2 魔王ではない、マオウだ
……どうやら私は悪い夢を見ているみたい。
音が鳴る方へ来たら少し開けた場所に出た。開けた場所というか無理やり開かれたというか……
身を隠しながらこっそり様子を見ると、体から鉄?の筒を生やし筒から爆発する鉄の玉を物凄い速度で打ち出す大きな狼と、上半身が膨れ上がり何か液体が入った容器を背負った二足歩行をしているこれまた大きな狼との群れ同士の戦いだ。
鉄の狼は大きな筒以外にも体中に何本もの筒が生えておりそこからは爆発はしないものの高速で鉄粒が放たれている。
だが二足歩行の狼達には大した脅威ではないようで、申し訳程度のジグザクステップをしているもののほとんどの鉄粒を身に受けながら鉄の狼達を蹂躙している。
足元の死体はどっちかというと鉄の狼の方が少し多い気がする。
ていうか地味に人も混じって倒れてない?見た感じ子供が多いけど何だか神官達がよく服の中に着るようなピッチリした服着てる、あれは確か下着ではなかったか……?その上に着ける鎧等と肌が擦れて痛まないようにするみたいな代物だったはず。
皆似たような恰好だしこの未来での流行なのだろうか、だとしたらちょっとやだな……いや今の私のボロ布一枚スタイルよりはマシか?
ほとんど死んでるけど端っこの方の死体に隠れてる二人組だけはまだかろうじて生きてるように見える。
助けた方がいいかな?話が通じる相手にこの世界の事を色々聞いておきたいし……とか思ってたらどうやら二足歩行の狼達が一番大きな鉄の狼を倒したみたい、巨大な赤黒い爪で簡単に大きな体を切り裂いたようだ。
うわぁ…固そうな鉄の狼達を凄い音を響かせながら嚙み砕いてる。
ていうか鉄を食べるなんて……この世界の生物は皆あんな感じなのかしら……何だかすごいわね……。
縄張り争い?って思ったけど勝った狼達は廃墟の奥の方へ走って行ってしまった、一体何だったんだ。
一瞬獣族かな?って思ったけど全然違いそうだし……声かけなくてよかった。
あんな狼今まで見たことが無い、魔力も一切無かったけどかなり素早かったしどうやらこの世界の生物は奇妙な進化を遂げてるみたいね……
数匹残って後片付けをするかのように周りの死体を食っている去っていった狼ほどではないが、少々大きな二足歩行の狼達が、ついに生き残ってる二人組に気づいたようで囲んでる。
流石に目の前で人間を見殺しにするのはかわいそうだし、何より情報が欲しいので助ける事にする。
……やっぱり魔法は発動しなさそうだけど体内での魔力運用、闘気として扱うだけならなら全く問題が無い。
むしろなんだか前より魔力が上昇してるし、これならかなり身体強化しても大丈夫そう。
────くそ!手元の銃ももう弾切れの奴だし当たり所が悪くて強化服も故障するし、今日は本当に運がねぇ!
全く、何でこんなことになっちまったんだ?この辺は比較的安全で少なくともあんな巨大なサイボーグウルフも本来この辺りにはいないはずのナノサイコウルフも出る事は無いハズだった。
俺はナカノ。近くの都市で傭兵業をしておりたまに危険な事もするが、至って普通の日常を過ごしていた。
だが今日は朝から何かがおかしかった、隣で気絶してるヨウコは歯ブラシを入れる場所が逆と怒り狂うし、徒党の拠点ではボスからはガキ共の訓練としてこんな何もないはずの寂れた廃墟に行かされるし、あの機械獣共の戦いに巻き込まれてほとんど壊滅するし……いやこれから俺達もこいつらに食われて全滅になるのか、ハハ。
すぐそこまで狂狼が迫り、せめて一思いにやってほしかったと思いながらその時を待っていた……がしかし、いくら待ってもその時は訪れず、目を開けると頭に角を生やし全身を包む位大きなボロ布を纏った少女が残っていたナノサイコウルフを瞬く間に壊滅させていた。
な、なんだこのガキは…こんな奴少なくとも連れてきた奴等にはいなかった!こんな金色の長い髪を持ってる奴なんて見たことが無いしおまけに頭に真っ黒の角も生やしてるし、なんなんだこいつは!銃も使わずに蹴りだけで……信じられない。
あっという間にナノサイコウルフを蹴散らした少女はふぅっと息を吐いてこちらに歩いてきてこう言った。
「う~ん、闘気に問題は無かったけど使った魔力、よく考えたら回復するのかなこの世界……あ、大丈夫?出来ればそこの狼やあなたたちの事を聞きたいのだけれど…」
