第一章~左目と異世界と幼馴染と~ 第一話
この小説はフィクションです。実際の人物、団体、国名および作者の中二病とは一切関係ありません。
5月25日、誤字訂正、改訂
俺 ―― 神映司 眼は、自分の事を、概ね普通の人間だと思っている。頭はテストで赤点とか取るほどじゃないし、顔だって悪くはないと思うが、女の子から告白されるほどじゃない。運動能力も悪くはないし、漫画やゲームも人並みに嗜んでるし、ニュースだって見てる。
概ね、と頭につくのは、三つ、三つだけ俺は人と違う所がある。こういう言い方自体が中二病みたいで俺の趣味じゃないのだが、認めざるを得ない違いが、三つ。
一つ目は、身寄りのない、天涯孤独な身だという事。これは、俺が生まれるときに親が駆け落ちの末に自分を生んだ事と、俺の家を襲った一家惨殺事件の所為だ。こう言うと暗く感じるかもしれないが、もう10年近く前になるし、気持ちは整理されてるからまあ、思い出しても特に落ち込んだりするわけではない。事故にあった様なものだ。そのせいでまあ、大学一年生としては珍しく一戸建ての家で一人暮らしをしている。
二つ目は、ちょっと常軌を逸したレベルで、サバイバルスキルを持つ事。これは、一人になった当時にちょっと傷心旅行、というかなんというかをした際に山で遭難し、その時に生きる為に一カ月で経験的に身に付けたものだ。それにしても傷心旅行って…。今考えると恥ずかしくて人様には言えそうにない。
そして、三つ目。
誠に遺憾で、はなはだ迷惑、面倒極まりないのだが――。
俺の左目は、所謂、典型的な『邪気眼』ってヤツだということだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……で、こうなるわけだ…。」
マナコは、もう人生で何度目になるだろう、頭を抱えていた。
場所は、路地裏。時間は、宵の口。
場面としては、一人の大学生が、チンピラ共に包囲されている、という状況。
「……勘弁してくれよもう…。」
これも、いつからか口癖になってしまったように、マナコは思う。
路地裏なのは、何度も絡まれてそのたびに通学路を変えているためだが、今回もその努力空しく今日も完全に10人単位で包囲されてしまっている。平和と安寧を望むマナコにとっては、この上なく憂鬱な事態である。
「ふざけんじゃねぇ!」「今日こそギタギタにしてやらあ!」「なめてんじゃねえぞ!?」
口々にテンプレの決め台詞を吐いて武器を構え出すチンピラ達を見て、完全に瞳孔開いちゃってるよなぁこの人達…と考え、マナコはやむなく逃走を断念する。
(『彼女』の稽古の相手をするのに比べれば、命の危険は格段に下がる、だろう。きっと。)
心の中で思いながら、嘆息する。なるべく『彼女』がこの事態に気付く前に始末しないと、面倒、もとい、大変な事になる。
「おら、黙ってんならこっちから行くぞコラァ!!!」
男A (仮名)がナイフを構えて突っ込んでくる。が、それは彼女の抜き手に比べれば、いや、比べるのもおこがましいくらいのスピードでしかない。
難なく回避し、そのままカウンター気味の掌底を鳩尾に叩き込む。ゲロッとかいう嫌な声をあげて男Aが落ちる。その体をそのまま引っ張って後ろに放り投げ、背後から迫ってきた他の男達を足止めする。
(はぁ…。何回も絡まれるうちに、喧嘩、上手くなっちまったなぁ……。)
心の中で溜息をつく (ちなみに現段階において、マナコはこの程度のチンピラの相手くらいなら、脊椎反射だけでも十分に対処できるくらいの強さがあった)。
(それもこれも……『コイツ』のせいだよなちっくしょー……。)
胸の内で毒突くのは。
マナコ自らの、『左目』に対してである。
網膜と硝子体内の出血が強固に固まって出来た赤黒く濁った白目。その中に、凄絶な輝きを放つ異常な色の虹彩。心なしか普通より危険に見える瞳孔。
本人の意思とは無関係に人を射竦める目は、どう見ても危険人物のそれである。
これを隠すためにマナコは日常的に眼帯 (勿論白、医療用のものだ)をしているのだが、「ヨゥヨゥにーちゃん、なんだい眼帯なんかしてかっけぇーじゃねーのぉ」と絡まれてしまってはどうしようもない。
(俺は…平和に過ごしてーってのに……。はぁ…。)
この短時間に二回目となる溜息をつき、最後の一人の後頭部に軽く手刀を入れて落とす。
と、
(はい、終わり……おわ、り、もう?)
