魔王、美味しいを知る 異世界九十三日目
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エレンが巨大鶏と対峙したと同じく、ギルスは小型トラック程の巨大な牛と対峙していた。横に一メートル程突き出した立派な角は、金属の様な輝きを放つ槍の様に見えた。
ギルスの振り下ろした刀を、牛は頭を捻って角で受けて見せた。金属同士のぶつかる甲高い音が鳴り響き、距離を取ったギルスは右手の美しい日本刀に目を落とした。
「刃こぼれ一つない。」
「刃こぼれさせたら、カインから地獄の特訓を受けるわよ。折れば命の保証はないかも。」
青褪めたギルスの顔が、一瞬で真顔に戻り牛を睨む。突進してきた牛に横薙ぎの一閃を放つギルス。器用に首を回して再度、角で受ける巨大牛。
「カインから引く事を意識しろと言われていたでしょ。」
ギルスの何かを思い出した様に、見開いた目は上を見ていた。再び、距離を取った巨大牛が後ろ足で地面を蹴り、突進の準備に入った事を告げる。宙から巨大牛へと視線を落としたギルスの口元に、不敵な笑みが広がり長い犬歯が覗く。
「隣の婆さん。俺に教えてくれていたのか。剣道ではなく剣術を。」
牛の角を身を沈めて躱したギルスの刀が、跳ね上げると同時に全身を捻って刃を引いた。
「桜木一刀流、昇り桜龍。」
立ち止まった巨大牛の頭が、地面に落ちて砂煙を上げた。アデルは満足気な笑みを浮かべて、巨大猪を睨むティアに目をやった。
巨大猪の突進を盾で弾くティアの方が、大きく弾き飛ばされて辛うじて両足から着地した。
「体重差を考えて。シールドバッシュで飛ばされるのは、体重の軽いティアの方でしょ。」
「むう、受け切る。」
ティアに向き直った巨大猪が、赤い盾に向かって突進する。大きな音がして盾が後方へと吹き飛ぶが、そこにティアの姿は無かった。
「ん、ミリアン。」
「お任せください。」
ティアの呼びかけにミリアンが、二本のナイフを投げて猪の眼に突き立てた。そして、視界を奪われて暴れる巨大猪の頭に、上へ跳んだティアのフレイルが振り下ろされた。鈍い音が響くと、巨体が横に倒れて大きな音を立てた。
「おおっ、三体とも討伐したのじゃ。流石は妾の四天王なのじゃ。」
「ところで、のじゃ姫の出番は。」
「うにょっ、妾の出番が無かったのじゃ。うにゅにゅう、由々しき事態なのじゃ。」
その後、アデルが再び見つけた、牛と豚を討伐したニーナ達は町へ戻る事にした。森を出たところで巨大鶏に遭遇して、武器を構えるギルス達を制したニーナが前に出た。
「ふっふっふ、お前の攻撃は全て見切ったのじゃ。妾の剣の錆にしてやるのじゃ。」
「さっきとは別個体だから、動きは違うと思うけど。」
「うにょ、大丈夫なのじゃ。見切ったのじゃ。」
巨大鶏の回し蹴りを避けると、反対側からの回し蹴りがニーナを襲った。身を沈めて躱したニーナを、アデルは感心した様な溜息を吐いて見ていた。
「鶏の双龍脚。器用な奴だな。」
「感心している場合か。ギルス、お嬢に加勢するぞ。」
如意棒改の先を槍に変えたエレンが走り出すと、素直に感心していたギルスも日本刀を抜いて疾走し始めた。
器用に連続蹴りを放つ巨大鶏の長い足を、ニーナは踊るようなステップで躱して見せた。連続蹴りを終えた巨大鶏が止まった瞬間、ニーナはレイピアを下から跳ね上げた。僅かに身を引いた巨大鶏の胴から首にかけて、浅いが切り傷がはっきりと見えた。次の瞬間、傷から炎が吹き上がり、巨大鶏の咆哮が響き渡る。ギルスやエレンどころか、斬り付けたニーナ本人も驚きの声を上げた。
「スカーレット。燃焼の概念を練り上げたレイピアよ。切り口から燃焼する追加ダメージがあるの。」
「お嬢、止めだっ!」
