第28話 きっかけ
藍人による演技指導が始まる!
響「さぁ、思う存分厳しくしちゃってください!」
藍人「あ、いや、そんなに気を張らなくても。」
響「いえ、彼女達は少し浮かれすぎてます。なので、少しくらいきつい方がいいんです。」
藍人「(厳しく指導ね......)善処します。」
こうして、僕の演技指導が始まった。
藍人「皆さんは、演技に置いて重要なことは何だと思いますか?」
結衣「うーん、感情を乗せること?」
美波「はっきりセリフを言うこと?」
藍人「まぁ大雑把に言ってしまえばそんな感じですね。ですが、ただ感情を乗せればいいってもんじゃありません。」
そこで僕は演技の基本となることを簡単に教えた。
藍人「......と、こんなところですかね。」
結衣「な、なるほど。大変ですね。」
藍人「まぁ始めての演技なんですから、気楽にやりましょう。」
そして再び撮影が始まった。
梨乃「ま、待って!置いてかないで!」
藍人「お、いいですね。声も聞き取りやすいし、感情表現もいい感じです。」
梨乃「ありがとうございます!」
結衣「藍人さん。次こっちをお願いします!」
藍人「はい、すぐ行きます。」
栞「むぅー。(藍人さん、忙しそうだなぁ。)」
奏「.........」
栞「ん?奏、どうしたの?」
奏「別に......」
栞「?そう?」
その後も撮影は続き、とりあえず簡単な部分の撮影は終えることが出来た。
響「本日はありがとうございました。」
藍人「いえ、お役に立てたなら良かったです。」
結衣「藍人さん、また教えてください!」
梨乃「私もお願いします!」
美波「私も!」
響「ちょっと皆、藍人さんも仕事が...」
煌雅「あぁ、こいつ今は暇だから大丈夫ですよ。」
藍人「ちょ、監督!?」
なぜ僕の暇をこの人が決めるのだろうか。まぁ仕事はないけど。
梨乃「やった!ならお願いします!」
藍人「......わかりました。」
栞「やったー!」
こうして、しばらく演技を教えることになったのだった。
それから数日後、今度はとある稽古場を借りての練習となった。次の撮影は2週間後。それまでに仕上げろという無理難題だ。
藍人「時間があまりないので、少しペースを上げますよ。」
結衣「は、はい!」
美波「き、きっつい。」
栞「(藍人さん、こんな大変なんだ。)」
それから僕は彼女達に演技で必要なことを叩き込んだ。
藍人「梨乃さん、そこはもう少し自然にリアクションした方がいいですよ。」
梨乃「は、はい!」
藍人「美波さん、少し反応が遅れがちなので準備の姿勢を忘れないようにしてください。」
美波「はい!」
こんな感じで少しずつ稽古は進んでいき、彼女達の演技力は程々には成長した。
栞「いやー、前に比べたらだいぶ良くなったんじゃない?」
結衣「ほんとね。藍人さんのおかげだよ。」
藍人「いえ、僕はそこまで大したことは教えてないですよ。」
美波「でも、藍人さんすごく丁寧でわかりやすい説明してくれますよね。」
梨乃「ほんとにね!教師とか向いてるんじゃないですか?」
藍人「あ、あはは。」
奏「.....」
藍人「(ん?あの子は)」
奏さんか。そういえば、このメンバーの中では1番距離が遠いな。まぁ見ている感じ、積極的に関わりに行くタイプじゃないのは分かるけど。
藍人「(.......何かありそうだなぁ。)」
その日、帰る前に僕は奏さんに声をかけた。
藍人「どうも、奏さん。」
奏「あ、どうも。」
藍人「今日もお疲れ様です。」
奏「ありがとうございます。」
藍人「......」
奏「......」
藍人「(会話が弾まない!)」
僕と話すの嫌だったかな。思い上がってしまってたか?
