王子様は冒険者
お伽噺話に出てくる妖精のような可憐な美しさを持つ女性。ジークフリートでさえも彼女の美しさに目を奪われてしまう。
「エル・ミアさん........」
トールギスと呼ばれる大男は顔を紅頬させ、彼女だけを真っ直ぐと見る。正確には上目遣いで彼女に甘えたそうにもじもじとしていた。
(この男..........)
完全に目の前に存在する長耳エルフに惚れている。
「年上とは言え、さんをつけるなと何度も言っただろう。愛嬌を持ってエルちゃんかミアちゃんと呼びなさい。」
「は、はい!」
大男は嬉しそうに返事を返す。
(ごつい冒険者のおっさんが恋する乙女のように赤面し、取り巻き達が頑張って下さいと小さく応援している。異常な光景だが...........。)
周囲を見渡して見ると案外とこの光景が受け入れられているのだ。恐らくこれはここでの日常風景であるのだろう。
「____________さて、ニュービーくん。私はバルドル領で冒険者兼ギルド長をしているエル・ミアだ。自慢ではないが、これでも大陸に四人しかいない『s』級冒険者の一人でね、己を強いと自負している。」
ジークフリートを見極めるように彼の周囲をぐるりと一周するエル・ミア。
「ふむ、大層な銀鉄装備を纏ってはいるが、戦闘未経験者であることは見て取れる。そしてその兜........そうか、君が噂の。」
目が合う。そしてクスリと微笑を浮かべ、背を向けた。
「ついておいで。私が君を面倒見よう。」
周囲がざわつく。大男など、唖然とした様子で立ち尽くしていた。
「静まれ。冒険者のモットーはなんだ?生きて帰ってくる事だ。それを知る君達は本来であれば、この少年に冒険者としての心構えを説かなければならない。このまま森にでも行かせて見ろ。数分と経たずに呪いの餌食になる。」
エル・ミアはジークフリートの肩へと手を起き、話し始める。
「君達はバルドル領、そして私にとっての希望だ。新たな風は芽吹かなければならない。冒険者である私たちは冒険を重ね、生き残り、次代へと経験と技能を伝えていく義務と責任がある。」
エル・ミアはジークフリートの肩から手を離し、冒険者ギルド全体に聞こえるように声を張り上げる。
「皆も知っての通り、私は大国アルフヘイム出身だ。アルフヘイムに生まれたものは人間よりも寿命が遥かに長い。この地に来てから既に百年が経つ。」
自分の耳を指差し、ピコピコと上下させるエル・ミア。
「そう、百年。私は初代バルドル辺境伯との盟約に従い君達冒険者を育て、守って来た。そしてここ百年、バルドル領の冒険者に死者は出ていない。」
自慢気に胸に手を当て、ムフンとどや顔を見せる。
「初代バルドル辺境伯は私の元冒険仲間でね、死ぬ間際に『皆を立派な冒険者にしてやってくれ』と誓約書を押し付けてきた。それを断ろうと口を開けば、あの男は既に故人だった。」
どこか懐かしむように初代バルドル辺境伯について語る。
「あの男はそう言う男だったよ。いつも周りを巻き込んで無茶苦茶する。だけど人一倍友情に熱く、仲間思いの..........」
何処か思い詰めた表情を一瞬見せるが、直ぐに普段通りの表情へと戻り、語りを再開する。
「..........律儀に誓約書になど署名しなくて良かった。良かったけれど、やはりバルドルは私の友だったのさ。」
その言葉に全てが詰まっていた。『s』ランク冒険者である彼女がこのような辺境の地に縛られる意味は他にない。
「盟約の効力は時期に切れる。この地に縛られる楔が外れる訳だ。私は十分にこの地に貢献し、盟友バルドルとの約束を果たした。後は君達がバルドル領を牽引する番だ。」
エル・ミアは自分へと振り返り、視線を合わせる。
「だが、効力が切れるまでに幾ばくかの有余がある。それで私は思い付いたのさ。この子を冒険者として立派に成長させ、バルドル辺境伯との盟約を完了させるとね。」