踏み出してはいけない一歩
俺はビルの屋上に立っていた。
綺麗な夜景だ。
人生最後に見る光景がこれなら悪くない。
「自分が住んでいた場所もこうして見ると絶景だな。普段ならなんとも思わないってのに」
そして俺は改めて決心した。
一歩、二歩。
少しずつ進んで行く。
なんだか足取りが重い気がする。
そうして、屋上の端まで来た。
風が強い。
「決めていたはずなのにな。最後の一歩ってやつは流石に怖い」
屋上の端から、下を覗いた。
でも覗いたらまた怖くなる。
だからすぐにやめた。
息を大きく吸った。
息を大きく吐いた。
目を閉じる
「よし」
そう、最後の言葉を呟いて、俺は一歩を…
「ちょっと」
声が聞こえた。
女の子の声だ。
人なんて絶対にいなかったはずだ。
それなのに、まるで最初からいたかのように感じる。
足が止まった。
そして、ゆっくりと振り返る。
肩ぐらいまで髪のある、銀髪の少女だった。
どこかの制服のようなものを着ている。
「誰だ?」
そうやって問いかけてみた。
「君、飛び降りようとしてたでしょ?」
なんだこいつは。
誰だ?と聞いたのにフル無視してきた。
「ああ」
とりあえず答えた。
「なんで自殺なんてしようと思ったの?」
「別に理由なんてどうでもいい」
「君、本当は飛び降りるの怖がってたよね?いや、怖がるのは当たり前か。でも、死にたくないと心のどこかでは思ってたんじゃないの?」
「違うが?」
「ほーん」
たしかに俺は少し、最後の一歩を躊躇した。
しかし、それだけだ。
別に死にたくないだなんて思っていない。
思っていないはずだ。
「でも君、最後の一歩を踏み出すのに小一時間はかかってたじゃない。屋上に来たのだってもう二時間も前でしょ?」
「は?」
意味がわからなかった。
俺は屋上に来てそんなにも時間が経っていたのか?
体感では10分も経っていない。
時計を持ってきてるはずもなければ、ここに時計が設置してあるわけでもないので確認しようがないのだが。
「自殺ってのは自分から辞めるのが一番だからね。だから辞めるまで待っててあげたのに、結局一歩踏み出しちゃったから止めるしかなかったじゃない」
「というわけで、やっちゃって」
少女の声が聞こえた。
途端、意識が途切れた。




