貞操逆転世界で目覚めたけど、俺がTSした元男だって周囲の女子たちにバレてるんだが?
目が覚めたら、そこは男女の貞操が逆転した世界だった。
正直に白状しよう。
俺は童貞だ。
彼女ができたこともない。姉も妹もいない。
なので女性に対して先入観がある。
女性はいい匂いがして、髪が艶々で、母性に溢れてて、大っぴらに性的なことを話すのに抵抗がある。
つまり、存在自体が綺麗。例えるなら、女性とは花であり華。
これが俺の持つ女性に対する先入観。俺でなくとも、女性と接する機会が少ない男なら、女性に対してそんな印象を持っているのではないだろうか。
しかしこの世界は違う。
まるきり逆だ。
女性は体臭に無頓着で、髪はボサボサ、母性のぼの字も感じられないほど血の気が多く、実に大っぴらに性的なことを話す。
逆に男性は常に体臭を気にして香水やらいい香りのするシャンプーを使い、髪が艶々になるよう心掛け、お淑やかで包容力があり、性的なことをあまり話さない。
俺の知っている女性と男性の価値観が、完全に逆転している。
しかも、しかもだ。
この世界は男女比が一対九、つまり男が一に対して女が九という人口比。
男性は存在自体が稀少で、それ故に生まれた瞬間から上流階級の仲間入り。
実質貴族のような扱いとなるので、所作や気品が教え込まれ、低俗な話題などからは隔絶される。
俺が知る高貴なお嬢様=この世界では高貴なお坊ちゃまとなるのだ。
そんな男女比がイカれた世界では、なにが起こるか?
そう――〝同性愛〟が必然的に増えるのである。
▲ ▲ ▲
「ねえ、俳優の平野孝文ってエロくない?」
「わかるわ~、めっちゃエロい。ああいう美男子と一発ヤッてみたいよな」
「そういや、愛沢ヒカルっていうAV男優が孝文に似てるらしいよ。HANZAのランキングで一位にもなってたし」
「マジ? 帰ったらDLするわ」
しょうもない会話で「ギャハハハ!」と大いに盛り上がるクラスメイトの女子たち。
いや、女子たちなんて区分けする必要もないか。
だってこのクラス――どころかこの学校には、男子なんて一人もいないんだから。
俺のいる百合畑高等学校――通称〝百合高〟は、完全な男女別学の女子校。
異性という存在がいないので、女子共は体裁など微塵も気にせず好き放題に振舞っている。
がに股で机の上に座ってパンツは見せ放題だわ、シャツの胸元は緩々だわ、あげく下ネタで盛り上がるわ……。
まあ、この無防備さは男子校だろうと女子校だろうと同じなのかもしれないが。
……とはいえ、もし俺が以前のままの俺だったなら、この状況に少しくらいは喜んでいたかもしれない。
だっていくらガサツで低俗とはいえ、異性のパンツや胸元が見放題で、オマケに下ネタまで聞かせてくれるのだから。
そりゃー多少なりともムスコが反応するでしょうよ。
……でも、もうないのだ。
そのムスコが。
俺は――この世界で目覚めた時、自分の性別が〝女性〟になっていることを知った。
今の俺の名前は遠野晶。
ムスコを消失した変わりに乳房を得た、れっきとした女性。
髪は茶髪のショートカットで、顔はまあ……結構可愛い方だと思う。
この世界の基準だと、たぶん普通くらいと周りには思われているのだろうが。
とにかく俺は貞操逆転の世界に転生し、さらにはTSまで果たしてしまったというワケで。
ネット小説なんかでよく見る貞操逆転モノなら、頭の中が性欲でいっぱいになったヤリたい盛りの女子たちをあれよあれよと誑かして、あっという間にヤリ〇ンハーレムの出来上がり――になるはずだったのに。
しかし悲しきかな、今の俺にはその女子たちを誑かすムスコが存在しない。
だからなのか無防備極まりないクラスメイトの女子たちを見ても、嬉しくないのだ。
感覚的には男子校で常に男子共のパンツや胸板を見ているようなモノなのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが。
――なんてことを思ってると、
「ねえ、帰りバッティングセンター寄ってこーよ」
「いいねいいね~、その後は牛丼食いに行くか」
「じゃあ松竹屋決定で」
「おい、そこは吉之家だろ~!」
「晶も行く? バッティングセンター」
AV談義で大笑いしていたクラスメイトたちが、俺に話しかけてくる。
「あ~、私はパスで」
「なんだよ、付き合い悪ぃな~」
「金欠なの。それに今ダイエット中だから」
これも当たり前と言えば当たり前だが、この世界で俺は女性として振舞っている。
っていうか実際に身体は女性だし。
なので対外的に使う一人称も〝俺〟ではなく〝私〟。
貞操は逆転してると言っても、流石に一人称はこっちの方が自然だ。
だが俺がダイエットという単語を口にすると、クラスメイトたちは意外そうに互いの顔を見合わせる。
「ダイエットってお前、それ以上痩せんの?」
「骨と皮ばっかになっちまうぞ? 女ならもっと筋肉付けるとかの方がいいんじゃね?」
「そうそう、やっぱ腹筋とか割れてた方が男受けいいもんな」
「あ~もう、いいからほっといてよ。とにかく無駄遣いしたくないの!」
……クラスメイトたちが遊びに誘ってくれるのは嬉しい。
男だった頃の俺はバリバリの陰キャで女子との付き合いもなかったから、そう考えれば嬉しさ倍。
学校の帰り道に女子友達と遊びに行くとか、男子高校生にとっては夢のシチュエーションの一つだもんな。
