魔王、世界を知る 魔王二日目
予告なく修正することがあります。
暗い部屋に徐々に光が満ちて、辺りの惨状をあらわにし始めた。
中央に十人は座れるであろう円卓があり、周りには数十体の甲冑が剣や槍を手に立っている。大きな円卓には多くのひびが走り、甲冑の足元に落ちたパーツが散乱していた。
所々が剥がれた壁や柱が、破れたタペストリーが、手入れが入らなくなって長い時間が経った事を知らしめていた。
「うにゅう、ダンジョンの最奥なのに、朝が来ると明るくなるのじゃ。」
「ん、摩訶不思議。」
「暗いままだと魔王様が何時までも寝ておられるので、仕事の時間を知らせるために光を入れています。」
一夜明けて、ティアの放った鼠達の情報を確認するため、ニーナとミリアンは円卓の間を訪れた。
目を閉じて印を作るティアが、小声で呟くと沢山の映像が浮かび上がった。地上すれすれを移動する映像は森の中だろうか。突如、空へと映像が切り替わる。
「ん、捕食。」
「使い魔の鼠が大型の鳥に捕食された様です。」
ある映像は黒くなると少し高い位置にかわり、ある映像は水中へを切り替わった。地上から空中、水中へと切り替わる映像。幾つかの画面に集落が映り、住人の姿を確認することが出来た。
「捕食されると捕食したものの視点に切り替わります。短時間で広域を確認することが可能です。」
「うにゅにゅ、便利な術なのじゃ。」
多くの人間が行き来する通りには、様々な物を売る店が並んでいた。広場には屋台が並び、食事をする者、掘り出し物を探す者が見て取れた。
「悪魔族と戦争している所は無いのじゃ。」
「恐らく、悪魔王を討伐した事で、平穏な世界が訪れたのでしょう。」
「うにゃにゃ。しかし、純人族しかいないのじゃ。エルフ族やドワーフ族、獣人族の姿が無いのじゃ。」
「ん、探索範囲、超拡大。」
町の映像の中にニーナの言う他種族は見当たらなかった。ティアが呟いて目を閉じると、映像は目まぐるしく変わった。
何処かの森の中にある、木々に絶妙のバランスで建てられたツリーハウス。少し長く尖った耳を持つ貫頭衣を着た人間が、危なげなく太い木の枝を移動している。
洞窟に入ると光が消え、暫くすると松明の灯りが見えてきた。数えきれないほどの松明が、洞窟内に作られた石造りの町を照らす。見上げる様な映像からは、大きさを知ることは出来ないが、少し小太りの人間は立派な顎鬚を持っていた。
森の中にある十数軒のログハウスが並ぶ集落には、変わった見た目の人間が行き交っていた。弓と数匹の兎を担ぐ男は、筋肉質の身体に犬の頭が乗っている。頭に兎の耳が揺れる女性は、大きな布の塊を抱えて川へと向かう。
水中の映像に家が映ると、下半身が鱗に覆われた人魚を映し出した。荒涼とした草木の無い荒れ地に、テントを張っている角を生やしている人間がいた。
「魔王様。他の種族は純人族と関わらず、独自の集落を作っているようです。」
「うにょ、山には巨人族や竜人族が住んでおるのじゃ。ここも純人族はいないのじゃ。」
「ん、町に発見。」
映像から大きさを知ることは出来ないが、ニーナは巨人族や竜人族を見つけて安心した様な表情を浮かべた。ティアは市場を映していた画面を、拡大して目前に移動させた。
「けっ、薄汚い獣人がうろついてんじゃねえ。」
獣の耳を持った少年が、数人の大人に殴られ、蹴られ、突き飛ばされていた。
「こいつ魔族だぞ。」
「不吉の一族だ。町から追い出せ。」
額に小さな二本の角がある男は、投げられる石から逃れる様に町の外へと走り去った。
見目麗しい人魚を前に、厭らしく口を歪める男。エルフ族の値段を交渉する奴隷商人と誘拐犯。寄って集って木の棒で叩き、石を投げられる牙を鳴らす獣人族。近づいた人間を警告もせずに、襲い掛かり殺した竜人族と巨人族。
ニーナとミリアンは言い表しようのない表情を浮かべて、直視し辛い映像を一言も発さず見詰めていた。
「魔王様。私達は角はありませんが魔人族です。あのような仕打ちを受けるのであれば。ここを離れる事は出来ません。」
「にゅにゅう、純人族は他種族を差別してるのじゃ。あの頃はそんな事は無かったのじゃ。」
「ん、歴史書発見。」
どの映像にも人族が映り、他種族が映る映像は少なかった。ニーナ達が人族が他種族を差別していると、判断出来るだけの情報は充分過ぎる程だった。
ティアの見つけた歴史書をめくると、ニーナ達の様々な疑問に答えが見つかった。
他種族と融合することが出来る悪魔族は、強大な力を得る事が出来るエルフ族や獣人族、魔人族を襲って融合を繰り返した。融合した悪魔族が起こしたと思われる様々な事件が、誇張と一方的な正義と共に歴史書に綴られていた。
住人の全てを喰らい尽くし、一つの町を滅ぼした獣人族。小国の王都を焼き尽くし、笑いながら飛び去ったエルフ。たった一人で剣だけを持って、万の軍勢を滅ぼした巨人族。
その他にも、人魚の生き胆を食べて、数百年の寿命を得た貴族。片目と片足を潰したドワーフが、英雄の為に強力な魔剣を打った話もあった。
「人魚を食べても長寿は得られません。確かに、人魚の涙は上級ポーションの素材ではありますが。」
「竜族のエルダー種やエンシェント種は人型になれるが、竜人族は竜型にはなれないのじゃ。」
「悪魔族、許すまじ。」
しかし、特別な力を持たない人族にとって、悪魔族に憑りつかれていようといまいと他種族は恐怖の対象でしたなかった。
そして、映像には人族と小競り合いをする、獣人族やエルフ族、ドワーフ族が映し出された。
「決めたのじゃ。妾は魔王に成るのじゃ。」
「魔王様は既に魔王ですが。」
「ん、魔王。」
突如、立ち上がって謎の宣言をするニーナを、ミリアンとティアは不思議そうに眺めていた。
「違うのじゃ。かつて、魔王国に種族差別など無かったのじゃ。妾は誰もが笑って幸せに暮らせるように、この身を賭して悪魔王と戦ったのじゃ。」
ミリアンとティアは、ニーナの眼に灯った光に沈黙した。そして、ニーナは拳を握りしめ、新たな決意と共に大きく頷いた。
「ティアよ。ギルスとエレンを探すのじゃ。妾やミリアンが復活したのじゃ。あの二人も復活している筈なのじゃ。四天王が揃えば無敵なのじゃ。誰もが笑って過ごせる国を作るのじゃ。」
ミリアンは英雄に憧れる少女の様な表情を浮かべ、半眼のティアの眼が大きく見開かれた。拳を天高くつき出して、鼻を膨らませて仁王立ちのニーナ。
「うにゅう、ここから出なくてはならぬのじゃ。」
ア♀:今回は交互に進むのかしら。
空♂:何れ交わるのだ。
ア♀:何れって何時の事かしら。
空♂:何れとしか言えないのだ。
ア♀:また、出た所勝負なのかしら。
空♂:にゅう、まだまだ続きます。




