第31話 お悩み相談
果たして監督が向かうところとは。
結衣「あ、あの。なんで藍人さん達がここに?」
藍人「監督が連れていきたいところがあるって言ってて。」
煌雅「まぁ、少しくらい労っとこうと思ってな。」
響「気を使わせてしまってすみません。」
美波「あれ、響さんも知らないの?」
響「えぇ。迎えに来ると言われただけで他は何も。」
そうこうしていると、目的地に着いた。
煌雅「着いたぞ。ここだ。」
結衣「ここは?」
そこはあまり人目につかないところに開かれているBARだった。
煌雅「俺と藍人がよく来るんだ。味は保証するぜ。」
藍人「僕は付き合わされてるだけですよ。」
そう言いながら2人が入るのに続いて恐る恐る入ると、
煌雅「よっすマスター。来たぜ。」
マスター「いらっしゃいませ。おや、今日は大人数ですね。」
如何にもBARのマスターらしき女性がグラスを磨きながら立っていた。
結衣「ど、どうも。」
美波「こんばんは。」
マスター「あれ、お二人共未成年?可哀想に、無理やり連れてこられたんですね。」
煌雅「おい、マスター。可哀想ってことはないだろ。」
マスター「おっさんに連れられてるんだから可哀想ですよ。」
煌雅「ぐっ、否定できない。」
2人のやり取りを見ると、随分仲がいいと感じた。
藍人「あのマスター、監督の同級生らしいですよ。」
藍人さんがそう言って私達を席に案内した。
美波「なんか、慣れてません?」
藍人「あぁ、それはね。」
煌雅「こいつ、昔ここのお手伝いとして仕事を手伝ったことがあるんだよ。」
響「それって、法的に大丈夫なんですか?」
藍人「まぁほんとにかるーく手伝っただけですから。」
マスター「それで、ご注文は?」
結衣「あ、私はオレンジジュースを。」
美波「私もそれで。」
響「監督さん!何かおすすめありますか!」
煌雅「おぉ、食い付きがすごい。」
藍人「響さんって、お酒好きなんですか?」
結衣「そうですね。よく、仕事終わりのビールがいいんじゃあ!、って言ってます。」
藍人「内の親と同じこと言ってますね。」
美波「藍人さんの親御さんってどんな人なんですか?」
藍人「うーん、そうですね。」
そのまま会話が弾み、私達はその場の雰囲気に流され、いつしか仕事の疲れなんて忘れていた。
〜1時間後〜
響「ぐがぁぁ。」
煌雅「ぐごぉぉ。」
藍人「あらら。寝ちゃいましたね。」
マスター「というか、車で来たのにお酒飲んで良かったんですかね。」
藍人「帰りは知り合いに任せると。」
マスター「それって私ですね。全く、困った常連です。」
結衣「すみません、うちのマネージャーまで。」
藍人「いえ、お2人は悪くないですよ。」
マスター「ところでお二人共、何か悩みがあるのでは?」
結衣・美波「!!?」
突然心を読まれた感覚になり、私達は驚きを隠せずにいた。
美波「な、なんで。」
マスター「この仕事をしてると、悩みを言いに来るお客さんがしょっちゅうなんです。だから、悩みを抱えている方特有の顔があるんですよ。」
結衣「(す、すごい。このマスター、何者?)」
藍人「それで、どんな悩みなんですか?」
私達が顔を合わせる。結衣の顔を見ると、私と同じ意見ということが伝わった。
美波「じ、実は。」
そこで私達は、自分の天才というキャラが嫌だと言うこと。でも、それと同時にファンの期待を裏切りたくないという思いがあるということを話した。
マスター「なるほど。それは大変ですね。」
マスターはそう言うと、磨いたグラスを手に取って行った。
マスター「実はこの人。学生の頃は天才だったんですよ。」
美波「えっ、そうなんですか?」
藍人「僕も本人からしか聞いた事ないですけど、当時は勉強からスポーツまでなんでも出来たみたいですよ。」
マスター「でも、この人もお2人と同じように、自身の天才というキャラに嫌気が差してましてね。よく私の家に愚痴を言うために来てたんです。」
結衣「お二人は当時から仲良かったんですね。」
マスター「仲は良かったですが、結構頻繁に家に来たので、どうしてそんなに私に愚痴を言うのか聞いてみたんです。そしたら」
マスター「なんで私にこだわるの?あなたならいくらでも人はいるでしょ?」
煌雅「あ?そうだな。特に理由はないが、強いて言うならお前が1番真剣に聞いてくれるから?」
マスター「人の悩みなんて誰でも真剣に聞くでしょ。」
煌雅「いや、そうでも無いぞ。皆がお前見たいに優しい訳じゃないからな。」
マスター「なんて言うもんですから、困っちゃいましたよ。」
藍人「あの監督が?信じられませんね。」
マスター「それからしばらくが経って、受験の時期になって私が進路に迷っていた時に、この人に言われたんです。」
煌雅「進路かー。」
マスター「うん。どうしようかなって。」
煌雅「うーん、お前人の話聞くの上手いし、お悩み相談所とかどうだ?」
マスター「精神科とか?」
煌雅「そんなところに行く前に止めてくれるようなやつだよ。」
マスター「そんな都合のいいところないよ。」
美波「で、その結果BARのマスターになったと。」
マスター「えぇ。BARをやると報告した時、この人は開店初日に来て驚いてましたよ。」
結衣「でも、なんでこんな人気のないところでBARを開いてるんです?」
マスター「あまり人が通るところでこの看板を見せても、入りずらいと思いまして。」
藍人「だから人気の少ないところで開店してるんですね。」
マスター「この人の口癖は、こっちの気持ちも考えて欲しい、でした。もしかしたら、お2人を昔の自分に重ねていたのかもしれませんね。」
その時、マスターがグラスに飲み物を注ぎ、私達の前に出した。
マスター「ここは、悩みを持つ皆さんのホームです。辛くなったら、いつでも来てください。」
藍人「監督、2人にここを紹介したくてわざわざ車を出したんですよ。普段は自分で車なんて運転しない人なのに。」
その時私達は監督の方へ目をやった。まだ関わりのほとんどない私達にそこまで気を使ってくれてるなんて。
栞「2人とも、大丈夫?」
結衣「う、うん。大丈夫。」
美波「栞こそ、大丈夫なの?」
栞「私は大丈夫だよ。2人も、辛くなったら言わなきゃダメだよ。」
結衣「ははっ、善処するよ。」
結衣「(そっか。私達、栞のおかげで。)」
美波「(知らないところで支えられてたんだ。)」
そこで私達は、グラスの飲み物を飲んだ。
結衣「.....ここの飲み物は美味しいですね。」
マスター「それは何より。」
美波「私達、ここの常連になります。また悩みを聞いてくれますか?」
マスター「もちろん。いつでも来てください。」
こうして、私達は新しい心の支えを見つけたのだった。
藍人「さて、そろそろ帰りますか。」
マスター「そうですね。なら、看板をしまいましょう。」
そう言ってマスターは『お悩みBAR』と書かれた看板をしまったのだった。
次回
映画収録もそろそろ終わる....