に惨殺され、全力で遁走するものの、飾りのたっぷり付いたローブは、その走りを嫌らしく妨げる。その事に苛立って足を振り上げるたびに、さらにまとわりつく、という悪循環だ。


 「軍師」として、兵士たちへの威光を示すそのローブも、逃げるにあたれば滑稽以外の何物でもない。


 (くそっくそっくそっ!戻れば、陣に戻れば五百の兵団がいるのだ!それもしっかりとあの黒服向けの戦闘対策も練ってある!)


 後続の、五百の兵士。


 彼らの標的は、ゼツ一人。


 マナコを殺したゼツに、そのままバリアイーストを攻め落とさせ、その後抹殺するために集めた部隊。前衛に名うての青の魔法兵を集めたこの兵団なら、あの黒尽くめの死神をねじ伏せられる、はずなのだ。


 ゼツを『ニュータイドランドの死神』と信じているこの軍師は、国の将軍たちの反対を押し切ってこの派兵を進言したのだ。ここで南東の目障りな国家群の頭たるバリアイーストを潰し、不確定要素の『死神』を殺すべきだ、と。


 ここで手柄を立てれば、女皇の評価も跳ね上がり、将軍たちを蹴落とすことも夢ではない。そのためにも、


 (そのためにもッ!失敗は許されんのだ!)


 もう陣まであと数十歩だ。


 これでもう大丈夫だ。


 まだ取り返しは付く、いまからでも、


 (ワシの野望は、まだまだ、)


 「終わりだ。」


 唐突に、耳元に聞こえる声。


 停止する世界。


 ゆっくりと引き延ばされたその世界で、振り返る司令官の見たのは、


 「おぉのぉれえええぇぇッッ!!!!!!」


 世界を塗りつぶすような、黒だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 この女。


 「う、ううっ」


 もどしやがった。


 いや、ハッキリ言ってしまえば、こっちが普通の反応だろう。だって目の前に死体が二つ(一つはミンチ、もう一つは…言葉にするのも嫌な感じだ)もあるんだし。


 だが、この女は普通の女じゃあない。

 あの殺人鬼、ゼツの『家族』であり、奇声をあげて言葉にしたくない方の死体を作り上げた張本人だ。カマトトぶるにも限度があろう。


 「おいっ、お前っ」

 「う、うう。」

 「立て、さっさと逃げるぞ、もう軍隊はそこまできてんだ!」


 必死さ(ちなみにこの女の命の危険じゃない。俺の命の危険だ。このままここにいたんじゃあバッドエンド直行だ)が伝わったのか、涙の滲んだ瞳でこっちを見、コクリと頷く。それを見て、俺も不抜けたへたり座りから立ち上がる。


 と、


 「う痛ぇっ!」


 地面につこうと動かしかけた左腕に激痛が走る。


 あー折れてるよこれ。しかも結構きれいではない感じで。

 借り物の服の左腕前腕が、これでもかってくらいに血まみれになってやがる。もっと言えば、明らかに内部で骨が折れて、それが元で出血してる感じ。痛みがなんだかぼんやりしてる(動かしゃあ激痛だが)のは、脳は許容量以上の痛みはシャットアウトするというアレだろうか。


 とりあえず服の腕の部分をナイフで手早く切り裂いて包帯がわりに巻きつける。添え木が欲しいが、まあぜいたくは言えない。逃げるのが最優先だ。


 動かん左腕の代わりに右腕をついて立ち上がり、いざ駆け出そうとしたその時、


 ワアアアア

 ワアアアア

 ワアアアア


 敵さんが到着したのが聞こえた。


 …。


 黒男の足止めはどうしたぁ!!!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「…。ふむ。」


 参った、と内心ゼツが溜息をついた。

 ニット帽と高い襟に隠れた顔には、めったに見えない苛立ちの表情がわずかに浮かんでいる。


 (成程…。うまいな……。)


