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エピローグ 『雪解けの季節』


あれから一年が過ぎた春の朝。王城の庭園に、一本の白い花が咲いていた。


「ここで、すべては始まったのですね」


カトリーヌは優しく微笑みながら、エルリックの腕に手を添えた。二人の指には、同じ青い宝石をあしらった指輪が輝いている。


「ええ、あの日の迷子の姫様は、とても愛らしかった」


エルリックの声には、温かな笑みが込められていた。魂を失いかけた彼の中に、今では確かな感情が宿っている。首元の宝石は、かつてのような激しい輝きこそないものの、静かな青い光を放ち続けていた。


「エルリック様、姫様!」


駆けてくるティムの声に、二人は振り返る。若き術師の弟子は、この一年で見違えるほどたくましくなっていた。


「ガルディム様がお呼びです。新しい魔術院の開院式の準備が整ったとのことで」


王国の再建と共に、ガルディムは禁断の術の研究から、人々を守るための魔術の探求へとその道を変えていた。今では、魔術院の総長として、新しい時代の魔法の在り方を模索している。


「参りましょう」カトリーヌが言う。「でもその前に...」


彼女は庭に咲く白い花を一輪摘み、エルリックに差し出した。


「覚えていますか?あなたが私にくれた、あの日の花」


エルリックは静かに頷き、花を受け取る。その瞬間、二人の指輪に仕込まれた宝石が柔らかく光った。


「カトリーヌ」エルリックは真摯な表情で告げる。「あの時、私は姫様の涙より笑顔の方が美しいと申し上げました。それは今も変わりません」


「もう、私を姫様と呼ばないって約束したでしょう?」


「ああ、すまない。妻よ」


その言葉に、カトリーヌの頬が薔薇色に染まる。結婚から半年が過ぎても、彼の紳士的な愛情表現には慣れなかった。


遠くから鐘の音が響く。新しい魔術院の開院を告げる音色だ。


「行きましょうか」


エルリックが差し出した腕に、カトリーヌは自然に寄り添う。二人が歩き出すと、春の風が庭園を優しく撫でていった。


かつて雪と共に訪れた試練は、今や温かな思い出となっている。失われかけた魂を救ったのは、まぎれもない愛。そして今、その愛は新しい王国の礎となっていた。


ティムは少し離れて、二人の後ろ姿を見つめていた。


「師匠が言っていた」彼は独り言のように呟く。「本当の魔法は、人の心の中にあるのだと」


春の陽射しが、王城に降り注ぐ。雪解けの季節は、新たな物語の始まりを静かに見守っているかのようだった。


―― 完 ――

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