永遠の誓い
青白い光は、夜明けの空を染め上げるほどの輝きとなった。トロルの手の中で、エルリックの体から溢れ出る光は、まるで魂そのものが具現化したかのようだ。
「これは...」ガルディムが震える声で呟く。「禁断の秘薬が、宝石の力と共鳴している」
カトリーヌは、目を覆うほどの光の中、必死にエルリックを見つめていた。
「お前の魂は消え去ったはず」トロルが唸る。「なぜ、この力が!」
エルリックの声が響く。それは、もはや機械的な響きではなく、確かな感情に満ちていた。
「私の魂は...消えてなどいない」
青い宝石が鼓動のように脈打つ。
「姫様...いいえ、カトリーヌへの想いが、この身体の中に生き続けている!」
光の渦が巻き起こり、トロルの手を弾き飛ばす。エルリックは宙に浮かび、その姿は青い炎に包まれていた。銀色の瞳に、人間の温もりが戻っていく。
「エルリック!」カトリーヌが叫ぶ。「私もずっと、ずっとあなたを...!」
その瞬間、宝石から放たれる光が二人を繋ぎ、まるで天からの祝福のように降り注いだ。
「見よ」ガルディムが言う。「これこそが、真の魔法...魂と魂の結びつきじゃ」
エルリックの剣が、青い光を纏って輝きを増す。それは単なる魔力の器ではなく、二つの魂が紡ぎ出す新たな力となっていた。
「我が娘よ」
突如、宝石から柔らかな声が響く。カトリーヌの目に涙が溢れた。
「母様...」
「愛する者を想う気持ちこそが、最も尊い魔法...それを、私から受け継いだのですね」
かつての女王の声が、優しく二人を包み込む。
エルリックは静かに剣を構えた。その表情には、戦士としての凛々しさと、一人の男としての優しさが共存していた。
「カトリーヌ、見ていてください。この想いと共に、全てを終わらせます」
剣が天を突き、眩い光の刃となって上級トロルを貫く。魔物の巨体が崩れ落ち、反乱軍の陣営から悲鳴が上がる。
戦いが終わった時、エルリックはゆっくりとカトリーヌの元へ歩み寄った。
「ただいま戻りました、カトリーヌ」
彼の瞳には、もう迷いはなかった。カトリーヌは涙を流しながら微笑んだ。
「おかえりなさい、私の騎士様」
二人が抱き合うと、宝石が温かな光を放った。それは永遠の誓いを祝福するかのようだった。
「師匠」ティムが尋ねる。「これは、どういうことなのでしょう?」
ガルディムは静かに微笑んだ。
「禁断の秘薬は魂を奪うが、真実の愛は魂を永遠に繋ぎとめる。それこそが、最も深い魔法の真理じゃよ」
夜明けの光が、塔を優しく照らし始めた。雪は静かに舞い、新たな世界の幕開けを祝福しているかのようだった。
エルリックとカトリーヌの指が絡み合う。もはや身分も、立場も関係ない。二人の魂は永遠に寄り添い合い、新しい王国の未来を築いていくことだろう。
それは、失われた魂と、決して消えることのない愛の物語。永遠に語り継がれることとなる、真実の愛の証となったのである。
―― 終 ――