 正直に言えば、軍隊五百人というのはゼツにとってそれほどの脅威ではない。元々の世界では傭兵として、実際の戦場の経験 (当然、表舞台に出せない様なものだが)のあるゼツにすれば、小規模で、経験のある程度の相手だ。遮蔽物の無い不利な地形ではあるし、相手は魔法を使う異世界の兵士なのだが、先の戦いでそれを知るゼツには、十分勝算があった。


 だが。


 (長槍を生かした、密集隊形。これでは後ろに回り込む事も出来ない。)


 前衛を務めている兵士たちは、皆一様に氷で出来た巨大な十字槍を正面に着きだして整列しているのだ。少々特殊・・な身体のゼツには、攻撃手段が三パターンしか存在しない。掌底、薙ぎ払い、打ち下ろしだ。槍に掌底など論外だし、薙ぎ払おうにも、横に突き出た刃がそれを邪魔してしまう。


 (そして、遠隔攻撃。理屈は分からないが、爆発やら氷の槍やら雷やら。避けられないことはないが、当たると面倒そうだ。)


 その前衛の陰から、後衛の援護射撃が飛び掛かってくる。

 放物線を描くような軌道のものと直線的に飛来するものの入り混じったそれは、銃弾に速度と視認の可否では劣るが、回避は困難だ。


 (極めつけに、ッ!!!)


 裂帛の気合を込めた打ち下ろしを放つ。

 一本とは言え、魔力でその硬度を保っている氷の鎗が、まるで枯れ木の枝のようにあっさりとへし折れ、砕け散る。


 だが。


 「っ!!!」


 消えて見えるようなダッシュで距離を取り、殺到してきた槍と魔法をかろうじて回避する。その次の瞬間には、


 (また新しい槍が作られている…。これも魔法なのか?)


 ダッシュの仕組みは、単なるステップ。地面を蹴って加速して、後ろに回り込むときには二度目のステップで背後を向く。今現在のゼツの限界は、この二歩目まで。これも、それ以外の歩法がゼロには出来ない・・・・のだ。単発のダッシュはかなりの距離を取ることができるが、それでも10mそこそこだ。数十人の横並びを迂回は出来ない。



 (…文字通り、手詰まり。私一人では倒せない、か。)


 だが。


 (とりあえず。)


 再び、打ち下ろし。


 ただし、今度は槍では無く、地面に向けて。


 ―― なんだっ!?

 ―― 瓦礫だっ、地面を吹き飛ばしやがった!!!

 ―― クソ、ひるむな、前衛!!!単なる威嚇にすぎん!!!


 一瞬の動揺の隙をつき、離脱をはかる。


 当然、諦めたわけではない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「あンの黒服、足止めしてんじゃ無いのかよっ!?」


 ついた悪態に、


 「君にも来てくれと言ったはずだが。」

 「うおビクッた!!!」


 返事が返ってきてびっくりした。

 さっきまでと同じ、不自然なほど微動だにしない立ち姿だが、その表情は心なしか、俺と戦っていた時よりも焦っているように思える。


 「オイ、ありゃやっぱり無理か!?」

 「ああ。自分は、完全に対策を取られている。恐らく、あの城に突入した際に戦法を見られているのだろう。やはり君に頼」

 「左手負傷で動けそうにねーよ。こっから逃げるのもきちい。」

 「……。」

 「……。」


 ―― 進め、突撃だぁ!!!

 ―― 死神は、槍で阻めば届かない!

 ―― 反撃の隙を与えるなぁ!!!


 って言ってる場合じゃねえ。


 「出来なければ、死ぬだけだ。」

 「みてーだな、ちくしょー。いーよ死にたくねーし、やってやらぁ!」

 「頼む。自分は、瓦礫の破片によっての牽制しか出来ないだろう。サッチ、衰弱してきついかもしれないが、なんとか逃げてくれ。」


 一瞬だけ視線を女の方にずらす。

 吐いたせいか、それとも縛られていた数時間が応えたのか、かなり顔が蒼いが、それでも力強く頷く。足は、ふらつきながらもしっかりと地面を蹴る。


 「では、行くか。」

 「了解した。さあ、行け!!!」


 ゼツの打ち下ろしが瓦礫と粉じんを巻き上げると同時に、


 駆けだした俺は、槍の下に滑り込みながらナイフを振るった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「マナコさーーんっっ!!!」


