第39話 対策
栞、大ピンチ!?
ストーカー「さぁ、早く僕の家へ行こう。」
栞「や、やめて!」
栞さんが連れていかれそうになるのを見て、僕は急いで二人の間に入った。
藍人「やめてください。通報しますよ?」
栞「総司くん!」
ストーカー「なんだお前!邪魔をするな!」
ストーカーは突然現れた僕を見て、まるでごみを見るような目で見てくる。
藍人「僕は栞さんのクラスメイトです。あなたこそ何なんですか。」
僕がそう問を掛けると、男は狂ったように答えた。
ストーカー「僕は彼女と運命の赤い糸で結ばれてるんだ。だから僕は彼女を迎えに来たんだ。」
藍人「何をばかげたことを。そもそも何を根拠にそんなことを。」
ストーカー「僕らだけが感じる愛さ!お前には見えなくても僕には見えるんだ。彼女との運命の赤い糸が。」
ずっと聞いてみたが、何一つ理解できない。一つ分かったのは、この人がやばい人だということだ。
藍人「話になりません。行きましょう、栞さん。」
栞「う、うん。」
そう言ってその場を離れようとした時、
ストーカー「待て!どこに行く気だ!僕の栞ちゃんを返せ!」
そう叫んでくるストーカーに、僕は奥の手を出す。
藍人「いい加減にしないと、これ鳴らしますよ?」
僕はそう言って防犯ブザーを取り出した。
ストーカー「なっ!」
ストーカーが一瞬怯んだところをついて、僕は栞さんの手をつかみ、その場を走り去る。
ストーカー「くっ!あの男。僕らの邪魔を!」
しばらく走り、勢いのまま僕の家の前まで来てしまった。
藍人「はぁ、はぁ。こ、ここまでくれば大丈夫でしょう。」
栞「う、うん。ありがとう。助かったよ。」
疲労からか、それとも恐怖からか、栞さんの手はまだふるえていた。
藍人「あの方に見覚えは?」
栞「ないよ。ライブに来てくれたのかもしれないけど、まだ握手会はしたことないんだ。」
彼女たちはまだ高校生だ。マネージャー側の采配だろう。
栞「どうしよう。あそこ私の家の付近なんだよね。」
藍人「(家も知られてる可能性があるな。)なら、今日は家に泊まりますか?」
栞「え?いいの?」
藍人「流石にこのまま帰るのは危険ですよ。親も納得するでしょうし、その方が安全ですから。」
栞「…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね。」
その後、僕は栞さんを家に入れた後、親に事情を説明して理解を得た。栞さんは、姉さんの部屋で寝ることになり、珍しく姉さんが散らかった部屋を綺麗に片していた。
栞「ふぁー。お風呂ありがとうございました」
心美「気にしなくていいのよ。自分の家だと思ってくつろいで頂戴。」
大和「今日はもう遅いし、早く寝た方がいいよ。」
鈴「じゃあ私も寝るー。行こ、栞ちゃん。」
栞「は、はい。」
そう言って姉さんが栞さんを部屋に連れて行ったあとで、父さんが僕に話しかける。
大和「しかし、面倒なことになったな。早めに解決しないと、彼女の今後の活動にもかかわってくる。何か手はないか?」
藍人「そう言われても。現状相手の情報がなさすぎるよ。解決する前にまず情報収集しないと。」
姉さんが何か引き出してくれたらいいんだけど、望みは薄い。あと頼れるとすれば…
藍人「ちょっと頼んでみるよ。」
大和「当てがあるのか?」
藍人「確実とは言えないけど、詳しい人は知ってる。何かわかればいいんだけど…」
その頃、栞さん達の方は寝る前の雑談をしていた。
栞「って感じで、毎日学校で追われて大変なんですよ。」
鈴「人気者の宿命だね。」
栞さんは日ごろの愚痴を姉さんにぶつけていた。姉さんは意外と聞き上手だから、僕もたまに愚痴を聞いてもらうことがある。
鈴「にしても、高校でそんなにモテるなら中学の時とかやばかったんじゃない?」
栞「ああ、えっと…」
栞さんは中学時代に親とのいざこざで中学校生活を捨てた時期があるのだ。だから本来はあまり話したくないはずだ。【詳しくは、第8話の『お見舞い 後編』をお読みください。】
栞「……少し長くなるんですけど、いいですか?」
鈴「もちろん。ゆっくりでいいよ。」
だが、栞さんは誰かに聞いてほしかったのか、姉さんに中学時代のことを話した。
鈴「そっか。辛かったね。」
栞「だから、もう親とは絶縁した気でいるんです。あんな親、こっちから願い下げです。」