笑みを浮かべるアデルの言葉に、ギルスとエレンの叫びが重なる。ニーナは毎日、練習している斬撃を放った。即ち、上から下への唐竹、左上からの袈裟切り、右から水平の横薙ぎ、左下からの切り上げ、真下からの逆風、左下からの切り上げ、左からの横薙ぎ、左上からの逆袈裟に加えて、刺突。九つの斬撃を尋常ならざる速度で叩き込んだニーナは、巨大鶏に背を向けてレイピアを腰の鞘に納めた。結果を待たずに判っていたのか、ギルス達の表情から緊張の色が消えた。アデルはミリアンを見て笑みを作ると、大きな音を立てて倒れた巨大鶏をマジックバッグに収納した。
「うにゅう、鶏の動きが止まったのじゃ。」
「連続蹴りのクールタイムだろ。」
首を傾げるニーナにギルスが答える後ろで、ミリアンとティアがハイタッチをしていた。ニーナが九つの斬撃を放つ前に、ミリアンの投げたナイフが巨大鶏の眼を掠めたのだった。それに気付いたティアはミリアンを無言で労い、アデルとエレンは優しい笑みを浮かべるだけにしたらしい。
狩人ギルドに入ったニーナ達は、十回の採取クエスト分の薬草をカウンターに出した。
「これだけでは無いですよね。」
「薬草採取の間にエンカウントしたの。奥へ行った方が良いかも。」
ギルドの受付嬢はうんざりだと言わんばかりに、露骨に顔をしかめて顎で裏へと続く扉を指した。何時もの事だと慣れたのか、ニーナ達は嫌な表情を見せずに扉へと消えた。
狩人ギルドには奥に狩人達が、仕留めて獲物を解体する施設が併設されていた。カインとアデルはニーナ達とパーティーを組む前から、薬草採取クエストに向かって偶然にモンスターを討伐していた。
「全て、肉以外は買い取りでお願い。そうそう、内臓も捨てないでね。」
「肝臓や精巣、卵巣は買い取りたいのですが。」
「それは買い取りに回すわ。心臓と腸に加えて、鶏の砂肝は欲しいわね。」
「承知しました。私は内臓は余り好きではありません。ところで、カインさんは居ないのですか。」
「あれは放浪癖があるの。今頃、迷子になって途方に暮れてないかしら。」
戦利品の打ち合わせの後に、カインの居場所を聞き出そうとした受付嬢。まるで、何時も苦労をしている言わんばかりのアデルの言葉に、ニーナ達は呆れた表情を浮かべただけに止まった。
宿に戻ったニーナ達は、日暮れの後にアデルが居る離れに集まった。
「カインは深層に向かったのじゃ。少し、心配なのじゃ。」
「問題はないわ。あれは四割しか出せなくても、天竜を無傷で討伐可能なのよ。」
「それはいくらなんでも、言い過ぎなのじゃ。」
心配そうなニーナの言葉を、優雅にお茶を飲むアデルが答えた。町の近くのダンジョンが、ギルドの評価通りのダンジョンでないと知っている狩人達がいた様だ。夕食を無言で食べ終えたニーナ達は、カインとアデルが泊まる離れに集まった。
お茶を飲むアデル達は、小さなノックの音に扉を見詰めた。ゆっくりと、広がる扉は音も立てずに開き、ノックの主を月光は照らして見せた。
「カインが帰って来たのじゃ。」
カインの眼の下にははっきりと黒いクマが浮かんでいた。カインが疲れていると判っても尚、ニーナ達は腹を鳴らして要求した。即ち、夕食を。
全てを悟った様な表情を浮かべると、カインはアデルから食材を受け取った。宮廷料理人も裸足で逃げる様な動きを見せた。
ニーナ達の前にはサラダにスープ、ステーキと並び、鍋や刺身の様な料理が並んだ。アデルの頂きますの声が終わると、凄い速度で大量の料理が消えて行った。
「うにょ、お腹一杯なのじゃ。」
空♂:大雨が大変だったのだ。
ア♀:貴方は被害に遭ってないでしょ。
空♂:大阪に帰っていたのだ。別の金銭的な被害にあったのだ。
ア♀:仕方ないでしょ。大切な娘ちゃんなのだから。
空♂:さっさと戻って、趣味に没頭するのだ。
ア♀:それで、最終日に投稿なのね。まだまだ、続けます。