女子の長い髪からフワッと香るいい匂いを堪能しながら、あわよくば手を繋いだり……とかさ。
だが、その誘いに乗って以前クラスメイトたちと放課後遊びに出かけた時――そんな俺の淡い幻想は、完膚なきまでにぶち壊された。
バッティングセンターで上半身裸になってバット振るうわ、カラオケで「SEX!」を連発する下品なネタ曲を大合唱するわ、帰りがけにラーメン屋に入ってニンニクマシマシの脂こってりを頼むわ……。
やってることが完全に悪ノリ大好きな男子高校生のソレ。
貞操の逆転した世界なんだからそりゃそうなると理解はできるのだが、かつて俺が抱いていた女性=花であり華という印象が一挙に崩れ去ったのだ。
だからこれ以上コイツらと遊びに行くと、自分が女であるにも関わらず女の印象がゼロどころかマイナスになってしまいそうで……。
この世界に転生した以上は適応せねばとは思うのだが、どうにも受け入れ難い自分がいたのであった。
そんな感じで、クラスメイトたちからの誘いを全力で断ったのだが――
「――ふーん、それじゃあお金に困らなければ、遊びに付き合ってくれるの?」
その時だった。
他のクラスメイトが一人、俺に話しかけてくる。
――花山院郁美。
それが俺に話しかけてきた女子の名前。
英国人の血を引くクォーターだとかで、腰まで伸びた長い金髪に碧い瞳が特徴。
さらには誰が見ても美女だと断言するであろう、極めて端正な美貌の持ち主。
制服の着こなし方もきっちりしており、その佇まいだけでもお嬢様であることがなんとなく見て取れる。
実際コイツの実家はかなり裕福なお金持ちらしく、女性でありながら貴族の仲間入りをしていると言っても過言ではないだろう。
女子高生でありながら気品を備えているというのは、この世界においては割と貴重。
そんな花山院が何故ごく一般的な女子校である百合高に通っているのかは、この学校の七不思議の一つなんて陰で言われたりもしている。
とはいえ当人は気さくな性格をした陽キャなので、友人は多い様子。
……実は、俺はこの花山院郁美という女が苦手だ。
俺と花山院は別に親しい友達という間柄ではない。この世界でも俺は至って普通の一般家庭の生まれだし、接点としては同じクラスメイトってことくらい。
加えて相手は容姿のいい陽キャ。クラスカーストでも上位組。もう生きてる世界が違う。
一般ピーポー陰キャの俺からすれば、理由がなければ特に会話することのない相手だ。
なのに――何故かはわからないが、少し前から妙に俺に対して花山院の距離感が近いのである。
最近ではこうやって遊びにも誘ってくるようになった。
花山院がお金持ちの陽キャってこともあって、ぶっちゃけちょっと怖い。
「ゲッ、花山院……」
「それじゃあ全部アタシが奢ってあげるから、放課後付き合ってね。OK?」
▲ ▲ ▲
「はぁ……面倒なことになった」
女子トイレの洗面鏡の前で、がっくりと項垂れながら俺は呟く。
気付けば女子トイレに入ることにすら抵抗がなくなってしまった自分がいる。
そりゃ貞操逆転した世界で女子が男子トイレに入るなんて真似をしたら、ただのド変態女になってしまうワケで。
そもそも身体が女になってるんだから、否応なしに慣れるしかなかったんだけど。
――全部奢ってやるから、放課後遊びに付き合えと花山院に言われてしまった。
ぶっちゃけ面倒くさい。行きたくない。
別に花山院のことが嫌いってんじゃないが、そもそもなんでアイツが俺を気にかけてくるのかがわからない。元からそんなに親しかったワケでもないのに。
だからハッキリ言って、なんか不気味なのだ。
本心が見えないというか。
この世界の俺は本当にどこにでもいる女子の一人で、金も権力もない。
容姿はちょっとくらいはいいかもだが、俺以上の美人なんていくらでもいる。
なのに、あの花山院が俺に執着する理由がわからない。
だってアイツなら友達なんて選びたい放題だろうに。
う~ん……考えれば考えるほど、背筋が寒くなってくるな……。
「まあいいや、適当な理由付けて断ろう。俺が何度も断ってりゃ、花山院だって――」
「――諦めると思った?」
突然声が聞こえて、反射的に俺は正面の洗面鏡を見る。
すると――俺の背後に、花山院が立っていた。
「うっ、うおわああああああッ!? か、花山院……!? いつの間に……!?」
「クスクス、なにをそんなに驚いてるの? ここは女子トイレなんだから、アタシがいても別におかしくないでしょ?」
振り向くと同時に仰け反る俺に対し、如何にも面白いモノを見るようにニヤニヤと笑う花山院。
やはりというかなんというか、俺はこの花山院の目つきが苦手だ。
「それより悲しいな~。せっかく遊びに誘ったのに、すっぽかそうとするなんて」
「そ、それは……」
――いや、もうこの際だ。
今この女子トイレには俺と花山院しかいない。
思い切って、問い質してみるか。
「……ねぇ花山院、どうして私に付きまとうの? 私とあなたって、別に親しいワケじゃないわよね」
「親しいよ。少なくともアタシはそう思ってるけど」
「いや、あのね……」
「晶は――アタシが友達になるのは嫌?」
そう聞き返されて、俺は思わず返答に詰まる。
確かに、俺は花山院のことが苦手だ。だってなに考えてるかわからないから。
だが嫌いかと聞かれれば……どうなんだろう。
理由もわからないまま距離感を縮めてこられるので不気味ではあるが、それはコイツの人格を否定する理由にしていいものか?
