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宿命に抗う者たち  作者: パテンリ
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第二十八話 亜人たちの宿命

 猿帝国の都中心にあるドーム状の建造物へと進入していったパンドルス。彼が薄暗い廊下を進んで行くとサル族の者が現れ、道案内を始めた。パンドルスは黙って道案内のサル族に付いて行き、扉の前へと至った。案内役のサル族はそこまで来ると元来た道を戻っていってしまい、パンドルスは一人扉の前でしばらく佇んでいたが、一度深呼吸をした後、勢いよく扉を開けた。開かれた扉の奥には広い空間が広がっていたが、薄暗く、奥まで見渡すことは難しかった。けれど、空間の中央辺りに生物の気配が感じられ、パンドルスは静かにそちら側へ進んで行った。しばらく進んで行くと丸い大きな机が見えてきて、それを囲むように椅子が配置されており、その椅子にはカルバトロスやリレイラス、ピスキュラ、フェリベルク、テリファンナ、シェドアンが座っていた。また、パンドルスが直接会ったことの無い、カバ族の首長パポベルド、クマ族のベアドルム、ペンギン族のペタギュレア、アザラシ族の将軍シルグリア、そしてサル族の皇帝エプリフィアとタヌキ族の長タボラッグなる者がいた。エプリフィアは以前映像により自身の姿を皆に知らしめていたが、その時の彼とは違い、今の彼は皮膚がしわしわで毛は少し薄く、かなり衰えているような姿であった。そこにいた者たちは皆無表情かつ無言であり、パンドルスも彼らと同じ顔をして着席した。そこへ竜らしき者たちが三体ほど現れ、彼らは空いていた席へと移動すると、一体の竜が急に挨拶をし始めた。

「皆様、ご機嫌よう。俺は竜を束ねる者、竜祖だ。でこちらが虫を束ねる虫祖。そして俺の右にいるのが最愛の我が子、ドラファティアだ。ちなみに集まるように言ったのは俺だが、指名したのはそこにいるサル族の亜人エプリフィアだ」

「彼の言う通り。我がお前たちを指名した」

「聞きたいことは山ほどあるが、まずは何故俺たちを指名したのか聞こうか」

 そう言ってエプリフィアに質問したのはカルバトロスであった。この時、エプリフィアは声を発したが、これも以前の声と異なり、若々しさが感じられなかった。エプリフィアはゆっくりとカルバトロスへ視線を向けた後、彼の質問に答えた。

「それはお前たちが特殊能力かつ記憶を保持しているからだ」

「特殊能力者とは何だ?」

「それを話す前にまず我々が何者なのかについて語ろう」

「ちょっと待った。それならまずは俺から、この世界についての話しをさせてもらうぜ」

 竜祖はエプリフィアが話し始めようとするのを遮り、勝手にしゃべり始めた。

「まずこの世界は創造主なるお方によって造られ、同時に諸々の生物の祖も創造主によって生み出された。ちなみに創造主っていうのは史上最高の存在だ、覚えておけよ。祖たちは誕生後すぐに世界に散らばり、各地に点在する噴出口を自分の物とし始めた。噴出口っていうのは簡単に言えば生物に必要な全てのものが流れ込んでくる穴みたいものだ。それを使って祖たちは星を作り、自分たちを模した生物を生み出してその種族の繁栄を目指した。ある程度時間が経つと全ての噴出口は誰かしらの祖によって掌握されることになったが、祖たちはさらなる繁栄を求めて、それを奪い合う戦争を始めた。俺たちが居るこの星を作ったのはこの俺だが、ある時、人間がこの星にやって来た。奴らは最初、友好的な態度であったが、ある時、俺たちに向かって牙をむいた。俺たち竜はその戦いに敗れたが、何とか一つの島だけを守り切った。そこで俺たちは星を取り返す為に力を蓄え、今度はこっちから攻めたのだが、ここでお前たち亜人が登場した。俺たちはお前たちに敗れ、再び島に逃げた。そして今一度、星を取り戻そうとしたが、お前たちに敵意がないことがわかった。しかし、初対面が最悪だったからな。どうしようかと迷っているうちに人間の気配を感じたのだ。俺たちはあの戦いで敗れた後、意図的に存在を抹消して、人間に俺たちが全滅したように見せかけていたのだが、それが上手く機能したのか人間は俺たちを無視して来た。お前たちが襲われた時、すぐに助けたかったが、奴らの本隊を潰す為には我慢しなければならなかった。それで今日、奴らの本隊が出て来たから俺たちが参上したのだ。けど、俺たちはお前たちを全く恨んでないからな。お前たちも人間の被害者で俺たちと同じだ」