鈴「(本心なんだろうけど、まだ高校生なのに家族なしで一人で全部頑張るのは相当な負担なはず。)」
その時、姉さんが栞さんを抱きしめる。
栞「え?鈴さん?」
鈴「…じゃあ、私が栞ちゃんのお姉ちゃんになってあげる。何かあったら頼ってね。」
その言葉を聞いた栞さんは、胸が温かくなるような感覚になった。
栞「…はい。ありがとう…ございます。」
栞さんはそう言って顔をうずめながらそのまま寝たのだった。
翌日、僕はストーカーの件で連絡を入れた人物たちと事務所で落ち合っていた。
藍人「お呼び建てしてすみません。」
煌雅「気にするな。お前からの頼みなんて珍しいからな。」
響「それで、話というのは?」
僕が呼び出したのは、監督と響さんだ。監督は、この業界長いから何かアドバイスもらえるかもしれないと思って呼んだ。響さんはマネージャーだから、栞さんから何か聞いてないかと思ったのだ。
藍人「実は、栞さんからストーカーに追われているという相談を受けまして。」
響「えっ!?そうなんですか?そんなことが…」
この反応から察するに、響さんは何も聞いてないようだ。
煌雅「まぁこの業界なら珍しいことではないからな。それで、俺を呼んだのは、アドバイスを欲してるってことであってるか?」
藍人「流石。話が早くて助かります。」
僕は事の顛末を全て話した(まぁ、総司としての姿が響さんにバレるのはめんどくさいから、そこら辺の変更はしたが。)。そして、全てを聞いた監督はしばらく考えた後に口を開いた。
煌雅「正直、そいつが誰なのかを特定するのは現状だと難しいだろう。だが、そいつがどんなタイプのストーカーかがわかれば、ある程度絞ることが出来る。」
藍人「なるほど。ストーカーの特徴ですか。」
煌雅「何かあるか?身体的特徴でも、どんなストーカーかでもいいぞ。」
あまりストーカーについて考えたくはないが、栞さんに考えさせる方が酷だろう。僕は昨日の会話の内容やストーカーの見た目を思い出してみた。
藍人「服装は黒のフードをかぶった男。身長は平均的で、少しふくよかでした。運命の糸で結ばれてるだとか言ってたので、おそらく過剰すぎるファンでしょう。」
煌雅「なるほどな。容姿は少し絞れたが、あまり長引かせるのは危険かもな。」
響「どういうことですか?」
煌雅「この手のタイプのストーカーは、あんまりにも断られすぎると、強硬手段に出かねないし、最悪の場合、刃物で襲ってくるかもしれない。」
それを聞いた僕は背筋がゾッとした。確かにドラマとかで、「一緒に死のう!」と言って刃物を刺してくる展開はあるが、そんなものが本当に現実で起こりえるのかが信じられなかった。
藍人「それで、一体どうすれば?」
煌雅「うーん。そうだな。」
響「というか、そのストーカーは栞の家の近くで声をかけたんですよね?もしかして、もうすでに家を特定してるんじゃ。」
その言葉を聞いて僕は、ある作戦を思いついた。
藍人「なら、こういうのはどうですか?」
僕は作戦内容を二人に伝える。二人は少し考えたが、最終的には承諾してくれた。
煌雅「まぁ、確かに。可能性は高いし、やってみるのはありだな。」
響「ですが、大丈夫ですかね。」
藍人「一応うちの親にも協力をお願いしてみます。」
こうして、ストーカー対策の方針が決まったのだった。
帰宅後、僕はすぐに親に事情を話し、協力してもらえることになった。そして僕は栞さんと話すために姉さんの部屋へと向かう。
藍人「失礼するよー。って、綺麗になってる!?」
鈴「そりゃするよ。客人を招くんだから。」
栞さんにはずっといてほしいと思った。
栞「それで総司くん。どうしたの?」
藍人「ああ、そうでしたね。実は今回の件もあって栞さんが自宅に帰るのは危険と思いまして。なので、僕と姉さんで栞さんの家にしばらくお邪魔させてもらおうかと。」
栞「ええええええ!?流石にそこまでしてもらうのは悪いよ。」
鈴「私は全然いいよ。なんかお泊り会みたいで楽しそうだし!」
藍人「僕も気にしないでください。最も、栞さんが嫌なら無理にとは言いませんが。」
栞「嫌なわけないよ!じ、じゃあ、よろしくお願いします。」
こうして、僕らはストーカーを炙り出すために栞さんの家にお泊りすることになったのだった。
次回
計画的お泊りの始まり…