第19話 トラウマ
果たして藍人に何が...
その日の夜、僕は来週の花火大会について考えていた。
藍人「(花火大会か。あの時以来だな。)」
鈴「どうした。悩んでるなんてらしくない。」
藍人「姉さん。いや、実は....」
そこで僕は、来週の花火大会に行くこと伝えた。
鈴「え、それ本気?」
藍人「うん。そろそろ僕も克服しないと。」
鈴「あんたがそう言うなら止めないけど、でも大丈夫なの?」
藍人「...わからない。でも、やらなきゃ克服出来ない。」
鈴「...そうね。」
どうなるか分からないけど、やってみようと思った。
そして1週間がたち、夏祭り当日を迎えた。
栞「この日を待ちわびたよ!」
颯太「栞さん、相変わらずお美しい....」
蓮「そ、颯太?大丈夫か?しっかりしろ!」
海斗「栞さん気合い入ってるなぁ。」
智穂「今日は誰よりも早く来るくらいだからね。」
栞「あ、あはは。そういえば、総司くんはまだ来てないのかな。」
総司「お待たせしました。」
その時、総司くんが走ってくるのが見えた。
栞「やっほー総司くん。(珍しいな。総司くんが遅刻するなんて。)」
智穂「よし!じゃあ行くよ!」
そうして私達は屋台を巡っていった。
ある時は金魚すくいをしたり
智穂「あー!また破れた!」
颯太「下手だなぁ全く。」
蓮「颯太も破れてるぞ。」
颯太「え?マジか!」
智穂「やーい下手くそー!」
蓮「醜い争いだ。」
栞「あははっ。」
総司「あ、やぶれた。」
ある時は食べたり
智穂「たこ焼き美味しい!」
海斗「ち、智穂。食べ過ぎだよ。これで何個目?」
蓮「やめとけ、数えてやるな。」
颯太「栞さん。これ美味しいですよ。」
栞「ほんと?どれどれー。」
総司「......」
栞「ん?総司くん、大丈夫?」
総司「あ、はい。大丈夫ですよ。」
栞「?」
そんなこんなで色んなところを巡り、ついに花火の時間が迫ってきた。
智穂「花火見るとき用の焼きそば買お!」
海斗「どんだけ食うんだよ。」
蓮「いい位置とかあるか?」
颯太「いや、知らねぇな。」
栞「総司くん、何か知ってる?」
総司「......」
栞「総司くん?」
総司「あ、すみません。ぼーっとしてました。」
流石におかしい。何かあったのだろうか。
栞「ねぇ、総司くん。ちょっと付き合ってくれない?」
総司「え、はい。わかりました。」
栞「ということで、私達ちょっと行ってくるね!」
颯太「え?あ、ちょ!栞さーん!」
颯太くんを無視して私達が向かったは、ひとつの神社だった。
栞「階段キツくない?」
総司「大丈夫ですよ。」
私達が到着すると、そこからは屋台の景色が見えた。
栞「うわぁ、すごい!」
総司「確かにこれはすごい。」
その時、総司くんの目に少しハイライトが戻る。
栞「よかった。少し元気になってくれて。」
総司「え?」
栞「今日の総司くん、どこか様子が変だったよ?何かあったの?」
総司「あ、えっと、その.....」
総司くんは少し言いずらそうにしていた。
栞「あ、無理して言わなくていいよ。」
総司「.....いえ、話します。栞さんなら信頼できますし。」
栞「そ、そう?」
総司「はい。少し長くなるので、あそこに座りませんか。」
そして私達はそこにあったベンチに腰掛けた。
総司「実は僕、夏祭りに少しトラウマがありまして。」
栞「トラウマ?それは中学時代のやつ?」
総司「いえ、それよりもっと昔。小学生の時に.....」
総司くんが少し間を置きこう言った。
総司「僕、1度誘拐されたんです。」
栞「え!?」
あれはそう、小学5年生くらいの時だった。当時の僕は俳優なんて縁もゆかりも無く、無邪気に夏祭りを楽しんでいた。
小5藍人「ねぇお母さん!あれ買って!」
