第40話 解決
反撃開始だ!
それから僕らは準備を整え、栞さんの家へと向かった。
鈴「総司は栞ちゃんの家に行ったことあるの?」
藍人「何度か栞さんに料理を作ってほしいとお願いされてね。」
栞「あの時はお世話になったなぁ。」
まぁ、それからよく僕の家に来るから感覚としては結構料理を作ってる間隔なんだけどね。
栞「着いたよ。」
そうこうしていると、栞さんの家の前まで来ていた。
鈴「わーい!おっじゃましまーす!」
藍人「(この人本当に僕の姉なんだよな?)」
たまに見る子供っぽい反応を見ると、この人が姉なのか疑いたくなる。
藍人「では、僕もお邪魔します。」
そう言って僕も栞さんの家に入る。何度か来たことがあったため、一通りの整理を済ませるのにそんなに時間はかからなかった。
鈴「よーし、じゃあ寝ようかな。」
藍人「そんなんやってないでアルバイトでもしてきなよ。どうせ暇でしょ?」
鈴「失礼な。これでも昨日しっかり働いてきたんだよ?今日は休み。というわけで、お休みなさーい…」
そう言って姉さんが目をつぶり、眠りに落ちた。
藍人「はぁ、全く。(今日ご飯抜きにしてやろうかな。)」
栞「ありがとね。わざわざこんな家まで来てくれて。」
栞さんが少し申し訳なさそうにしながら感謝を伝えてくる。
藍人「いえいえ、気にしないでください。むしろこちらは止めてもらってる立場ですから。」
栞「……うん、ありがとう。」
栞さんはストーカーのこともあってか、少し怯えている様子だった。
藍人「(何とか安心させないとな。)じゃあ、人の家に来てすぐに寝る人をほっといて、何か甘いものでも作りましょうか。」
栞「!!うん!!」
その時、栞さんの顔に笑顔が戻った。食べ物につられるのは子供っぽいが、それで元気になってくれるならいいだろう。
~約15分後~
藍人「できましたよ。」
栞「やったー!ってすご!」
僕は家にあったものでパフェを作った。といっても、本格的なものではなく簡単にできるものだが。
栞「総司くん、どこでこんな料理スキルを磨いたの?」
藍人「どこでと言われましても。やっているうちに覚えました。」
栞「て、天才め!」
栞さんは悔しそうにしながら、出されたパフェを食べ始める。
栞「でもおいしいから許す!」
藍人「それはよかったです。」
機嫌が良くなってくれて何よりだ。
栞「よーし、この機会に私も料理覚えるぞー!」
藍人「…包丁の持ち方知ってます?」
栞「わからない!」
藍人「(こりゃ長くなりそうだ。)」
こうして、僕は栞さんに料理を教えることとなったのだった。
その頃、父さんたちはストーカーを見つける計画を進めてもらっていた。
大和「送られてきたが…予想通りというかなんというか。」
心美「でも、実際ここまでだと気持ち悪いわね。」
大和「一周回ってすごいとも思うがな。しかし、どうしても不安になるよな。」
父さんは僕らを二人だけで栞さんの家に行かせたことに対して不安を抱いていた。なにしろ、ストーカーが出るかもしれないという家に自身の子供を送るのだ。周りから見れば、とても褒められたことではないだろう。
大和「いかに鈴がいても、相手は恐らく大人の男。一体何をしてくるか…」
心美「そんな変なことはしないと思うわよ?相手は栞ちゃんのファンだから、栞ちゃんが危なくなるようなことはしないと思うわ。」
大和「確かにな。まぁ、早いに越したことはない。なるべく急ぎで調べるか。」
その日の夜、僕は買い出しに出ていた。栞さんが晩御飯を作りたいと言い出し、食材を買いにスーパーを訪れたのだ。
藍人「これと、これと。後は…」
その時、突然僕は視線を感じた。その視線は明らかに僕を恨んでいて、徐々に鋭い針の様に突き刺さっていった。
藍人「(この視線、知っている。あの時もこんな感じだったかな。)」
中学生時代、藍人はストーカーの被害にあったことがあった。最初は栞さんの様に、運命の赤い糸だとか言い出す人たちに追われたが、先生に報告し注意をしてもらうことで何とか解決したはずだった。
だが、それからもストーカーの件に関しては留まることがなく、一時期は不登校になってしまったのだ。その時、藍人の精神が負った傷はストーカーによるものだけでなく、女子にストーカーされるほどの人気のある僕を恨んだ男子からの妬み、恨み、憎しみの視線だ。藍人自身はそんな事望んでもないのに、そんな視線を向けられるようになってしまい、そのせいでクラスでも浮いてしまったのだ。
藍人「(総司としての姿を知ってるのは、中学の知り合いにはいない。となると、この視線を向けるのは……)」
