家名放棄の濡れ衣で妻の席を消されたので、欠けた扇と親骨で記録を覆し次の伴侶は自分で選びます
笑い声が、閉じた扇のように私の頬を打った。
袖口へ隠した親骨の角が、掌へ食い込む。痛い。よし、生きている。生きて、とうとう自分の不在を祝う舞踏会にまで招かれずにやって来た。招かれずに来る主賓というのは、なかなか忙しい。
扉番が私の名を聞き損ねたふりをしたので、私はもう一度告げた。
「セレナと申します。本日の査定を願い出た者です」
楽団の音が止まり、大広間を埋めていた絹と宝石がいっせいにこちらを向く。私の席がないのは承知している。本日の主賓は夫と、夫が念入りに消した私なのだから。
正面の壇上にはオズワルド様。その隣には、私ではなく一本の折り畳み扇が飾られていた。白絹の扇面に銀糸の花、ただし片側の親骨が欠けている。私が家名を捨てた証しとして宮廷へ登録された、たいそう行儀のよい遺品である。
死んでいない女の遺品を飾るとは、ずいぶん先回りの利く夫だ。拍手を差し上げたい。両手が空いていれば。
「何者だ」
オズワルド様は私の名を聞いた直後に尋ねた。まず一点減点。聞こえなかったふりは、扉番のほうが上手だった。
「ただいま申し上げましたとおり、セレナでございます」
「その名を騙る者は過去にもいた。衛兵を——」
「査定の開始前です」
大広間の上座から、儀礼文の刃が一枚落ちた。筆頭女官様は顎も上げず、オズワルド様を止めた。
夫はそこでようやく礼をした。妻には不要、筆頭女官様には必要。宮廷礼法とは便利なものだ。相手を選んで背骨を生やせる。
「失礼いたしました。再婚認可の夜に、亡きも同然の前妻を名乗る者が現れたもので」
「亡きも同然、でございますか」
「自ら家名を捨て、行方をくらませた女だ。今さら戻ってきたところで、名乗る権利はない」
私の返事を待たず、オズワルド様は列席者へ微笑みかけた。ほらご覧ください、困った偽者でしょう、とでも言いたげな微笑である。口上に花を盛るのは結構だが、根が腐っている。
その肩越し、壁際にレオニス様がいた。護衛を前へ出さず、辺境侯の印章も見せず、両手を背に回している。
目が合った。
それだけだった。彼は一歩も動かない。私も視線を戻した。ここで庇われれば、私は「辺境侯が仕立てた偽妻」になる。よくできた罠には、親切心を餌として置くものだ。オズワルド様にしては上出来。二点だけ戻しておこう。総点はまだ地面の下だが。
「査定を始めます」
筆頭女官様が銀杖の先を床へ置いた。
「申立人の主張が退けられた場合、この者はセレナを騙った偽者として永久に宮廷記録へ残ります。以後、同じ名での申立ては認められません」
親骨の角が、ひとつ深く掌へ入った。
「被申立人の登録が虚偽と認められた場合、欠けた扇による家名放棄の届けは失効します。再婚認可は停止され、登録に伴う行為は宮廷の裁定に服します。双方、同じ規則に従いますか」
「無論です」
オズワルド様の返事は早かった。私の返事だけが、息ひとつぶん遅れた。
「従います」
永久に偽者。つまり負ければ、私は私であったと訴える入口まで塞がれる。ずいぶん公平な査定だ。私だけでなくオズワルド様にも、等しく顔色を失う時間をくださるらしい。
筆頭女官様は扇へ目を移した。
「被申立人。登録物について述べなさい」
「妻が残した扇です。親骨を折り、自ら家名を捨てる意思を示した。発見時はひどく汚れておりましたので、扇面は洗浄し、傷んだ箇所は張り替えさせました。宮廷へ供する品ですから、最良の職人を使っております」
オズワルド様は胸へ手を当てた。慈悲深い夫の完成である。あとは後光を注文すればよい。請求書はあの世へ回してほしい。
「申立人。異議は」
