王子様は生きる
兄シグルドの計らいにより、ジークフリートは失踪した挙げ句、アングルボサの呪いに喰い殺され、死体で見つかったと侯爵家から公式に発表された。
「____________ここが冒険者協会。」
そして、貴族社会から漸く解放されたジークフリートは冒険者ギルドの扉を叩こうとしていた。
(職業適正と氏名以外は冒険者登録に必要がない。)
身元を詮索されずに定職に就ける。
「____________冒険者登録をお願いします。」
ジークフリートは受付嬢の前に立ち、登録料をカウンターへと差し出す。
『ようこそ、バルドル冒険者ギルドへ。冒険者登録ですね。畏まりました。』
受付嬢は用紙を取り出すと、項目を埋めるようにとペンを渡してきた。
『職業適正『冒険家』、冒険者名『ジーク』でお間違えはありませんね。それでは『f』ランクからのスタートとなります。どうか、貴方の冒険に大神オーディンの加護が在らん事を。』
冒険者登録を無事に済まし、『f』ランク冒険者の証であるライセンス(銅のタグ)を首に掛ける。
(手元にあるお金は........これだけか。)
財布の金額を目に溜め息を吐く。今いる場所はバルドル辺境伯領の遥か北にある小さな町。冒険者ギルドに足を踏み入れる前に装備一式を購入した為に金欠であった。
「今日中に依頼をこなしてお金を稼がないといけないな。」
依頼板へと向かい、『f』ランクでも受けられる依頼を探す。
「薬草取り、畑仕事の手伝い、ネズミ退治。」
『f』ランクとは言え、依頼は豊富に揃っていた。だが、貴族であったジークフリートにこれらの経験は一切とない。依頼板とにらめっこをしていると、声を掛けられる。
「________おうおう見ない顔がいるなぁ?」
冒険者特有のならず者臭が強く感じられる大男とその取り巻き達である。
「こいつ、『f』ランクなのに全身銀鉄製と豪華な甲冑を着こんでますぜ。」
「商家の息子、没落貴族の次男、はたまた失踪してすぐに死んじまった侯爵家の三男坊かもしれやせんぜ、ぎゃははは!」
ジークフリートを取り囲み、物色するように装備品へと目をつける三人組。
(兄さんが言うには見た目で強者感を出せば大抵の相手は引き下がるから、無理にでも装備品は良いものを揃えて置けって言っていたけれど............)
逆に物珍しいのか、この三人組以外の視線もかなり集めていた。
「こらこら、新人くんを怖がらせては駄目だろう。全く君は懲りないな、やんちゃなトールギス。昔は小さくて可愛かったのに、今は体躯に任せて新人イビりをするのが日課かい。目に余る行動は私の前ではしないでくれとあれ程注意しただろう?」
冒険者ギルドの中央に存在する螺旋階段。その階段から姿を見せたのは絶世の美女と断言出来る程の美しい容姿を持った長耳の金髪エルフであった。