 エスナの呼吸の限りの絶叫は、すれすれで届いたようだった。

 打ち合わせ通りグレンの背から飛び降り、そのままマナコのそばに駆け寄る。一瞬だけ振り返った時、グリンが立てた親指が、やけに頼もしく見えた。それを裏付けるように一声吠えたグレンが、大きく跳んで敵の密集地に飛び込んでいく。


 「!?なん、で、エスナが、痛っ!」

 「そんなことは後回しです。左腕ですね、治療します、しっかり固定しててください、少し痛みますよ!」


 絶妙のタイミングでの黒服の男の牽制でマナコが後ろに下がる。その瞬間を逃さず、エスナがしがみつくようにしてその腕を取る。

 衰弱しきった中に、驚きの表情を混ぜたマナコの腕をエスナが両手で包みこむ。美しい、真っ白な光が出血部を抑え、痣を引かせていく。


 「つう…、で、何で」

 「一人で行かせるわけがないでしょう。私も、グリンさんも、エンラさんだって助けに来ているんです。この怪我じゃあもう無理です。じっとしていてください。」

 「悪いが、それは出来ない。」


 割り込んだのは、ゼツ。

 当然と言えば当然、撤退の背中を守っている二人なのだ。その一人に絶対安静など、させられるはずがない。

 だが、安静と言うのも当然と言えば当然なのだ。出血量、顔色、目の焦点、どれをとってもマナコが限界を迎えているのは明らかだった。衛生兵として見逃せるものではない。


 「無理です。この治療でも気休めに過ぎないでしょう。私の『治癒』ではまだ完全な回復h」

 「『治癒』と言ったな?それは、傷を治す『異能』か?」


 突然遮られたことに、怪訝な顔をするエスナ。

 時間は無いのだ。敵も直ぐに体勢を立て直して突進してくるに違いない。言い争う暇はないのだ。直接的な戦闘は、付け焼刃の棒術程度しかないエスナに前衛の真似事は出来ないが、それでもこれ以上マナコに無理をさせるわけにはいかない。


 「そうです。ですが、回復は万能ではn」

 「自分の傷も治せるか?治せるのなら、自分が傷を躊躇わず特攻すれば、今よりも時間は稼げる。できるか?」

 「っ!!!?」


 …違った。


 マナコに無理をさせるためではなかった。


 自分が、無理をするための、確認だった。


 「自分は、家族を守りたい。その少年も、だ。恩人だからな。できるか?」


 エスナは、ぼんやりと考えてしまった。この人も、家族を守るために命をかけるのだろうか、と。そして、消えていってしまうのだろうか、と。


 マナコを助けたいという、自分のわがままのために。



 ―― いや。


 「出来ます。私が治します。お願いできますか。」


 そんなことはない。


 暗い思考を、力強く打ち払う。自分が治せばいい。何も出来なかったころとは、違うのだ。守る人を助けることが、今の自分なら出来る。自分が助けられれば、誰も死なせることは、無い!



 しっかりと頷くエスナを、その覚悟を見て、


 頷き返したゼツが、かき消えるように敵陣に突っ込んだ。



 唐突に音信不通になることに定評のあるKTです。非常に遅くなりました、十二話です。待っていてくれた方、本当にすみません。いや、まさかこんなにリアルが忙しいとは。仕事したくないでござる。

 …なにはともあれ、十二話です。んー、次回はすぐできると思います。これからしばらくは何とかなる日程なので。あと二話くらいで一章がおわるかな、と。そのあとはあまりあける予定はないですが、ちょっと全話の修正(人称とか、名前の間違いとか)をしようかと思っています。

 間違い等あって「これ何?」見たいなのがあれば、いつでも感想にでも書いてください。辛口評価は、人を成長させるらしいですし。聞いた話ですが。


 ご意見、ご感想、いつでもおまちしていまーす。

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