「ございます。わたくしは家名を捨てておりません。部屋へ閉じ込められ、譲渡書へ署名するよう命じられました」
「偽者の作り話だ」
「まだ申立人の発言中です」
筆頭女官様の声に、オズワルド様の口が閉じた。二点減点。被せるなら最後まで被せなさいませ。格上の一声で引っ込める程度の勇気なら、最初からおしまいになって。
「署名を拒みました。翌朝、扇の親骨は抜かれ、わたくしは家名を捨てたものとされました」
「証拠はない」
「被申立人」
「……発言の許可をいただけますか、筆頭女官様」
「許可します」
ようやく人の話を聞く声になった。声量まで半分。宮廷という水は、たいへんよく効く薬である。
「その女は妻ではありません。妻は私の命に背き、家を捨てた。仮に生きていたとしても、私の前へ戻れるはずがない」
「なぜでございます?」
「何?」
「生きている妻が、オズワルド様の前へ戻れない理由を伺いました」
彼の眉が動いた。ほんの少し。それでも、礼を一つ省いたので胸中の帳面にはきちんと記した。
「家を捨てた女に、夫へ問い返す権利などない」
「なるほど。では、家を捨てていない女にはございますね」
大広間の空気が喉を鳴らした。誰も声にはしない。ありがたい。群衆の感想まで聞かされたら、査定より先に日が暮れる。
私は袖口へ指を入れた。硬い輪郭をつまむと、掌に残っていた跡へまた角が重なる。
取り出した親骨は、黒ずんでいた。艶も消え、先端は欠けている。壇上の白絹と比べれば、舞踏会に迷い込んだ薪のようだ。
けれど、オズワルド様の笑みはそこで止まった。
「それを、どこで」
「妻ではない者の持ち物に、ご興味がおありですか」
「答えろ」
私にだけ、許可も敬称もいらないらしい。結構。減点欄が足りなくなってきたので、裏面を使おう。
「筆頭女官様。こちらを査定物としてお預けします」
「認めます」
私は親骨を銀盆へ置いた。手を離した途端、指が勝手に曲がった。もう握らなくてよいと分かるまで、少々時間がかかるらしい。
「盗品だ」
オズワルド様が言った。
「その女が扇から抜き取ったに違いない」
「抜き取った者が、欠けた扇を家名放棄の証しとして残し、抜いた親骨だけを持って逃げたと?」
「そうだ」
堂々たる主張だった。扇を壊して逃げるなら、普通は証拠になる残りも持っていく。だがオズワルド様の中の私は、逃走の忙しい最中にも夫の再婚手続きを助ける、たいへん気の利く妻であるらしい。
扉脇に控えていた女官が、ひとりの女性を前へ導いた。灰色の奉公服、飾りのない袖。マルタは私を見ず、筆頭女官様へ礼をした。
あの夜も同じ袖だった。
扉の外では雨樋が詰まり、窓を打つ水音が足音を消していた。マルタは縫い針を入れる細長い筒へ親骨を押し込み、私の手へ渡した。奉公人用の洗濯籠に外套を隠し、裏の荷受け口へ来る商隊の名だけを告げた。
捨てろと命じられたものを、彼女は捨てなかった。私もついでに捨てられずに済んだ。
「元衣装係侍女マルタ。親骨を所持していた経緯を述べなさい」
「はい。オズワルド様より、欠けた扇を処分するよう命じられました。その際、扇から外されていた親骨を奥様へお返ししました」
「私は扇を処分しろとは命じた。だが、偽者へ渡せとは——」
「マルタ。命令を復唱しなさい」
オズワルド様の声が、奉公服の肩へ落ちた。太く、速く、逃げ道を塞ぐ声。よく知っている。反撃しない者へ向ける時だけ、彼の言葉は立派な軍靴を履く。
マルタはそこで初めて私を見た。
「捨てるよう命じられたのは扇でございます。奥様ではありません」
短い返答だった。オズワルド様の口元が歪む。私は一度だけ息を継いだ。