 竜祖はそんな風に語っていたがその場にいる者たちの殆どが理解不可能な顔をしていた。彼らは顔を曇らしていたが、エプリフィアはそのようなことは気にせず、竜祖によって遮られた話を再開した。

「竜祖の話にあったようにこの世界には様々な生物の祖がおり、彼らから生物が生まれ、その生まれた生物から新たな生物が生まれることで数を増やしていった。つまり祖こそが生物の根源だと言える。しかし、我々はそれらの生物とは事情が異なっている。例えば元々、我は猿という生物であったが、それに人の要素を掛け合わせた結果、今の姿……亜人となった」

「何故そうなった?」

「今の我々は様々な問題を抱えているが、亜人となる前はさらに多くの問題を抱えていた。今から我が猿であった時の話をする。長くなってしまうがどうか聞いて欲しい。猿であった時の我は話す事が出来ず、自分で食料を確保する事も出来ず、全能力が貧弱であった。しかし、そんな我をある人間は優しく世話をしてくれた。その人間の名はラミマルブ。彼は人間以外の生物にも優しく、様々な生物の世話をしていたが、ある時生物たちに死の危機が訪れた。彼は必死に彼らを助けようとしたが、力及ばなかった。彼は多くの愛する者を失って悲しみ、その悲しみを繰り返さない為に生物の体についての調査を開始した。そして、研究の結果、生物たちは意図的に能力を阻害されていることが判明し、それを解除する為には人の要素が必要であることも発見した。彼は生物たちの制限を解除する為、我や他の生物たちに人の要素を掛け合わせ、初期亜人が誕生した。初期亜人となった我らは会話が可能となり、全能力も著しく向上した。我らはラミマルブと一緒に成功を祝い、さらなる調査を進めようとしていたが、他の人間が彼の研究に興味を示した。しかし、彼らは生物たちの為ではなく自分たちの利益だけを優先して亜人を生み出そうとしていた。当然ラミマルブは彼らに反対したが、拉致され、我々は無理やり人間の実験に付き合うことになった。人間はその後、自分たちの都合のいいように亜人を生み出し、我々も奴らによって改造を受け、自由を失った。我らは彼らの奴隷となって惨めな生活を送っていたが、ある時人間と竜の戦いが始まり、我らは戦力として投入された。我らは劣悪な環境の中生き延びていたが、絶望していた。そんな時、世界樹の声が聞こえ、我々はその声に導かれるままに世界樹の実を口にした。その時、初期亜人であった我らは特殊能力に覚醒し、人間と竜の戦いに第三勢力として参戦して亜人を勝利に導き、人間の支配から脱したことで、我々は亜人たちから解放者と敬称されるようになった」

