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館もの伝奇ミステリ(?)に転生して全事件を解決したら館の美女母娘とメイド姉妹に終身●●された冴木ハクアの袋小路  作者: 所羅門ヒトリモン
第2部

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14/21

File.14「伝奇憑き:九条ユウナ」♥



 美しく在りなさい。

 真に貴い世界(モノ)とは、玲瓏(れいろう)(たま)のごとく。

 宝石が触れ合い、澄んだ音を立てるように一切の雑音(ノイズ)がなく。

 調和という完結した二文字によって、ただ人を至福へ導くものなのです──


 九条ユウナは物心ついた時から、〝美しさ〟の奴隷だった。


 人は誰しも何かの奴隷である。

 好きなコト、楽しいコト、嬉しいコト。

 すなわち心に安らぎを感じ、魂に癒しを覚える対象・事柄に向かって。

 人間は自覚のないまま跪いて降伏しており、その味を知った後は極論。

 それを求めるためだけに人生を駆けていく。


 美術、芸術。


 ユウナにとって、人生のメインテーマはそれだった。


 ジョン・エヴァレット・ミレー作『オフィーリア』


 人生で最初に感動したのは、シェイクスピアの戯曲をモチーフに描かれた有名な絵画を目にした瞬間(とき)

 鮮烈な緑。精緻な川岸の自然。若く美しい貴婦人が、水面に半身を横たえる。


 いくつの頃に目にしたのかは覚えていない。


 けれど、幼心に感動したコトだけは、たしかに覚えていた。


 まだ戯曲の内容も、シーンの意味も知らなかった頃だが。

 ユウナは直観的に、ただその絵画が〝優れていて〟、〝高貴なもの〟だと感じたのだ。


「美術とは、芸術とは、洗練された文化の産物だ」

「人は古来より美しいもの、鑑賞に値するものを作り出し続けてきた」

「時には手間暇をかけて」

「挫折や困窮に喘ぎながらも」

「ただ己が感じ入った美しさを、感動を」

「この世に残そうとして」

「あるいは、誰かに伝えようとしてきた」


 なぜか?


「それは、美が世界で最も人々を跪かてきた神だからだよ」


 昔、玲瓏館に飾られたレプリカの『オフィーリア』を前にして。

 上等な背広を着た客人の誰かが言っていたように思う。

 ユウナは非常に印象深く覚えている。

 客人そのものではなく、客人がたわむれに放った言葉の意味を。


 幼い子どもに聴かせるには、どこか哲学めいた響きすら伴い、理解するには成長を待たなければならなかった真実を。


 つまり、あの客人は言いたかったのだろう。


 玲瓏館のようなお屋敷で、九条家(私たち)は暮らしている。

 従者の家系といえども、美園家同様に美しいものとして称賛や賛辞を贈られて。

 その一員、一部であるコトを認められている。


 ならば。


 玲瓏館の外の、およそ大多数の他人に比べれば。

 洗練された文化の産物を。

 要するに、人を無条件に感動させ跪かせ得る()を。

 いったいどれだけ、長きにわたって目の当たりにする機会(栄誉)を得ているのだろうか?