あの夜、荷受け口から乗った商隊で、私は縫い子になった。礼装の裾を摘まんでいた指で荷覆いを繕い、貴婦人の胸元へ真珠を留めていた目で、破れた麻袋の目を拾った。絹より麻のほうが正直だ。破れた場所を隠さない。
旅の途中でレオニス様に会った時も、私は彼の外套の裂け目を縫った。彼は私の名を尋ね、私が答えないと、それ以上は聞かなかった。辺境侯だと知ったのは、代金の代わりに差し出された硬貨を三度も断ったあとである。先におっしゃって。心臓に悪い。
けれど今、レオニス様はその名も爵位も査定台へ載せない。背に回した手を解かず、ただ待っている。
「親骨を」
筆頭女官様の指示で、女官が銀盆を壇上へ運んだ。
欠けた扇が留め具から外される。扇面はたしかに美しく張り替えられていた。白絹はしみ一つなく、銀糸の花は新品のように光っている。妻の痕跡を消す仕事に、オズワルド様は金を惜しまなかった。
「接合します」
筆頭女官様が親骨の折れ口を扇へ寄せた。
合わないように見えた。ほんの一瞬、私の息が止まる。
筆頭女官様が角度を変えた。黒ずんだ断面の山と谷が、欠けた箇所へ一つずつ入り込む。小さな音がして、親骨は元の位置へ戻った。
指を開く力を忘れていたレオニス様の拳が、その時だけ開いた。
「開扇します」
銀杖の先が扇の要へ触れた。
一枚目。二枚目。白絹が弧を描き、銀の花が大広間の灯りを受ける。最後の骨が伸びきった時、扇の内側から男の声がした。
『部屋から出すな』
オズワルド様の声だった。
『譲渡書へ署名させろ』
低く、苛立っている。宮廷用の蜜は一滴も塗られていない。
『親骨を抜いて処分しろ』
三つ目の命令が響き、扇は何も言わなくなった。
誰も動かなかった。楽団員の弓も、給仕の銀盆も、踊りかけていた靴先も、その場で止まっている。
オズワルド様だけが一歩下がった。
「偽造だ」
先ほどまで誇っていた笑みは、きれいに消えていた。
「その女が細工した。親骨へ声を仕込んだのだ。辺境侯の領地には、その程度の職人がいるだろう」
そこで初めて、彼は壁際のレオニス様を見た。レオニス様は動かない。反論も、威圧も、印章を掲げることもしなかった。
「レオニス様は、わたくしの査定に関与なさっておりません」
「庇うのか」
「関与していないと申し上げました」
「同じことだ! 家を捨てた女が辺境侯へ取り入り、私の再婚を妨げようとしている!」
オズワルド様は列席者へ向き直った。声を張り、壇上の登録簿を指す。
「宮廷記録には、妻が自ら失踪したとある。扇も正式に登録されている。どこの誰とも知れぬ女が古い骨一本を持ち込んだだけで、家格ある者の届けを覆すなどあってはならない。再査定を願います、筆頭女官様」
最後だけ敬称が戻った。実に見事な着地である。妻は怒鳴り、筆頭女官様にはお願い。採点するまでもない。答案用紙のほうから燃えている。
筆頭女官様は開いた扇を見下ろした。
「扇の親骨が元の品であることは認めます。声が被申立人のものであることも、本人が否定しないかぎり認められます」
「私の声を模したものです」
「では、否定するのですね」
「当然です」
「承知しました」
筆頭女官様は扇を閉じた。二度目の声はない。白絹の花はまた重なり、何事もなかった顔へ戻る。
「ただし、扇に残された命令だけでは、部屋に閉じ込められた者、署名を迫られた者、親骨を奪われた者が申立人であるとまでは確定できません」
胸の奥で、床が一段抜けた。
列席者の視線が私から逸れていく。今しがたこちらを見ていた者ほど早い。宮廷人は敗者の見分けが早い。勝者を見分けるより、ずっと。
「ご覧ください」
オズワルド様の声へ、再び蜜が戻った。
「声の真偽すら怪しい。仮に私の命令だったとしても、使用人への指示かもしれない。それをこの女は、自分が妻だった証拠だと言い張っているのです」
