File.19「伝奇憑き:九条スミノ」♥
因習の重しが、肩から離れない。
まるで両肩を、男の握力で力づくに抑え込まれているかのように。
九条スミノのこれまでは、玲瓏館の地下に縛り付けられてきたものだった。
「…………」
足元は闇の沼に浸かっていて。
宙を舞っていても、重力ばかりが余計に伸し掛かって。
自由自在に空を飛ぶような。
鳥みたいな人生とは生涯無縁。
──私は籠の鳥。
──けれど、それでいいのです。
──私が頑張れば。
双子の妹たちはもちろん、美園家の母娘が『器』になることはない。
怪異に取り憑かれ、伝奇憑きとなって。
おぞましいバケモノ。
おぞましい因習。
ひとでなしの業に穢されることもなく。
ごく真っ当な当たり前の人生を歩んでもらえる。
スミノは少なくとも、それを願って十二年間耐えてきた。
「…………ああ」
だが。
だが、である。
「私は……どうすればいいのでしょう……」
玲瓏館二階、北東角部屋『白露の間』
スミノの私室には物がない。
色は部屋の名前の通り、全体的に白で統一されている。
淡くて薄い灰色と、白樺で拵えられた最低限の調度品類はあるが。
逆に言えば、それだけしかない。
人が生活するにあたって、最低限の痕跡しか残されない空間。
夜寝るためのベッドと、着替えを保管するための収納家具。
仕事着であるメイド服や、ジュリアの頼みで秘書業務に携わる際の服装などは、辛うじて存在感を放ちながらハンガーにかけられているものの。
スミノの私室に、およそ〝私室〟と呼べるような色は無かった。
そのせいで、玲瓏館の面々にはミニマリストだと思われているほど。
完全無欠な滅私奉公。
──なんだか機械みたいで、人の血が通っている気がしない。
かつて自分自身ですら、そう思った。
季節が冬になると、スミノは特にそう思う。
北東の角部屋は北からの風を一番に浴びる。
窓は氷のように冷え切って、雨や雪が降ればツララだってよく実るから。
玲瓏館の真のメイドである自分には、まさに相応しい部屋だと思っていた。
スミノに求められているのは、ふたつだけ。
ひとつ、美園家を支える使用人としての在り方。
ふたつ、玲瓏館で継承されてきた因習の存続。
十二年前の事件から、スミノの人生はただそれを為すコトだけに使われてきた。
そう使うと決めたし、そう使うことでしか玲瓏館を守る術を知らなかった。
「……ですが」
色の無い部屋の中心で。
改めてそんな自分の人生を振り返ると。
スミノはこれから、何をして生きていけばいいのか?
……それが、まったく分からなくなってしまう。
重く伸し掛かっていたしがらみは消えた。
事件は冴木ハクアの覚悟によって解決し。
玲瓏館に渦巻いていた因習の業は両断され。
スミノの肩には、もう何も重しが無い。
結果。
あとに残ったのは〝人間らしさ〟を持たない退屈な女。
楽しいコトが分からない。
おもしろいコトが分からない。
自分が何に興味があるのか分からない。
沼から足を引き抜いて、ふわりと自由に空を飛べる翼をようやく手に入れたけど。
籠の鳥は籠の外の世界を、何も知らなかった。
自分の人生に新しく生まれた空白の余分。
これまでは余裕が無くて。
そんな無駄を許容できるほど、心にゆとりがなくて。
ずっと張り詰め、ずっと他のコトを考える暇なんて無かった。
スミノはミニマリストなんかじゃない。
ただ人間らしくないだけ。
十二年間も半端な人間モドキであり続けたから、当然と言えば当然かもしれないけれど。
個人の私室は人生の象徴。
だとしたら、玲瓏館の住人のなかで、およそ九条スミノほどつまらない人間はいない。
……ハクアによって玲瓏館は救われた。
それ自体はとても嬉しかった。
涙が出るほど嬉しくて。
こんな自分にも、誰かが〝頑張ったね〟と褒めてくれることがあるのかと。
長い間ひとりで、真っ暗闇を歩き続けていた気分だったから。
抱え込んでいた重石を、まさか一緒に持ち上げてくれるひとが現れるなんて。
スミノは救われたような気がして……実際、救われていた。
……だから。
「そこから先の現在は、あくまで私のごく個人的な問題に過ぎません……」
ぽっかりと空いてしまった人生のスケジュール。
急遽予定が中止になり、長期休暇が与えられたような感覚に近いかもしれない。
仕事人間と言えば仕事人間だったスミノには、それが〝何をしていいのか分からない未知の自由〟になってしまったのだ。
どれくらいそれが、深刻だったかと言うと。
娯楽も何もない白露の間で。
ただベッドの上に座りながら、微動だにせず一日を終えてしまうくらい。
久々の休日を、スミノは虚無で終えた。
そんなことを三回は繰り返した。
やがて。
「……いえ、いいえ」
スミノはそんな自分をダメな女だと思い、後ろ結びにしている髪が激しく揺れるほど首を振ると。
まだ自分が、為すべきを為していない事実。
残っているタスクを見つけ出した。
無意識の内に頬に片手を当てて、スミノは呟く。
「冴木くんに、謝らないと……」
三日間の拷問と監禁。
事件のあと、ジュリアが伝奇憑き化したことですっかりうやむやになってしまっていたが。
スミノはまだ、きちんとした謝罪をハクアに出来ていなかった。
ハクア自身も、あの時のコトは気にしていないように振る舞っている。
けれど。
「ケジメは……つけなければいけません」
玲瓏館は変わりつつある。
冴木ハクアを受け入れて、目に見える形で新たな日常を構築しつつある。
それが完全に、新しい形へ移り変わってしまう前に。
「謝って、許しを乞う必要があります……」
スミノは決断すると、すぐさま行動を開始した。
謝罪はすぐに受け入れられた。
──分かりました。スミノさんの謝罪を受け入れます。
──僕はもう気にしていません。
──なので、スミノさんも気にしなくていいですよ。
──美女に息を吹きかけられるなんて、今にして思えばいい体験でしたし。
ハクアはアッサリ、許してくれた。
ちょっと理解しがたい倒錯的な冗談も交えて。
きっとハクアなりのユーモアなのだろう。
スミノが無表情で、思い詰めたような顔をして頭を下げたせいで。
少しでも雰囲気が和やかなものになるよう、気を遣ってくれたのだ。
白露の間に戻ったスミノは、なんていい子なのだろうと打ちひしがれた。
「冴木くんは歳下なのに……」
二十四歳と二十一歳。
スミノのほうがお姉さんであるにもかかわらず、こんなところでも人間力の違いが浮き彫りになっている。
私室に戻ったスミノはガクリと膝から崩れ落ち、あまりの情け無さからグッと反省を強めた。
ハクアに謝りにいけば、許してもらえるのは分かりきっている。
にもかかわらず、馬鹿みたいに頭を下げるなんて。
あんなの、ただスミノが安心を得たいからやった自己満足に等しい。
これからの玲瓏館では、きっとハクアを〝主人〟にしてすべてが回っていく。
そのとき、ハクアによく思われていない人間の居場所は、必然的に消えてなくなる。
玲瓏館での生き方しか知らないスミノは、それを本能的に恐れていたのだ。
こんなことではいけない。
自分都合の虚飾に塗れた謝罪などに、いったい何の意味があるだろう?
