魔王、人質を救出する 異世界百四日目
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翌日、朝練が終わりカインが朝食を用意し、ニーナ達が食べ終わってから消音の魔道具をアデルが外した。手足を折られた盗賊達の恨めしそうな視線を全く、気にしないアデルとカイン。ニーナ達は少しだけ哀れに思ったのかも知れない。
「俺達にも飯を・・・せめて、水だけでもくれ。」
「俺達を連れて行かなければ、アジトの人質達も死ぬ事になるぞ。」
水では無反応だったニーナが、人質と聞いて盗賊達を睨み付けた。片付け終えたミリアンとティアが、静かにニーナの隣に立った。ギルスとエレンは倒れている盗賊達の後ろに立っていた。
「うにゅ、人質は救出するのじゃ。」
ニーナの言葉に顔をほころばせるギルス達。カインだけが大きな溜息を吐いて、ゆっくりと最後に立ち上がった。
「アジトは何処にあるのじゃ。」
「水。いや、飯を食わせてくれりゃ、教えない事もない。」
やっと、優位に立てたと思ったのか、盗賊は口元を歪めてニーナを見た。鼻から息を吐いてニーナは、カインを見た。カインは溜息を吐いてゆっくりと、手足を折られて転がる盗賊に近づいた。そして、ゆっくりと右足を上げて、盗賊の折れている膝を踏みつけた。
悲鳴を上げてカインから逃れようと、身を捩らせる盗賊をニーナ達は眉間にしわを寄せて見ていた。
「何処だ。」
「ぐっはっ、飯を食わせろ。」
顔を真っ赤にして油汗を浮かべながら、盗賊は声を振り絞った。次の瞬間、カインはサッカーボールを蹴るように、盗賊の顔を蹴り抜いた。盗賊は地面を滑って、背中を木に勢いよく打ちつけた。倒れている盗賊の下顎は砕かれ上顎と融合し、白目を剥いて血泡を吐きながら不気味な痙攣を繰り返した。
「質問は同じだ。」
「くっ、め・・・。いや、教える。だから、止めてくれ。」
別の盗賊の前に立ったカインに、愚かにも食事を要求しようとした。無表情のカインの右手に木刀が握られていた。木刀がゆっくりと上へと上がる。呆然と木刀を眺めていた盗賊は、木刀の持ち主であるカインを見た。すると、まるで極寒の雪山に裸で放り出された様に、全身に汗を流しながら激しく震え始めた。そして、振り絞り出したのは懇願だった。
「ん、極悪。」
「そうですね。ですが、カイン様の眼には感情の色が有りません。」
「ん、赤。」
「それは眼の色です。人が何かをするとき、目に何かしらの感情が見て取れるのです。」
「ん?むう。判らん。」
「そう言えば、ティアの眼も感情の色が薄いですね。戦う時は何を考えていますか。」
「ん、何も。」
ティアの答えにずっこけたギルスとエレンは、アデルの指示で盗賊達の襟首を掴んで引き摺った。カインの両手には、盗賊の足が握られていた。
エレンにベルトを掴まれた盗賊の案内で、ニーナ達はアジトへと向かった。ギルスとエレンに引き摺られる盗賊は時折、折れた手足が気に当たる度に悲鳴を上げた。彼等はまだ幸せだと言えた。カインに引き摺られている盗賊は、折れた足を掴まれていた。地面の大きな石に頭を打ちつけられ、有り得ない方向を向いた手足が引っ掛る度に悲鳴を上げていた。カインは盗賊達のぶら下がった手足を、態と木や岩に引っ掛けては力任せに引っ張った。最初はカインが引っ張る度に絶叫が上がったが、今では気を失ったのか呻き声が上がるだけになっていた。
「ここだ。ここに人質がいる。なあ、助けてくれよ。案内したんだ。助けてくれよ。」
「勿論、助ける。殺しはしない。」
安堵の溜息を吐く盗賊は、素直に牢の鍵の蟻かをニーナ達に教えた。鍵を得たニーナ達は、真っ直ぐに牢に向かい三人の人質を連れだした。