……むしろこっちが色々聞きたいぐらいだ。
「───なるほどね」
ふむ、どうやら何もわからなかったわね……いや、違うの、あいつらナノサイコウルフと呼ばれていて本来こんな所にはいないとか、鉄の狼達もサイボーグウルフと呼ばれててこの廃墟の奥の方にしかいないハズとかそういうのは分かったけど、そうじゃないの。
聞きたい事がありすぎて何を聞けばいいか分からないわね。
「それはまぁ、良いわ。それであなた達はどこから来たの?そのピッチリした服?は一体何なの?」
「おいおい嬢ちゃん、本気で言ってんのか?もしかして別の場所から来たのか?もしかして北部の方からか?通りで訳の分からない強さしてるわけだぜ」
この男の人はナカノというらしい、背中に背負ってるのはヨウコ。
どうやらこの人達は街からここまで来て子供達の訓練をしていたみたい。
やはりこの世界同様、生きてる人からも魔力が感じられないのでやはり転生する前にいた神々は皆消滅したのだろう。
「全く、そこら辺からガキ拾って育てるのはいいけど遺跡に行くのは勝手に行けってんだ、俺達を巻き込みやがって……」
ナカノがぶつぶつ文句を言っている。どうやら彼等が着ているのは強化服と呼ばれているものらしく、装着者の動きを補助する目的の服で、金属で出来た外骨格やら人工筋肉やら良く分からない物によって着るだけでかなりの力持ちになれたり何メートルもジャンプすることが出来るらしい。
でも今ナカノの着ている強化服は戦闘の衝撃で機能が停止していて少し重いだけの服とのこと。
一瞬そういう趣味なの?と言葉が出かけたがぎりぎり飲み込んだ。
手に持っている変な形の細長いメイスのような物はどうやらメイスではなく銃と呼ばれており、鉄の狼達が放っていた鉄粒のような物、銃弾を発射する物らしい。
様々な種類があり手軽に入手が出来るので、恐らく魔力の無いこの世界の人々は剣や魔法の代わりにこの強化服や銃等で人族は頑張ってるようね。
この廃墟群は遺跡と呼ばれており何やら大昔に崩壊した文明の名残のような物らしく、様々な所に色々な遺跡が存在するらしい。
この辺は崩れた街並みが広がるだけで特に何もなくほとんど探索済みなので比較的安全だから子供達の訓練にもよく使われてるのだとか。
更に奥にいけばまだ昔の文明の遺物が眠っているが出現する機械獣も多くかなり強いとのこと。
私が生きてる時も色んな所に神竜大戦時代の遺跡とかがあったのでそれと似たようなものだろう、サイズとかはあまりにも違いすぎるけど。
彼等のようなこの廃墟等に赴き様々な旧文明の遺物を持ち帰ったり、依頼で機械獣の駆除をするものを開拓者と呼び、ここら一帯を支配する大企業によって管理されているらしい。
この世界は様々な所に点々と街が存在しその街を管理している者達を大企業という。
今回の子供達の訓練は別にその大企業からの依頼ではなく、単に所属している開拓者の集団のリーダーからのお願いだったみたい。
家の無い子供達や行く当てがない人達を集めて色々頑張ってるらしい。
ナカノの先導で廃墟群から抜け、風で砂が舞う枯れた草木すら無い荒れ果てた大地に出た。
少し遠くの方に段々と奥に行くにつれて高くなる建物が乱立する場所と、壁を挟んだ先にそれ以上に大きいギラギラとした塔が立ち並ぶ場所が見える。
恐らく、あそこがナカノ達が住んでる場所なのだろう。
後ろを見ると大きな廃墟の奥には物凄い高い塔が見える、どうやら奥の方は昔の文明がまだ稼働状態らしく、出現する機械獣以外にも街の暴走した防衛施設がハンターや機械獣を迎撃しているらしい。
「そういえばお嬢ちゃん、アンタ名前なんて言うんだ?聞いても良いか?」
そういえば言ってなかったわね、うっかりしてたわ……私の名前は聖なる龍に連なる一族の言語で付けられているので、龍言語で発音するのだがほとんどの人がうまく聞き取れず、結局古城の民からの呼び名は"まおう"で定着してたわね。
ここの人達も遥か未来だけど扱う言語は大陸共通語だったから聞き取れないだろうしマオウと名乗っておこうかな、よく考えたらこれも魔王と勘違いされた原因のひとつかしら……でも他の呼び方は思い浮かばないしいいや。
「私の名前は…マオウ、皆にはそう呼ばれていたわ」




