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館もの伝奇ミステリ(?)に転生して全事件を解決したら館の美女母娘とメイド姉妹に終身●●された冴木ハクアの袋小路  作者: 所羅門ヒトリモン


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File.2「舞台:美女屋敷『玲瓏館』」



[では、時系列順に話を始めてもらえるかな?]

[順を追って各事件を説明してもらえたほうが、分かりやすい]

[だが]

[まずはキミがなぜ、玲瓏館に足を運ぶコトになったのか]

[そこから始めてもらえると助かる]

[たしか、わたしの記憶ではパーティが理由だったと思うが]

[その記憶に相違は無いだろうか?]


 と、師匠は最初に訊ねた。

 もっともな質問だった。

 冴木ハクアが玲瓏館に雇われた切っ掛け。

 それは一番最初の事件へ繋がる物語の導入部とも言える。


「合ってます。僕はあるパーティに参加して、彼女──ジュリアさんに会いました」


[美園ジュリア]

[玲瓏館の主人であり、地元の名士である彼女は社交の場にもよく顔を出す]

[富豪というのは得てして、慈善事業にも手を出すものだが]

[その日のパーティは、ハクアが通う大学が主催をしていた]

[ありていに言えば、大学側が寄付金集めのために開いたパーティという話だったね]


「ええ。開催場所は町のホテルで、僕はゼミの教授に連れられて〝将来有望な若者〟っていう役を演じなきゃいけなかったんです」


 大学側が事前にピックアップした大学側参加者リスト。

 選ばれた教授たちは、それぞれ潤沢な予算を割いてもらうため、町の有力者に対して「我々はこれこれこういう分野でなになにを研究していて〜」と面白い話(アピール)をする役割を課せられていた。


 要するに、お金持ちの興味関心を惹いて、出来るだけ多くの寄付金を出させる。


 お題目は若者の教育のためとか、純粋な学問の発展のためとか、そういう感じで。

 ある程度お金持ちの自尊心や見栄なんかを満たしてやりながら、双方が気持ちよく快い関係性を築くコトを目的にしていた。


 目論見が叶えば大学側は潤うし。

 教授たちも、自分たちの研究予算が増えてWinWin!


 僕が専攻している民俗学の教授も、そうした背景を受けてパーティ参加者に選ばれていた。


「ただ、教授は極度の緊張症で、パーティ当日は体調不良で欠席だったんですよ」


[そう。たしかに、そういう話だった]

[大学内で民俗学は落ち目]

[学生から人気もなくて、〝楽単〟の噂を餌にしなければゼミも保てない]

[教授にはプレッシャーもあっただろうね]


 今年のゼミで真面目に民俗学を勉強しているのは、ハクアくらい。

 だから僕をサポート係兼、自らの成果物として披露するために、大学側に無理を言ってパーティに同席させる許可までもぎ取ったのに。

 哀れな教授は腹痛で、当日直前になってパーティを欠席するしかなかった。


「結果、後に残されたのはパーティ会場の壁際で、手持ち無沙汰にするしかない僕です」


[かわいそうに]

[キミはひとりぼっちになってしまったワケだ]

[周囲は見知らぬ大人だらけ]

[しかも、白髪の学生なんて、周囲からすればさぞ浮いたコトだろう]


「何人かに声はかけられましたけどね」


[ほう?]


「ただ、それもやっぱり僕の素性に疑問を抱いたのが理由で、正体が民俗学を専攻している学生だと分かると、そんなに興味は長続きしないようでした」


 非現実的な妖怪なんかの話に、理性ある大人たちは寄付金を出そうとは思わないらしい。

 退屈しのぎのエンタメ程度くらいにしか、町の有力者たちは興味を示さなかった。


「だもんで、僕に声をかけるような人も次第に少なくなって、ある程度ご馳走も堪能した段階で帰ろうかと思ってた頃です」


[キミの前に、美園ジュリアが現れたんだね?]

[彼女はどうして、キミに近寄って来たんだろう?]


「理由は当然、民俗学に興味があったから──()()()()


 ──はじめまして、美園ジュリアです。

 ──突然で不躾(ぶしつけ)ですけれど、あなたに娘の遊び相手をお願いしたいわ。


「どうも、僕の白髪を見て、〝如何にも最近の若者らしい〟とでも思ったみたいですね」


[ふむ?]

[察するに、目立つ髪色をしているコトが若者らしさと紐付けられているのかな]

[だが、それでどうして]

[美園ジュリアはキミを、娘の遊び相手になんて言ったんだろう?]

[良識的な母親であれば、普通、そこは真逆の属性を求めそうなものだが]


「おっしゃる通りです」


 ジュリアさんの人柄からしても、彼女は決してチャラついた若者を好ましいとは思わない。

 しかし、美園家の娘のうち、末っ子にあたる少女がギャルだったとしたら、どうだろうか?