アデルがポーションを渡し、人質達が飲み干すと見る見る傷が跡形もなく消えた。二十歳前後に見える女性が驚きの声をあげ、ニーナ達と変わらない少女が驚きの表情を作った。
「こんな高価なポーションを。私達には返せるものがありません。」
「気にしないで。盗賊から全て戴くから問題なし。」
年配の女性の驚きと感謝を込めた言葉に、アデルは優しく答えた。カインは盗賊達のアジトの前まで来ると、斥候を買って出てアジトへと消えた。五分足らずで戻ると、ニーナ達に問題無しと呟いた。人質が囚われていた牢まで、盗賊に遭遇せずにニーナ達は到着した。そして、カインは何処からともなく金貨に銀貨、宝石や武具を積み上げた。
「人質も救出したし、色々と戦果も戴いたわね。村に戻りましょうか。」
「うにゅ、盗賊達はどうするのじゃ。」
「面倒だ。置いて行く。手足の骨を砕いてある。二度と強盗は出来まい。」
アデルの言葉にニーナが問いかけると、カインが面倒臭そうに答えた。事実、カインはアジト内にいた盗賊達を、一人残らず手足を砕いていたのだった。呻き声をあげる盗賊達を無視して、ニーナ達は人質三人を伴って次の町を目指す事にした。
「あら、結界の魔道具じゃない。カイン。回収をお願い。」
「承知。おろ、中々に良い魔道具じゃないか。」
カインは拳大の三角錐を拾い上げた。三角の枠の中に弑さな人形が座っていて、目を閉じたその顔は神々しくさえ思えた。アデルは金色の眼を輝かせると、感嘆の溜息を漏らした。
「屑魔石一つで三十日間の結界の維持が可能。青銀等級のモンスターまで防げる。伝説級の逸品ね。」
「へえ、奈良の土産に売ってそうなのにな。」
「奈良の大仏はもっと怖い顔をしているぞ。子どもの頃、遠足で見たんだ。」
「いえ、奈良の大仏は女神様よ。卒業旅行で行って、写真を撮って来たぞ。」
「混乱するから止めて。」
カイン達が出て行ってどれほどの時間が経ったのか、薄暗い洞窟では今が昼か夜かの判断が付かない。そんな中で、一人の盗賊が目を覚ました。全身に走る激痛に再度、意識を失いそうになりながら周囲を見渡した。
「結界の魔道具がない。おい、誰か。誰かいないのか。俺は動けねえ。早く、早くここから連れ出してくれ。」
悲痛な叫びが洞窟内にこだまする。その声がもたらしたのか、盗賊の周囲に複数の呻き声が上がった。どの盗賊達もカインに手足を折られ、少し動かすだけで全身に激痛が走った。しかし、その激痛が盗賊達の意識をはっきりさせていたのは皮肉でしかなかった。
「結界がないんだ。早く逃げなけりゃ、モンスターに嗅ぎ付かれるぞ。」
「俺は足と腕を折られて動けねえ。」
「俺は足と目を潰された。」
口々に自分達の状況を叫ぶ盗賊達は一つの事実に気付く。即ち、全員が足の骨を折られ、目や腕を潰されまともに動くことが出来ないと。大声は何時しか叫びへと変わっていた。
「助けてくれ~!」
「死にたくねえよ。」
散々、荷馬車を襲い、護衛を殺し、女や子ども攫って来た盗賊達が自分達の未来に、命乞いの叫び声をあげて洞窟内に響かせた。それが、周辺のモンスターを引き寄せると知らずに。
助けた三人の人質は近くの村の女性たちと判り、馬車に乗せて送り届けることになった。荷台にいるニーナ達からは、御者台に座るカインの背中しか見えない。時折、聞こえるカインの含み笑いや、驚きの声を荷台のニーナ達は、残念な表情を浮かべて眺めていた。
「妾が責任を持って送り届けるのじゃ。」
空♂:村に辿り着かなかった。
ア♀:いつもの事ね。無計画、行き当たりばったり。
空♂:出たとこ勝負。
ア♀:計画を立てたら?
空♂:大まかな計画は立てているのだ。綿密となると性に合わないのだ。
ア♀:まだまだ、続けます。