 感動は感謝と同じだ。


 ユウナは美しいものに幸福・癒しを覚えるのと同時に、ひどく感謝を覚える。

 俗物的なネットスラングを使えば、尊い、という感情に近い。


 この世に在ってくれて、ありがとうございます。

 私と出会ってくれて、心の底から感謝を申し上げます。


 ──ああ、なんて──キレイ……


 玲瓏館で過ごしていく傍らで、だからこそ玲瓏館の美しさに平伏するようになったのは当然だった。


 オフィーリアの自然美に見惚れたユウナは、メイドとして育てられる過程で、絵画や植物に関する才能を開花させ。

 奇跡的にも、好きなコトと得意なコトが合致した。


 まさに、天命のようだった。


 玲瓏館のメイド。

 美園家に仕える九条の家。

 生まれにも育ちにも不満はなく。


 ユウナの人生は、おおよそが満足のいくもので。


 時々、双子の妹の俗っ気には頭を悩ませていたものの。

 最初から最後まで、自分の人生はきっと安らぎと平穏、癒しに満ち満ちていくと信じていた。


〝美しいものを見たものは、美しくなる〟


 玲瓏館はその循環によって、調和している。

 綺麗なものに触れれば、人は自ずとそうであろうと内面を感化されるし。

 洗練されたもの、心動かすものに囲まれたなら。

 澄んだルチル・クォーツのように、怜悧(れいり)な輝きによって心身が透き通っていく。


〝育ちの良い人間には、性格の良い人間も多い〟


 世間では時折り、そんな言説も囁かれるけれど。

 ユウナは当然だと思う。

 上質な環境で上質なものを与えられて成長を経れば、人は皆、誰しもが美しくなり得るのだ。


 玲瓏館はその最たるもの。


 当主である美園ジュリア様は、不運に見舞われつつも殿方に負けないほど力強く稼業の舵を切り。


 後継者である美園ミウ様は、女学園では最優秀の評判を得るほどの才媛で、長女たるに相応しい風格をお持ちであり。


 次女である美園ルリ様も、スポーツの道では類まれな成績を残され、それだけの功績があれば未だ将来を嘱望(しょくぼう)するに不足なく。


 三女である美園コハク様だって、多少の欠点はあれども凡俗とは混じりようもない貴種であり、外見は最上かつ底知れない発育余地(ポテンシャル)をも秘めている──


 屋敷の美観を管理し、彼女たちの生活を円滑にサポートする。

 九条の家に生まれメイドして働くコトは、ユウナにとってまさに喜びだった。


〝スミノ、ユズキ〟

〝姉妹ともども、自分が玲瓏館の美を調和させている〟

〝その一環になっている〟


 日頃は使用人として、自らの感情を表に出すことは控えているが。

 玲瓏館で過ごす毎日、いや、一秒一秒が幸福そのものであり。

 尊敬する姉、メイド長であるスミノから教えられた一族の使命についても、何ら疑問を差し挟む余地のない天運・天職として、ユウナの目には映っていた。


 ……だが。





「これは……どうしたことでしょう……?」


 ユウナは花壇の前で、思わず戸惑う。

 事件から数日が経った、ある昼下がり。

 場所は玲瓏館の南東、段々上の庭園。

 その一角で、ユウナはいつものように庭の手入れを行なっていたのだが。


 気がつくと、新しい花壇が出来上がっていた。


 ……いや、気がつくとも何も、庭園の手入れはユウナの仕事である。


 原因はハッキリしていて、犯人も分かっていた。

 ユウナだ。

 ユウナ自身が庭園に新しい花壇を用意し、そこに海外から輸入した植物を植えていた。


「朝鮮人参……碇草(イカリソウ)……月桃とイランイランは温室に……」


 朝鮮人参は別名、オタネニンジン。

 碇草は別名、淫羊藿(インヨウカク)

 どちらも滋養強壮に役立つとされ、その字面からも伝わる通り、極めて強力な催淫作用があると言われている薬草・生薬だった。


 館の一階、温室(サンルーム)には。


 暖かな気候でよく育つ月桃(ゲットウ)とイランイラン。

 月桃はポリフェノールが豊富で、花を咲かせると女性の乳房によく似た蕾をたくさん生し。

 葉などからは高い美肌効果のある精油や乳液、入浴剤などを作成できる。


 もちろん、こちらはハーブティーとしても利用可能で、スパイシーで爽やかな甘みのある香りが特徴的だ。


 東南アジア原産のイランイラン。

 シャネルなどの高級ブランドすら原材料として使うほど、香水やアロマとして利用されて親しまれるこの花は、インドネシアでは新婚夫婦のベッドに添えられる。


 その香りは甘くエキゾチックで、官能的。


 性に関する高揚を強く助けると伝わっているほどで。


「私……こんな」


 明らかに()()()()()()を目的にした花壇など、作るつもりは無かったはずなのに……

 ユウナは戸惑い、静かに動揺し、完成している花壇を見下ろす。


 玲瓏館の美観を、下手をすれば損ないかねない代物だというのに。


 外構の片隅で、ポツンと佇み……頭の中では次々に()()()ばかりが浮かんでしまって、壊す選択肢が消え去っていく。


 ……九条のメイドは、玲瓏館と美園家のため。

 ただそれだけのために働き、尽くしていれば良いはずなのに。


 現在のユウナは、あまりに己を殺し切れていない。


 無意識の奥底。

 冴木ハクアと出会う前までに秘めていた願望でさえ、ここまで肥大化し表に浮かび上がる無節操はありえなかったのに。


 いや……それとも。


 ほんとうは、()()()()()()()()()()()()()()()のだろうか……?


 ユウナが真に跪くべきは──跪くべき美のカタチとは。


「ああ、私……困りました。困って、しまいました……」


 ガーデニング用の手袋を片手から脱ぎ取って。

 ユウナはふと、頬に手を添えて自分のなかの熱をたしかめる。

 なるほど。

 なるほど、なるほど。


「これが……恋、ですか」


 これが愛、というものですか。

 思えば今まで、誰かに美しいと思われたいなんて、思ったことがありませんでした。


 私にとって大切だったのは、私が想う〝美しい〟という感情であって。


 私自身の美しさを、誰かに認めてもらいたいなどとは、思ったことがありませんでした。

 いわんや、私が想う玲瓏館を、素敵に想ってくれる殿方に心臓が飛び跳ねるなんて──ああ、それは。


 感動を、絶対的な降伏(幸福)感情を、ともに分かち合える喜びでしかなくて!


「本来なら、それだけで終わったのでしょうけれども……」


 ユウナが見下ろす花壇。

 そこからは、たったいま植えられたばかりのはずの植物が。

 種から芽を出し、茎を伸ばし、倍速再生された動画のように見る見るうちに花を咲かせていく。


 ……幻覚だろうか?

 それとも、現実だろうか?


 どちらにしても。


「私は魔女、なのですよね? でしたら冴木様は、魔女である私を野放しにするべきではありませんでした……なのに、あんなふうにお許しになられてしまうから、だから私は……また」


 作って、しまうのだ。

 盛るための薬を。

 目的を叶えるための媚薬を。

 催淫効果のある香水や香油を。

 官能的な高揚感をもたらすハーブティーを。

 栄養価の高いお菓子と一緒に召し上がってもらって。


 ()()()()()も、それらを味わい、いつでも内側から彼のために淫らに蕩けられるように。


 ユウナは静謐に、計画を立てる。

 玲瓏館の住人は、すでに過半数が冴木ハクアに恋をしている。

 だったら、残りふたりも運命は決まっている。

 ()()()()()()、ユウナがしておくべき仕事は。


「──大恩ある冴木様のために、準備を整えておくコト」


 少しずつ少しずつ、玲瓏館の住人を媚薬漬けにしていく。

 倫理的にも法的にも、もちろんアウトな判断であり計画だろう。


 だがしかし、それがこの恋情の前に何だというのだろうか?


