魔王、卒業試験に挑む 異世界九十日目
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アンジュが東の空へと飛び去った日から、ファインナルの町では数々の噂が飛び交っていた。
曰く、黒い龍が世界を滅ぼしに来たとか。曰く、黒衣の剣士が黒い龍を撃退したとか。
町のあちこちで囁かれる噂は、ニーナ達の耳にも届いていた。
「黒衣の剣士は二メートルを超える大男だそうだ。」
「丸太より大きな剣を振るったと私は聞いた。」
「モンスターが逃げ出す様な顔をしているとも噂されていました。」
真剣な表情で話すギルスとエレン、無表情に語るミリアンの口元が痙攣している。そして、堪え切れなくなったニーナとティアが吹き出した。俯いたままのアデルの肩が、小刻みに震えて笑っていると判る。
「やれやれだ。それより三日後の卒業試験を受ける。相手は王国最強の白金等級パーティーだ。」
「ふふ、冒険伯と呼ばれているのよね。」
「ドラゴンを撃退したことがあるそうだ。」
「調べて来たのでしょ。」
カインが調べた結果、三か月目の卒業試験に来る試験管は、貴族家の三男が率いるパーティーだと判明した。希少な魔法師が三人も在籍する、王国でも二つしか存在しない白金等級のパーティー。不可能と言われる数々の依頼をこなし、数多のレアモンスターを討伐して来た実績があった。
「卒業試験でその最強パーティー相手に、俺達の実力を認めさせるのだろ。」
「私達に出来るだろうか。」
「ふっ、妾と四天王がおるのじゃ。負けるはずがないのじゃ。」
「お嬢様。早すぎた復活のため我々は弱体化しています。」
「ん、よわよわ。」
不安げなギルスとエレンを鼓舞するようなニーナは、ミリアンとティアの言葉に両手を床について項垂れた。
「ギルスとエレンは三か月、貴方達も二カ月の間、私とカインの特訓を受けたでしょ。魔人族の貴方達と住人族の二人が人族のパーティーに劣るとは思えないわ。」
「八人パーティーだが、唯人族は二人だ。リーダーと回復魔法師が唯人族で、後はドワーフにエルフ、獣人が二人に魔人族が二人だ。」
「あら、強敵じゃない。でも、パーティーで挑んで勝てばいいのでしょ。カインが一人で倒してもみんなで卒業できるわね。」
「アデルはもう少し、働こうと思って欲しいのだが。」
「疲れるのは嫌よ。第一、戦闘は貴方がメインでしょ。私、九割以上を解析に回しているの。」
アデルの言葉に明るくなったニーナは、カインの情報で再び項垂れた。カイン一人で勝てると判り、ニーナは顔を上げて笑顔になった。
「のじゃ姫の百面相は面白いわね。残りの二日はいつも通りに座学と、クエストを受注してもらうわ。」
「また、薬草採取なのじゃ。しかし、ゴブリン程度なら、倒しても良いのじゃ?」
「お嬢様、ギルス様とエレン様もです、ハンターウルフを討伐していけません。ギルドの職員さんが、遠い目になっていました。あれはお嬢様の悪戯を見つけた、私の心境に通じるものがありました。」
悪戯を思いついた子どもの様な笑みを浮かべるニーナに、何人もの悪戯好きの子どもを見て来た様なミリアンが呟いた。
二日間、ニーナ達はアデルの予告通りに、座学と採取を繰り返して過ごした。そして、三日目の朝、ニーナ達は離れで朝食を摂った。
「昨日、ギルドで聞いて来たの。卒業試験は筆記と実技の二種類。筆記は薬草や鉱物、モンスターの知識が試される。」
「うにゅう。」
「むう。」
食後のお茶を飲みながら話すアデルの言葉に、ニーナとティアがあからさまに眉を寄せて唸った。その様子が面白かったのか、くすりとアデルの口から笑いが漏れる。
「筆記はよほどのことがない限り大丈夫。問題は実技よ。上級ハンターと模擬戦をして、黒金等級に相応しい実力を認めてもらう必要が有るの。」
「それは勝てなくてもいいのか。」
「勝つ必要はないそうよ。ただ、一撃も入れられなければ、合格はしないそうよ。」
「勝っても良いのだろう。なら、問題はない。」
カインの言葉にニーナとティアの顔が綻ぶ。全員で狩人養成所に向かうと、卒業試験に挑戦する希望者たちが、掲示板を見ては項垂れて教室へと向かっていた。
掲示板の前に来たニーナ達は張り出された紙を見て、新人狩人達が落胆していた理由を見つけられなかった。ギルスとエレンは貼り紙を見て、驚きの声を上げてニーナ達を振り向かせた。
「模擬戦の相手がスターライト騎士団だと。」
「王国に二組存在する白金等級の狩人達だ。しかも、スターライト騎士団は序列第一位。最強だぞ。」
