魔王、狩人になる 異世界九十一日目
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静寂の中に呼吸音が響き、どよめきへと変わった。そして、大きな歓声と拍手が巻き起こる。その場の誰が想像しただろうか、王国最強の狩人パーティーの敗北を。誰が想像しただろうか、成人前の男女の勝利を。仰向けに倒れたアリオンの鼻先から、胸に乗ったカインが木刀を離した。
無言で背を向けるカインを、立ち上がったアリアンが無言で見送る。心配だったのかナオシスとフセグルが駆け寄った。
「あの子が叫ばなければ、俺は死んでいた。」
「冗談じゃろ。幾ら何でも木剣で死ぬわけがなかろう。」
「恐らく、死んでいましたね。私とバッフィーの防御結界が弾け飛んでいました。」
アリオンの呟きに苦笑いを浮かべていたフセグルは、ナオシスの言葉でその場に固まった。他のメンバーも集まり、ニーナ達に畏敬の視線を送った。
「獣人族でもあれほどの力と速度は出せん。想像出来ないくらいの厳しい鍛錬の結果だな。」
「メイドのお嬢ちゃん達も、気を抜くことが出来なかった。」
「あの後ろにいた少女は何者なのかしら。私の矢より速い投擲なんて有り得る?」
「極めつけはあの少年か。何者なんだ。」
ニーナ達に合流するカインの指から、指輪が砕けてボロボロと音を立てて落ちた、同じように足のプレートが砕け落ちる。
「使い捨ての魔道具で敏捷と攻撃力を上げていたか。」
アリオンの呟きにアデルは口元に笑みを浮かべた。合流したカインの胸を軽く叩いて、ニーナ達と教師陣の方に向き直った。
「別にアイテムを出さなくても良かったでしょう。」
「少しは誤魔化せられるだろう。」
そして、夜が明けた。
カイン達は朝の訓練と簡単な朝食を済ませて、狩人養成所にやって来た。何時もの教室ではなく豪華で大きな机のある部屋へと案内された。そこにはスターライト騎士団と、太った立派な髭を備えたお男が頭部を光らせていた。
神経質そうな痩せぎすの眼鏡の女性が、七枚の銀色のカードをトレイに乗せて立っていた。女性はニーナ達の丁寧に一枚ずつ、銀色のカード渡すと部屋から出て行った。
「あら、黒金等級では無かったのかしら。」
「スターライト騎士団に勝利したパーティーを黒金等級にしておけるか。白銀等級で始めて貰う。俺一人の権限で渡せる最高位の等級だ。すぐに申請して黄金いや、青銀等級にしてやる。」
「不要だ。俺達はこの町を出る。」
「そ、それは困る。せめてクエストを受けてくれ。」
厳つい大男が泣きそうな表情を浮かべる。それが面白かったのかニーナが笑い声を上げ、真剣な面持ちで立っていたアリオン達も表情を崩した。
「準備も必要だろ。その間にクエストを幾つか受注するといい。君達ならこの町のクエストで失敗することも無いだろ。ところで、少年。聞きたいことがあるのだが。」
微笑ましくニーナを見ながら話すアリオンは、カインに向き直って真剣な表情で聞いた。無言で頷くカイン。笑うのを止めたニーナやギルスとエレン、無表情のティアとニーナを窘めていたミリアンもカインを見た。
「彼女が止めなければ俺は死んでいたのか。」
「獲物を狩るのが俺の仕事だ。俺は確実に仕留める。」
カインが無表情に答えると、同じく無表情なティアが満足気に頷いた。溜息を吐いたアデルがカインの肩に手を置いた。
「町や街道で人間を殺せば、ギルドカードに賞罰が記録されるの。決闘以外は殺さないで。」
「判った。決闘とダンジョン以外では努力する。やむを得ない時は諦めてくれ。」
「はっ、ダンジョンで挑むのは止めておこう。」
軽く驚いた様に呟いたアリオンが、カイン達の手にあるギルドカードを見て、目を見開いて口を開けた。アリオンの眼に入ったのは、ギルドカードに記載された一行だった。アリオンは全員のギルカードを確認すると、大男に向き直って目を見開いた。
「この子達は獣人族と魔人族だ。見た目が人族だったので俺も驚いたのだが。」
「じゃあ、君達はひょっとして魔法を使えるのか。」