いまのスミノにあるのは、ハクアへきちんと謝る。
謝って許しを乞う目的だけだ。
そのために、スミノは今一度自身の罪深さをよく見つめ直そうと思った。
三階の展望塔。
そこからまず、地下二階の底を見下ろして。
「ああ、やはり……」
殺すつもりは無かったとはいえ、こんな高さから人を突き落とすなんて。
あのときのスミノは、なんて恐ろしい所業に手を染めていたのか。
宙を舞う異能を失ったいま、余計にその事実に気が遠くなる。
頭から真っ逆さまに落ちたハクアは、どれだけ辛い思いをしただろう……
「頭を下げるだけじゃ足りません……もっと誠心誠意、謝らないと……」
梯子は老朽化していて使い物にならない。
スミノは床の仕掛けを元に戻すと、依然ハクア以外には秘密にしている隠し階段へ向かった。
地下二階の儀式場に移動するためである。
儀式場は、監禁と拷問の犯行現場。
ジメジメと湿った空気と。
ライトの明かりを頼りに燭台に火を灯し。
改めて、その異様なカルト的な雰囲気を目の当たりにすれば。
スミノの罪悪感は、さらに膨れ上がって。
反省の念を、よりたしかなものにできるはずだった。
「…………え?」
しかし、スミノがそこに足を踏み入れると。
退屈な女の頭のなかに蘇ったのは、まったくべつの想いと記憶でしかなかった。
──スミノさん……お願いです。
──拷問なんて、もうしないでください。
──スミノさんのためなら、僕は喜んで協力します。
彼は寒そうに身を震わせながら、乱れた息遣いで膝をついていた。
上着を剥ぎ取られ、上半身を守るための布は何も無く。
外気に晒された男の子の素肌は、スミノが予想してものよりも遥かに頑丈そうで。
女とは違う胸板の広さ。
内側から隆起した両腕の血管。
上目遣いで見上げ、しかし卑しさや媚びとは無縁。
男らしい決意に満ちた眼差し……
「ダ、ダメです……」
スミノは知らず、ふらりと後退りながらうわ言を漏らす。
そう。たしかにあのときも、スミノはダメだと言った。
──……ダメです。
──私が手を緩めれば、貴方は私に嘘を吹き込むかもしれません。
──痛みから生じた言葉は真実です。
──なので……拷問はやめません。
ひどい女だ。
血も涙も通っていないんじゃないのか。
このカラダを動かす脊髄や神経は、きっと氷でできている。
心からそう思うし、それと同時に。
〝いまの私は、どうしてこんなに──!〟
カラダが、アツいのか。
芯から芯から。
汗をかきそうなほど熱が暴れ始める。
いいや、汗はもうかいている。
今日のスミノは、数少ない私服であるオフショルダーのサマーセーターと、濃紺のタイトスカート。
それにストッキングを合わせ、ローヒールを履いていた。
だから蒸れているのが分かる。
普段であれば空調が行き届いているため、館内で汗をかいたりしない。
スミノは十二年間、雪女の性質を併せ持っていたので。
夏でも涼しい思いをできるのが、人には言えない不幸中の幸いでもあった。
冬になると指先や末端が冷えやすいので、メリットだけの体質ではなかったけれど。
それが。
いまや。
完全に元の人間の身体機能を取り戻して。
心の動揺に肉体も反応してしまう。
バカみたいに熱を放ってしまう。
あの日、あの時、スミノはどうして拷問後のハクアを甲斐甲斐しく世話したのか?