 冴木ハクアは九条ユウナを、〝完全な美〟にしてくれた男性だ。


 玲瓏館の調和美。


 つい最近まで、ユウナは維持管理に努めている側だった。

 玲瓏館の一員、一部と言われていても。

 屋敷の美術的な価値、芸術的な価値。

 それらを屋敷内で、一番に近い優先順位に定めているのは、恐らくユウナただひとりだけ。


 ユウナのように玲瓏館の調和美を尊ぶ気持ちを。


 スミノやユズキ、美園家の面々は持っていない。

 誤解を恐れずに断言すれば、ユウナほどには持っていない。

 だからこそ、ユウナは自分がこの美しさを守らなければ、と静かに使命感を燃え盛らせていたワケだが。


 次期当主である美園ミウとの喧嘩によって、理想的な未来の構築が難しくなったと絶望しかけた時。


 三階のアトリエで、突如として絵画から怪異が発生して。

 混乱と恐怖に涙をこぼしていたユウナを、ハクアは救ってくれた。

 ミウを連れて、絶望から掬い上げた。


 それどころか、罪の告白さえも寛大に許してくれて……


「あの絵を、欲しがるなんて……」


 ──その絵、すごくいいと思う。

 ──良ければ僕にくれない?

 ──三階にあった絵、ユウナちゃん自身はどれも脇役だったからさ。

 ──ふたりが同時にメインなのって、すごくいいと思うよ。

 ──というか、少しはユウナちゃんが主役の絵があってもいいんじゃないかな?


 つまりそれは。


 ──冴木様は私を、鑑賞に値すると……?

 ──ん? ああ、絵の主題として? そうだね。自画像になっちゃうのかもしれないけど。


〝ユウナちゃんの絵を見て、綺麗だと思わないのはありえないよ〟


 彼は言った。

 ……おそらく、言葉の意味自体は絵そのものに対して向けられたものだろう。

 だが、あのとき、あの瞬間に。


「私は──九条ユウナは、恋をしてしまいました」


 ハクアの言葉が、ユウナの絵ではなく、ユウナそのものに向けられているように感じてしまって。

 感じ入ってしまって。

 勘違いかもしれないけれど、ハッと心動かされ、感動してしまった。


〝このひとは私を、()にしてくれる〟


 それまでは玲瓏館で、屋敷の調和美を影ながら維持するに過ぎなかった脇役の女を。

 背景で留まっているには惜しい。

 キミもまた、七つの美の立派な一角なのだから。

 時には主役を張っても、構わないなんて──


 心の奥底。


 ユウナが自覚すらせず秘め抱えていた欲望を、欲しいときにまっすぐ与えてくれた。

 この感動は一期一会。

 ひょっとすると、他人から見たら間違ってると言われるかもしれない恋かもしれなくても。

 ユウナは決めた。決断した。


 冴木ハクアを運命にする。


 彼を私の運命にする。


 じゃあ、どうしたら現状、その運命を叶えられる?


 どの道、彼は美園家の物になるだろう。

 このままいけば、おそらくは美園家次期当主の婿養子として迎え入れられる形で。


 表面上の彼の未来は、すでに大凡が決まっている。


「ミウ様がそう望まれるというのもありますし、私もまた微力ながらお手伝いするからです」


 であれば、後は表ではなく裏の落着。

 世間から見てどう映るかではなく、玲瓏館の中、内側でどのような関係性を形作るべきか?


 ユウナとて女である。

 ハクアへの想いを自覚したことで、恋する女は美しい、などという世間一般の通説も。

 身を以って理解している真っ最中でもある。


 すなわち、完璧だと思えていた玲瓏館の調和美には、さらなる上があったのだ。


 五人では足りない。

 七人全員が恋をしなければ。


 そして、そうなった暁には法も倫理も道徳も。


 多少道を踏み外すことになっても、致し方ない。

 だって、そうすることでしか全員の幸福は掴めない。

 計画は実行するしかない。


 ゆえに九条ユウナは、秘密裏に行動を開始する。


 あるいは、熱に浮かされて見る夢のように、新たな玲瓏館の理想(カタチ)を思い描いて。


 まずは自身を、新製媚薬の実験台にする。








 美しく在りなさい。

 真に貴い世界(モノ)とは、玲瓏(れいろう)(たま)の如く。

 宝石が触れ合い、澄んだ音を立てるように一切の雑音(ノイズ)がなく。

 調和という完結した二文字によって、ただ人を至福へ導くものなのです──


 ユウナがそれを実感したのは、夜の繁華街を歩いたときだった。


「ひゅ〜! キミ、かわいいね!」

「ルックス最高! カラダも最高!」

「ひとりでどうしたの〜?」

「てか、それってコスプレってやつ?」

「呼び込み終わりなのかな?」

「ウチにもキミみたいな子欲しいな〜!」


 中学生の時分だ。

 その日はたまたま、お屋敷の使いで外出していた。


 繁華街の路地裏通りに、ポツンと佇む紅茶店。


 雑多とした街並みとは裏腹に、そこでは昔から良質な茶葉を取り揃えているらしく。

 玲瓏館は先祖代々贔屓にしているとかで。

 当時放課後、メイドとして働き始めたばかりだったユウナは、興味があったのもあって自ら使いの役を買って出た。


 その帰り。


 紅茶店の店員と、思っていたよりも話が長くなってしまい。

 ユウナが路地裏を抜けていこうとすると、昼間はあまり見かけない類の人種が声をかけてきたのだ。


 彼らはユウナの外見を見て、誘蛾灯に群がる虫のように次々にやって来た。


 どうやら、キャバクラなどの風俗店。

 そのスカウトらしい男たちで。

 中には芸能界で、グラビアモデルやアイドルを発掘していると自称する男もいた。


 彼らはユウナがまだ中学生だとは思わなかったのか、困惑しているユウナの前で少々下卑た言葉も使った。


 曰く、キミならウチでナンバーワンになれるよ。

 曰く、胸大きいね? 何カップあるの?

