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ルーファウス、混乱と新たな世界

ルーファウスは混乱した思考を整理しながら、周囲の景色に目を向けた。深い森の中、辺りはただの木々と静寂が広がっている。身の回りに目を凝らしながら、どこかからか聞こえてくる鳥の声や風の音を耳にして、冷静さを取り戻そうとする。


だが、その一方で、心の中にはある種の違和感がこびりついていた。それは、自分の身体の変化に対する戸惑いと、この世界がどこか過去の知っている現実と異なることを認識しているからだ。いや、もっと正確に言えば、違和感はただの身体的なものだけではない。記憶の中で何かが「足りない」と感じていた。自分に宿るルーファスの記憶が断片的で不完全だ。


「ルーファウス…僕は…」心の中で、かすかに自分の名前をつぶやいた。その名前はどこかで聞いたことがあるような、いや、まるで自分の一部のように感じられる。だが、今はその名前が何を意味するのかも、どんな人物だったのかも、曖昧な記憶の中に浮かんでいるだけだ。


記憶の隙間を埋めようと、必死に思い返してみる。


すると風間真とルーファウスの記憶がゆっくり混ざり合い始め、一部であるがその奥に沈んでいた映像が、かすかな揺らぎをともなって浮かんできた。


ルーファウスが育ったリィナ村。

 素朴で、どこか土の匂いが似合う小さな村だ。


 十五で成人し、村仕事を続けながら、彼はずっと思っていた。

 **“このままでは終われない”**と。


 三年かけて蓄えたわずかなコイン。

 それを手に、十八歳の春、彼はついに旅立った。


 目指すは王国キルシュタインの交易都市──

 アルマヴィア。


 あの街で、冒険者ギルドで仕事を見つけよう。

 もっと広い世界を、きっと見られる。


 そう信じて歩いた街道の景色は、今も鮮明だ。


 ──しかし記憶は、ある地点で途切れる。


 そこから先は、霧の向こうのように手が届かない。


「……本当に覚えていないんだな」


 ルーファウスとしての意識が戸惑いを落とす。

 風間真の思考がそれを冷静に観察する。


(道中で何かあった……。けど何だ? 痛みの記憶も、戦った記憶もない。ただ、“そこで止まった”という感覚だけがある)


 不気味な空白。

 思い出そうとすると、のど元に刺がひっかかるような不快な感触が生まれる。


 だが──その瞬間だった。


 風間真の側の思考が、ふと何かに触れた。

 かつてサラリーマンとして働いていた頃の、“電車で居眠りして駅を乗り過ごした瞬間の感覚”。

 あの、意識が一瞬だけ闇に落ちる瞬間に近いもの。


 その感覚が、記憶の表面に波紋をつくった。


 途端に、ぼんやりとした光景が蘇る。


 ──夕暮れの街道。

 長い影を引きずる自分の足。

 遠くに見える、石造りの小さな橋。


 そして。


 背後から何かに襲われた感覚。違和感に気づいて振り向いた瞬間だった。


「……!」


 ルーファウスの心が凍りつく。

 だが、そこまでだった。


 何があったのかも、まるで霧に覆われている。


 その欠片に風間真の意識が触れると、記憶はまた暗闇の底へ沈んでいった。


「たしかに……何か、あった。でも、まだ全部は見えない」


 自分の声が震える。

 生死の境界にあったことだけは、確かな実感として残っている。


 だが、その決定的な瞬間までは、まだ理解が及ばない届かない。


 ──そして気づけば森の中で目覚めていた。

 風間真とルーファウスが混ざり合った“新しい自分”として。


 消えた記憶の正体はまだ掴めない。

 けれど、その影の端は今、ようやく指先で触れることが出来たがそれ以上のことがわかるかは

 正直わからない。


 ルーファウスが何に遭遇し、なぜ命を落としたのか。


 その答えは、まだ深い闇の中にあった。


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― 新着の感想 ―
二人の人格が混ざり合っていく過程が丁寧に描かれていて、単なる「入れ替わり」ではない深みを感じました。 特に、故郷のリィナ村からアルマヴィアを目指すまでの期待感と、その直後に訪れる「不気味な空白」との対…
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