第6話 黒き吐露
「失敗? なにを――」
そうエステルが口に出すとエマはキッと睨んできた。
「私の人生の汚点だわっ! まったく!」
重々しく溜め息を吐くとエマは苛立った様子で首を横に振る。
「まぁ、あなたはもう誰も味方のいない罪人の身ですもの。そんなに知りたいというのなら、本当のことを教えてさしあげても良くってよ。どうせ誰もあなたの言葉は信じないし……話す相手もいなかったわね」
その言葉にエステルは俯き、顔を曇らせる。
確かにあの断罪騒動以来、父も母も――使用人の1人1人にいたるまでエステルに対する態度が急変し、極端に冷たくなったのだった。
ここに幽閉されてからは外界とも断絶され、ほぼハンナしか話し相手もいない。
「実はね~あれからも夜会に何度か顔を出してたの。そこでちょっと……ね。独身最後のってやつよ~」
エマは何とも軽い感じで経緯を話し始めた。
「王太子の婚約者に決まったら、本当はもう夜会には参加しちゃいけないらしいけど……そんなの耐えれなかったのよ。だからバレないように私が出席したのは仮面が必須の夜会だけ」
「なっ! そんなの……そんなの不貞行為じゃない!」
「あら。多かれ少なかれ、皆やっていることでしょう? パパだって――」
「止めてっ!」
これ以上エステルは誰彼に対して失望の感情を抱きたくなかった。
こんな環境ではあるがハンナと2人、穏やかな空気の中でやっと傷ついた心が癒され始めてきたというのにと……。
そんなエステルの必死な表情を見てエマはクスクスと意地悪く笑うのだった。
「オコサマね~ぇ、相変わらず。まぁいいわ。まぁ、そんな感じで一夜のアバンチュールを楽しんでたのよね。結婚して城に入ってしまえば自由はないし、妃教育とやらでストレス溜まりまくりだったから」
淡々と喋るエマの話にエステルの顔がカアァっと赤くなる。
幼い頃から王子様と結婚するんだと夢見て育ち、現実を遠ざけていたピュアな心のエステルには刺激が強すぎたのだ。
「たぶん……そう。国王様や王弟様とも一夜を共にしたこともあったわね~。でもまさかよ……。まさかこの私が失敗して身籠ってしまうなんて……」
その時のことを思い出してウットリとした目で話していたが、話の途中からエマの顔は突如として鬼の様な形相へと変化した。
「でも私、絶対に王太子妃になりたいからこの事を隠さなきゃならないじゃない? だから子供の置き場所に困ってるのよ~。そ・こ・で! 思い付いたの」
ビッとエステルを指差してエマはニタリと笑う。
「全てエステルに押し付けてしまえばいいってね!」
「――えっ?」
「こういう困った時に役立ってもらう為にせっかく生かしてあげたんだから……勿論やってくれるわよね? ねっ!」