読解師としての彼の智慧を、できるだけ長く絞り出すためだと考えていた。
これは嘘ではない。
けれど、完全な真実でもなくて。
その裏側に潜んでいたのは、スミノのなかにあった〝どうしようもないほどの女の感情〟……
助けて欲しい。
期待させて欲しい。
必要なものがあれば何でも捧げるから、どうか私をこの闇から救い出して。
冴木ハクアが玲瓏館にやって来て、自身の素性を読解師と明かした際。
スミノの心の奥底に、芽生えなかったはずがないのだ。
彼ならばもしかしたら。
彼ならばきっと。
十二年間、一度として現れることのなかった希望。
これがもし、スミノを主人公にした物語なら。
やっぱり、十二年間分の苦しみに相応の。
素敵で理想的な王子様の登場は不可欠で……
「っ〜〜〜〜!?」
今さらになって、スミノはそんな自分の明け透けな本心を自覚してしまった。
だって、ハクアはまさにヒーローだった。
助けてくれたし、期待にも応えてくれた。
好きな異性のタイプなんて、スミノは意識して考えたことなど一度も無い。
それでも。
「あぁ〜〜〜〜……!」
歳下の男の子を、こんなにも好きになってしまっている女がいる。
恋。
恋だ。
空っぽだった隙間に、一度自覚したそれが満ち満ちていく。
人生のタイムスケジュールが、恋と愛とステキな気持ちに埋め尽くされて。
退屈でつまらない女だったはずのスミノの心に、まったく新しい生き甲斐と存在意義を与えていく。
顔を両手で覆って、ふらふらとバランスを崩して。
気がつけば儀式場の中心、鏡が埋め込まれた木像に背中からぶつかる。
化け物を象った複数の木像にも囲まれて、そのときスミノは自身の髪色が変わっているコトに気がついた。
銀。
いや、完全な銀髪化ではない。
インナーカラーのように、内側だけ白銀に染まっている……
まるで、スミノの内面がハクアによって染め上げられてしまったコトを暗示するみたいに。
鏡に映ったその異変を……スミノは指の隙間から直視して。
信じられない気持ちだったけど、愕然とした口元は次第に笑みを形作っていたから。
ハクアに叩かれた頬を指でなぞり、上昇する体温がさらに暑苦しさを加速させていく。
「いけません……冴木くんは、あの子の……」
小さな声で、酸素を求めるように呟く。
ズルズルと木像にもたれかかりながら、舞台の上に腰を着いて。
スミノはローヒールを脱ぎ、サマーセーターも脱いで、体内の熱を少しでも外に放出しようとした。
夏用とはいえ、セーターなんてカラダにピッチリまとわりついて、とても着ていられなかった。
はしたないとは思いつつも、どうせ誰にも見られる心配は無い。
あのときのハクアと同じように、上半身だけ服を脱ぐ。
下着は……さすがに脱ぐのをためらった。
ここで妹からプレゼントされた蒼銀色のブラを脱げば、最後の防波堤。
スミノが娘みたいに愛しているコハクへの遠慮まで、決壊してしまいそうだった。
「ハァ……ハァ……」
「ダメですよ、スミノ……」
「……私は、あの子だけは……」
「悲しませたくないのです……」
銀髪化は、髪色に悩みを持っていたコハクの気持ちを、少しでも理解してあげたいと考えていたスミノの深層心理。
結局、その気持ちを真に理解することは出来なかったけれど。
美園コハクへ向けた愛情だけは、バケモノになっても変わらない真実なのだと誇りに思っていた。
ゆえに、スミノは自制する。
ハクアへの気持ちを自覚しても、それは美園コハクを蔑ろにしてまで溢れさせていい感情じゃない。
コハクがハクアを慕っているのは、誰より知っている。
願わくばあの子が、ハクアの正妻になればいいとさえ思っている。
嘘ではない。
嘘ではない。
嘘なんて、ちっともついていない。
「っ……なのに……!」
鏡が。
鏡に映る自分が。
十二年間、必死に栄を乞い続けた過去を。
九条スミノという女の卑しさを。
突きつける。
この儀式場は、怪異の消えたいまでもスミノにとって〝イケナイモノ〟の吹き溜まりだった。
誰にもバレない。
ここでなら、誰に憚る必要もない。
地上に戻れば大丈夫。
これまでだって、自分を殺して生きて来た。
今後は少しだけ、タガを外しても許される人生にはなったけど。
「──ええ、ええ」
それは、あくまでもここだけの話にしておけばいい。
煩悶は誘惑に打ち勝てなかった。
でも、それも仕方がない。
九条スミノの私室に、人間らしい色が無いというのは正確な判定じゃない。
二階の白露の間には、たしかにスミノの個性を象徴するような特徴的な物は無いけれど。
強いて言うのなら、地下二階の儀式場にこそスミノの人生は表れていた。
人間としての個性か。
化け物としての個性か。
あるいは、因習の継承者としての個性か。
スミノはふらふらと立ち上がると、儀式場の隅へと向かい。
闇のなかへ全身を溶け込ませ、再び薄明かりに照らされた舞台に戻って来た時には。
服装を、一目瞭然に変えていた。
踊り子の装束である。
ただし、それは妖怪変化していた際の装いとは少々意匠が違う。
濃紺のタイトスカートは脱ぎ捨てられ、露わになった下半身を包んでいるのは太ももの真ん中あたりまでを覆った薄黒のストッキング。
そこまでは先ほどまでと変わらない。
タイトスカートが無くなったことで、スミノの美脚がこの上なく強調されて。
膝の形やふくらはぎの滑らかな稜線。
つま先から徐々に、太さというより〝太ましさ〟と呼びたくなる艶かしい肉付き。
後ろから見上げると、太腿と尻たぶを分ける境界線は乳房と同じかそれ以上に〝どたぷりん♥〟としていて。
それらが大胆に露出されるようになっているが、そんなことはストッキングから伸びたプラチナ色のガーターチェーンと。
際どいところしか隠せていない黒色のショーツが露わになっている点に比べれば、大した変化ではなかった。
しかし、下半身に起きている変化など、上半身のそれに比べればさらに大したことがない。
氷のように薄く透けた、ほのかに青色を混ぜる白布。
古代ギリシャやエジプトの女神を連想させるような。
如何にも踊り子然としたそれは。
現代ではセクシーネグリジェと呼ばれかねないほどのスケスケで。
スミノの白雪のような肌を、まったく隠すつもりがない。
両胸の先端は、雪の結晶を模した刺繍の内側に隠されている。
だが、むしろその位置に刺繍があることで視覚的な暗示が働いていて。
しかも、雪の結晶よりもほのかなピンクのほうが大きいために、隠微な淫靡さを強調している。
さらに、刺繍はピンっと張った盛り上がりを見せていて、雪華の本来あるべき均整さをいやらしく歪めてもいた。
六角形の氷は中心がよく突き上げられ、その周囲がいっそ哀れを誘うほど引き伸ばされているのだ。
どうやらその盛り上がりの由縁は、薄く透けた白布越しに見るところ、両胸の先端に貼られている白布と同系色に塗られたカップ状ニップレス(直径がごく短い。そのせいでピンク色が透けている)によるものだというのがうかがえた。
スミノの胸の先端同士には、まるでというかまんまというべきか。
山間の谷間を繋ぐように、架け橋を描くよう小さな金紐が繋がっていて、その金紐が留められているのがこのカップ状ニップレスなのである。
楕円に近い円筒型。
果たしてそれは、明らかに直径不足を知らしめるものであったが、その高さの方はというと真相は分からない。
カップは白布の内側から雪の結晶の隙間へ、天頂にぶら下がった飾り紐を通してもいた。
なので、スミノの胸が少しでも揺れるたびに、飾り紐に括られた鈴がいじらしく、チリリン♥ と鳴る。
一応、それによって肌と布の隙間が大きくなるコトはない。
完全な丸見え状態にはならないよう、工夫が施されてはいる。
だが、それは小学生が家庭科で扱う裁縫セットの糸くらいに頼りないもので。
スミノが大胆にカラダを動かしたり、ちょっと前傾姿勢にでもなったりしたら、簡単にプチッと千切れて中身を覗かせてしまいそうだった。
布も刺繍周りの紐も、無理が効くようには編まれていない。それは意図してそうなっているようでもある。飾り紐──鈴が通せてしまうくらいだ。編み目は粗い。
よって鈴は、いまのスミノを目の当たりにした者に危険な衝動を植え付けるためだけに飾られ、チリン♥ チリリン♥ と鳴らされている……
──では。
そんな白布をきちんとスミノの肉体に繋ぎ止めているのは、具体的に何なのか?
