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森の外れにて②(──静かな小空き地)

 意識を外さず、ルーファウスは小さく息を吐きながら、続けざまにもはや使い慣れた

 感のある魔法名をつぶやく

 

「──《クリーンアップ》」

 MP:122 → 119(-3)


 魔法名を口にした瞬間、

 足元から柔らかな魔力が広がった。


 草葉についた泥、剣身に残っていた獣の体液、

 衣服に染み込んだ汗と埃。


 それらが一斉に浮き、拭い取られるように消えていく。


 派手さはない。

 だが、確実だ。


 肌にまとわりついていた不快感が消え、

 呼吸が一段、楽になる。


 (剣の汚れまで……これは、本当に助かるな)


 狩りの後始末を思えば、

 これだけで手間が大きく違う。


 剣を鞘に戻し、

 ルーファウスは次に意識を切り替えた。


 次に試すべきものは、決まっている。


 ――《ステータス・オープン》。


 淡い光の板が視界に浮かび、能力値の下、GIFT非公開欄に並ぶ項目へと視線が落ちる。


■《道具融合ツール・インテグレーション》

■《残響知識レミナント・メモリー》


(……この二つか)


 まずは《道具融合》。

 文字に意識を触れた瞬間、手元に何もないはずなのに、掴める感覚があった。


「……?」


 反射的に、空いている手を前に差し出す。


 ――次の瞬間。


 ぽとりと、何かが掌に落ちた。


「……は?」


 反射で受け止めたそれは、

 見慣れた形をしている。


 白い小袋。

 指先で揉むと、さらさらと中身が動く感触。


(……塩?)


 匂いを確かめる。

 間違いない。現代で使っていた、あの感覚だ。


 周囲を一瞬見回す。

 誰もいない。気配もない。


「……落ち着け」


 胸の内でそう言い聞かせ、もう一度意識を巡らせる。


(今のは……生成? いや、呼び出した?)


 理解は追いつかない。

 だが――使い慣れた“物”が、当たり前のように手元にあるこの感覚だけは、妙にしっくり来た。


(……道具融合、か)


 視線を戻すと、非公開欄の中に、

 今まで気づかなかった**“収納を示す感覚”**が確かに存在している。


 試しに、塩の袋を意識で押し込む。


 ――消えた。


 同時に、

 「そこにある」と分かる場所が、頭の中に残る。


「……なるほど」


 思わず、口元がわずかに緩んだ。



 理解しきれないまま、

 だが確信だけは残る。


 これは、当たりだ。


 MP:119 → 119(変動なし)

 

 塩の袋をしまい込み、ルーファウスはしばらくその場に座ったまま、森を眺めていた。


 木々の隙間から差す光。

 湿った土の匂い。

 遠くで鳥が鳴く。


 ステータス画面を意識したまま、

 もう一つの非公開GIFTを思い出す。


《残響知識レミナント・メモリー》


(知識、だったな……)


 だが、調べようとしても、

 さっきの《道具融合》のような“触れる感覚”はない。


 代わりに――

 視界の端に、一本の木が入った。


 樹皮が剥がれ、内側がわずかに黒ずんでいる。


「……?」


 特に気にする理由はない。

 ただ、なぜか足が止まった。


 次の瞬間。


(――ああ、これ)


 説明のない理解が、思考の隙間に差し込まれる。


(内側から傷んでる。

 この感じ……見た目より脆い)


 理由は思い出せない。

 だが、“そうだ”という確信だけが残る。


 無意識に、近くの枝を拾い、軽く叩いてみる。


 ――鈍い音。


 「……」


 もし戦闘中に、この木を背にしていたら。

 あるいは、登ろうとしていたら。


(……折れてたな)


 背筋に、薄く冷たいものが走る。


 改めて周囲を見渡すと、

 他にも“気になる違和感”が目に入る。


 湿りすぎた地面。

 足を取られやすい傾斜。

 風向き。


(……俺、こんなところまで分かってたか?)


 狩人としての経験――

 それだけでは説明がつかない。


 だが同時に、

 知らない知識を使っている感覚もない。


 ただ、「今はそう判断するのが正しい」と分かる。


(これが……残響、か)


 必要なときにだけ、

 思考の隙間から“答えの欠片”が浮かぶ。


 便利だが、万能ではない。

 使おうとして使えるものでもない。


(……だが、十分だ)


 ルーファウスはそう結論づけ、

 再び森の奥へと視線を向けた


 森の空気を胸いっぱいに吸い込み、ルーファウスは立ち上がった。

 そして一息ついて再びつぶやく。


(道具融合……)


 頭の中でそう思った瞬間、

 先ほどとは違う感触が、指先に集まる。


 掴む、ではない。

 “流す”感覚。


 視線を落とすと、腰に下げた剣が目に入る。


 ロングソード。

 見慣れた重さ、見慣れたバランス。


(……何か、試したくなる不思議な感覚がある)


 剣を抜き、木陰で構える。

 周囲に気配がないことを、感覚で確かめてから――


 魔力を、刃の表面へと薄くなぞるように流した。


 瞬間。


 剣が、わずかに澄んだ音を立てる。


 刃の縁が、光を拾いやすくなった気がした。


「……切れ味、か?」


 確信はない。

 だが、違いは分かる。


 近くの倒木に向かって、軽く振る。


 ――抵抗が、浅い。


(……深く入る)


 力を込めたわけじゃない。

 それでも、刃が材を“選ばず”進んだ。


 すぐに魔力を引く。


 剣は、元の重さに戻った。


(短時間……だな)


 長くは保たない。

 だが、必要な瞬間に使うなら十分だ。


 今度は、ほんの一瞬だけ、

 刃全体を包むように魔力を巡らせる。


 今度は――


(……軽い)


 重量が消えたわけじゃない。

 振り出しが、明らかに早い。


 ただし、制御を誤れば振り過ぎる。


「……」


 戦闘中に連発する類のものじゃない。

 だが、一手を通すには十分すぎる補助だ。


 そこで、ふと理解が追いつく。


(さっきの道具融合とは……別だな)


 さっき使用した道具融合の“引き出す感覚”とは違う。

 こちらは、今ある道具を“戦える形に寄せる”感覚。


 狩人としての経験が、自然と結論を出す。


(準備と工夫。

 それを、このスキルで肩代わりしてる)


 剣を鞘に戻し、魔力を落ち着かせる。


 MP:119 → 119(変動なし)

 疲労は、わずか。

 ただ何となくすこし頭が重い感じがする。


(……使える)


 理解しきってはいない。

 だが、これで十分だと分かる。


 掌を一度、ぎゅっと握り直した。


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