森を抜ける前の試練──初めての戦闘
森の中を慎重に歩きながら、ルーファウス──いや風間真は、
ときおり胸の奥に湧く違和感を無視できずにいた。
(歩き方が……なんか妙に馴染むな。俺、こんな足運び覚えた覚えないのに)
身体は迷いなく前へ進む。
木の根を避け、獣道の跡を自然に選び、気配の薄いルートを踏む。
だが、それを“している理由”を自分の頭は理解していない。
この噛み合わなさがむずがゆい。
そんな中、草むらが揺れた。
チリ……と背筋を走る緊張。
ルーファウスの体が勝手に構えの姿勢へ移行する。
(えっ……待て、まだ覚悟できて……)
黄緑の影──ゴブリンが飛び出す。
ルーファスは条件反射で剣を抜いた。
だが、握った瞬間に手汗で柄が滑り、構えがわずかに乱れる。
ゴブリンが突進。
脳は“危ない”と叫んでいるが、体だけが勝手に動く。
剣が自然に横へ振られ、ゴブリンの攻撃を弾いた。
ギィン!
「っ……!」
衝撃に腕がしびれる。
体は慣れていても、心は初めての実戦に近かった。
(いやいやいや……俺こんな戦い慣れてない……!)
ゴブリンが二度目の突進を仕掛ける。
強くはないが、速い。
距離が近いと普通に危険だ。
風間の精神は焦っている──
だがルーファスの体は前へ踏み込んでいた。
「う、わ……っ!」
無意識の踏み込み。
足が勝手に最適な角度で入り、剣筋が自然にゴブリンの胴へ滑る。
ザシュッ。
斬撃は浅く、急所は外した。
(やっぱり簡単には倒れないよな……!)
ゴブリンがよろめきながら反撃してくる。
ルーファスは剣を構え直すが、手が震えている。
風間真の恐怖と未経験ゆえのギャップだ。
ゴブリンの刃が迫る──
「──《身体強化》!」
反射的に魔力を巡らせる。
うまくは使えていない。それでも、ほんの少しだけ動きが噛み合った。
足を踏み込み、渾身の力で突き出す。
ズドッ。
ゴブリンが倒れ、しばらく痙攣したあと動かなくなった。
「……はぁ……はぁ……っ、なんだよこれ……」
剣を握る手は細かく震えていた。
身体は戦い慣れている。
だが、心はまだ追いつけていない。
そのギャップこそが、
“融合したばかりのルーファウス”のリアルな違和感だった。
ルーファウスはゆっくりと呼吸を整え、
自分の身体と心がまだ一致していないことを痛感する。
「……まずは、慣れないとな」
そう呟き、剣の血を拭う。
森の静寂が戻る。
まだ旅は始まったばかり──
本当の意味で自分を取り戻すための、一歩目だった。