正体はスミノの首と鎖骨周りを、涙滴のように飾った貴石と金の首飾りから掛けられた鎖だ。
美肌の上、上乳という波打つ肉の水面で、こちらもチロチロと揺れている細かなリングチェーン。
129.5センチのU寄りTcupを首元からしっかり持ち上げるため、それはギチギチと張り詰めながら危うい雰囲気を漂わせ震えている。
もしこの場に男がいれば、思わずしゃにむに引きちぎりたくなっていたであろう危険な衝動の誘引剤。
白布が覆っているのは、スミノの長乳それぞれの中央ラインだけである。
内乳も外乳も防御力は無し。
横乳は溢れるように胴体の輪郭からハミ出ていたし、深い谷間などは上から下、高さと深さまで丸見えだ。
胸の真下には、ボディラインを美しく見せるためだろう。
シルクのリボンが巻かれて、腹部と腰回り、ウェストラインをキュッと締めていた。
すぼめられた白布は、そのままショーツの真上をちょうど通るくらいの長さで、垂れ幕みたいに落ちている。
なので、大まかに言えばY字だ。
白布はスミノの上半身を、Y字状に張り付いていた。
背中には何もない。
お尻を隠している布は、後ろで結ばれたリボンから垂れたシルクの帯程度。
ヒラヒラ♥ ユラユラ♥
肩だって惜しげも無く晒されていて。
代わりにあるのは、美女の肉体を淫らに妖しく飾る金色のアームレットやブレスレット、アンクレットなどの輪っか状のアクセサリーだ。
腰元には少し大きめのリングチェーンベルトが、股関節と鼠蹊部、あるいは見事な臀部を強調するように巻かれている。
金色の装身具は、それぞれ腰と両腕部分で左右対称になるよう、羽衣のような薄布を繋ぎ止めてもいた。
腕であれば、二の腕のアームレットと手首のブレスレットで繋がった〝たわん〟と揺蕩う帯状の薄布が揺れて。
腰であれば、先ほども言及したリングチェーンベルトが、超々ミニのレースフリルスカートみたいな薄布を外側に跳ねさせている。
無論、丈が短すぎてスカートの体は成していないし、隠すために身につけられているデザインでもない。
明らかに、セックスアピールのためだけに巻かれた挑発的な飾り。
そして、スミノの顔には鼻から下を隠す──踊り子と言えばの必須アイテム──フェイスヴェールがかけられている。
頭にはなぜか、メイドのホワイトプリムも乗せてもいるため。
フェイスヴェールがあらからこそ、いま現在のスミノの装いを踊り子衣装と判断できるかもしれない。
上位存在に仕え、神楽を奉納するような清楚さと。
淫猥な要求に屈服し、媚びながら情けを乞う淫蕩さ。
どちらもが辛うじて同居し、実に蠱惑的で背徳的な雰囲気を纏った装いだった。
「……っ」
スミノはそんな自身の格好を、改めて鏡に突きつけられて頬を真っ赤に染めた。
誰に見られているワケでもないと欲望に身を流れさせたのに、羞恥心が勝手にカラダを庇おうとする。
内腿をむちぃ♥ と密着させ、モジモジと両足をくねらせることで少しでも股間の防御力を上げようとして。
右手と左手は抱きしめるように、おっぱいを覆う。
しかしながら。
再びの逡巡もわずかな間だけ。
瞬きひとつした後で、スミノの目にはハクアが映っていた。
鏡が歳下の男の子を映し出している。
儀式場にはいつの間にか、壁や床から淡い桃色光が浮かび上がり、過去の嬌声が谺響でもしているのか。
歌声でもあり呻き声でもあるような、複数の女の音が反響し出した。
それらはやがて、妖しいムードの音楽のようにリズミカルな曲となり、アン♥ アン♥ アンっ♥ とテンポも上げながら、長年染み込んだ因習の残り香を鼻腔いっぱいに届け始める。
──そう。そうだ。
「はい……承知いたしました……♥」
スミノは今まで、ずっとこうして上位存在に傅いて来た。
愛する家族を救うため。
玲瓏館の繁栄を乞うため。
人ならざるモノたちの機嫌をうかがい。
日夜、〝器〟となる意思に変わりが無いコトを証明しなければならず。
屈服と服従、隷属の舞踊を奏上して来た。
地上でどれだけ澄まし顔を晒していようと。
スミノのカラダには芯から芯まで、ああ、とっくに雌の卑しさが刻まれている。
ただし、これまでは嫌々だった。
滅私奉公といえども所詮は自己犠牲。
人間ならば負荷にならないはずがない。
──けれど?
──それがいま、どう変わった?
九条スミノにとって冴木ハクアは。
心から身を捧げ、平身低頭し、罪を贖わなければならない存在となった。
王子様でご主人様。
彼には謝らなければいけない。
一生をかけて謝り続けなければいけない。
スミノに差し出せるものは何もかも差し出して、これからは彼のためだけに日夜媚び続ける。
ハクアが許すと言っても、ダメだ。
スミノの気は到底収まらない。
ハクアだって、ほんとうは許してはいけない。
その証拠に、鏡の向こう側にいるハクアは、極めて厳しい眼差しをスミノに向けていた。
──ほら、僕に謝るんじゃなかったんですか?
──誠意を見せたいって話でしたよね?
──相応しい態度を考えてくださいよ。
「っ、はい……!」
これが妄想であっても構わない。
ハクアに厳しく詰られ、冷たい目を向けられた。
そう考えただけでスミノの胸中には、一刻も早くお許しとお情けを乞わなければ! という想いしか無くなっていく。
むちぃ♥ と密着させていた内腿は、ゆるく開き。
おっぱいを未練がましく覆い隠していた左右の手は、ゆっくりと離した。
途端、爆乳が伸びるように前へと突き出て、たぷゆぅん♥ と微かにバウンスする。
鈴がチリン♥ チリリン♥ と細かに揺れる。
羞恥心は堪え切れない。
しかし興奮もまた、奥から奥から湧いて燃え上がる。
「……では」
「今宵はこの全身で……」
「殿方がお悦びになられる舞いを……♥」
──殿方がお悦びになられる舞い?
