006
とある辺境地域の中でも特に巨大で、交易の要とも言えるコロニー。その傭兵ギルドにおいて昨今、不可解な調査依頼が多数舞い込んでいた。
「うーむ。宇宙海賊共……なんだろうが、どうもなぁ」
「行方不明艦の捜索依頼ですか? 最近増えてますよね」
「いや、増えすぎている……というかだな、なんで宙族どもは採掘艦やコロニー建造艦なんてもんを襲撃するんだ? 何のうまみも無いだろう」
「自分のところで使うんじゃないですか?」
「宙族がコロニーを作る? そもそも、拿捕するには相当な数の差がないとダメだし、ある程度の被害は出るはずなんだ。だが、該当宙域には少数の破片はあれど、撃沈した船が一隻も見当たらない」
「相当綺麗好きっすね。それかやたらと上手な海賊か」
「うーん……ドローン共なら見境ないからこういうことも……でもなぁ、この辺りは弱小シャビードロンの領域なはずだし……ドローン共の分布が変わったか? ローグかプラウル辺りが出張ってきたのか」
「ドローンの分布も調べますか? それかブラブレとか機械知性に聞きます?」
「いや、機械知性に聞くのは、何を要求されるか分からんから辞めとこう。あいつらとは可能な限り関わらない方がいい。むしり取られる。調査依頼もしなくていいが、それとなく窓口でドローンの目撃情報とかを聞くようにしてくれ。あとブラブレは私の方で聞いてみる」
「承知いたしました」
部屋から出ていく部下の背中を見送り、ぎしりと椅子を軋ませる。
「ここ最近平和だったのは、嵐の前のなんとやらだったかな」
デスクの端末を操作し、それなりに親交のある相手を通話に呼ぶ。
『はいもしもし。シュワネッガーです』
「あー。私だ。久しぶりだねシュワネッガー君。元気にしてるかい。それと立体映像だから全部見えてるぞ」
『おうっ。これは失礼。ちょっとパンツだけ履いてきます』
「次からはパンツをはいてから通話に出てくれたまえよ」
禿げ頭のマネキンが無表情のままひょこひょこ動いて服を着始める。その様子から少し視線を外し、彼の準備が整うのを待った。
『失礼しました。それで、何か御用ですか?』
「近頃、ブラブレたちの間で何か噂が流れていないか聞きたくてね。特にドローン関係でだ」
『”徘徊”と”ごろつき”とかですか?』
「そうだね。あとシャビードローンあたりもだ」
『シャビー? 聞いたことないですねー。”徘徊”は最近元気ですよ。僕たちプレイヤーの良い経験値稼ぎにさせてもらってますし、ここのところ良い品をドロップするので狩場の争奪戦が激しいです。この前も俺が狩ってるところに割り込んできたFGをぶっ潰してやりました。そしたら相手が顔真っ赤にしてDDで来たんで、こっちはCL出してぼっこにしたら、仲間を連れてきたんですよ。CL6隻ですよ。大人げないにも程がある。流石に逃げましたけど、後からコロニーで出待ちして、輸送艦で出てきたところをKAMIKAZEアタックで落としてやりましたよ。きっと今頃キーボードクラッシャーになってるはずです。あ、ごめんなさい、話を戻しますね。”ごろつき”は逆にあまり見かけなくなりましたね。どっか移動してるのかわからないですが、特にイベントの告知とかも無いので、たぶん今は”徘徊”が優勢になってるだけだと思います』
彼ら”ブラブレ”のいう事は時折良く分からない単語が交じるが、ニュアンスで何となく伝わってきた。
彼らは”ブラブレ”同士で”掲示板”や”まとめサイト”などで情報のやり取りをしており、その情報量はこの宇宙のリージョン……地域や国の国境をいとも容易く跨ぐ。
彼ら”ブラブレ”同士の間では国家機密や、宙族の根城の場所、新兵器の情報がポンポンやり取りされているという。
そんな彼らから情報を得るのは簡単そうに見えて中々難しい。
「そうなのかい。徘徊……プラウルドローンはどの地域で多く出没しているか分かるかい?」
『んー、大体どこにでもいるって感じですね。逆にいないところが無い、というか。密度が薄くて全体に広がってる感じです。あ、でも、これ別のプレイヤーが言ってたんすけど、スペホ探検してたら全然知らない宙域に出ちゃって、そしたらTTが居たって興奮気味に話してましたよ。どこの派閥か全然分からないキノコ型のTTだーって。無数のドローンが飛び回ってたからあまり近づけなかったってスクショだけ撮ってきたらしいっす』
「シュワネッガー君。そのスペホというのはなんだい? それとTTとは何の略だい?」
『あ。スペホはスペースホールのことです。TTってのはタイタン級の船って意味です。タイタン級っていうのは……こっちでいうと旗艦級とか超兵器級になるのかな? 全長10km超えたらタイタン級ってプレイヤーの中では言ってますね』
思わず椅子から腰が浮いてしまった。
「きっ、君たちはスペースホールに潜って戻ってこれるのか!? いや、それは置いといて、その人と話は出来るかい!? もしくは、そのスクショ? というものはもしや動画か画像があるということかい?」
『あ。見たいっすか? マジでキノコっすよ。送りますね』
”ブラブレ”のシュワネッガーから送られてきた映像は数分間の動画だった。
『あまりにデカ過ぎて比較対象が無いと全然大きさが分からないって言ってました』
その言葉が耳から耳へと通り抜けていく。そのくらい、衝撃的な映像だった。
『たぶん次のイベントの主役だろうって話してて、場所はタユマ……タユマタン? ってところが一番近いはずっていうことなんで、多分プレイヤーは近々そこのコロニーに集まりだすと思いますよ』
「シュワネッガー君。君には大変感謝しておこう。これは大したものではないが、受け取ってくれたまえ」
私は端末を操作し、500万stxを彼に振り込んだ。
『うほっ! 5Mも報酬貰えた! いやー、NPCと話すだけで5Mはボロい! あざまーす!』
「また情報提供を宜しく頼むよ」
『ういっす。また掲示板とかみておきますー。んじゃ』
通信が切れると、私はすぐさま先ほどの動画を上役と共有する。
「ドローン共の旗艦級など聞いたことが無い。あいつら、国盗りでも始めるつもりか?」
この話は数時間後には領主の元まで届き、そして対策が練られることになった。