「生活魔法と初級の術式を少し。実戦で使える程ではないの。だから、全員が剣士と言う訳。」
「うにょ、妾のファイヤーボー・・・ぐにゅにゅ。」
アリオンの疑問を察した大男が言い辛そうに話すと、アリオンはカイン達を振り向いて質問した。アデルが答えると、喋り始めたニーナがミリアンに口を塞がれた。
「そうか。なら、心配はいらないかもしれん。しかし、王国で魔法を使えるのは貴族だ。一部の魔人族も使えるが、強力な魔法を使える魔人族は貴族に囚われる事が多い。」
「俺もスターライト騎士団に居なければ、何処かの貴族の奴隷になっていたかも知れない。君達は若い。極力、魔法が使える事は秘密にした方がいい。」
「奴隷にして訓練しようとする貴族もいるからな。」
その後、ギルドマスターと名乗った大男から、幾つかのクエストが依頼された。出されたクエストの三つを受注したカイン達は、宿へと戻り離れに集合した。
「さて、これからの方針を放すわね。私達の目的はのじゃ姫が目指す、差別の無い国を探す事。」
「うにゅ、無ければ妾が作ってやるのじゃ。かつての魔王国の様な素敵な国を。」
全員で話し合った結果、当面は狩人ギルドからのクエストをこなす。そして、カインはアンジュが中途半端で放置した始まりのダンジョンを、本来の初心者に優しいダンジョンに作り替えると語った。テーブルに三枚の紙が並べられ、それぞれにクエスト内容が記載されていた。
一つ、ゴブリンの生態調査。近隣の森や山岳地帯の洞窟を調査し、ゴブリンが住みついていないかの調査。発見した場合は、可能な限り討伐する事。討伐部位は鼻。出た魔石は狩人ギルドが規定額で買い取ると記載されていた。
一つ、各種薬草採取。ヒールポーションの材料である白滋草、風邪等の病気に効くキュアポーションの材料である橙滋草、毒や麻痺等の状態異常を治す黄滋草等の採取。
一つ、町の食糧となる野獣の討伐。種類によって追加報酬有り。
「俺はダンジョンに向かう。駄龍の後始末が残っているからな。調整が済んだらギルスとエレンで確認して欲しい。」
「うっ、何となく嫌な予感がする。俺とエレンでゴブリンを担当するよ。」
「そうね。私がサポートに入るわ。のじゃ姫達も同行して、近くで薬草の採取をお願いね。」
「うにゅ、お任せなのじゃ。野獣はどうするのじゃ。」
「この三種類の野獣は見つけ次第、必ず仕留めて来る事。」
カインやアデルが言うまでも無く、それぞれの役割分担が決まった。アデルは最後のクエストに三枚の絵を取り出して、ニーナ達にゆっくりと見せた。写真の様なと言うより写真の下に、野獣の詳細な情報が記載されていた。
「うにょ、精巧な絵なのじゃ。」
「お嬢、これは写真と言うのだ。何々。」
ギルスが説明を読み、後ろのエレンも文章を目で追った。顔を上げた二人は獰猛な肉食獣の笑みを浮かべた。
「牛。最高級の肉が獲れ、どの部位も外れ無し。豚。あっさりとした中に、しっかりとした旨味がある。鶏。焼いてよし、揚げてよし、煮てよしの三拍子揃った優れもの。というか、この牛はランサーオックスですよ。その角は鋼の鎧を貫くと言う。豚もアサルトボアです。その突進で岩をも砕くとか。鶏はカンフーコッコですよ。その蹴りは岩をも穿つとか。」
「もはや、モンスターなのじゃ。」
「超美味なんだって。」
「所詮、牛に豚と鶏だ。狩ってやるさ。」
その日は、傷薬や毒消し薬等を購入し、武器屋に入ったカインは大量の投擲用ナイフを購入した。宿に戻った一行は、カインが仕入れて来た武器を見て溜息を吐いた。カインのマジックバッグから取り出された武器を見て、ニーナ達の顔が上等なお土産を見た子どもの様に輝いた。
「ふっふっふ、妾達の装備が決まるのじゃ。」
空♂:やっと、卒業なのだ。
ア♀:これから旅に出るのね。
空♂:いや、もう少しここで装備の説明と、ちょっとした偉業を・・・。
ア♀:始まりの町で偉業なんて必要かしら。
空♂:ちょっとだけ、ちょっとだけなのだ。
ア♀:二回言った。
空♂:深い意味は無いのだ。まだまだ、続きます。