「っ、ん♥ はい……」
「ご主人様におかれましては、是非ともお慰みの一助としていただくほか……」
「これなる舞いが私の服従心……」
「九条スミノという女が、未来永劫ご主人様のお許しとお情けを乞うだけの卑しき雌肉である証明、と受け取っていただきたく……」
──もっと分かりやすく、下品に言ってくださいよ。
「ハァン!♥ はぁ……はぁ……♥」
「わ、わかりました……っ」
「私は踊り子でございます……」
「ご主人様をおもてなしするため、全身全力でセックスアピールする奉仕奴隷でございますっ♥」
「改めて、自己紹介をさせていただきますねっ?」
「私は玲瓏館が誇りし爆乳メイド長♥」
「乳房豊かなポーカーフェイス♥」
「男性の視線を集め続けるこの肢体を、これからはご主人様のためだけに捧げます♥」
「魅惑のセクシーダンスの途中では、この双丘がまろび出るやもしれません……♥」
宣言と口上が済むと、儀式場にはどこか南国やクラブを思わせる音楽が響き始めた。
ベリーダンスやリンボーダンス、ポールダンスのBGMを連想させるリズム。
あるいはそれは、玲瓏館の長年の因習のどこかで、儀式場に記録された異界の記憶なのかもしれない。
もしくは、九条スミノの精神世界こそが、そのような異界を作り上げているのか。
上流階級の社交場では、舞踏会などへの参加もたまにある。
スミノはジュリアの練習相手として、舞踊やダンスにまつわるスキルを保有していた。
その中にはポールダンスなどという、どこで使うのか分からない変わり種も存在したが……
すべては秘密の、儀式のためだったのかもしれない。
音楽に合わせ、スミノはまず両腕をゆるく開くと小刻みにカラダを揺らした。
肩とお尻を左右に揺らし、鈴の鳴る乳房を惜しげもなく弾ませ。
開いていた腕を外腿から這わせるように、腰と脇腹、Tカップの輪郭へとなぞらせる。
なぞるために滑らせた手の先は、そのままウェーブを肩前で作り。
肘を曲げた両腕はバストを挟み込んで強調した。
強調し、左右の揺れに合わせて腕の内側で跳ねさせる。
おっぱいの揺れがますます激しくなり、鈴の音と白薄布はどんどん内側の暴力に脅かされた。
粗い編み目の雪の結晶。
その隙間が上下左右縦横無尽に引っ張られて拡張していく。
スミノは両腕を上げ、頭の上で手首を交差させる。
今度は腋と脇が丸見えになり、長乳の揺れはやや和らぐが。
瞬く間に腕は下がっていき、下から上への輪郭をなぞった動きの反対。
水が高きところから低きへと流れるように。
上から下へと、よりおっぱいの丸みと長さをアピールするため、何度も手のひら全体を使って丹念にバストラインをサワサワ♥ と撫でた。
それも終わると、スミノは再び腰の方へ指先を伝わせて。
ヒラヒラ♥ と揺れるフリル布と、金のリングチェーンベルトの内側に手先を差し入れる。
そこで、カチッと小さな音が弾かれたかと思うと、鼠蹊部と股関節、臀部を飾っていた薄布はふわりと足元へ落ちていった。
にもかかわらず、スミノはそのまましゃがんでいき、お尻と上半身を激しくくねらせながら膝を斜めに向けて曲げる。
リズムに合わせて膝を大胆にパカパカと開け閉めし、ショーツの上の股暖簾が捲れ上がりかけるのも厭わない。
そんななか、クルリとターンしてもう一度立ち上がる際に、スミノは乱れる息遣いを恍惚の吐息混じりに変えていた。
「んッ、くふぅ……♥」
「ハァっ、んッ、ハァぁん♥」
女の喘ぎ声ならば、儀式場には満ちている。
そこに新たに、スミノの声も混ざりかけていた。
フェイスヴェールが湿り、口元にまとわりつく。
メガネがほんのり曇っていく。
だが、それも無理もない。
鏡の向こう側からは、スミノが恋している男の子が熱視線を送っている。
ハクアはスミノを視姦し、その淫らな舞いを凝視し、恥ずかしめを与えることに集中していた。
スミノのどんな恥ずかしいポーズやダンスも、決して見逃さないと言わんばかりに。
それが気持ちいい♥
スミノにはひどく気持ちがいい♥
だから、官能的な踊りはますます過激さを増していく。
体勢を戻したスミノは、鏡に向かって半ば頭を下げるように前傾姿勢になった。
おっぱいの下で両腕をゆるく交差し、お尻を突き上げながら、軽い足踏みを繰り返して肩を揺らす。
肥沃に育った葡萄の巨峰がごとく、乳房が自重によって垂れ下がり、谷間の長さと鎖の悲鳴を見せつけた。
そして、スミノはどこからともなく手元に現れていた銀の盆の上にバストを乗せると、
「フゥゥ♥ フゥゥ♥ ……どうですか、ご主人様?♥」
「こちらは〝おっぱい謝罪ダンス〟となっております♥」
「玲瓏館のメイド長、九条スミノの129.5せんちU寄りのTカップ長乳を以って……♥」
「こちら、まずはひとつ目の……」
「お・詫・び♥ とさせていただけないでしょうか……♥」
銀盆の上で、柔らかな乳肉がぷりんっ♥ ぷりんっ♥ と揺れ始めた。
ふっくらふわふわと蒸された、最高級の肉饅。
あるいはミートパイ。
もしくは女の果汁がたっぷり詰まったミルク饅頭。
弾力のあるスライムゼリーのような艶めきと質感は、内乳と外乳だけでなく薄白布に覆われた中央乳まで汗で湿っており。
ムワムワと熱気を立ち上らせて、銀盆と眼鏡が見る見るうちに水滴を浮かべる。
「ご主人様がお望みなら、こちらはいつでも蜜をまんべんなく塗って召し上がっていただけます♥」
「もちろん、蜜は自家製でございますよ……♥」
スミノが言うと、鏡のなかのハクアが「へぇ」と食指を刺激されたような顔になった。
その下半身をさりげなく確認すると、なんと反応もしている。
スミノは天にも昇りかねない歓喜を覚えた。
カップの内側が狭くて窮屈である。
すでにダラダラと、胸の先端は濡れそぼっていた。
最近、妹が用意する食事には妖しげな果実が使われており、とうに第二次性徴を終えたはずのスミノやジュリアでさえ、思春期のような肉体の発育を感じていた。
きっと、そのせいだと思う。
きちんと測ったワケではないが、いまのスミノは体感で、乳房のサイズが大きくなっている気がするのだ……
(いいえ、確実に大きくなっています……♥)
バスト129.5せんちU寄りのTカップから。
バスト131せんちV寄りのUカップに。
(興奮すると、大きくなってしまうのでしょうか……?)