僕は会計を済ませ、栞さんの家へと帰っていく。その帰り道はいつもとは違い、人通りの少ないところだった。
藍人「……そろそろその視線やめてくれませんかね。」
僕がそういうと、後ろの電柱から一人の男が現れた。そう、あのストーカーだ。
ストーカー「黙れ。お前にそんな事いう権利はない。」
藍人「あーはいはい、そうですか。それで、何か用ですか?」
僕はあえて少しあおり気味で問いを投げかける。
ストーカー「何か用かじゃないだろ!お前、栞ちゃんとどういう関係だ?」
ストーカーが怒り気味で質問する。
藍人「どんな関係かといわれても、ただのクラスの友達ですよ。」
ストーカー「…そうか。なら決まりだな。」
ストーカーはそういうと、ポケットの中からカッターを取り出す。
藍人「ちょちょちょ、何してるんですか!」
あまりの展開に、思わず驚いてしまう。
ストーカー「彼女は僕のなんだ!僕以外に栞ちゃんに男の影があってはいけないんだ!」
藍人「そんなバカげた理屈が通用するとでも?」
ストーカー「うるさい!とにかくお前は栞ちゃんのそばにいちゃいけないんだ!ここで消えてもらう!」
そう言ってストーカーはカッターを突き出して走ってくる。
藍人「やめてください!来ないでください!」
僕は全速力で走り出す。しかし中々切り離せず、それどころかどんどん距離が縮まっていく。
藍人「ぜぇ、はぁ。(なんだこいつ。目が血走ってる。どんだけ僕を消したいんだ。)」
その時、不運にも藍人が足元を滑らせてしまう。
藍人「がっ!」
ストーカー「さぁ、僕らの未来のために消えてくれ。」
ストーカーがカッターを振りかぶり、僕に突き刺そうとした時、
鈴「何してんだこのやろー!」
ストーカー「ぐはぁ!」
ギリギリのところで姉さんが割って入り、飛び蹴りを放つ。ストーカーはそれを食らい、盛大に吹っ飛んだ。
鈴「うちの弟に何しとんじゃあ!」
ストーカー「な、なんだお前は。邪魔をするな!」
ストーカーが再びカッターを拾い、襲い掛かろうとするが、
鈴「おらぁ!」
ストーカー「なっ!」
しかし姉さんはストーカーの持っているカッターを蹴り飛ばした。
鈴「きもいストーカーはこれでも食らいやがれ!」
姉さんはそう言って、渾身のパンチをストーカーの鳩尾に突き刺した。それを食らったストーカーは声にならない痛みを受けて、思わずその場に倒れこんだ。
鈴「藍人、大丈夫!?」
姉さんが心配そうな顔で僕に駆け寄ってくる。
藍人「大丈夫だよ。ありがとう。」
鈴「よがっだー!」
そう言って姉さんが僕に抱き着いてくる。
藍人「ね、姉さん。ぐるじい…」
思った以上の抱き着きにより、僕は息が出来なくなり、終いには気絶してしまった。
鈴「あ、またやっちゃった。」
栞「…で、追ってきてみたら、何が起きてるんですか?」
栞さんが後から姉さんを追ってきて、状況が呑み込めずにいた。
藍人「はぁ、はぁ。全く姉さん。力加減忘れたでしょ。」
意識を取り戻した僕が姉さんに文句を言いながら、事情を説明する。
藍人「最初に近づいてきた場所から考えて、ストーカーが栞さんの家を知っていると思ったので、父さんたちには周辺の捜索を探偵に依頼してもらって、僕たちは栞さんの身を守るために家にお世話になったわけです。」
栞「そ、そうだったんだ。でも、それだと二人だって危ないよ。」
藍人「そこは大丈夫です。姉さん、話すけどいいよね?」
鈴「いいけど、あんまり誇張しないでね?」
姉さんからの了承を得たので、僕は姉さんの過去について話す。
藍人「姉さん、ここらの不良を男女とわずまとめあげてたんです。」
栞「え!?そうだったんですか?レディースとか?」
鈴「違う違う。そんなんじゃないよ。」
姉さんは高校生時代、何かと輩に絡まれることが多かった。だが、姉さんは空手を習っていた時期があり、ただの喧嘩自慢の輩では勝負にならず、毎回コテンパンにして返り討ちにしていた。それを繰り返していくうちに、なぜか舎弟になりたがる人が増えて、いつしかここら辺の不良で逆らう人はいなくなったとか。
栞「そ、そうだったんですか。」
鈴「まあでも、そのおかげで知り合いも増えたし、今となってはいい思い出だよ。」
その時、栞さんが呼んでいた警察が到着し、ストーカーを連れて行く。
警察「お、鈴ちゃんじゃないか。久しぶりだね。」
鈴「あ、お久しぶりです後藤さん。」
藍人「知り合いの方?」
鈴「輩を叩きのめして警察に注意してもらうときに、よく警察署までついて行ってたんだけど、その時の担当だった人だよ。」
そう言って警察と仲良く会話する姉さんを見て、こりゃ勘違いが起きてもしょうがないなと思う僕なのだった。
次回
ストーカーが消え、平和が戻ったと思いきや?