第10話 勝ちたい思い
皆さんの体育祭での思い出はありますか?
翌日、学校へ向かっていると校門がお祭り状態だった。校舎には堂々と
『祝!栞さん復活!』
と書いてある垂れ幕がかかっていた。
生徒達
「うぉぉぉぉ!」
「栞さんのお帰りだぁぁぁ!」
「今日は祭りだぁぁぁぁ!」
颯太「うぉっしゃぁぁぁ!」
栞「み、皆さん、落ち着いて。」
藍人「(こんなんされたら体調悪くなりそうだけど。)」
僕はそう思いながら、裏口から入っていったのだった。
智穂「この教室はジャングルにでもなったの?」
藍人「それは僕も知りたい。」
あれから授業後の昼休みになると、他クラスからも人が集まってきて、栞さんは対応に追われていた。
栞「あ、え、ちょ、ちょっと」
藍人「(....ほんと、大変な人だなぁ。)」
僕はそう思いながらも、弁当を持って屋上へ向かった。
藍人「やっぱりここは静かだな。」
僕がそう思いながら弁当を食べていると、
栞「はぁ、はぁ」
栞さんが階段を駆け上がって来た。
栞「あ、総司くん!ちょうど良かった!ちょっとかくまって!」
藍人「え?あ、ちょっと!」
栞さんは僕の答えを聞く前に隠れてしまった。それと同時だった。
生徒達
「おい!こっちに上がって行ったぞ。」
「早く見つけださなきゃ!」
藍人「(ああ、そういう事か。)」
おそらく生徒達に追われていたから何とかしてくれとのことなのだろう。そう考えていたら生徒達が上がって来た。
生徒達
「ん?栞さんがいないぞ?」
「おい!そこのお前!栞さんはどこだ?」
いきなりお前とは、なんとも失礼な奴らだ。
藍人「栞さんですか?こっちには来てないですよ。」
生徒「本当か?嘘ついてるんじゃないだろうな」
生徒達が疑いの目を向ける。なんかこんなことが前にもあったような。
藍人「ついてませんよ。人の昼食を邪魔しておいて疑いまでかけるんですか?」
僕が少し圧をかける。
生徒「う、す、すみません。」
そう言って生徒達は戻って行った。
藍人「ふぅ(圧をかけるのは演技でも必要だったりするけど、まさかこんなところで使うことになるとは。)」
栞「か、帰った?」
栞さんがひょこっと顔を出す。
藍人「はい、帰りましたよ。」
栞「よかったぁ。」
栞さんは安堵の表情を見せてこちらに戻ってくる。
栞「ごめんね。急にこんなの頼んじゃって。」
藍人「大丈夫ですよ。大変ですね。」
栞「ほんとだよ!こんなのされたら逆に体調悪くなるって!」
藍人「(まぁそうだろうな。)」
僕も同じ立場だったらそうなる気がする。
栞「でも、総司くん屋上いるかな?って思って、ワンチャン何とかしてくれないかなーなんて思って来てみたんだよね。」
藍人「まさかの確信犯!?」
なんてことだ。
栞「あ、あはははは。」
藍人「まぁ、元気になったようで良かったです。」
栞「そ、そう?(優しい。)」
藍人「でも、今度飲み物奢ってください。」
栞「あ、はい。」
昼休みも終わり、5、6限は体育祭の競技を決めることになった。
先生「この中からやりたい種目を選んでくれ」
そう言って黒板に種目が書き出された。
種類は、
・クラス対抗リレー
・玉入れ
・借り物競争
・騎馬戦
・綱引き
となっていた。あとは応援団による演技があるくらいだ。
生徒達
「俺、騎馬戦出てみようかな。」
「私玉入れがいい。」
各々が種目を決めてく中、栞さんに声がかかる。
生徒「栞さんはどれにしますか?」
栞「んー、そうだね。」
栞さんは少し悩んだ末に
栞「クラス対抗リレーに出ようかな。」
その言葉を聞いた瞬間、生徒達の争いが始まる。
生徒達
「どけ!俺がリレーに出る!」
「なに言ってるんだ!俺が出る!」
「いや、私よ!」
颯太「俺だぁぁぁ!」
藍人「(おいおい、なんでそうなるんだ。)」
僕は共感を求めようと智穂の方へ目をやるが、