それとも、ハクアを想い色情に乱れると、こうなってしまうのだろうか……?
分からないが、ただでさえ大きいおっぱいがさらに膨らむなんて。
これはもう、ハクアを悦ばせるためだけに使うしかない♥
「……うふ♥」
「スミノはご主人様専属の踊り子メイドです♥」
「この舞いの振り付けには、他にもさまざまなオモテナシが含まれております、よ……♥」
鏡に向かい、次なる舞いを披露しようとした時だった。
「……びっくり。スミノさんって、そんなエッチだったんだ」
「! コハク様……!?」
儀式場に、美園コハクが現れていた。
幻覚や妄想ではない。
スミノの異界はひとりで愉しむことを目的にしていた。
だから、いまここにスミノが予期しない人物が現れるなら、それは本物である。
驚きのあまり、スミノは目を見開いて何度も少女を確認してしまう。
手に持っていた銀盆も落とし(手を離すと消えた)、木像の裏側に慌てて隠れながら、
「ど、どうしてコハク様がここに……!?」
「あ、心配しなくて大丈夫だよ? センセイが教えてくれたとかじゃないから」
まさか、ハクアが地下の秘密を喋ったのかと思った直後。
返ってきたのは平然とした否定だった。
では、いったいどうしてコハクがこの場にいられるのか?
その答えは本人の口から、すぐに聞くことができた。
「実はね? 上の座敷牢からここを見つけたんだ」
「座敷牢……」
「昔から、どうしてあんな部屋があるのか不思議に思ってたけど」
〝なんとなく、ここに来て分かっちゃった〟
とコハクが呟く。
どうやら地下一階の座敷牢には、スミノも知らない隠し仕掛けがあったようだ。
コハクはそこから、地下二階へ降りて来たのだろう。
考えてみれば、それは不思議の無い話だった。
玲瓏館で長年続けられてきた生贄の因習には。
伝奇憑きとなるのを拒んだ者に、折檻を与えるための仕置き部屋や。
伝奇憑き化した者を拘束し、囚えておくための部屋があったはずで。
それはどう考えても、地下一階にあった座敷牢としか思えない。
仮にそうでなくとも、座敷牢なんてものの用途は、多かれ少なかれ決まっている。
だが、コハクは座敷牢に何の用があって……?
「──ぇ」
疑問を口にしようとしたスミノはそこで、ようやくコハクの格好がおかしいコトに気がついた。
「コハク様……その、お召し物は……?」
「あ、これ? ど? 似合ってるー?」
「えっと……」
「今日はねー、思い切ってチアガールになってみたんだ〜♪」
チアガール。
しかしそれは、コハクが通っている女学園の部活動のユニフォームとは違った。
改造制服に身を包み、日頃から露出度の激しい衣装を好むコハクだからだろうか。
そのチアコスチュームもベースはアメスク風で、かなり改造されている。
まず足元からだが、履いているのは光沢感のあるショートブーツハイヒール。
レースクイーンやコンパニオンが履いていそうなもので、ここまでは改造感が無いが。
その足首から上、両脚からが大問題。
コハクは敢えてサイズの小さいものを選んだとしか思えない、パッツン♥ パッツン♥ に張った薄生地の白ニーソを着用している。
その白ニーソが、太ももの半分ほど上部分からバスケットボールのネットと見間違えかねないくらい、網目の大きい網タイツと化していた。
さらに、いまのスミノが言えた話ではないが、極めて布面積の少ない豹柄Tバックを履いてもいて。
赤、白、青のアメリカンカラーミニスカートは、ヘソ下から下腹部の上しか隠せていない。
そのため、どう考えても丈を短くされ過ぎているチアスカートのせいで、野生的で挑発的な豹柄が丸見えだ。
しかも、上半身と下半身をセパレートするタイプのヘソ出しウェアなのだろう。
いや、水着に近いのか。
同じくアメリカンカラーの上半身ウェアは、背中は青の紐帯で結ばれているだけ。
肩も脇も防御力はまったく無く、前は台形状の前掛けのようにしかなっていない。
しかも、前掛けは切り刻まれていて、鎖骨の下から胸の中央下部分の布には、押し潰されるように横にたわんだハート穴が開けられていた。
ハート穴が大きすぎるせいで、もはやこれでは前掛けというよりエロ改造されたビキニである。
にもかかわらず、肝心のビキニ部分にも改造が施されていて、チャックがついていた。
チャックを開ければ三角形の布がそれぞれペロンと剥がれ落ち、哀れな上半身ウェアは胸の先端を二等辺三角形状に囲っただけの紐になる仕様だろう。
これまたわざとに違いないが、三角形の上部分は敢えてチャックを中途半端に開けた状態にし、裏側の豹柄マイクロビキニをちょっとだけ覗かせてもいた。
そして両腕には、ブーツと揃えるためにか光沢感のあるピチピチのアームグローブをつけている。
チアガールと言えばのポンポンをそれぞれ手首にぶら下げ、髪型はいつも通りツインテールだが今日は毛先のほうをゆるく巻いている。
頭にはアタマの悪い白ブチのピンクハート型サングラスを乗せていた。
……救いなのは、アメスク風にこだわっているために、いつものエロ改造ワイシャツもセットである点。
おかげで、改造チアウェアだけという、裸も同然の姿になることだけは避けられていた。
「コハク様……──」
親心のようなもので、スミノは咄嗟に嗜めの言葉を発してしまいそうになる。
しかし、おかしな格好をしているのは今のスミノも同じ。
〝……びっくり。スミノさんって、そんなエッチだったんだ〟
知られてはならない事実を、よりにもよってコハクに暴かれてしまった。
ゆえに、スミノは口をパクパクとさせて、二の句を継げない。
目の焦点も合わず、どこを見ていいのか混乱して、無意識のうちに木像の陰へより隠れようとする。