花山院は気さくでいい奴だと周囲には思われているし、性格が悪いとは俺も思わない。
だから友達になるのが嫌かと聞かれてしまうと、なんとも返事に困ってしまうのだが……。
そんな感じで返答に窮していると――
「……どうしてアタシが晶に付きまとうのか、教えてあげよっか?」
「え?」
花山院はそう言うと俺の腕を掴み、グイッと引っ張る。
そしてそのまま俺は個室トイレの中へと連れ込まれ、ガチャンと鍵までかけられた。
「ちょっ!? ちょっと花山院、なにを……!?」
勢いのまま便座に座らせられる俺。
どうして個室トイレの中に二人で入ったのか理解が追い付かず、困惑してしまう。
花山院はそんな俺の両肩に手を置き――
「ねえ晶、アンタさ――〝男〟でしょ?」
俺の目を見つめて、そんなことを言った。
「――え?」
「バレてないとでも思った? アンタの仕草ってどう見ても男のソレだし、ハッキリ言ってエロいんだよね」
肩を掴んでいた花山院の手が、俺の太股の上へと移る。
今の俺は女子の身体で、着ている制服もブラウスにミニスカート。だから花山院の手は素足を直接触っていることになる。
花山院は肌が白く、指は細く、手を見ているだけでもとても綺麗。
そんな手が、感触を確かめるように俺の太股の上を伝い――徐々にスカートの中へと滑り込んでくる。
「か、花山院!? あのっ、私たち女の子同士なんだよ!?」
「アンタがどうして女の身体してるのかは知らないけど、アタシは別に構わないから。アタシ、女でも男でもイケる口だし」
恍惚とした表情で舌なめずりする花山院。
その目つきは、完全に捕食者のソレ。
「晶って顔もスタイルも悪くないし、なのに中身は男とか……お得だよね」
花山院の指先が、俺の履いている下着のウエストゴムにかかる。
――わかった。
ようやくわかった。
どうして花山院が俺と距離感を縮めにきてきたのか、その理由が。
コイツは、俺の中身が男だと見抜いていたのだ。
その上で俺を狙っていたのである。それも性的な意味で。
しかもどっちもイケる――つまり同性愛もOKだったとは――!
コイツ、そういう趣味の持ち主だったのか……!
「もうじれったいからさ、ここで食べちゃうね」
花山院の指先に力が入り、下着を下げにかかってくる。
俺は緊張と恐怖から身体が強張ってしまい、ギュッと両目を瞑った。
すると――その時、
『おーい花山院、先生が呼んでるぞ~』
俺たちがいる女子トイレに、同じクラスの女子の声が響き渡る。
どうやら花山院のことを探しているようだ。
『アレ、いないのか? かっしーな、てっきり晶を誘って連れションでもしてるかと思ったのに』
「……はぁ」
花山院が小声でため息を吐く。
そして俺の下着から手を離すと、
「いるよ、ここにいる。すぐ行くって先生に伝えといて」
『おお、いたいた。んじゃしっかり伝えたからな~』
それだけ言い残すと、クラスメイトの女子はトイレから去っていった。
「……残念、邪魔が入っちゃったみたい」
花山院は名残惜しそうに言うと、ガチャリと個室トイレの鍵を開ける。
「アタシ、晶のこと気に入ったから。絶対堕とすつもりでいるから――覚悟してね」
微笑を浮かべてそう言い残し、花山院は個室トイレから出ていった。
「た……助かった……」
その場に一人残された俺はようやく捕食者から解放され、どっと肩から力が抜けるのだった。
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