第1話 幽閉
――あぁ、どうしてこうなったのか……。
エステル・シモーヌ・ヴィラルドワンはそう思わずにはいられなかった。
「国外追放にさえならなかったことをありがたく思えよ? 本当ならギロチン送りになる事だっておかしくなかったんだからな!」
エステルは世間とは隔絶されたこの場所へと己を連れてきた兵士にそう冷たく突き放され、闇のどん底に沈んでいた。
涙を流す気力さえもう残ってはおらず、目の前で閉じられた重い門扉にはこれから始まる牢獄生活には終わりがなく延々と続くものだという意味があるのだとエステルに解らせるのだった……。
今よりほんの一月前、エステルは公衆の面前に晒されて断罪された。
「エステル! 我が愛しの乙女であるエマになんたることを!!」
この国の王太子であるルーカスは観衆になんぞ目もくれずにエステルを指差し、眉を吊り上げて大声で責め立てた。
なんだなんだとそのパーティーに参加していた噂好きの貴族たちはヒソヒソと誰もが悪口を呟きだし、この断罪劇の渦中にいるエステルを取り囲んで注目する。
「ルーカス殿下っ! 私は――」
「貴様~~ぁ! 言い訳するつもりか!? ここまでの事をしておいてっ」
顔を真っ赤にして怒りの感情に支配されたルーカスは今にも暴れ出さんという勢いで暴言を吐き続ける。
だがそんな彼にしな垂れ掛かり、表立っては宥めようとしているエマはエステルだけに見える顔でニヤリと口角をあげた。
「ルーカス様っ……! どうかその怒りをお静めになって。私は大丈夫ですから……」
「あぁ、私の愛しいエマ……。君は優しいね」
「お姉様だって私が憎くてあんなことをしていたのではないと思うの……ね?」
エマのその言葉にルーカスは公衆の面前だというのに思わず抱き締めた。
「水をかけられたり、服を破かれたり……数々のイジメを受けてきて一番傷付いているのは君だろうに……。なんて清らかな心の持ち主なんだい」
「私は……。だって私は、お姉様から見ればお姉様の婚約者を盗ってしまったということになるのだもの。恨まれたって仕方がないわ」
エマはワッと両手で顔を覆い隠し、スンスンと泣きだす。
「おぉ、エマ……。それは違うよ。違うんだよ。私の父――トリスタン王が決められた私の婚約者はあくまでも『ヴィラルドワン家の娘』ということだけ。だからエマにだって正当な権利が最初からあったし、ましてや盗っただなんて――」
「でも……最初はお姉様と婚約されていたのよね? だったら……」
「それだって君の存在がまだ明るみに出ていなかったからだけの話さ。何も気にしなくてもいい」
ルーカスは優しく笑いかけ、エステルに見せる顔とはまるで違う態度でエマに接するのだった。