この世界に転生し十年以上生きて来たギルスとエレンは、スターライト騎士団が成した偉業の数々を知っていた。万能薬の材料の採取、高難易度ダンジョンの攻略、レアモンスターの討伐などなど。
「中でも、王都近くに襲来したドラゴンを撃退した事で、リーダーのアリオンは男爵位を貰ったんだ。」
「パーティーメンバー全員が二つ名を持っている。中でも、凄いのが剣士の蒼雷ことキルデスと、鉄壁ことドワーフの重戦士フセグルだな。強力な剣と盾だ。」
「エレンの言う通りだ。他にも弓術師の天眼のイルネヤ。盗賊の疾風トルージャ。弓の遠距離攻撃と中距離からの投擲も厄介だ。」
「そうね。水刃ウツデオの攻撃魔法と、冷徹聖女ナオシスの治癒魔法に、鼓舞姫バフィーの補助魔法。この三人の魔法も厄介極まりない。」
ギルスとエレンの話にニーナとティアの表情が曇り、二人が話し終えた時には項垂れていた。
「倒せば合格だろ。相手は俺達が子どもだと侮る筈だ。隙だらけだろうから難しくはないだろう。」
カインの言葉に目を輝かせたニーナとティアを先頭に、筆記試験が行われる部屋に入った。そこにはニーナ達だけで。他の生徒の姿は無かった。
そして、筆記試験が終わり、点数が掛かれた答案用紙が配られた。
「ふっはっは、合格したのじゃ。」
「ん、合格。よゆー。」
「のじゃ姫は四十一点でティアは四十点じゃない。合格ぎりぎりよ。ミリアンは八十七点、エレンが七十八点。二人は良く勉強しているわね。ギルスは六十二点でもう少し勉強が必要ね。」
合格を喜ぶニーナとティアは、アデルの指摘に肩を落として静かになった。カインの答案を見たニーナとティアは、瞬時に笑顔になって立ち上がった。
「カインも四十点なのじゃ。」
「ん、同志。」
「良く見て。カインは四十点になった所で、回答するのを止めているでしょ。」
よく見ると、カインの答案は回答したところに丸がつき、それ以外は空白のままだった。少し驚いた様な視線をカインに向けるニーナとティア。
「彼は必要最小限しか働かない。平均点が八十でも十でも、貴方は五十点だけを取っていたわね。」
「はあ、次は模擬戦だ。防具はいつものレザーアーマーを装備して行くぞ。」
アデルの言葉と視線を躱す様に、カインはニーナ達に告げると外へと向かった。
直径二十メートル位の円の中央に、ロングソード型の木剣を持った男が立っていた。白いシャツとチノパン姿の男の肌は薄い緑色で、耳の上に黒く光る小さな角があった。
「見た目が気になるよな。俺は魔人族。剣士のキルデス。俺一人で相手をしてやるよ。」
不安や期待、好奇心。様々な感情が出ては消えていたニーナ達の表情が変わった。ギルスとエレンの表情も硬い。本能がキルデスを強敵だと認識したのか。
「いいのか。」
カインの一言でアデルが白い歯を見せた。そして、キルデスの後ろに立っている数名が、自然体で立っているカインに視線を向けた。
「勿論だ。少年少女の相手は俺だけでいいだろう。」
「本当に、いいのか。」
軽く答えたキルデスと数名の男女が、カインの発した短い言葉に緊張を走らせた。次の瞬間、カインから見えない何かが放たれた様に、その場の空気が突然質量を持ったかの様に固まる。ギルスとエレンの吐く息は白く、ニーナとティアの歯が鳴っているのは気温のせいか。
「いいんだな。」
それは問いではなかった。言葉と同時に、カインの身体が沈み、まるで発射寸前の弓矢の様に見えた。
「待てっ!やはり、全員で相手をする。お前等、対竜装備に換装だ。但し、武器は木剣か練習用杖だ。」
「お、おい。アリオン。」
「ああ、判っている。キルデスも鎧を装備しろ。」
「今のは、あれは。成人前の子ども殺気かよ。」
「ささ、さっさと鎧を装備じゃ。待たせると悪いでな。ほっほ、ドラゴン以上とは、恐れ入った。」
「ああ、俺達も敵認定されてたな。」
キルデスの後ろに立っていた七人の男女が、アリオン率いるスターライト騎士団だったらしい。咄嗟に止めたアリオンの指示に、八人の男女が建物に消えて暫くして出て来た。
薄い金色に輝く鎧を装備した三人と、漆黒の軽鎧の横に白銀の軽鎧と淡い青く輝く鎧の弓術師。純白のローブと青、黄のローブは一目でレアな一点物だと判る魔法師の三人。
「うにょにょ、凄い装備なのじゃ。はっ、妾も出番なのじゃ。」
空♂:少し長くなったのだ。
ア♀:さっさと卒業できないの?
空♂:せっかく、アリオンのスターライト騎士団に名前が付いたのに?
ア♀:そう言えば、名前は無かったわね。
空♂:ふっふっふ、こっちでも回収するのだ。
ア♀:貴方と言う人間は・・・。
空♂:まだまだ、続きます。




