第7話 お見舞い 前編
栞の身に一体何が?
その言葉を聞いた途端、全員が騒ぎ始めた。
生徒達
「お身体を悪くしたのだろうか。」
「きっと精神的ストレスだわ。」
「お仕事が多忙だったのだろう。」
颯太「一体どうしたんだー!」
藍人「(うるさいなぁ。)」
先生「はいはい、静かにしろ。」
先生がみんなを落ち着かせ、話を続ける。
先生「本人からはただの風邪だと聞いている。栞がいないからって騒ぎ立てないように。」
そうしてホームルームが終わった。
颯太「一大事だ!どうにかしろよ総司ー!」
藍人「無理だよ。僕は神じゃないんだ。」
颯太「じゃあ神になれ!」
藍人「そっちの方が無茶だ。」
未だ騒ぎ立てる颯太をなだめながら僕は授業の準備をする。
藍人「ほら、颯太も早く準備しときなよ。」
颯太「こんな状況で授業なんか受けられるか!」
藍人「いや受けろよ。」
これは騒がしくなりそうだ。
先生「じゃあ今日はこれで終わりだ、各自放課にしてくれ。」
その言葉が聞こえた時、僕は肩の荷がおりた用だった。授業中でも騒ぐクラスメイト達のせいで、授業に集中出来やしない。
藍人「(早く帰って復習しないとやばそうだな。)」
と、僕が席を立ち帰ろうとした時
先生「総司、ちょっと職員室まで来てくれ。」
先生からの呼び出しを受けた。なんか嫌な予感がするのだが。
藍人「失礼します。」
先生「おお、来たか。」
僕は言われた通りに職員室へ向かい、先生の所まで向かった。
藍人「何かご用でしょうか。」
先生「実はな、今日配られたプリント一式を栞の家まで届けて欲しいんだ。」
藍人「....え?」
なぜ僕なのだろう。というか、それは今日じゃないとダメなのか?
藍人「あのーそれは今日じゃないと駄目なのですか?」
先生「報告だったりもあるからな。いつ復帰するか分からない以上なるべく早い方がいいだろう。」
藍人「確かにそうですね。」
先生「それにお前は他の奴らと比べて栞への執着とか無さそうだしな。」
まぁ内心そんな理由だろうなと思ってはいたが。
藍人「はぁ、わかりました。」
先生「すまんな。家はわかるか?」
藍人「いえ、どこにあるかもさっぱりです。」
先生「ま、だろうな。道筋を書いといたからこれみながら行ってきてくれ。」
まぁ住所を教える訳には行かないし、しょうがないのだろう。
こうして、僕は望まぬ形で栞さんのお見舞いへ行くことになったのだった。
藍人「ここかな?」
僕は渡された紙のルートに従い、栞さんの家まで来た。表札を見たが、本人の家で間違いないだろう。
藍人「よし、行くか。」
そう言い、僕は家のインターホンを押した。
栞「はーい。」
その声と同時に扉が開き、栞さんが出てきた。顔は赤く、咳気味なのかマスクもしていた。
栞「総司くん?どうし、ゴホゴホ。」
藍人「無理しなくていいですよ。今日の分のプリントを届けに来たんです。」
栞「ああ、ありがと...」
栞さんがプリントを受け取ろうと前に出た時、
栞「うっ!」
栞さんが前のめりに倒れそうになる。
藍人「!危ない!」
僕は間一髪で彼女を受け止め、彼女を支える事ができた。
栞「うぅぅ。」
藍人「(かなり辛そうだな。薬を飲んでないのか?)とりあえず部屋に戻った方がいいですよ。歩けそうですか?」
栞「う、うん。大丈夫...」
栞さんは歩こうとするが再び倒れそうになる。
藍人「無理しちゃだめですって。お邪魔しますよ?」
僕は彼女を抱えたまま、部屋まで連れていくことにした。
藍人「はいこれ、体温計です。測ってみてください。」
栞「う、うん。」
あの後、部屋まで連れてきてベットで寝かせた後、念の為買っておいた薬や飲み物を飲ませた。
栞「はい、できたよ。」
そう言って栞さんが体温計を渡す。
藍人「39度。かなり高いですね。しっかり冷やさないと。」
僕は濡れたタオルを栞さんのおでこにのせる。
藍人「少しは落ち着きました?」
栞「う、うん。ありがとう。」
藍人「アイドルも大変ですね。あんまり無理しちゃいけませんよ?」
栞「う、うん。気をつけるよ。」
しばらく沈黙が続く。このまま帰った方がいいのだろうかと考えていると、
栞「総司くんはさ、アイドルってどう思ってる?」
突然栞さんからこんな質問が飛んできた。
藍人「そうですね。いつも明るくて、元気で、ファンの期待に応えるために頑張ってるイメージですかね。」
栞「そっか。」
総司「でも」
栞「?」
藍人「本当はやりたい事が他にもいっぱいあったり、やりたくないことも仕事としてやらなきゃいけなかったりする、大変な仕事だと思います。」
栞「そ、そっか」
意外だった。まさかそんな回答が飛んでくるなんて思ってもなかった。大体のファンは頑張ってる努力家とか、天使とか言ったりして、本質を見抜こうとしないけど、総司くんは違った。私達の悩みや辛さをしっかりと言い当ててきた。
栞「ゴホゴホ」
総司「あんまり起きてるのも良くないですよ。
1度寝ましょう。」
栞「う、うん。そうしようかな。」
総司「じゃあ、僕はそろそろ帰りますね。」
栞「あっ、待って!」
私は思わずその手を掴む。
総司「?どうしました?」
栞「えっと、その。」
こんなこと言うのはとても恥ずかしいけど、
栞「......寝るまで傍にいてくれない?」
まさかこんなこと言う日が来るとは思ってなかった。でも、今は誰かに傍にいて欲しい。
総司「....」
少しの沈黙のあと、彼は微笑みながらこういった。
総司「ええ、いいですよ。」
栞「zzzzzzz」
藍人「寝たかな?」
あれから数十分後。栞さんがぐっすり眠ったのを見て僕は家を後にした。
藍人「(だいぶ辛そうだったな。良くなってるといいんだけど。)」
この業界、無理して体を壊す人は珍しくない。でも、まだ高校1年生なのにこんなに辛そうになってしまうなんて。
藍人「......無理しないで欲しいな。」
そういえば、家には誰もいなかったな。買い物中だったのだろうか。
次回!
栞について深堀される?