魔王、盗賊に遭遇する 異世界百一日目
予告なく修正することがあります。
そして、夜が明けた。
いつもは日課となった剣を振って型の練習をするニーナ達は、今日は練習をせずに東の空が白くなる前に馬車へ乗った。街道をのんびりと進む馬車の横に、竜馬に揺られるギルスとエレンがいた。
ファインナルの町から馬で一日の所にある村で、空き地を使わせてもらい野営をした。街道沿いの休憩地で野営をするよりも、モンスター避けの結界のある集落の方が安全と言えた。
「ここからは野営がメインになる。」
「カインは地理が詳しいのじゃ。」
「きっと、各地を旅して来たのでは。」
「ん?まだ、十四才。」
「家族に凄腕狩人がいたとか。」
「世界の地図を伝えられたとかですか。」
二つの村を経由して街道を進むニーナ達は、初めての野営をする事になった。海辺の町までの街道周辺に村は無く、カインが休憩所を探して馬車を止めた。
街道を旅する商人や狩人達は、進む速度が変わらないために休憩する場所も似通っていた。街道から着かず離れずだが、簡単には見つけられない居場所をカインは探していた。
テントを設営するカインにニーナが感心した様に言葉を掛けると、ギルス達がささやかな疑問を話し合った。成人前の子どもにしては、大人びたカインに疑惑の眼が向けられた。
「カインはボッチの引き籠り。ただ、努力家なのよ。狩人ギルドで地理や生態系を調べて、商人ギルドで情勢を調べているの。」
「ああ、そういうのは大切だよな。」
「私も調べてはいたのだ。」
「そうね。ギルスとエレンは覚えましょうか。地道な情報収集をね。」
アデルの言葉にギルスとエレンは石像の様になり、ニーナ達はテントの設営を黙々と続けた。カインは薪を拾って来ると言い残して、近くの林へとその身を消した。
そして、日が沈み辺りが薄暗くなった頃、夕闇から一人の男が歩み出た。
「よし、お前等。全部おいて行け。大人しく従えば命は助けてやろう。」
「はあ、彼はこれを知って姿を消したのね。」
「おっ、お前達は女か。中々の上玉揃いじゃねえか。おい、あんちゃん。変な気は起こすなよ。
大人しくしていれば死なずに済むからよ。」
理不尽な物言いの男の後ろに、音も無く立ったカイン。男の喉にナイフの刃を当てて、聞き取れる小さな声で呟いた。
「俺達を殺す覚悟があるのだ。俺に殺される覚悟も出来ているよな。」
「まっ、待ってくれ。命は助けると言っただろ。」
カインの言葉には感情が全くなく、独り言の様に呟いた。そんなカインの口調に男は慌てて返事を返す。男の額から汗が落ち、口元が引きつった様に震えた。
「大人しくしなければ殺すとも言った。」
「ぐっ、俺だけだと思うなよ。」
まるで自動音声の様な無機質のカインの言葉に、何かを覚悟したかの様に男が声を荒げた。同時に右手を挙げると、森の下草が揺れて数人の男達が姿を現した。
「子どもに後ろ盗られたかよ。お前も落ちぶれたな。おっと、動くなよ。矢が狙っているぞ。」
「お前等、油断するなよ。こいつ等、全く怯えてねえ。」
「その通りだ。そのガキは一体、何処から出て来た。俺は見張っていたのに全然、気付かなかった。」
「お前は気を抜いてたってことだろ。」
男達は盗賊だった。野営する商人達を襲い、金品を巻き上げる。何時もの事だった。慣れた作業にすぎなかった。今回は成人したての子ども達で、男は二人しかいない楽な獲物だった。
「俺達に使えるなら悪い様にはしないぞ。」
「寝言は寝てから言うものよ。」
男達は美形揃いのニーナ達を前に、欲望を全開に押し出していた。様々な想像をしていた男達を、カイン同様の無機質なアデルの言葉が現実に引き戻した。
「アデル、刺激しては駄目だ。」
「お嬢ちゃん。少し判らせてあげようか。」
「カイン。駄目よ。」
挑発的なアデルの言葉にエレンが鋭く叫ぶと同時に、一人の男が腰から剣を抜いた。別の男の喉にナイフを押し当てていたカインに、アデルの少し焦った様な叱責が飛んだ。
アデルの言葉に舌打ちしたカインは、男の腰辺りに鋭い正拳付きを放った。骨の砕ける嫌な音がして、男が動きを止めた。木刀を抜いたカインは、剣を抜く男の肩に振り下ろした。確実に骨が折れた音がして、男は驚愕をその顔に張り付けた。
目の前で起こっている現実を理解していないのか、二人の男は武器に手を掛けることせずに立っていた。無防備な立っているだけの男達に、カインは膝と腰に木刀の一撃を叩き込んだ。
ティアが一人の顎に、下からの強烈な一撃を入れた。ティアに倒された男が吹き飛ぶ間に、ギルスとエレンが近くにいた男に槍と剣を突き立てていた。
「頼む、殺さないでくれ。」
敵わないと悟った盗賊達は口々に、助命を喚き散らした。都合の良い、自分勝手な嘆願に、ニーナとミリアンは静かに首を横に振った。
「カイン。盗賊でも殺すとギルドカードに、殺人が記録されるの」
「殺さなければ何をしても、記録される事は無いよな。」
「そうね。凄いのか杜撰なのか、微妙な技術よね。」
アデルの言う通り、人を殺せば殺人の、強奪すれば盗賊が、ギルドカードの職業欄に表示されるようになっていた。
「ここはダンジョンではないからな、殺さなければ良いだけの話だ。」
アデルの無機質な言葉に、同じく無機質に返したカイン。倒れている男の背中に、カインの蹴りが炸裂した。乾いた音をたてた男は、地面に貼り付いたまま動かない。全員が手足の骨を折られ、数人はティアとエレンに顎まで砕かれていた。
「次の町まで引っ張って行くの。」
「放置だろ。」
「ん、放置。」
少し呆れ気味のアデルの言葉に、世界の常識と言わんばかりのカインとティアが答えた。ニーナ達は盗賊達に、雨の日の捨て猫を見る様な視線を向けた。
「ぐっ、このままじゃ動けねえ。モンスターか獣の餌になっちまう。次の町で衛兵に引き渡してくれ。」
「そんな面倒な事を、誰がすると思う。」
「ん、放置。決定事項。」
男達の顔から色が消え、青白くなりながら歯を鳴らしていた。喚き散らす男達の近くにカインが黒い三角錐を置くと、顔をしかめる騒音がぴたりと止んだ。
「うにょ、声が聞こえなくなったのじゃ。」
「消音の魔道具でしょうか。」
「消音とモンスター避けの魔道具よ。これで貴方達も朝までは安全よ」
冷たく言い放ったアデルがテントに消えると、ニーナ達も興味を失くしたのかそれぞれのテントに入った。唯一人、カインだけは近くの大木に背中を預け、鍔広のトラベラーズハットを引き下げた、
「うにゅう、盗賊が出るのじゃ。街道は油断できないのじゃ。」
空♂:やっと投稿出来るようになりました。
ア♀:ちょっとサボり過ぎたのでは?
空♂:面目ないが、まだまだ、続きます。
ア♀:私の文句の前に終わらせるつもりなの?
空♂:続きます。
ア♀:はぁ~。続きます。