奇妙に違和感を感じる。ちょっと早すぎないか、と、辺りを見回して…
気付いた。
「げぇっ、サイ!い、いつから!!!」
サイ、と呼びかけられたのは、路地の壁にもたれかかり、腕組みをした少女。
一見すれば高校生、下手すれば中学生に見られてもおかしくない容貌の少女だが、この少女が只者ではない事を、長い付き合いでマナコは知っている。
―――その身を以て。
「なぁーによ。アタシがいたら迷惑だっていうわけ?戦力的には申し分ないはずでしょ?」
そう、何を隠そうこの少女―――天霞 才は、大学一年にして全日本大学選手権の覇者なのである。そしてさらに恐ろしいのは、それが一つでは無く、柔道、空手、合気道、の三冠王なのだ。ちなみに入賞、と枠を広げれば、それは数を倍以上に増やす。中には陸上や弓道、果ては馬術、絵画など、毛色が全く異なるものさえも含まれる。
文字通り、天才少女なのだ。
そして、面倒な事に (口に出すと殴られるのでマナコは言わないが)、彼女はマナコの幼馴染で、半同棲状態の少女でもあるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
困った状況だ。俺的には、チンピラどもに絡まれていた時よりはるかに。
「で、ナコ?片付いたところで言い訳があるなら聞くわよ?」
「……え~っと…、なんのことでs」
「アタシ言っってるよね?≪危険に巻き込まれたらすぐ私を呼ぶ≫。」
「いやまあ、危険っていうほどじゃ……」
「大前提。≪私に逆らわない≫。よね?」
勘弁してくれよもう。
某ガキ大将も吃驚の傍若無人っぷりを発揮するこの女こそ、俺の幼馴染にして超運動能力の持ち主、スーパー生意気娘で俺を奴隷とする同級生 ―― サイだ。
「ちゃ~んとアタシの言う事は守りなさいよ~?さもなくば…」
「いや、もう稽古はマジ勘弁……」
俺の格闘技の師匠、というか幼いころは毎度サイの技の実験台にされていた俺のトラウマをしっかりと操って俺を支配するサイ。天才の幼馴染を持つってのも案外大変なものだ。
「っていうか……使わないの?『左目』。」
「別に……。こいつらくらいなら使わなくても一人で大丈夫だっつの。」
「いーのよ、無理して戦わなくても。ナコを虐める奴は、アタシが全員叩きのめしてやんだから。」
「……ナコっていうなよハズい。」
ナコという呼び名に突っ込むのは、照れ隠しだ。
話題が無くなると俺はそうやって逃げる。逃げていることに気付かないほどガキじゃあ無いし、サイのほうも蒸し返さないからその事に気付いているんだろう。
サイがこんな風になってしまった ―― っつうと殴られるだろうが ―― のは、まず間違いなく俺の一家を襲った不幸な事件のせいだった。あの日かろうじて一命を取り留めた俺の病室で泣き喚き、さんざん自分を責めた後、宣言したのだ。
―――ナコは、絶対私が守るから。私が強くなって、ナコが死ぬまで守り続けるから。
その日から、サイは何かに取り憑かれたように格闘技に打ち込んだ。まあそれは一年程度である程度は落ち着いたのだが、天賦の才もあったのだろう、完全に他の人間の追随を許さない強さを身につけてしまったのだ。
その後も広い範囲の競技で鍛錬を怠らず、ついでに「ナコを鍛える」、という名目での組み手 ―― 実際は俺を使った必殺技開発実験 ―― まで行い、その強さを磨きつつ俺にトラウマを植え付けている。俺に与えられた≪ナコの心得一覧≫は、俺のトラウマを利用して人格矯正を行うため、らしい。…洗脳?
「そういえば、どう?ナコ。『左目』使って私と組み手する気になった?」
「…やだよ。俺の最後のプライドが無くなる。」
「…ふーん。」
納得したのかどうかは知らないが、そっぽを向いて口を尖らせるサイ。
サイは、この『左目』の事を全部知っている。それは、過去の事件の事や、見た目の異様のことを言っている訳ではない。
―――正しく、『邪気眼』としての力。
―――開眼した際に、妙なモノを視、異常な運動能力を得る、という力。
―――現代では解明できない、謎の力。
それを知った時、サイはその力としきりに手合わせしたがったが、俺は断った。
正直に言えば、怖かったのだ。
こんなチート能力をつかって負けることが、ではない。
サイを、壊してしまうかもしれないことが、だ。
まあ、負けたら凹むのは事実だし、勝ったら勝ったで特訓、再戦と面倒くさい事極まりない。
俺としてもこんな気味悪い力は使いたくないし、平和に生きていくのなら今の力で十分お釣りがくる。
そう。
この平和が。
少しいびつなモノにしろ、この平和が。
俺は。
永遠に続くと楽観していた。
その思いは。
二人を包みこんだまばゆい光にかき消されてしまい。
俺は…俺達は所謂、『異世界召喚』に巻き込まれてしまった。
さて、始まりました新シリーズ。使い古されまくったジャンル、異世界召喚です。この作品での自分の目標は、「どこまで魔法をSFにできるか」というものです。
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