 そこまで話すとエプリフィアは少し呼吸を整える時間を取り、一呼吸終えると話を再開し始めた。

「けれど、ここで我々の戦いは終わりでは無く、我々には多くの問題があった。重要なものとしては、我々には祖が居ない為、その存在が近いうちに消えてしまう可能性があること。初期亜人以外は人間がかけた呪いが残っており、人間に逆らえないこと。また全ての亜人は人によって都合の良いように作られていたので、寿命が短く、生命維持の為に多くの食物が必要であることである。他にも様々な問題があるが、我々はそれを解決する計画を立てた。それは解放者が祖になることであり、祖の誕生は殆どの問題を解決することが可能だったからである。祖になる為には生物に対する様々な知識が必要であり、さらに我々の元になった生物の祖の力も必要であった。そこでまず解放者たちは生存した亜人たちと交わり、子を産んだ。こうすることで人間の呪いが薄まっていくことがわかっていたからだ。さらに解放者たちは魂を分裂させ、子たちにその魂を継承させた。これにより生物に関する知識を集めることとした。分裂した魂は一つ一つに解放者としての特殊能力を秘めていた。また分裂した魂のうち一つだけは記憶を保持し、来るべき時に分裂した魂を再び一つとし、解放者として復活する役目を持っていた。この役割を持つ魂を本流と呼び、他の分裂した魂たちを支流と呼ぶ。だが、我々が不安定な存在であるが故か、記憶が発現しないという問題が発生し、彼らは当初の計画を忘れ、勝手に行動するようになった。しかも徐々に特殊能力まで失い始めた。我は計画を修正して彼らの記憶と特殊能力を目覚めさせる手段を探し、ある時、ようやく彼らに精神的苦痛を与えればそれらが目覚めることが判明した。ここで問題だったのが、亜人は戦闘用に作られた側面を持っていた為、好戦的であり、感情が乏しかったことだ。そこで我は亜人たちがなるべく戦闘をしないように介入をし、彼らが他の方面に力を注ぐように仕向けた。それは成功し、彼らは戦い以外の物事に注力するようになった。その後、彼らの生活は発達して様々な感情が見られるようになったところで、彼らが戦いを始めるように再び介入し、内部、外部で争いを起こさせた。以前の彼らは身内の死にすら涙を見せることが無かったが、この時は友人の死にすら慟哭するようになっていた。しかも感情の高まりによって特殊能力者たちは次々と目覚め始め、計画は順調なように思われた。だが、感情が高まったせいで本流は支流の者たちを倒すことを躊躇するようになってしまった。そこで、我は各国の亜人たちを拉致し、それらの者に教育を施して彼らに魂の合一を任せることにした。けれど、これも失敗し、各国は同盟を結び始め、猿帝国へ挑戦してきた。当初の計画では解放者たちが復活した後、人間を攻めるつもりであったが、計画は破綻してしまった為、非常手段として我々が戦争し、それを見た人間が我々を襲撃しに来たところを返り討ちにするという強引な手段を取ることにした。我はお前たちと戦う為、宣戦布告をしたが、我の存在が人間に気付かれないように替え玉を用いた。また三十日というのは我々が人間に備える為必要な時間であった。あの映像と音声はお前たちに向けてのものであると同時に人間たちに向けてのものでもあった。戦いが始まった後、特殊能力者は体調不良になったが、あれはお前たちを前線から遠ざけ、人間にやられるのを防ぐ為であった。そうして狙い通り、人間たちが襲来し、今へと至った」

 そこでエプリフィアの話が終わったが、亜人たちはその話をじっくりと聞いており、それなりの理解を示していたようであった。しかし、彼らは良い顔をしていなかった。

「長い話だったな」

「お前たちが記憶を失わなければこの話は必要なかった」

「俺たちはその解放者本人ではないからな。それにしても無茶苦茶な話だ」

「本人でなくとも、少しは彼らの記憶があるだろう。それを見て何も思わないのか?」

「過去の話などどうでも良い。つまり人祖と俺であれば熊祖を見つけて力を貰えば良いのか?」

「そうだが、お前はまだ魂を合一し終えていない。それが先だ」

「あと一人だ。今までは理由もなく殺すことに抵抗していたが、こんな大層な理由があるのなら俺は喜んで兄弟を殺せるな」

 そう言ったのはクマ族の亜人ベアドルムであったが、彼は物凄い目でエプリフィアを睨み付けていた。しかし、エプリフィアは全く表情を変えずにベアドルムを見つめていた。ベアドルムはその反応を見て面白くない顔をすると目線をそらし、黙り込んでしまった。

「魂を一つにすることは絶対に必要なのか?」

「元々一つだったもので、分裂している方が不自然なのだ。しかし、もしも相手を殺したくないのなら、そうするがいい。その先にあるのは種の消滅だがな」

「まさかこんな話になるなんて……」

「何か他に方法がないのか?」

「先の話に出た亜人の生みの親ラミマルブなら、何か別の方法を知っているかもしれない。だが我は彼の居場所を知らない」

「おーっと、それなら俺が知っているぜ」

 そこで発言したのは竜祖であった。彼はエプリフィアが話している時、頭をクルクルさせ、亜人たちの話に入れずにいたが、やっと彼らの会話に割り込むことが出来、何だか嬉しそうにしていた。しかし、それは場違いな笑顔であったので亜人たちは嫌な顔をしていた。竜祖はちょっと申し訳なさそうに謝ると話を続けた。

「夜空に浮かぶ大きな星があるだろう。あそこにいるのだよ。俺たちはあそこに行くつもりだったんだが、一緒に来るかい」

 竜祖の問いかけに対し、その場にいた亜人たちは皆、首を縦に振った。

「よし、それじゃ。俺にへばりつけ。今から祖の能力の一つを見せてやる。座標移動っていうものだ」

 亜人たちは言われるがままに竜祖の体に密着した。そして竜祖が何かを念じると彼らの姿がそこから消えてしまったのだった。

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