 曰く、お金稼ぎたくない? いいところ紹介しよっか?

 曰く、てかどこのお店の子? 今度遊びに行きたいな。


「あの、私はまだ中学生なのですが……」


 眉を顰めたユウナがこの言葉を放つと、彼らは腰を抜かしかける勢いで退散した。

 だが、無遠慮に声をかけられた側のユウナには、モヤモヤとした気持ちが残った。


 彼らの服装、言葉遣い、悪趣味な香水、思考の背景、身振り手振り。


 雑然とした街並みの薄闇で、それらはとても猥雑としていて。

 まるでユウナを、一山幾らの大量生産品のように消費しようとしているようで。


 明け透けに露出され過ぎた欲望も。


 それまで玲瓏館で、噛み締めるように〝美〟と対峙していたユウナには。

 生理的な嫌悪感と、恐怖心が宿った。


 ──自分を価値あるもの、美しいものと考え驕っていたワケじゃない。


 ただ少しだけ、カルチャーショックだった。

 自分が大切にしている価値観とは、あまりにかけ離れた価値観と遭遇してしまい、未成熟な心には衝撃が強過ぎたのだ。


 ショックは拒絶感情を加速させる。


 それ以来、ユウナのなかで玲瓏館への執着はより大きくなった。

 あんなふうに消費されたくない。

 あんなふうに猥雑に貶められたくはない。

 あんなふうに欲望に晒されて、臭い匂いを嗅ぎながら、雑な欲求の受け皿になんてなりたくない。


 だって、ほんとうに価値があるものなら。


〝その感動は、屈服は、いつまでも心のなかに残り続けるものでしょう?〟


 ユウナは強く自覚した。


〝私は玲瓏館という環境で、望まれる通りの人間でありたい〟

〝未来の当主であるミウ様にも、高貴な姿であってもらいたい〟


 夜の世界に羽ばたく蝶のような変身など、ユウナは美しいとは思わなかったのだ。


 調和。調和。調和。

 大事なのは持って生まれた高貴さと釣り合いが取れていて。

 全体が具合よく整っているコト。


 玲瓏珠のごとく。

 ただ訪れるだけで感動をもたらす一種の美世界に。


 私は溶け堕ち、身も心も捧げて吸い尽くされたい──






 ……いまにして思えば。


 それは玲瓏館に対する盲目。

 感動と屈服がゆえの忠誠心不足に等しかった。


 真に価値ある(美しい)理想を思い描くのであれば。

 ユウナは気がつくべきだったのだ。


 美園ミウが当主となり、メイド長として自分が寄り添う。

 それだけでは未来が足りない。


 美園ミウの隣には、ふさわしい伴侶が在って然るべきで。

 屋敷の女たちにも、彼という鑑賞者──上っ面の外見だけでなく中身まで深く理解する洞察眼を持った最高の主人──を与えることで。


 歓喜、随喜、狂喜が宿り。


 異性に対する精神的高揚感などから。

 女の肉体は反応し。

 内側からもっと美しく。

 もっと玲瓏館の調和美を、高次元に昇華させられる。


 証拠はすでに、四人の前例という形で揃っていた。


 彼女たちは内面も成長し、妹のユズキに至っては摩訶不思議な魅力が取り憑き、美貌に拍車がかかっている。


「でも、それも納得です。そもそも私たちは、このお屋敷でそうあるのが正しかったのですから」


 小さな声で、口の中から音を溢さぬように呟く。

 場所は玲瓏館二階、ユウナの私室である『金葉の間』


 高級木材であるチークを使った床と、薄緑と金縁に彩られた壁の空間である。


 部屋のなかには木製のベッドと、金糸の刺繍が編まれた清潔なカバー。

 埋め込み式の香油棚には、乳白色の液体が詰まった小瓶類。

 作業机には絵画制作やガーデン設計、紅茶のブレンド比較などを記した紙や道具。

 そのほかには多少、香りの良い花々や薬草など。

 観葉植物が多い程度の特徴だけ──だったのだが。


 事件の後でユウナは、金葉の間を一部模様替えしていた。


 天井に、大きな絵画を飾ったのだ。


 作業机の前で椅子に座りながら、背もたれを倒してそれを見上げると。

 視界いっぱいに飛び込んでくるのは、とある作品に影響を受けてユウナが描いたばかりの一枚絵。


 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作『ヒュラスとニンフたち』から着想を得た、七人の美女に囲まれる青年である。