「申立人。返答を」
私は袖口の中で指を曲げた。もう親骨はない。角の代わりに、掌へ残った四角い跡を爪でなぞる。
レオニス様は壁際にいた。まだ、動かない。
助けてほしいと思えば、きっと来る。だが彼が一歩出れば、オズワルド様はそこへ新しい物語を貼るだろう。辺境侯に唆された女。守られるために過去を捏造した女。夫から別の男へ持ち主を替えただけの女。
そんなもののために、私は戻ったのではない。
「わたくしは、婚姻へ戻ることを求めておりません」
自分の声が、大広間の奥まで届いた。
「家名を捨てたのでも、夫を捨てたのでもない。閉じ込められ、署名を迫られ、名を消された者として、記録の訂正を求めています」
「妻でないなら、おまえに発言権はない」
オズワルド様が被せた。
私は彼を見た。
「私はもう、あなたの妻ではありません」
列席者の視線が戻る。
「ですから、あなたの許しを得て話す必要はございません。わたくしは宮廷より発言を許された申立人として、最後まで申し上げます」
「詭弁だ」
「申立人の発言中です」
筆頭女官様の一言で、彼の声がまた痩せた。
「……失礼いたしました」
今度は礼までした。ようやく人の話を聞く声になった。遅い。たいへん遅い。採点表を提出したあとで筆記具を整えている。
「続けなさい」
「はい、筆頭女官様。扇の声だけで命令の相手が定まらないとのご裁定、承知いたしました」
女官が壇下へ戻した銀盆へ手を伸ばした。接合された親骨を外そうと、扇の端へ指をかける。
「触るな!」
オズワルド様が壇上から下りた。
一歩、二歩。私が親骨をつまむより早く、彼の指が私の手首をつかんだ。骨の上へ食い込む力は、あの夜と同じだった。
「これは私の家の品だ。おまえが持つものではない」
「お離しください」
「親骨を寄越せ」
「オズワルド様、その手をお離しください。二度目は、皆様が見ておいでです」
彼の指がさらに締まった。私の身体を自分の前へ引き寄せ、空いた手で大扉を示す。
「衛兵! その女を取り押さえろ!」
扉が開いた。甲冑の足音が大広間へ入ってくる。
「その親骨を奪え! 部屋から出すな、査定が終わるまで閉じ込めておけ!」
衛兵たちは足を止めた。
「その女を取り押さえろ」
先頭の衛兵が命令を復唱した。
オズワルド様は私の手首をつかんだまま頷いた。勝ったつもりなのだろう。過去の声を偽造と呼びながら、その命令を一語ずつ自分の口へ戻している。
筆頭女官様の銀杖が、床を打った。
「査定を成立とします」
「何?」
「扇の声だけでは、命令の相手は定まりませんでした」
筆頭女官様は私の手首へ視線を落とした。そこには夫の指がある。逃げられないよう、親骨を奪えるよう、きっちりと。
「被申立人は申立人を見て、親骨を奪え、部屋へ閉じ込めろと命じました。過去の命令が誰へ向けられたものか、現在の行為によって自ら示したのです」
「違う。これは偽者を拘束しようと——」
「家を捨てた妻にも公正な機会を、とあなたは申しました。その申立人の発言を力で止め、査定物を奪い、宮廷の許可なく拘束しようとした」
オズワルド様の指が緩む。だが、もう遅い。
「査定を仕上げたのは、あなたご自身です」
なんという公平な採点。最後の一問だけ、本人に解かせてくださった。
胸の奥へ、熱いものが落ちた。ざまあみなさい、と宮廷語では何と言うのだったか。あいにく習わなかったので、胸中でそのまま申し上げておく。ざまあみなさい。
「衛兵。虚偽登録および査定妨害の疑いにより、オズワルドを拘束なさい。申立人には触れてはなりません」
「オズワルドを拘束します」
衛兵たちが復唱した。
