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第7話 乙女の生贄

 エステルは困惑していた。

 一年近くぶりに訪れた義妹の来訪は思いもよらないものであったからだ。


「あなたに断る権利なんてないわよねぇ? お・ね・え・さ・ま」


「……ねぇ、エマ。その赤ん坊って誰の子供なの? 父親は――」


「――さぁ? 誰かしらね~」


 気になって尋ねたエステルの深刻な質問にも実に軽く、まるで昨日のディナーの内容でも思い出すかのようにエマは答えるのである。


「まぁ、そんなことはどうだっていいのよ。()()()()()()にするのですからね。全てはお姉様のことになるの」


 ニッコリと満面の笑みをうかべてエマは自分の胸に手をやる。


「そして私は清らかな乙女のまま。なんの汚点(キズ)もないキレイな身のままで王太子様のもとへと輿入れしますの」


 聖女でも気取っているのか、この一瞬ばかりは本当に出会ったばかりの頃に見ていた無邪気な子供の顔のようにエステルにも見えた。


「では、そういうことですから。よろしくお願いしますわね。三日後の夜に迎えの馬車を寄越しますから」


「夜!?」


「えぇ。お姉様は幽閉された事で精神を病まれてお亡くなりになった――ってことにしますの。だから極秘に一度お邸に戻っていただかなくてはなりませんのよ」


「なっ……」


 エステルはギョッとした。


「仕方ないでしょ? この館に入った者は棺になってでしか出られない決まりなんですもの。生きている姿を見られるわけにはいかないの。――罪人がそれ以外の理由で外になんて出られるとでも思ってらしたの?」


 クスクスと笑うとエマはまたフードを被り、ハンナにも何やら告げてこの館から出て行ったのであった。


「お嬢様……」


 ガックリと床に膝から崩れ落ちて放心状態になってしまったエステルに気が付き、心配そうにハンナは声を掛けた。


「大丈夫……。えぇ、大丈夫よ。ごめんなさい」


 ガクガクと足を震わせながら立ち上がろうとするエステルに手を貸し、ハンナは体を支えながら椅子へと座らせた。


「ありがとう、ハンナ」


「いえ…………」


 どうにも重々しい空気の中で無言が続き、息苦しさを覚えたハンナはどうにかしたく……。


「わ、私……温かいお茶を入れ直してきますね」


 冷めきったお茶の入ったティーカップとティーポットを机の上から下げようと手を賭けたその時、服の端をギュッとエステルが掴んでくるのだった。


「お嬢様?」


「ハンナはさっき……何を言われていたの?」


 そう聞かれてハンナは背筋がピリッとなるのを感じた。


「私は――この件の真実を外に漏らさぬよう、口封じの為に『棺』になってもらうこともあるいは……と」


 エステルは『棺』という言葉に驚き、俯いていた顔をバッと上へと上げてハンナの顔を見た。


「そんなっ――!! ハンナが……」

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