 着想元の作品は、ギリシャ神話の一場面を描いたもので。

 ヒュラスという青年が泉に水を汲みにくると、その青年に魅了された泉の精──全裸の姿で描かれる七人の美女ニンフがヒュラスを誘惑する。

 誘惑されたヒュラスは、その後、行方不明になってしまうというシーン。


 現代では〝女性の危険なセクシュアリティ〟の隠喩。


 男性を惑わすファム・ファタールや、ニンフォマニア。

 女性の色情症、異常性欲、多淫症に関する示唆として解釈され伝わっている。


 それを、ユウナは敢えて〝あるべき未来の玲瓏館〟として、一部構図や筋書きなどを置き換えながら作品に取り込んだ。


 金葉の間の天井には、玲瓏館一階の大広間(ホール)で。

 ユウナ自身を含めた七人の美女が、全裸で、ハクアをそれぞれの私室に誘う情景が描かれている。

 誘い、あるいは懇願し、媚びるように哀願しながら、切ないカラダを持て余す美園家と九条家の女たち。


 一日の仕事を終えた後。


 ユウナはここで新しい媚薬の調合・開発に取り組みながら、紅茶に混ぜたそれを口に含んで恍惚状態の到来を待つ。

 椅子に深く背中を預けて天井を見上げ、ハクアの一番近くに描いてしまった自分自身を目蓋の裏にも焼き付けて。

 何度も何度も、その〝絶対的な感動〟と溶け合うような官能を待ち侘びる。


 ……媚薬と言っても、所詮はただの生薬だ。


 幻覚作用を企図しないのであれば、使用される素材は漢方のようなもの。

 服用してすぐに薬効が現れ、分かりやすく催淫状態に陥るなどあり得ない。

 まして健康に悪影響をもたらさず、性的な欲求や快楽だけを亢進させるなど、常識的に考えれば土台不可能。


 ユウナも最初は、少し強力な滋養強壮効果があればいい、くらいに考え薬を調合していた。


 ──しかし。


「ぁ……あっ! き、た……!」


 ()()()()()()()()()()()()()

 ユウナに取り憑いた【山姫】は今もなお。

 新たな欲望()を啜って、魔女と吸血鬼──否、ニンフでもなく。

 もっと違う名前の存在として、新生しているのではないだろうか?

 妖怪変化、しているのではないだろうか?



 それとも、やはりこれは夢幻(ゆめまぼろし)

 行き過ぎた想いがもたらす錯覚で、薬の効果と微睡の最中に蠢く幻覚に過ぎない──?



 夜。

 気づくとユウナは、両腕を拘束されている。

 椅子の上に座っているのは変わらない。

 作業机の上には、ティーカップやすり鉢。

 媚薬を調合するために準備した道具類と、材料となる各種ハーブ、薬草類を植えてある小さな鉢植えがある。


 ただし、鉢植えの植物たちは様子がおかしくて。


 昼間の庭園で見た急速成長とも違い、不可解な動きを見せている。

 土の下から根を伸ばし、鞭のように伸びた蔓を這うように作業机に伝わせて。

 チークの床に到達すると、間も無くしてユウナが座る椅子に絡みつき。


 蔓と根はたちまち椅子を覆って、どう考えても鉢植えに収まっていたとは思えない量が溢れ出ていて。


 夜も深いというのに、未だメイド服に身を包んでいたユウナを、まるで獲物を見つけたみたいに縛る。


 と言っても、その拘束は比較的に緩やかで、事件の日に接触した恐ろしい怪異と比べれば何のことは無い。

 あくまでも尋常の植物が持つ程度の力強さで、しかし容易な抵抗を許さない程度には強制的で。


 ユウナはドギマギと、自身の両腕が自分の意思とは関係なく開かれていくのを、見守るしかない。


 やがて、程なくして。

 ユウナの体勢は前から見れば、ちょうどアルファベットのWのようなポーズになる。

 左右に開かれた腕は肘を曲げていて、しかしながら、手首の位置は肩よりも少し後ろ。

 背中を反らし、胸を突き出すように固定される。


 すると、ユウナを拘束した蠢きとは、またべつの蠢きが前方から空中を泳いでやって来る。


 なにか分泌物でも出しているのか、その匂いは非常に独特で。

 ハクアの体臭のような香りがした。


「んっ……あっ、そこ、は……!」


 蠢きはエプロンの上から、パツパツに張っているユウナの胸を。

 男の匂いを漂わせながら、輪郭をなぞるようにして慎重に(まさぐ)った。

 外作業も多いユウナのメイド服は、生地が厚めだ。

 だから、その繊細な感触と、軽微な刺激には()()以上の意味が無くて。


 蠢きはいつも、ある程度ユウナの胸のカタチを確かめると、その重さや質感、柔らかな肉の感触を吟味するように力を強めていく。


 さわぁ♥ さわぁ♥


 という感触が。

 胸の輪郭、上下左右で、


 ぐにぃ♥ ぐにぃ♥

 ずしっ♥ ずしっ♥

 みちぃ♥ みちぃ♥


 と変わるのだ。

 最初は触手の先端で、なぞったり叩くようだった動きが。

 ヘビやナメクジといった、蠕動動物じみた動きに変わって……


「ハァ……ハァぁあっ♥」


 ユウナの口からは、次第に熱っぽい吐息が漏れ始める。

 体温の上昇と合わせてだろうか?