智穂「うぉぉぉぉ!素人にリレーを任せてたまるかぁ!」
藍人「(......まじか)」
そういえば、智穂は陸上部だったっけか。よっぽど勝ちたいんだろうな。
藍人「はぁ、アホらし。」
そう思いながら、僕は余ってた借り物競争に立候補するのだった。
颯太「ふふん!」
智穂「ふふん!」
藍人「誇らしげだな。」
帰り道、僕らは共に帰っていた。あの後、残り4人の枠を2人が勝ち取っていた。
智穂「執念が違うんじゃい!」
颯太「やはり赤い糸が...」
藍人「ないぞ。」
智穂「そういえば、総司は借り物競争に出るんだよね?」
藍人「うん、そうだよ。」
颯太「なんか変なお題に当たってくんねーかなー。」
藍人「当たるわけないだろ。」
そんな会話をしながら、別れ道で2人と別れ、
1人で帰っていると。
栞「あ、総司くん。」
偶然コンビニから出てきた栞さんと鉢合った。
藍人「栞さん。どうしたんです?」
栞「いやね、クラス対抗リレーに出ることになったからにはかちたいじゃん?だから特訓してて、途中飲み物を買うためにここによったの。」
藍人「そういう事ですか。」
この人はほんとによく頑張るなぁ。どんなことにも全力で取り組む。中々できる事じゃない。
藍人「頑張ってくださいね。何かあればまた頼ってください。」
栞「なら、今度また家に来てご飯作って!コンビニ飯に戻れなくて。」
藍人「わかりました。」
そうして僕はその場を後にするのだった。
体育祭委員「おっしゃァ!気合い入れていくぞ!」
生徒達「おーーー!」
翌日から体育祭練習が始まり、皆やる気に満ちていた。
颯太「おっし、やるぞ智穂。」
智穂「足引っ張らないでね。」
そう言って2人はバトンパスの練習に向かった。
藍人「(....暇だ。)」
僕は借り物競争なのだが、バトンパスがある訳でもないので、練習することがなく暇な時間を過ごしていた。
栞「皆、よろしくね!」
智穂・颯太「はい!」
藍人「ファイトー」
颯太「って総司。暇なのか?」
藍人「まぁな。」
智穂「ならバトンパス見ててよ。」
総司「わかった。」
というわけで、仕事を振られた。
藍人「よーい、ドン!」
颯太「おっしゃあ!」
最初の走者は颯太だった。こいつはクラスの中でもトップクラスに足が速い。出だしは順調だ。
颯太「ほい!」
智穂「はい!」
次の走者は智穂。陸上部女子ということもあり、女子の中では速い方だ。そこからバトンパスは順調に行われた。
栞「はぁ、はぁ。(なんだろ。頭が重い。)」
今は体育祭練習の時間。私はバトンパスの練習をしている途中に頭が重くなっていることに気がついた。
栞「ご、ごめん。少し休むね。」
私は水筒の所までいき、中のお茶を飲む。
栞「ふぅ。(でもどうしたんだろ?)」
無理ない程度に練習はしているつもりだ。ならどうして。
総司「大丈夫ですか?」
その時、総司くんが心配した目でこちらを見てくる。
栞「うん、大丈夫。少し疲れが出たみたい。」
総司「あんまり無理してはダメですよ。体育祭でれなくなるのは嫌でしょう?」
栞「そうだね。気をつけるよ。」
私は再び立ち、練習に戻ろうとした。その時、
栞「きゃ!」
突然足元がふらつき、倒れそうになる。
総司「おっと!」
しかし、総司くんがそれを受け止めてくれた。
総司「まだ安静にしててください。」
栞「は、はい。」
私が座ると、総司くんから冷や汗が出ていた。
栞「だ、大丈夫?すごい汗だけど。」
総司「いえ、その。周りの視線が痛くて。(しまった。迂闊だった。)」
ふと周りを見ると、総司くんを睨む生徒が多数いた。
颯太「総司、ちょっと来い。」
総司「ま、待て。話をしよう!」
颯太「ああ、話そうか。じっくり、ゆっくりとな。」
そう言われながる総司くんは連れていかれた。
栞「(ドンマイ。総司くん。)」
次回!
体育祭開幕!