心美「りんご飴ね。いいわよ。」
小5藍人「わーい!」
僕はりんご飴が好きだった。シンプルに甘くて美味しいから。だから屋台を巡る時は絶対にりんご飴を買ってもらっていた。
高1鈴「あ、友達がいる。」
心美「会ってくれば?」
高1鈴「うん。そうする。」
その時、当時の姉さんの友達がたまたま来ていた。その友達は、僕と目が合うとすぐに駆け寄ってきて僕を甘やかした。
友達A「えー、何この子。弟くん?」
友達B「可愛すぎ!くれない?」
高1鈴「ダメに決まってるでしょ。」
そんな事もありながら、僕らは夏祭りを楽しんでいた。
そしてもうすぐ花火が上がる時間となったそんな時、事件は起きた。
心美「ちょっと場所取りに行ってくるから、藍人のことお願いね。」
高1鈴「うん。わかった。」
そうして僕らが2人になった時、3人のガラの悪い男たちがやってきた。
男A「よぉ、姉ちゃん。中々べっぴんさんだね。1人かい?なら俺たちと」
高1鈴「結構です。家族と来てるので。」
男1「あぁ、そうかよ。素直に従っとけば綺麗な花火が見れたのにな!」
次の瞬間、男が姉さんを思い切り殴った。
高1鈴「痛!」
姉さんはそれを受けてよろめく。
男1「おい、そのガキを連れてけ。」
男2「あぁ。」
小5藍人「やめて!離して!」
男2「うるせぇ!」
流石に体格差があり、僕は逃げ出せなかった。
男3「おい、早く行くぞ。」
男1「そうだな。」
高1鈴「ま、待て。連れてくなら、私に...」
男1「しつけぇ女だな!」
そう言って男は姉さんを蹴り飛ばした。
高1鈴「ぐっ!」
小5藍人「お姉ちゃん!」
僕はそのまま男達に連れていかれた。
男達は、人気のつかない倉庫に僕を連れ込んだ。
男1「とりあえず、第1段階完了だな。」
男2「いやー、まさかこんなところにこんな顔のいいガキがいるなんてな。きっとこれは高く売れるぜ?」
どうやらこいつらは人身売買に手をつけているそうだ。
男2「で、この後はどうする?」
男3「とりあえずこいつの買い手を決めようぜ。」
そうして男達はスマホをいじり出した。
小5藍人「(に、逃げないと。)」
僕は何とか逃げようと、ポケットの中を漁った。すると、そこにはひとつのキーホルダーがあった。それは、滅多に帰ってこない父がくれた星型のキーホルダーだった。
小5藍人「(お願い!)」
僕はそのキーホルダーをドアの隙間を通して外に出した。誰かが気づいてくれることを信じて。
男1「お、買い手見つけたぜ。結構な額くれるってよ。」
男2「おお、ほんとだな。よし、そいつにしようぜ。」
男3「こりゃしばらくは遊んで暮らせるな。」
男1「よし、じゃあとりあえずこのガキを拘束するか。」
そうして男が僕を持ち上げる。
小5藍人「(誰か...早く!)」
僕が助けを願っていた時、突如ドアが勢いよく開けられた。
男1「!!誰だ!」
?「このキーホルダー、うちの子のものなんだ。で?お前たちは何をしてる!」
小5藍人「お、お父さん!」
そこには紛れもなく父さんがいた。父さんは僕を見た途端、鬼のような形相で男達に襲いかかり、その3人をコテンパンにした。
父「怖かったな。もう大丈夫だ。」
小5藍人「う、うわぁぁぁん!」
その後、駆けつけた警察により男達は逮捕された。僕は父さんに抱えられながら夏祭りの会場に戻った。
友達A「あ、いた!見つけたよ!」
友達B「鈴のお母さん!こっちです!」
その時、大慌てで僕を探していた3人と合流した。
心美「藍人!ごめん!私が目を離したから。」
そう言いながら母さんは僕に抱きつき、涙を流した。
友達A「えっと、あなたは。」
父「あぁ、ごめんね。俺は藍人の父だよ。」
友達B「あ、お父さんでしたか。」