 しばらくすると、蠢きはエプロンの下側に潜り込み始めた。

 これもいつもと同じ。

 蠢きはそこに、豊富な栄養源が隠されていると分かっているかのように、侵入を試み始める。


 ユウナの両脇、首元下。


 ぽっかりと開いた侵入口から、それは邪魔な厚布を取り払おうと。

 さらに数と勢いをまして、強い力を込めていく。

 メイド服のボタンが、ひとつ、またひとつ。

 器用に外され、(あわせ)の部分がガバリッ! と開かれて。


 自分の乳房の上を、あまりにたくさんの感触がのたうち回るものだから。


 ユウナはゾクゾクと込み上げる快感に震えながら、ついには露出させられてしまった胸部を見下ろす。


 難しいことは無い。

 ユウナのバストは、126センチT寄りのSカップだ。

 ほんの少し顎を引くだけで、視界の下はいつだっておっぱいで埋め尽くされる。

 ……そう。

 いままさに、蠢きどもに弄ばれている特大サイズのおっぱいが。

 中学時分にして、ユウナを成熟した雌だと周囲に誤解させた豊満艶麗の象徴が。


 袷の解放と同時に、胸部を補正する特注コルセットまでも強引にずり下ろされて。


「っ、うくぅ……♥」


 ばるるんっ♥ と完全に露出。

 途端、我先にと活性化した蠢きどもに押し寄られる形で、エプロンは両胸の真ん中へ埋め込まれる。

 ユウナのおっぱいは自然とそれを挟み込んでしまって、ひどく淫猥な体勢と格好になってしまう。


 ああ、ハクアの匂いがする──


 私室にひとりきりだと言っても、ユウナはそこで羞恥に肌を赤く染め。


 いま、最も敏感な皮膚の上で。

 直接、ぐるぐると巻き付く形で本格的な蠕動を始めた蠢きの与える快楽。

 根本からドリルさながらに長乳を搾っては、逆再生するように反対側に滑り。

 乳肉と乳肉に食い込みながら、ひたすらぎゅるるん♥ と繰り返されるそれを。


「〜〜〜〜〜っ、ン、あぁあっ!♥」


 ──やはり、ゾクゾクと受け入れてしまう。

 蠢きどものは動きは執拗的で、そしてもう遠慮が無い。 

 ユウナの乳房を如何にして刺激すれば、自分たちが求める栄養が手に入るか分かっているのだ。


 しかも、ユウナにはそれが、ハクアによって責められている感覚に変換されている。


「さ、えき、様っ♥」

「そんなふう、にっ、左右交互に揉み搾られては……んン──!」

「わ、私もうっ♥」

「きもちよく、なって……」

「ひぅ!? あ、アァ♥ アァぁあぁぁ……♥」

「クセに、なってしまいます……♥」

「クサいのに……」

「どうして、こんなに嗅ぎたくなってしまうのでしょう……?」

「ハァ……ハァ……」

「さえき様のにおい、がっ♥」

「私のおっぱいに、染み付いて……!♥」

「で、デちゃいます♥ もうかんぜんに、デちゃいますからぁぁ♥」

「オッ♥ オォッ♥ んっ♥ ダメぇ……」


 先端の熱が高まっていく。

 ありえないはずなのに、ほとばしる何かがある。

 下腹部の奥から、胸の奥も同時に。

 アツく込み上げる快感は、しかしたしかに放出の噴水だった。


 暴れ回るそれを、蠢きたちは喜んで味わおうと吸い付き啜っていく──


「はぁ……んんっ♥ はぁ……」


 痙攣のようなカラダの震え。

 波が収まり、静かに余韻に浸っていると、作業机の上はひどい状態になっていた。

 何もかもが濡れていて、乳白色。

 一番ひどいのは、鉢植えだ。

 匂いもひどい。充満している。気がおかしくなりそうなほどに。


 だが、それがいいのだろう。


 栄養を吸って、今夜のところは満足したからだろうか?


 気づくと蠢きどもは掻き消え、代わりに妙な、ユウナでさえ知らない植物が生っている。

 生き物の内臓のような、赤黒い根本。

 濃い色合いは土から伸びるほどに緋色に薄まって、全体的には生肉のようなピンク色で落ち着いている。


 ピンク・プラント。


 それは、あろうことにまん丸と(ふと)った果実も垂らしていた。

 明らかに、尋常の植物ではない。


「…………」


 しかし、不思議とユウナに恐怖心は無かった。

 ハクアから話を聞いて、自分に取り憑いていた怪異の情報については、素人ながらに多少を把握している。


 九条ユウナは画霊を描く山姫──魔女であり吸血鬼。


 そのルーツを辿ると、春の女神や花の精などにも行き当たり。

 ニンフもまた、そのひとつなのだと云う。


「男性を惑わし、美貌と色気で誘う自然の精……」


 ニンフォマニアという、色情狂を指す言葉の語源にもなった人ならざるもの。

 西洋ではそれを、異教の悪魔と見なすこともあったとか。

 思い出すのは、ユウナが敬愛するミウからの耳打ち。


 ──ユウナさんって、それじゃあ……

 ──ハロウィンの、サキュバスだったりして……?