そんなスミノの手を。
「待って、スミノさん」
愛しい少女が、どこか陶然と、やにさがった笑みを湛えて掴んだ。
「アタシもね? スミノさんと同じで、センセイに厳しくされたい感じなんだ」
「だからさ……もし良かったら、さっきのスミノさんみたいなコト……コハクに教えて?」
「最近、妄想もけっこー限界なんだよね〜」
「コハク、このままじゃ悪い子が加速して夜遊びしちゃうかもぉ……」
「クラブで夜な夜な、踊り明かしちゃう系みたいな?」
「でもね?」
「スミノさんが、もしコハクにダンスを教えてくれるなら──」
このことは、ふたりだけの秘密にしておいてもいいよ♥
ってか、コハクも一緒にセンセイを悦ばせたいな〜♥
「このアメスク風チアビキニコスも、センセイのために用意したんだよ?」
「…………」
その囁きを耳にして、スミノは思った。
ああ。
あああああ。
この子はもう、ここまで彼に染まっているのか。
スミノがハクアに、不埒な愛欲を抱いていても。
それを拒絶したり、嫌悪したり、否定せず。
むしろ、一緒に堕ちていきたいと考えてしまうほどに──恋の熱に燃えている。
であれば。
で、あるのならば。
「仕方がない子……ほんとうに、悪い子なんですから……」
「あは♥」
掴まれた手に引っ張られ、スミノは愛しい少女と堕ちるところまで堕ちる覚悟を決めた。
儀式場はそれから、瞬く間にセクシーダンスホールと化していた。
化け物を象っていた木像たちは消え、代わりに舞台に出現したのはポールダンス用のポール。
コハクが混ざり込んだせいだろう。
流れていた音楽はさらに軽妙さを増し、アァン♥ アァン♥ と非合法なクラブ・ムードが増していた。
天井にはミラーボールが浮き、妖しい照明がくるくる回る。
壁には肉繭が這い始め、ピンク色の異界が再び侵食の時を喜んでいた。
金紅と黒銀。
ここはふたりの心が生んだ新たな欲望の祭儀場。
玲瓏館には今宵、新たな掟が敷かれ主人の座が塗り替えられる。
そんな呪術的な事情など知らないまま、スミノとコハクは揃ってダンスを始めようとする……
「見て、センセイ♥ コハクのおっぱい、116せんちP寄りのOかっぷからね?」
「じゃ〜ん♥ この夏で、なんと118せんちQ寄りのPかっぷに大きくなりました〜♥」
「あとでちゃんと、ブラも提出するのでぇ♥」
「コハクのデカブラ確認して、成長しててえらいえらい♥ って褒めて欲しいの♥」
「おっぱい大きくできてイイ子だね、ってナデナデしてください♥」
「頭と、おっぱい♥ 両方ともだよ〜?」
「でもぉ、きっともっと成長すると思うしぃ」
「センセイにモミモミ♥ してもらって育ててほしいからぁ♥」
「コハク、今夜はスミノさんの横でセンセイのこと誘惑しちゃう♥」
「名門女学園の現役JKギャルが、雫型のナマイキ発展途上ドデカ爆乳で♥」
「カテーキョーシを誘惑するイケナイ踊り……」
「セックスアピール・チアダンスをするからね♥」
姉も同然のスミノから教わった通りに、コハクはオモテナシのための自己紹介と口上をあげた。
だが、その言葉の羅列には自然とアドリブが入り。
胸の成長を伝える時には、片足を大きく上げてY字バランスのポーズを取ってポンポンをシャワシャワしたり。
スミノと挟んだポールに向かって、そのまま開脚の角度を広げてI字バランスのポーズまで取った。
大きく広げた足の付け根や両腋からは、むわぁ♥ むちっ♥ とした擬音と共に、バランスを崩しかけそうになっての、ぷるぷる♥ びくっ♥ という擬音も聞こえてきそうだった。
最後には「ゴー♥ ファイトー♥」と可愛らしく掛け声もし、すっかりチアガールになり切っている。
したがって、スミノも負けてはいられなかった。
「若さでは負けますが……」
「どうかこちらを、ご覧くださいご主人様♥」
「スミノはいま、131せんちV寄りのUカップでございます♥」
「この子とはひとまわり以上、大きさに差がありますから……」
「ンッ、ぁ……♥」
「……このとおり、リボンを緩めますと」
「より、視覚的にお楽しみいただけるかと♥」
「お望みとあらばスミノの下着……デカブラも差し上げますが♥」
「それよりも、いまはこちらの脱ぎたて♥ ホカホカ♥ のほうが……」
「欲しくはございませんか?」
「先ほどの舞いで、しっとりと濡れておりますよ♥」
「雪の欠片も、この通りすっかり熱に溶けて……」
そこでスミノは、緩めたリボンによって胸下がブカブカになった装束の。
もはや首飾りと両胸の先端だけで、辛うじて繋がっているだけの薄布を。
ゆっくりと両手の指先で刺繍の編み目をぐるぐる押し広げてから、その留め金に指をかけた。
カラダの前面を覆っていたヴェールがずり落ち、露わになるのは飾り紐を垂らしたカップ状のニップレス。
鈴がひときわ大きく鳴り、そのごく自然な流れに身を任せて。
スミノはフェイスヴェールも取り払った。
そこで急に勢いよく背中を向けると、左手で黒銀の髪を掻き上げ背中を晒し。
まだ緩く腰に引っかかっていたシルクリボンを、右手で攫うように取り払う。
リボンの帯がカーテンのように退かされ、綺麗で真っ白なハリのある臀部が完全に露出された。
ショーツの後ろは埋没し、食い込みすぎていて見えない。
その様子を見ていたコハクが、「あはっ♥」と婀娜っぽい声を再び漏らすと。
すぐさま、並ぶようにお尻を横に添える。
ふたりは互いの尻肉と股肉を、むちゅん♥ むちゅん♥ とぶつけて肉の波紋を作りながら。
上半身は内向きに、斜めに振り返りつつ。
スミノが左のおっぱい、コハクが右のおっぱいをも示し合わせたようにぶつけ合った。