父「それより、鈴はどこにいるんだい?来ていると聞いたが。」
友達A「それが、私達が見つけた時には体中ボロボロで。すぐに救急車を呼んだので、命に別状は無いんですが、襲ってきたヤツらに暴行を受けたかと。」
父「そうか...」
そう言って父さんは手を強く握り閉めた。
父「2人ともありがとう。良かったら、今から鈴の病院まで案内してくれないか?」
友達B「もちろんです。行きましょう。」
父「心美、大丈夫か?」
心美「ごめんなさい。私がいたら...」
父「お前は何も悪くない。ほら、行くぞ。」
そうして僕らは夏祭り会場を後にした。
総司「姉さんは幸い軽症で済みました。でも、僕はその後すっかり夏祭りがトラウマになってしまいまして。」
栞「そうだったんだ....」
言葉が詰まる。まさかそんな過去があったなんて思わなかった。だから今日は様子がおかしかったんだ。
栞「なら、どうして今日は夏祭りに来たの?」
総司「そろそろ僕も克服しないとって思ったんです。前に進むためにも。」
こんな時、私はどんなことをしてあげればいいのだろう。私は藍人さんみたいに、気の利いた言葉をかけてあげられない。どうすれば....
栞「.....」
総司「え?栞さん?」
気がつくと、私は無意識に彼の頭を撫でていた。
栞「(今の私はこれぐらいしか。)大丈夫だよ。私がいる。」
総司「栞さん...」
栞「私だけじゃないよ。颯太くん、智穂ちゃん、海斗くん、蓮くん。君には友達がいっぱいいるよ。だから、もう大丈夫。」
その言葉を聞いた総司くんから少し涙がこぼれる。
総司「...ありがとう、ございます。」
そこからしばらく私は総司くんを撫で続けた。
栞「落ち着いた?」
総司「はい、お陰様で。」
しばらくが経ち、総司くんは少し元気を取り戻した。
栞「じゃあ、気分を変えようか!」
そう言って私は、りんご飴を取り出した。
総司「りんご飴。いつの間に。」
栞「えへへ、花火見ながら食べようと思って。はい、1本あげる。」
総司「あ、ありがとうございます。」
そして私達がりんご飴を食べ始めた時、
ドォン!!(花火が打ち上がる音)
花火が上がり始めたのだ。
栞「うわぁ、すごいすごい!見て、総司くん!」
総司「これは.....」
その時、総司くんの目はキラキラしていた。
栞「(ちょっと子供みたいで可愛い!)」
総司「.....栞さん。」
その時、総司くんが口を開く
総司「ありがとうございます。僕のトラウマを克服させてくれて。来年も、また夏祭り行きましょうね。」
彼は笑顔でそう言った。
栞「!う、うん!もちろん///」
総司「?大丈夫ですか?頬赤いですよ?」
栞「き、気のせい気のせい!ほら、りんご飴食べて食べて!」
そのまま私達は花火を特等席で見続けた。
颯太「栞さーん!探しましたよ。花火終わっちゃいましたけど、見えたんですか?」
栞「うん、見えたよ。特等席でね。」
智穂「え!特等席!?教えてください!」
栞「内緒だよ。」
颯太「総司!なんか知ってるんじゃないか?」
藍人「いや、特に何も。」
海斗「まぁまぁ、落ち着いて。今日は遅いし、早く帰ろ?」
蓮「なんならこのまま二次会やらね?」
智穂「いいねそれ!そのままお泊まりだー!」
栞「お泊まり!?楽しそう!」
藍人「(すんなり決まりすぎじゃ。)」
そんな光景を見て僕は思った。最初はうるさいとか思っていたけど、今はこの騒がしさがどこか落ち着くのだ。
栞「総司くーん、今から君の家って行ける?」
藍人「確認してみます。」
そして、この友達を手離したくないと思っている。
藍人「(大切にしよう。)」
僕はそのことを深く心に誓ったのだった。
次回
夏休みが終わります。