 まさか、と思っていた。

 けれども、目の前の異常な果実を前にしていると、ユウナはどうしても禁断の果実を連想してしまう。


「これを使って媚薬を作り……聖書と違って、そそのかすワケでもなく、勝手に知らないうちに口にさせるのであれば……」


 九条ユウナは、たしかに悪魔的だ。

 だが、ほんとうに害があっては困るので。

 ユウナはとりあえず、ひとかけだけ果実を齧ってみた。


「! ……なんて、甘い」


 蕩け、蕩け、メルティな幸福感が脳を満たす。

 つい今しがた、かなりの快感を味わったばかりだというのに、もう甘い疼きがカラダの奥に広がり始める。

 素晴らしい。

 これはまさしく、いまのユウナが求めていた媚薬そのもの。


 確信に、ユウナの口元には人知れず微笑みが浮かんでいた。




「やっぱり、またお薬つくってた……」

「ミウ様!?」




 そこに、部屋の扉を開けてミウが現れた。

 彼女は白いネグリジェ姿で、金葉の間の扉を後ろ手に閉めると、何故かガチャリと鍵をかける。

 ユウナは驚き、痴態も露わな格好をいまさら思い出して慌ててエプロンで前を隠した。


 いったいなぜ、ミウが自分の部屋にいるのか。

 どうして鍵をかけておかなかったのか。


 羞恥心と混乱、後悔で口をパクパクさせるユウナは、だがそれ以上に。

 ミウの次なる発言に動揺した。


「ねぇ……ユウナさん。それ、私にもちょうだい?」

「え──ミ、ミウ様? これはその……」

「分かってるよ? たぶん、イケナイお薬だよね……でも、見てたから」

「!?」


 見てた、とは何を。

 いつから、どこまで。

 ユウナは目を見開き、「え、あ」と常にない行動不能状態に陥る。

 それを、恵体長身の少女は妖しい眼差しで見つめ、ちら、と作業机に視線を一度移してから、


「せっかくハクアさんに許してもらえたのに、またこんなイケナイお薬つくって……どうするつもりだったの……?」

「え、えっと、その……ミウ様これはっ」

「もしかして、ハクアさんに飲ませようとしてたのかな? それとも、私たちに?」

「っ……」


 鋭く、言い当てられてしまうと嘘はつけない。

 ユウナはミウに嫌われたくないからだ。

 裏で自分勝手なことをしていても、相手には都合よく好意を向け続けてもらいたい。

 卑しい女だと自分でも思う。

 それでも、それがユウナの本性だった。


 イタズラを咎められた子どものように、思わず唇を引き結んで押し黙るユウナに、ミウはしかし「いいんだよ?」と続けた。


「い、いい……?」

「うん。私ね? 実は最近……エッチなアニメにハマってるの」

「は……?」

「十八歳だから合法だよ? いろんなアニメとかゲームもやってるんだけど……そのなかに、こうゆうイケナイお薬を使ったお話もあって……ユウナさんがもし同じものを作れるなら、こっそり許可してあげる……」


 後半は、囁くようだった。

 許可。

 許可、とはいったい。

 混乱と当惑、どういうことかと狼狽えることしかユウナにはできない。

 なのに、ミウはさらに続ける。

 詰め寄るように、圧迫するように、命令するようにユウナに近づいて。

 歳下でも、身長の差もあるためユウナには逆らいがたい迫力が少女には備わっていて。


 エプロンと薄いネグリジェ越しに、胸と胸がぶつかる。


「……だって」


 少女は、淫らに微笑っていた。


「とても……気持ちよさそう、だよね? ハクアさん──ううん、ハクア様も、ぜったい喜んでくれると思うの」

「私もね? さっきのユウナさんみたいに、エッチなカラダになりたいなって……いまのままでも、少しは滲んだりするけど……」

「──こんなにいっぱい、デないから……ユウナさんだけズルいと思うよ……?」


 だから、いいよ。

 と、ミウはユウナに許可を与えていた。

 言葉の意味は明確で、だからこそユウナは驚きから徐々に歓喜に気持ちを震えさせていき。


 恋する美園ミウは、やはり比べ物にならないくらい美しいと揺らめきかける。


「よ、よろしいのですか……? こんな妖しい果実(もの)、食せばなにが起こるか知れませんのに……」

「あ、いまさら良識人のフリ……? 私が許可しなくても、ユウナさん勝手にやろうとしてたんでしょ……?」

「それは──そうなの、ですが……」

「私がハクア様を独り占めしようとしないのが、不思議なのかな……?」

「……」

「心配しなくても、彼は私のものになるよ。私が一番。だから、二番以降は気にならないの」

「! ルリ様やコハク様はもとより、ジュリア様でさえ……?」

「うん。それにね? ユウナさんがハクア様を好きになってくれて、嬉しいって気持ちもあるから」


 玲瓏館の女が、全員とも彼を恋い慕うようなっても喜びしかない。

 何故なら、冴木ハクアは神を超える。

 彼に仕える召し使いはいくらいてもいい。

 いや、むしろたくさんいなければ不敬なくらいだとミウは断言した。


 ……もはやユウナに、これ以上の異を唱える意思は欠片も無い。


「でも、一応……なにかあった時に困るから……私もユウナさんと一緒に、実験台になる」

「ミウ様……」

「大丈夫。ハクア様を想ってユウナさんから生まれた怪異()なら、きっと害なんて無い……」

「ありがとうございますっ」


 ふたりは、そうして〝禁断の果実()〟を共有した。





 ──それから三十分後。


 金葉の間は、色欲の万魔殿(パンデモニウム)に変貌していた。


 美園ミウは牛柄のバニースーツに着替え。

 九条ユウナはミウが隠し持っていたハロウィン用のコスプレ衣装。

 その名も『ハロウィン・サキュバス・ヴァンパイア・ウィッチ』なる破廉恥な装いに身を包んでいた。


 魔女帽子に悪魔の角のヘアアクセ。

 コウモリの翼のような背中ガラ空き特殊マント。

 両腕には袖口が広がったフリルのつけ袖。

 両足は紫とパンプキンオレンジのニーハイソックス。

 カラダの中心は、胸下までしか布が無いぴっちりとしたハイレグ。

 長大に育ったバストを辛うじて覆うのは、そんなハイレグ部分と紐で繋がっただけのまさかのマイクロビキニ。


 ミウ曰く、ユウナ専用の衣装として特別にあしらえたものだと云う。


 何にしても、両者ともに痴女だった。

 大都市の往来を歩けば、一発で通報されてしまうくらいに公序良俗に反した格好と肉体で……


 いまやふたりは、同時に淫猥な夢の世界に溶け堕ちていた。


「ハァ……ハァァ♥ スゴ、イィィっ♥」

「ミウのおっぱい、ちゅうされちゃいました……♥」

「っ、くふぅん♥ ……ああっ、ほんとうにスゴイですっ♥」

「ハクア様にちゅう……♥ されてっ!」

「ミウのウシさんおっぱい、ほんものになっちゃいました……♥」

「これからのっ、あっ、ミぅは……♥」

「ハクア様専用のおっぱいモーモーバニー、なんですから……♥」

「……いつでもお好きな時に」

「ミウのおっぱいミルクをっ、ちゅうちゅう♥ ってしてください……♥」


 牛柄カチューシャのウシ耳を揺らし、首には赤いベルトチョーカーと金色の鈴(カウベル)