先頭の二人が私の横を通り過ぎる。私には触れず、オズワルド様の両腕を取った。
「待て。私が呼んだのだぞ」
彼は拘束された腕を引いた。
「私の再婚認可はどうなる。今夜の列席者を待たせているのだ。家の体面を何だと思っている!」
私の名は出なかった。最後まで見事である。妻を消した男は、取り押さえられてなお、自分の飾りだけを数えている。
「再婚認可は停止します」
「筆頭女官様、再考を。これは誤解です。あの女が私を怒らせ、故意に——」
「連行しなさい」
「連行します」
衛兵がオズワルド様の腕を背へ回した。
彼の胸元から、金糸の飾り紐が外れた。再婚認可を願う男だけが身につける、今夜のための飾りだった。床へ落ち、磨かれた石の上で頼りなく跳ねる。
私はそれをまたいだ。
誰かの妻だった証しにも、誰かの次の妻になる許可にも、もう足を止めなかった。
先に向かったのは壁際ではない。奉公人の列の端で、小さくなっていた灰色の服の前だった。
「マルタ」
役職も、元侍女という呼び方もつけない。彼女は顔を上げた。
「あなたが親骨を返してくれたから、私はここへ戻れました。あの夜、私まで捨てないでいてくれて、ありがとう」
「奥様、私は命じられたものを——」
「セレナです」
マルタの唇が閉じた。胸の前で重ねられた手が、一度だけ強く握られる。
「はい。セレナ様」
「あなたが命令に背いた罪を問われることはありません」
筆頭女官様の儀礼文が、私たちの間へ静かに届いた。
「廃棄を命じられた登録物を査定へ保存した行為として記録します。連座も処分も認めません」
マルタは深く礼をした。今度はオズワルド様へではなく、筆頭女官様へ。そして、私へ。
私は振り返った。
オズワルド様は衛兵に挟まれたまま、まだ再婚認可と家の体面を訴えている。その声へ向けて、私はもう一度だけ言った。
「私はもう、あなたの妻ではありません」
今度は、発言権を守るためではない。彼の言葉が届く場所から、私自身の足で出るためだった。
壁際で、レオニス様が背に回していた手を解いた。
それでも彼は近づいてこない。私が飾り紐をまたぎ、オズワルド様へ背を向け、彼の前まで歩ききるのを待っている。
私が立ち止まると、レオニス様は何も言わず、素手を差し出した。印章も剣だこも隠さない手だった。
「レオニス様」
「はい」
短い返事のあと、彼は待った。いつものように、私が答えないことまで急かさない。
私は自分から、その手を取った。
「ずいぶんお待たせしました。今度の伴侶は、私が選んでもよろしいでしょう?」
「私を?」
「ほかにどなたがいらっしゃるのです。ここで大広間全員を候補へ入れますと、今夜中には終わりません」
レオニス様の口元がわずかに上がった。
「では、急いで選んでいただきたい」
「もう選びました」
握った手が、初めて私の指を握り返す。
「私ですか」
「何度も言わせるおつもりですか?」
「待つのには慣れています」
その一言には勝てなかった。まったく、抑えた方ほど最後に妙な武器を出してくる。
「では、もう待たせません。レオニス様、私と踊ってくださいますか」
「喜んで」
止まっていた楽団が、筆頭女官様の一瞥で息を吹き返した。
私の席も名札も、まだ大広間にはない。それでよかった。誰かが用意した場所へ戻るのではなく、私は落ちた飾り紐の向こうで、自分が選んだ手と最初の一歩を踏んだ。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
「悪くなかったな」と思われたら、★や感想を残していってもらえると、とても励みになります。
作者ページには他の短編も並んでいます。よろしければどうぞ。




