表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

警告の先、想定外③

 触手が来る。


 右、低い。

 剣で受け、弾き、返す。

 硬い感触が腕に残る。


 間髪入れず、左上。

 身体強化を一瞬だけ噛ませ、半歩でかわす。


 多いが少しだけ慣れた。何とか対処できている。

 だが、相変わらず数が多すぎる。


 処理しても、次が来る。

 かわしても、別方向から来る。


(剣だけじゃ――追いつかない)


「《エアスラッシュ》」


 不可視の刃が走る。


 正面一帯、空間ごと薙ぐように。


 三本。

 同時に、触手が断ち切られ、地面に叩き落とされた。


 だが――


 すぐには、次が来ない。


(……来ない?)


 呼吸の合間に、違和感が差し込む。


(今までなら、もう次の波が来てる)


 視線を走らせる。


 地面が、蠢かない。


(間引いた分……制御が遅れてる?)


 理解が、点で繋がる。


 特徴的な長い触手。


 「ひょっとして、同時制御の本数には、限界があるのか

  現状3~5本の触手が連続で繰り返し攻撃してきてる」

(全部を、同時には動かせない)


 だから、剣で一本。

 エアスラッシュで複数。


 処理された分だけ――

 一瞬の空白が生まれる。


 その瞬間を、逃さない。


 剣を引いたまま距離を保ち、腰のポーションを抜く。

 触手が、来ない。


(今だ)


 栓を噛み切り、一気に流し込む。


 熱が腹から広がる。

 削られていた感覚が、わずかに戻る。


(……助かった)


 だが、長くはもたない。


 次の瞬間、地面がざわりと動く。

 触手が再び現れ始める。


(回復してきてる……)


 数は、まだ戻りきっていない。

 だが、このまま続ければ――


(消耗戦は、負ける)


 逃走ルートを思考する。

 背後、横、上。


 どこも“地面”が生きている。


(無理だ)


 距離を取れば、数で削られる。

 留まれば、囲まれる。


 剣で一本、弾く。

 次の触手をかわしながら、確信が生まれる。


(隙は……制御分散と長い触手)


 エアスラッシュで間引いた今、

 制御は一時的に破綻している。


(今なら――行ける)


 選択肢は、一つ。


 剣を構え、地面を蹴る。

 触手の“来ない空白”へ、一直線。


 地面が揺れる。

 反応が、遅い。


(間に合ってない……!)


 ルーファウスは、さらに踏み込んだ。


 ここから先は、

 本体を叩くか、死ぬか。


 退路は、もう存在しなかった。


 踏み込んだ瞬間、地面が――唸った。


(来る……!)


 横一文字。

 これまでとは明らかに違う、質量と速度を乗せた一本。


 避けきれない。


 判断より先に、身体強化を瞬間的に引き上げる。

 前ではなく、斜め内側へ転がり込む。


 触手が、視界の端を薙いだ。


 風圧。

 衝撃。

 背後で、地面が抉れる音。


(……今のは、直撃したら終わってた)


 喉が鳴る。


 だが、足は止まらない。


 転がりながら体勢を立て直し、

 触手の根が集中している地点へ、距離を詰める。


 距離を詰めたことで、ようやく――全体が視界に収まった。


 最初に浮かんだ言葉は、

 木の化け物。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 太い根が、幾重にも絡み合い、

 地面から盛り上がるようにして胴体を形作っている。


 だが、それは「生えている」ではなかった。

 地面を引きずり上げて、自分の身体にしているように見える。


 土と樹皮の境目は曖昧で、

 どこまでが地面で、どこからが“そいつ”なのか判別しづらい。


(……でかい)


 思わず、そう思った瞬間。


 胸の奥が、じわりと冷えた。


 怒気でも、殺意でもない。

 ただ存在しているだけで、空気を支配している圧。


 息を吸うと、

 湿った土と、樹脂の匂いが肺にまとわりつく。


 空気が、重い。


 足元の地面が、わずかに震える。

 それだけで、体の奥がざわついた。


(……近づいただけで、これか)


 これまで戦ってきた魔物とは、明らかに違う。


 速いとか、硬いとか、

 一撃が重いとか――そういう比較が成り立たない。


 ここにいるだけで、場を塗り替えている。


 そう感じさせる“何か”。


 根が、ゆっくりとうねる。


 その動きは、まだ攻撃とは呼べない。

 それでも、反射的に剣を強く握り直していた。


(気を抜いたら……飲み込まれる)


 知性があるのかは分からない。

 感情があるのかも分からない。


 だが――


(長く、生き残ってきた存在だ)


 この森で、

 侵入者を退け、追い払い、

 あるいは――消してきたもの。


 ここに在り続けた結果が、これだ。



 怖い。

 正直に言えば、それは否定できない。


 それでも、視線は逸らさなかった。


 目の前にあるのは、

 名も分からない“木の化け物”。


 ルーファウスは、

 その圧を全身で受け止めながら――

 どう生き延びるかだけを、必死に考え始めた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