[先ほどの簡易プロフィールでは、不良と付記していたね]

[なるほど]

[となると、彼女は自分の娘と()()()()()人間を求めて]

[ハクアに声をかけたのか]


「正解です」


 少し歳は離れているけれど。

 僕はまだ充分に若く、それでいて髪色も目立つ。


「ひょっとすると、大学内での民俗学がどういった状況にあるのかも、ジュリアさんは知っていたかもしれませんね。大方、楽単を目当てに民俗学を専攻した不真面目な学生だとでも考えたんだと思います」


[キミへの評価が低くないかい?]

[それだと、いくら何でも娘に引き合わせようとまでは、思わないんじゃないかな?]

[美園ジュリアは良識的な母親だったはずだ]


「その通り。だから彼女は、パーティ会場での僕をひそかに観察していたんです」


[観察]


「ジュリアさんに話しかけれる前に、何人かと会話していましたから」


[ああ、なるほど? 理解したよ]

[彼女はそこで、キミの言葉遣いや人柄を確認し]

[そこまでひどい若者ではないと値踏みをしたんだね]


「だと思います」


 少なくとも、このくらいであれば許容範囲内。

 僕はジュリアさんの母親ジャッジによって、合格を出されたワケだ。


 ──軽いアルバイトのようなものだと思ってくれていいわ。

 ──年頃の娘だから、いろいろ溜め込んでいるものが多いみたいで。

 ──少し、〝火遊び〟をしそうな気配があるの。

 ──家族には言えないコトもあるのよね。

 ──でも、あの子ってばお友だちも少ないみたいだから……

 ──危ない道に行く前に、どうにか止めてあげたいのよ。


「前々から心配していたんでしょう。ジュリアさんは一度依頼をすると決めたら、堰を切ったように不安を溢しました」


[見ず知らずのキミに対して、いきなりそんな話を打ち明けるほどだからね]

[あるいはハクアであれば、何かあったとしても容易に手綱を握れると判断した可能性もあるか]


「ハハハ。まぁ、あの時はジュリアさんの美貌とおっぱいに、めちゃくちゃ圧倒されてたので」


[V寄りのUカップだものね]

[ともすれば、そうしたキミの反応を込みで、御し易いと思ったのかもしれない]

[が、だとしても]

[やはり年頃の娘に対して、勝手に〝お友だち〟を用意しようというのは]

[親として、なかなか悪手な気もする]


「ですね」


 しかも、僕は男で歳上だ。

 思春期の女子高生に大学生の異性を近づけるのは、どちらにとってもよろしくない展開を招きかねない。


 特に、玲瓏館の美園一家とくれば、巷じゃ美女屋敷の美女一族と評判なのだ。


「もっとも、下手に手を出せば社会的にどうなるのか? そこは事前に、契約書を介して懇々(こんこん)と念押しされましたよ」


[契約書?]


「ええ。大切な娘が毒牙にかからないように、契約上、僕はコハクちゃんの家庭教師として雇われたコトになります」


[ほう]

[じゃあ、読解師として雇われるようになったのは、実際に事件が起こってからか]

[いいんじゃないかい?]

[たしかに〝遊び相手〟よりも、〝家庭教師〟って肩書きのほうが健全な関係性を構築できそうだ]

[娘を心配するあまりに迷走しつつも]

[きちんと良識も併せ持つ]

[美園ジュリアに対する理解が、これだけでもグッと深まってきたよ]


 師匠は機嫌良さげだ。

 久しぶりに食す伝奇憑きの情報に関して、さながら素材の鮮度や旬を吟味する料理人のような雰囲気を滲ませている。


「当のコハクちゃんには、〝家庭教師? テイのいいお目付け役でしょ!〟ってすぐに見抜かれたんですけどね」


[へえ]

[てっきり頭の軽い女の子を想像していたけれど]

[意外にも、鋭いところがあるのかな]


「頭の軽いって……」


 憑藻神はときどき毒舌だ。

 それはさておき。


「ともかく、僕はそうして約三ヶ月前、ついに玲瓏館の門をくぐったんです」


[いいね]

[民俗学を専攻する男子大学生が、町で噂の美女屋敷、玲瓏館に足を運ぶ切っ掛けは明かされた]

[では次に]

[舞台となる玲瓏館そのものについて、簡単な説明を願おうか]


「はい」



 ────────────


【玲瓏館邸】

 ― 海と町を見下ろす崖の上の美女屋敷 ―


【立地・地形】

 位置関係:

