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警告の先、想定外⑥

  ――完全な沈黙。


 さっきまで、

 地面そのものが敵だったとは思えないほど、

 森は静まり返っていた。


 剣を支えに、膝をつく。


 息が、うまく入らない。


(……生きてる)


 そう思った瞬間だった。


 胸の奥に、

 重たい流れが押し込まれてくる。


 熱でも、痛みでもない。

 ――異物が、流れ込む感覚。


(……魔力?)


 次の瞬間。


 視界の端で、

 見慣れた表示が弾ける。


 Lv Up

 Lv +1

 Lv +1


「……二つ?」


 呟いた声は、掠れていた。


 身体が、軽い。


 さっきまでの痺れ。

 筋肉の軋み。

 呼吸の苦しさ。


 ――それらが、

 底から塗り替えられていく。


(回復……してる?確認したいが今ではない。)


 治った、というより――

 上書きされた感覚だった。


 そして、遅れて理解する。


(あれの……魔力だ、いや存在か。)


 倒した瞬間、

 確かに感じた。

 前回のレベルアップ時には感じなかったものだ。


 樹影鬼の中に溜め込まれていた、

 濁った、重たい力。


 それが、

 自分の中に流れ込み、

 削られ、砕かれ、

 レベルという形で定着した。


(……この世界)


 喉が、無意識に鳴る。


(生きるって……

 奪うことなんだ)


 倒す。

 殺す。

 終わらせる。


 その結果、

 相手の“格”が、自分に積み上がる。


 善悪じゃない。

 ただの構造。


(……理解したくなかったな)


 そう思いながら、

 視線を落とす。


 裂けた幹。


 焼け焦げた断面。

――そこで、

 ようやく気づく。


 足元に、砕け散った木質の欠片。


 形のある“何か”は、残っていない。

 だが――

 斬った感触だけが、はっきりと違っていた。


 狙ったわけじゃない。


 生き残るために、

 叩き続けた、その結果だ。


 周囲を、素早く確認する。

 

 他の魔物の気配は、ない。


(……今のうちだ)


 意識を切り替え、

 アイテムボックスを開く。


 幹の一部。

 太い根。

 焦げた中枢の残骸。


 価値があるかどうかは、後だ。


 今は、生き延びた証拠を消す。


 次々と、収納。


 最後に、

 血と泥に汚れた剣を見る。


 レベルアップの余波か、

 手の震えは、少し収まっていた。


(……回復した、だけだ)


 余裕なんて、ない。


 運が、味方しただけ。


 ゆっくりと立ち上がり、

 森の奥を一度だけ振り返る。


 そこにあったのは、

 勝利でも、達成感でもない。

 ――この世界で生きる覚悟だった。


 剣を納める前に、

 ルーファウスはもう一度、深く息を吸った。


「《気配察知》」


 魔力を、薄く広げる。


 森の音が、輪郭を持つ。


 風。

 葉擦れ。

 小動物。


 ――敵性反応、なし。


(……今のところは)

 油断はしない。


 すぐさま《身体強化》

 をかけ、森狼との前哨戦のあった場所を目指す

 

 視線を巡らせ、

 少し離れた場所に横たわる影を見る。

 

 「あった。」


 森狼。

 数は、三。


 樹影鬼に追われていただろうあの群れだ。


 近づきながらも、

 気配察知は切らない。


 まず一体目。


 血が乾きかけている。


 傷の形から、

 自分の剣ではない場所があると分かる。


 手早く、そのままアイテムボックスに死体を回収する。


 二体目、三体目も同様。


 すべてをアイテムボックスに収めたところで、

 ふと、自分の足元を見る。


 踏み荒らされた地面。


 焼け焦げ。

 風で裂けた草。

 湿った土。


(……派手にやりすぎた)


 自嘲が、喉の奥で転がる。


 火。

 風。

 水。


 ――三属性。

(一般の魔法職なら、三つは不自然ではない。)


 だが、自分が表に出す属性については数、属性ともに決めかねていた。


 しかも自分は、

 魔法職ですらない。後発的に得た能力を開示できない以上、

 できるだけ自然に説明できる方法について悩んでいた。


(……長居は無用だな)

 ここで、ようやく気づく。


(……俺)


 魔力草に、

 意識を持っていかれていた。


 数。

 品質。

 売値。


 自分都合で危険域の認識を、

 どこかで勝手に決めつけていた。


(中央部をずっと北側だと思ってた。後、魔物はそこから動かないって決めつけてた。)


 だから、

 警戒線を、無意識に下げた。


 「慣れ」と「油断」は、確実に刃を鈍らせる。


(……反省だな)


 踵を返し、

 来た道を、最短で戻る。


 背中に、

 森の視線を感じながら。


(生きて帰る)


 それだけを、

 今は最優先に。

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