ドスケベ改造されたエロチアウェアは、その衝撃の繰り返しによって横乳の範囲を大きく広げていく。
「もぉ〜、スミノさん初っ端からトバシすぎ〜?」
「これじゃ、コハクもノるしかないよぉ♥」
「露出で負けるとか、ありえないし♥」
まだダンスは始まったばかりだというのに、コハクは早くもワイシャツの結びを解いて脱ぎ去ってしまった。
そればかりか、「コハクもおっぱいアクセ欲しい〜♥」と甘えた声で、チャックを両方とも下ろしてしまう。
結果、自己申告によればPカップに成長しているらしい豊満なバストの上で。
ハート型がひとつから、三角もふたつとドスケベ穴が増えてしまった。
三角の穴のなかには、豹柄のマイクロビキニがさらに肌色に囲まれて被さっている。
一方で、スミノはコハクの脱衣が終わるのを待たずに、次の舞いに進んでいた。
ポールに手を添えたかと思うと、その周囲を蠱惑的に歩いて一周し。
カラダの向きを正面に戻して、改めて乳揺れダンス。
膝を曲げて大きく開き、両手は頭の後ろ。
これまで左右に揺らしてきたカラダを、前後上下にウェーブさせて動かす。
そうすることで、玲瓏館メイド長の爆乳は〝ばるんっ♥ ばるんっ♥〟ダイナミックに弾み。
内乳同士が激しくぶつかり合って、下乳がお腹に着弾するそのたびに、〝ぱちゅんっ♥ どたぷんっ♥ チリリン♥〟と水気を含んだ音が響いた。
「ハァっ♥ ハァっ♥ ん〜!♥」
「アァ♥ ア〜ン♥ いかがですか♥ ご主人様♥」
「こちらは〝おっぱい求愛ダンス〟でございますっ♥」
「目を向けてください」
「スミノを見てくださいっ♥」
「こんなにもっ、揺れてございます!♥」
「スミノの胸はこんなにっ」
「こんなにもっ! ご主人さまに叩いて欲しがっているのです!♥」
「だからどうか……見てぇ!♥」
ひとりの男を巡る女の我欲。
コハクもすぐにそれを模倣した。
「フレフレっ♥ センセイっ♥」
「フレフレっ♥ センセイっ♥」
「あっ、いっけな〜い♥ ポンポンがすっぽ抜けちゃったぁ♥」
「でもダイジョウブ♥」
「見てっ、センセイ♥」
「ここにもポンポンがあったよ〜?♥」
「よかったぁ♥ これでいつでも、センセイを応援できるねっ!♥」
「フレフレっ♥ センセっ?♥」
「フレフレっ♥ センセっ?♥」
「はやく叱ってくれなきゃ、もっとおっぱい揺らしちゃうよ〜?♥」
見目麗しい爆美女と爆美少女による、嘘偽りないセックスアピール。
その最中に、スミノのカップからアーチがついに千切れた。
金紐が床に散らばり、カップから飾り紐と鈴が空中に舞い上がる。
Uカップの躍動は限界を突破したのだ。
「ァアァンっ!♥ アァっ!♥ ハァアァ〜ンっ!♥」
漏れる嬌声は、すでに理性に欠けている。
スミノの目にはハクアしか映っておらず、中断されていた儀式が再始動したことで一種の恍惚状態に陥っていた。
眼鏡の奥に理知は無く。
興奮と情欲に溶け落ちた目には、ハートマークが浮かび上がり現実のことなど忘れている。
「すっご……♥」
ギャルの少女はその凄まじさに息を呑み、ピンクのハート型サングラスはずるりと頭の上から目の前へ。
桃色に染まる視界。
コハクはスミノの姿に、服装にこだわったシチュエーションのシミュレーションをするよりも。
ただハクアに対する、熱中ぶりのほうが大事なのだと悟る。
ゆえに負けじと、最年少にして最有望の少女は、そこでダンスを次のステップに移した。
精神的恍惚が伝染しているのは、コハクだって同じこと。
金髪の少女は日頃の慣れからポールにカラダを絡みつけると、その双丘と内股で硬質の支柱を挟み込む。
おっぱいを両側から鷲掴みにして、左右で交互に擦り合わせる。
ハート型の穴は大きいので、すっぽりとポールを咥えこんだ。
自身の十指を柔肉に埋め込ませながら、時に両方同時に上下へ移動させたり、やはり交互に持ち上げたり持ち下げたりする。
それは両足の間でも変わらず、コハクはポールから感じられる擬似的な男性性に、ハクアを見出してその質感を全身で味わおうとした。
「ああ♥ はやくホンモノのセンセイに、コハクこうしたい♥」
「スキ♥ スキ♥ ダイスキ!♥」
「どうしてセンセイのことを考えると、こんなにせつないの?♥ ツラすぎるよぉ♥」
「なんでも言う通りにします♥ なんでも恥ずかしいことします♥」
「センセイは悪い子だって、怒るかもしれないけどぉ……」
「コハク、もう……もうダメなの!♥」
「センセイに叱られて、お説教されてる時でも!」
「えっちな気分、になっちゃうからぁっ!♥」
「ハァ……ハァァァ♥ スキぃぃ♥ スキぃっ♥ センセイダイスキ……!♥」
「コハクのカラダぜんぶで、センセイのこと舐め舐めさせて♥」
はしたない欲求と、恋情の詰まった叫び。
少女はついにはポールに舌を這わせ、その衝動があまりに激しいものだったゆえにか。
ポールに絡みつきながら、どんどん上へ這い上がっていきそうな勢いだった。
そこに、正気ではないスミノが同じようにポールにしがみつく。
乳と乳を合わせ、屈伸運動をしながら何度も。
「「オォっ♥ オオオっ♥」」
ふたりは互いのおっぱいを、一本の硬い支柱を中心に重ね合わせた。
ぐにゅん♥ ぐにゅるる♥ ぐにゅぅん♥
滑らかなるは蠕動運動。
ともに類い稀なる爆乳を持つ女たちが、その乳房をぬらぬらとテカらせ奪い合うようにポールを挟み込む。
やがて。
ふたりが同時に、高き所まで昇っていくのは……あたりがすっかり噎せ返しそうな湿気で満たされた時だった。
九条スミノは、冴木ハクアに恋している。
崇めるように、礼賛するように、舞い踊るように。
その恋は、新たな因習を作り出す。