奏「.....藍人さん。勝手ながらお願いがあるんです。」
藍人「?どうしました?」
奏「....この後、少し家に来てくれませんか?」
藍人「..........はい!?」
藍人「(な、なんでここにいるんだ?)」
あの後、何が何だか分からなくなってしまい、流れに任されて家に入れられてしまった。というか、アイドルがこんな簡単に家に人を招いていいわけが無いのだが、ここら辺はどうなっているんだろうか。
奏「どうぞ、お茶です。」
藍人「あ、どうも。」
奏「......」
藍人「......(気まずい!)」
何か言わなければと考えていた時、
奏「....すみません。こんな暗い人間で。」
藍人「い、いえ。そんなことは....」
奏「私、昔からこんな性格だから人との関わりとかほとんど無くて。好きなアニメとか、音楽とか、そんな在り来りな話もできなくて。」
藍人「そうだったんですか。」
奏「そんな時、栞から声をかけられたんです。私達、皆同じ中学出身なんですよ。栞が気になった子に声をかけて集まったグループなんです。」
藍人「そうなんですか。(確かに栞さんはコミュ力高そう。)」
奏「でも、私こんな性格だから、よくみんなの足引っ張っちゃって。今回の撮影も、私が1番遅れてますし。」
藍人「奏さん...」
確かに、奏さんは少し感情を表に出すのが苦手な節がある。
奏「メンバーの皆に迷惑はかけたくないんですけど、どうしたらいいか分からなくて。」
藍人「.....なるほど。(呼んだのはそういうことか。)」
この悩みを僕に伝えたくて僕を家に呼んだのか。
藍人「......奏さん、優しいですね。」
奏「え?」
突然彼がそんなことを言ってきた。
藍人「そういえば、さっきアニメとか音楽とかが話題に出ましたけど、好きなんですか?」
奏「ま、まぁそれなりには。」
藍人「僕も結構色々見るんですよ。これとか。」
奏「あっ、それ。」
藍人「知ってますか?面白いですよねこれ。」
その作品は、あまり知られていない作品で、ローファンタジーの能力者バトルものであった。
奏「私、魔法使いの子が好きで。」
藍人「そうなんですね。僕はこの影を使う子が.....」
そのまま私達はそのアニメの話で盛り上がった。
奏「ここのシーン!この子が才能にあぐらをかかないで努力してるのがわかっていいんですよ!あっ!後はここのシーンとか。」
藍人「....ふふっ、よっぽど好きなんですね。」
奏「.....あっ。」
気がつくといつの間にか一方的に話していた。
奏「すみません、つい。」
藍人「今の奏さん、すごく楽しそうでしたよ?」
奏「え?」
藍人「さっきまでとは打って変わって、自分の伝えたいことをこれでもかと言うほど伝えてました。そういうのも、演技では大切ですよ。」
奏「そ、そうなんですか。」
藍人「確かに、最初は難しいかもしれません。でも、きっかけひとつあれば以外と簡単にできるかもしれませんよ。今みたいに。」
奏「あっ。(だからアニメの話を。)」
藍人「それに。奏さんはメンバーの為に変わろうと頑張っています。そんなところが栞さんは惹かれたんじゃないですかね。」
栞「ねぇ、私とアイドルやらない?」
奏「え?な、なんで私?」
栞「うーん。何となく?それに、優しそうで気も合いそうだし!」
奏「(そういえば、そんな風に誘われたっけ。)」
藍人「メンバーは貴方のことを受け入れてくれてますよ。だから、そんな気負いせず、自分のペースで頑張って見ればいいと思います。」
その時、藍人さんは私の頭をそっと撫でてくれた。
奏「...あ、ありがとう...ございます。」
私の目から涙が溢れた。
藍人「大丈夫ですか?」
奏「はい。すみません。突然泣いてしまって。」
あの後、奏さんはしばらく泣き続け、ようやく落ち着いて来た所だ。
藍人「よし、なら少し演技練習しますか。」
奏「は、はい。」
そして奏さんが演技をした。
奏「うーん。やっぱり上手く行きませんね。」
藍人「そうですかね。そんなに悪くないと思いますよ。」
奏「でも、何となく何かが足りないような。」
どうしたものかと考えていると、
奏「そうだ、藍人さん。少し演技を見せてくれませんか?」
藍人「え?僕ですか?」
奏「藍人さんの演技を見たら、何か分かるかもしれません。」
藍人「(.....まぁ確かに、演技を見て学ぶことも大切か。)わかりました。少しだけですよ。」
そう言って僕は演技を見せた。
藍人「こちらにどうぞ。」
奏「.........」
藍人「どうです?何かわかりました?」
奏「........」
藍人「あれ?奏さん?」
次の瞬間、奏さんが後ろに倒れた。
藍人「奏さん!?大丈夫ですか?」
奏「だ、大丈夫です。」
疲労が溜まっていたのだろうか。今日はもう休ませておこう。
藍人「無理しちゃダメですよ。(でも、才能はありそうなんだよなー。)」
その日、奏さんはしばらく目がぐるぐるしたままだった。
次回
懸命な努力家