 山の斜面に築かれた崖上の一角。

 館の正面から遠景の海を楽しめる。

 眼下には港町が広がり、夜には街灯が星のように瞬くとも。

 一方で、背後には深い森と山。

 風が吹くと木々のざわめきが響く。

 前方の丘下には小道と古い石橋があり。

 崖は館の裏手から下に落ち込む地形で、海ではなく森に面している。


【館の概要】

 明治期に外国商人が建てたと伝わる石造りの館。

 後に美園家が譲り受け、和洋折衷の改築が加わった。

 白い外壁、青い瓦屋根、円形のステンドグラス窓。

 庭は段々状になっており、四季折々の花々や植物が植えられ、最下段にはプールもある。

 そのほか、温室(サンルーム)や展望塔、アトリエ、旧浴場やワインセラー、隧道(トンネル)の先の小神社なども敷地内にあり。

 地上三階、地下一階構成。



 [屋外]山と森

   ↑

 ┌───────────────────────┐

  ▣ 展望塔・アトリエ(3階)

 ├───────────────────────┤

  ▣ 私室フロア(2階) 美園家:南側 九条家:北側

 ├───────────────────────┤

  ▣ 共用フロア(1階) ホール/食堂/温室/応接間など

 ├───────────────────────┤

  ▣ 地下 :旧浴場/ワインセラー/隧道(神社へ)

 └───────────────────────┘

   ↓

 [外構]段々庭園・小径・小神社・プール

   ↓

 [丘・町・海]



 二階の私室フロアには、各住人の部屋が「〇〇の間」と名前付きで存在し、客室も同じ階にある。


 ────────────



「大まかに説明すると、こんな感じです」


[おお……]

[なかなか〝らしい〟お屋敷だね]

[七人もの伝奇憑きが生まれたと考えると]

[とても、ミステリアスな趣を感じるよ]

[地下にトンネルがあって、小さな神社まで敷地内にあるなんて]

[なんだか他にも、秘密の通路や仕掛け扉なんかがありそうだ]


「めっちゃワクワクしてますね」


[仕方がないだろう?]


 こういうのは醍醐味(だいごみ)なんだ、と師匠は興奮冷めやらぬ速度で文字を出力する。

 分からなくはなかった。

 玲瓏館の情報をまとめている時、僕も少なくない高揚を覚えたから。


 男の子なら、秘密基地めいたお屋敷を探索するのにワクワクするのは当然だろう?


 それに、館の謎や怪しげな雰囲気は、住人である七人の美女たちの秘密をも(かぐわ)しく感じさせ……暴きたい、という欲求を密かに刺激してもいた。


[それで?]

[麗しくも妖しい玲瓏館で]

[キミが最初に遭遇した伝奇憑き]

[美女の心の闇に巣食った怪異とは]

[一番目の事件とは、何だったのだろう?]


 基本となる登場人物、舞台情報を並べ終えたコトで。

 ブルースクリーンのノートパソコンは、さながら食前酒を飲み終えた心持ちかもしれない。

 僕は一度席を立ち上がり、部屋のポットのスイッチを入れた。


 ここから先は長くなる。


 だから、コーヒーでも淹れなければ夜は明かせない。


[どうしたんだ?]

[何故、焦らす]


「すみません、ちょっとカフェインを摂るので待っててくださいね」


[ハリー! ハリー! ハリー!]


 師匠は待ちきれないのだろう。

 よっぽど飢えていたのか、ブルースクリーンが一面埋まってしまうくらい同じ文字を続けた。

 やれやれ。これじゃあまるで、まんま00年台の伝奇小説みたいだ。

 コーヒーを淹れ終わり、ようやく席に戻る。


「お待たせしました」


[焦らし上手め]

[ねっとりとしたタイピングといい、キミにはいやらしいところがあるな]

[それで?]

[第一の事件とは?]


 眉を顰めつつ、これ以上待たせると余計にひどい言葉をかけられそうだったので、暴言は意図して無視する。

 僕はべつにねっとりもしていないし、特別いやらしいワケでもない。

 いやな言いがかりだった。


「美園コハクですよ。僕が玲瓏館で最初に遭遇した伝奇憑きは」


[ほう。やっぱり、そうか]


「想像できてましたか?」


[この流れだからね。あるいは初手は、美園ジュリアのほうかとも思っていたけど]

[十六歳の女子高生]

[思春期に反抗期]

[しかも、不良]

[この年頃の少女は、ただでさえ付け入る隙があるからね]

[いや──憑け入る隙と言い換えるべきか]


 憑藻神は言葉遊びを楽しみつつ、僕の言葉を待つ。

 はぁ、と溜め息をコーヒーにこぼした。

 無害であっても、こういうところで師匠は〝人ならざるモノ〟なのだと感じさせて来る。

 まるで、人が怪異に取り憑かれるコトを、悦んでいるような含みがあるからだ。


 いったん、そこには触れずに。


「えっと、それじゃあどこから話しましょうか……」


 少し天井を見上げ、三ヶ月前のもろもろに思いを馳せる。

 美園コハク。


「彼女は……そうですね。危うく、玲瓏館そのものに火をつけるところだったんです」


[え。火遊びって、まさかほんとうの火遊び……?]

[ハクア。そんな危ない娘に告白されたのかい?]




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