 ミウはバニースーツのカップ部分をベロンと剥がし、ユウナの部屋にあった乳白色のボディミルクを満遍なくかけていた。


 そうすると、どこからともなく出現したピンク・プラントが蠢きを伸ばし、先端が花弁のように開閉する器官を、美園家ご令嬢のバレーボール越えおっぱいに吸いつかせる。


 花弁は肉厚に育っており、先ほどよりもより効率的に。

 最上級の美少女たちから豊富な栄養素を吸い取れるよう、男性の手のような動作を可能にしていた。


「ぉぁッ♥ おッ♥」


 もにぃ♥ もにぅ♥ もみもみ♥

 妄想と幻覚の内側で、少女は今まさに愛しい男から〝そうされている〟のだと仮初の感覚に浸る。

 だから、いつもと同じように、彼の上でまたがったシチュエーションを脳内ですぐさま展開して。

 両手を頭の上、ウサギ耳に見えるよう広げた。


「っ、い、いですよ〜……♥」

「ミウのホルスタインおっぱい、たくさんモミモミってしてください……♥」

「はぁ……はぁ……♥」

「ハクア様に揉んっ!? で、もらうと……♥」

「ミウ、なんだかハクア様の……」

「……っ」

「専用♥ ミルクサーバー♥」

「に、なったみたいで……興奮します……♥」

「じゃあ……ぴょん♥ ぴょん♥ ってしますからね……?」

「もぉぉ〜♥ もぉぉ〜♥ って鳴かしてください……♥」


 次の瞬間、ミウの口から漏れたのは「ンッ♥ そんな、いきなり……オッ!? オオォ〜〜♥♥♥」という嬌声だった。

 ダイナミックな雌の肉体が、大きく仰け反りかける。

 そして嬌声と同時に、少女の巨大な雫型の乳房からはたっぷりと愛情がほとばしり、ピンク・プラントの擬似花弁器官からは、ぢゅるるっ♥ と淫らな水音が響き渡った。


 乳母の意図を汲んだ快楽を与えるため。


 九条ユウナから産み落とされた新たな微小怪異は、宿主の望み通りに変異していく。


 ならば宿主、ユウナは。

 そうしてまた、新たに部屋の隅で生っていく禁断の果実を横目にしつつ。

 はち切れそうに実っているのは、自前の果実も同じだと。

 マイクロビキニの上から先端をなぞり、夏を終えた先の秋の季節を妄想していた。


 ハロウィン・サキュバス・ヴァンパイア・ウィッチ……


 お菓子作りが得意なユウナは、毎年ハロウィンになるとイベントの主宰を任されている。

 本物のカボチャを使ったジャック・オー・ランタンの飾り付けや。

 お菓子の詰め合わせだって、すべて手作りで用意する手の凝りようだ。

 なので、金葉の間のクローゼットには、来年も使えそうなパンプキン・バスケットを取っておいてあったりする。


 ……それを。


「ん……」


 ユウナはぽぉ、と蕩然としながら取り出した。

 大型のパンプキン・バスケットは、上部をカットされて箱状になっており、正面にはジャック・オー・ランタンの表情作りのため穴も空いている。


 マイクロビキニの紐を、ユウナはしゅる、と肩から落とした。


 そして、大事な部分を隠しているビキニ部分が、完全にずり落ちて乳房が露わになる前に。

 長乳を半ば押し込むように、バスケットの中に入れる。

 マイクロビキニの紐が、ジャック・オー・ランタンの輪切りにされた頭から垂れ落ち、おっぱいを三分の一ほど箱に入れる形で隠した。


 ユウナの耳たぶには、ハクアの声が届いている。


 ──ユウナちゃん。トリック・オア・トリート。お菓子をくれないとイタズラしちゃうよ。


「ハァ……♥ ハァ……♥」

「はい……♥ ちゃんと、準備してあります……♥」

「痴女コス色情狂女の……」

「126せんちドスケベ(サキュバス)カップ・メルティスウィーツ……」

「っ、ぁぁ♥ どうぞ冴木様のお好きなように……」

「いたずらなさってくださいませ……♥」


 ピンク・プラントの蠢きは、その言葉と同時にユウナが持つパンプキン・バスケットの正面穴から侵入する。

 ユウナがやっているのは、箱の中にある()()()を手探りで掴ませる行為だ。

 だが、箱の正面穴から手を差し入れれば、お菓子は絶対に外には持ち出せない。


 ゆえに必然的に、ユウナはハクアのイタズラを受けるしかなく。


「ハァ……♥ ハァァ……♥」

「カリカリ……いい……♥」

「きもち、いいです……さえき様ぁ♥」


 箱の中の暗闇で。

 それはとても淫靡な官能を授けるのだった。

 ジャック・オー・ランタンが涙を流す。

 乳白色の、しとどに濡れた果実の潤い。

 やがてそれは、滂沱のごとく溢れて新たな果実を生す栄養源となる。


 ──玲瓏館の未来を担う若き才媛たちは。


 そうして、秘めやかな蜜事に邁進するのだった。






 九条ユウナは、冴木ハクアに恋している。

 毒のある花のように、恐ろしい魔物のように、絵画に隠された一雫の謎のように。



 その恋は、禁断の楽園を現実に描き起こす。




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